FMfanのアーカイヴであの時代にタイムスリップ!タイムマシーン特集
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メタリカ
束縛から解き放たれ自由に楽しく
No.14
Photo: Redferns
全世界で1500万枚を売った『メタリカ』から約5年。ヘビー・メタル界の頂点に立つバンド、メタリカがついにニュー・アルバム『ロード』を発表した。デビュー以来のバンドのロゴを変え、サウンド的にも野心をむき出しにして“変化”という領域に大きく足を踏み出している。
「今まであまりにも頑固過ぎた。メタリカはこうあるべきだという考えを主軸にバンドはコントロールされ過ぎていたのかもしれない。レコーディング前にメンバーで話し合い、僕はさまざまな意味で他人を受け入れることの重要性を悟った」
リーダーのジェームズ・ヘットフィールドはニュー・アルバム制作前にバンド内部に起きた変化をこう語っている。
メタリカはそのジェームズとラーズ・ウルリッヒが結成したバンドであり、2人がバンドを運営してきた。彼らの頭の中にはメタリカの方向性が明確に映し出され、他の2人のメンバーはジェームズとラーズの要求通りに動くことで、メタリカはメタリカとしての個性を際立たせてきたのである。
その徹底的に鍛え抜かれた演奏力、センスは、前作の『メタリカ』で集大成として具現化され、寸分の狂いのないリズムや細かい表現力は、卓越した力の素晴らしさをファンに知らしめることになった。しかし、約5年間に彼らは着実に成長し、ジェームズは「寛大さを身につけた」と言っていたが、ジェイソン・ニューステッド、カーク・ハメットの意見も取り入れて、“メタリカはこうあるべき”という約束事から脱却し、失敗を恐れずに、新しいことを試すチャンスに向かって大きく一歩を踏み出すことを決意したのである。
進歩を追及しない音楽は飽きられる
メタリカというバンドの醍醐味であるライブのフィーリングを大切にし、正確無比な演奏力ではなく、より人間的な温かい演奏力を前面に押し出し、そして、メンバー自身がその演奏を心から楽しむこと・・・・・・。これがニュー・アルバムのテーマだった。
ジェームズは「そのすべてがレコーディングで実現できた段階で、このアルバムはわれわれにとっての成功作となった」と語っているが、彼らの自由奔放なプレイは過去のどのアルバムにも感じられなかったものであり、束縛から解き放たれた楽曲もまた幅広い間口を持つことになった。サザン・ロックの要素まで加味し、しかも、ヘビー・メタルにロックン・ロールのAのキーを持ち込んだ曲作りなど、とにかく、シリアス一辺倒だったメタリカの音楽性に“Fun(楽しさ)”が姿を現した。
「音楽だけではなく、生きることへの執着心でもある。旅行にでかけるにしても同じ土地じゃだめなんだ。生きているんだったらいろいろなことに挑戦するべきだと思う。その方が絶対に面白い。バンドにしても同じさ。失敗を恐れずにチャレンジした方が楽しいに決まっている」と、ラーズ・ウルリッヒは語り、一方では現代ヘビー・メタルの抱える病巣を鋭い視点でこう指摘した。
「日本のことはわからないけど、世界中で“ヘビー・メタルは進歩がない”と言われている。その理由はヘビー・メタルを変えようのない音楽ジャンルとしてだれも新しいヘビー・メタルを追求しないからなんだ。“いつまでたっても相変わらずの “ヘビー・メタル”に世界中が飽きているんだ。だから“変えよう”とする意思は大切だ。でも、故意ではだめだよ。自分のおもむくままに、が、いいんだ」
このメタリカのニュー・アルバム『ロード』における劇的“変化”に多くのファンは驚きの声を上げるだろう。しかし、天文学的なセールスを記録した前作とまったく異なった方向性のアルバムを制作したというのはさすがメタリカである。だれも真似はできない。自信があり、そして、プライドがある。
(インタビュー・文/伊藤政則)
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