FMfanのアーカイヴであの時代にタイムスリップ!タイムマシーン特集
ポップスからクラシックまで幅広いジャンルを網羅した音楽情報とオーディオ関連の記事で人気を誇ったFM情報誌「FM fan」のアーカイヴを一挙公開。伝説のライヴリポートや秘蔵インタビューなど、ここでしか見ることのできない貴重なコンテンツ満載!
TOPICS - 1992※当記事の著作権は全て株式会社共同通信社に帰属します。
THE CURE
安全なヒット・メイカーにはなりたくない
No.11
Photo: Getty Images
キュアーがロック・シーンに登場したのは、1979年のことで、パンク・ブームが一段落した後、ニューウェイブ~ネオ・サイケデリックなどと言われるバンドがドッと出てきたころのことだ。バウハウス、エコー&ザ・バニーメンといったバンドとともに、キュアーも『スリー・イマジナリー・ボーイズ』というアルバムでデビューした。それから13年、“ネオ・サイケデリック”という言葉が形骸化し、多くのバンドが姿を消した。そしてキュアーは今年4月、通算15枚目の新作『ウイッシュ』を発表、浮き沈みの激しいロック・シーンにあって見事に生き残ったわけだ。いや、それだけではない。パンク以降のイギリスのロック・シーンから世界へと、その活躍の場を広げるスター・バンドへと成長。
「一番大切なのは結局“音楽”そのものだということさ。僕らは常にファンとともに成長してきたと思う。自分が信じる音楽と、それを作り続けていく姿勢が重要なんだ。僕は、いつでも生き残る、勝ち残ると信じながらやってきたつもりだ。それにイギリスの聴衆は固定観念が強いと思われがちだが、僕らに関してはファンにも恵まれた。一度、最低のコンサートをやってしまったからといって、それで見放されることもなかったからね。要するに、ファンの信頼を勝ち取るに足る音楽だったということだろう」
真っ赤な口紅がトレードマークとなったロバート・スミスは静かだが、確信に満ちた口調で言った。質問に答えるのは彼の役目らしく他のメンバーは、ほとんど口をはさまない。
場所はオックスフォードのマナー・スタジオ。新作『ウィッシュ』の最終ミキシングの最中だった。
2月中旬、ヨーロッパを初めとする各国のプレスがこの街に集まり、キュアーの新作を試聴、その後記者会見が開かれた。85年の『ザ・ヘッド・オン・ザ・ドア』の成功以来、前作『ディスインテグレーション』(89年)を経て、彼らはイギリスから、大きく世界へと踏み出した。日本には初期にきているだけで、その人気のスケールが正しく把握されていないふしもあるが、今回の会見には、各地から100人以上のプレスが詰め駆けた。
なにしろ例えばフランスでは軽く50万枚のセールスを記録し、アメリカ公演でもニューヨークのマジソン・スクエア・ガーデンをソールド・アウトにするというのだから参る。
「アメリカとイギリスの聴衆の反応は全然違っておもしろいね。アメリカじゃ、静かな曲をプレイしているときでも叫び声があがったりする。どっちが良いというつもりはないが、いずれにしても僕らのコンサートは余計なしゃべりもないし、ギミック抜きの音楽勝負だね。特に、ここ3~4年の僕らのファンは積極的な意図を持って、良質の音楽を求めるタイプの人たちだと思う」
確かにキュアーというバンドに対するファンの信頼は大きなものがある。
「新作も、その信頼にこたえる作品だと思う。タイトル通り、とても前向きな感覚をもっているんだ。前作は、曲によってはメランコリックで暗い印象だったけど、『ウイッシュ』は、よりバラエティを持たせたつもりだ。ウイッシュ(願い、望み)という言葉には積極的な意味があるだろ?世界中が大きな変革期を迎え、それぞれが違う環境の中で生きていく方法を模索している。方法こそ違え、夢を信じて進んで行く、そのことこそが大切だという思いを表現したつもりだ」
魅力的なメロディと、やや屈折した独特の感性。『ウイッシュ』は、安全なヒット・メイカーにはなりたくないという彼らの誇りがうかがえる新作だ。その奇抜なメイクのせいか、気難し屋だと思っていたロバートは、意外なほど話し好きで、ユーモアとウイットに富んでいる。いい加減にメイクをやめたらという意見もあるそうだが、断固として続けているんだそうだ。
「だって、これが僕なんだから……」と、チョッピリ皮肉っぽく笑った。
(インタビュー・文/東郷かおる子)
