![アメリカン・ロックの[究極]の表現 エクストリーム](/common/special/time_machine/img/photo/1993-extreme-gettyimages.jpg)
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「僕らエクストリームの個性はバンドのメンバー4人が、まったく別々のし好を持っていることから生まれたんじゃないかな。ツアーの途中、例えばホテルの部屋で流れている曲は、まったく脈絡のないバラバラなものだよ。僕自身はビートルズ、クイーン、レッド・ツェッペリン、エアロスミスあたりの影響がー番強いと思うけど、その他にもフランク・シナトラあたりのボーカル物にも興味があるからね」
ボーカリストのゲンリー・シェロンが言うように、エクストリームは保守的と言われるハード・ロック~ヘビー・メタル界のなかでは異色のバンドだ。その最新アルバム『スリー・サイズ・トゥー・エブリ・スートリー』は曲によってはファンキーなグループ感を全面に押し出し、彼らが単なる類型的なメタル・バンドから大きく踏み出したことを感じさせた。
昨年11月、ヨーロッパ、ツアー中の彼らの最新ステージを、ドイツのハノーバーで見たが、後半ホーン・セクションを従えて演奏された「キューピッズ・デッド」や「ゲット・ザ・ファンク・アウト」といった曲は、もはや旧態依然としたメタル・サウンドのかけらもなく、いわばコンテンポラリーなミクスチャー・ロックの域に達していた。
『確かに、ハード・ロック、特に、ヘビー・メタルというジャンルは長い間、あまり変化を必要としなかった。でも、90年代に入って例えば ニルヴァーナやパール・ジャムのように新しい世代による、新しい動きが出て来て、確実に動きつつあるよ。僕自身についてもラップやダンス・ミュージックは大好きだし、そういうアーティストのアルバムをプロデュースするという予定もある。こういう風にいろいろなジャンルが混ざり合うのは、音楽にとって健康的なことだと思う」
バンドの音楽的な要ともいえるギタリストのヌーノ・ベッテンコートは言う。エクストリームは、そのデビュー当時から「ファンク・メタル」なビと呼ばれ、他のバンドとはひと味違う個性を発揮していたが、ここへ来て、そんな彼らのアイデアがますます広がり、ついにはコンサートにホーン・セクションを導入するに至ったらしい。
ヘビメタ嫌いの人間も取りこむ魅力―
「新作に対する評価は、まちまちでなかには離れていったファンもいたかもしれない。典型的なヘビー・メタル・サウンドから僕らは、どんどん音楽を広げているからね。それによって従来のファンを失うことになっても新しく僕たちを気に入ってくれる人が増えればそれでいいと思う。僕らは、アメリカのロック・シーンが大きく変化し始めた80年代後期に登場した典型的な新種なのさ」
新作に対する一部のファンの冷たい反応もヌーノは、意に介していないようすだ。こうした柔軟な姿勢こそがエクストリームの個性につながり、ひいては保守的と言われるヘビー・メタル界全体を変えて行く原動力となっている。
なにごとに関しても偏見は禁物だが、ことヘビー・メタルというジャンルは私にとって苦手だった。あの安全な予定調和の世界がどうにも肌に合わないのだが、どうやら、これこそが偏見というやつだったらしい。エクストリームは、さしずめ私のような「ヘビー・メタル嫌悪症」の人間にとって、ヌーノの言う通り「新種」である。そして、彼らのような
新しいバンドによって、ヘビー・メタルの重いドアは内側から開かれようとしているのかもしれないと思った。
ハノーバーで見たコンサートは、そんな新種ぶりを大いに発揮したものだった。
新作からの「ウォーヘッズ」で幕を開け、前半のいかにもハード・ロックという展開が後半、4人構成のホーン・セクションが加わると、にわかに活気を帯びる。
特に、ヌーノのギターと、このホーン・セクションの掛け合いの場面は圧巻。3月に予定されている再来日公演は大いに期待していいだろう。
(インタビュー・文/東郷かおる子)