FMfanのアーカイヴであの時代にタイムスリップ!タイムマシーン特集
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‘78 ROCK NEW MAP
今年の活躍が特に期待されているグループをピック・アップ
No.2
Photo: Getty Images
ロックは生きものだ。時代に敏感に反応し、そのつどそれへの返答をしてきた。ロックはまたビジネスでもある。多くのグループが成功し、自分の世界、地位を築き、時代の変化の中で発言してきた。
レッド・ツェッペリン、ピンク・フロイドはコンサートは行ってはいるものの活発な動きをみせず、レコーディングにジックリと時間をかけるようになった今、エアロスミス、キッス、クイーンが自己のペースを見つけ、転換をはかっている今、よりフレッシュでよりストレートに現在を感じさせるグループの登場が望まれている今、大きくクローズアップされつつある流れがある。騒がれ始めてから約1年。レコードもほぼ発売され、日本でもようやく動きを示しつつあるイギリス製パンク。そして、カナダを含めたアメリカ製ハード・ロック。この2大潮流の中から今年の活躍が特に期待されているグループをピック・アップしてみよう。
●セックス・ピストルズ
パンク・ロックの最高傑作。レコード・デビュー前に、これほど大きな話題を巻き起こしたグループも久しくなかった。ジャケットはレコードを入れるためだけのものと素気ない(これもパンク感覚?)けれども、レコードに刻まれた音に、その分も加えてスピードとパワーが盛り込まれている。
●ストラングラーズ
ドアーズを思わせる。イギリスの一方の旗頭セックス・ピストルズをはじめとするバンク・グループとはかなり違ったセンスをもつ。ギターとボーカルの迫力で突っ走るのではなく、キーボードとギターが粘っこくからむサウンドだ。メンバーの持つふん囲気も、現在のイギリスのグループとは、少しかけ離れた印象を与える。
●クラッシュ
衝撃的だ。セックス・ピストルズより演奏は巧いとはいえないし、“レコーディングを慎重に”などとは、少しも考えてもいないようだ。 が、彼らのツッバリはピストルズに勝るとも思えない。サウンドよりも歌詞に、歌詞よりもイギリスの状況を考えさせる。ロンドンは燃えている、燃やしているのは彼らのようなグループだ。
●ジャム
パンクの理論派(?)。イギリスのパンク・ロックにしても、アメリカのハード・ロックにしても、注目に値するグループのほとんどが60年代後半の、特にイギリス・グループの影を落としているのは興味がわく。このグループもザ・フーのサウンド的、そして精神的な影響を受けているようだ。サウンドはエネルギッシュだが、意識的な反インテリ感に、かえって”インテリっぽさ”を感じさせる。
●ベイビーズ
名前ほど柔ではない。イギリスで結成されたグループだが、現在はアメリカ・ロサンゼルスに活動拠点を置いている。4人の作り出すハード・ロックに、クラシック的なストリングスや女性コーラスなどを大胆にとり入れた2枚目のアルバムで、アメリカでの評価は高まりつつある。
●ディテクティブ
ブリティッシュ・ハードの伝統を背に受けて、猛進する英国派ハード・ロック期待のグループ。アメリカのグループが総じて乾いた、若い荒々しさを思わせるのと異なり、イギリス的な重さを持っているのは、リーダーのマイケル・デバレスのキャリアが長く、全盛時を身体で覚えているせいでもあるのだろう。
●ティーズ
純粋ハード・ロック。現在、少なからず注目の的となっている国、カナダ出身のグループ。綿密に計算されて作られたというよりも、メンバーの若さにまかせた演奏で出来上がったようなデビュー・アルバムだが、ハード・ロック・ファンのオーダー・メイド通りの音作りがなされている。今年5月には、新進ハード・ロック・グループの先陣を切って来日が予定されている。
●プリズム
スカッとした心地良さ。衝撃的なデビューを飾り、現在もなおチャートにとどまっているボストンを思わせる。ボストンのトム・シュルツに匹敵するようなメンバーは見あたらないが、プロデューサーでホーンも担当しているブルース・フェアバーンが、グループのサウンド個性を決して抑えることなくシッカリとまとめている。このグループもカナダ出身だ。
●トム・ペティ&ハートブレイカーズ
ハード・ロック・グループであるが、パンク・グループ、特にイギリスのパンク・グループとウマが合うようで、イギリス、アメリカのコンサートで精力的に共演している。トム・ペティの個性が魅力の大半を占めるグループ。グラハム・パーカーとの共演ではパーカーを食ってしまったほど。
●パイパー
キッスの兄弟バンドで同じプロダクションの所属だが、趣は異なる。ドッシリと歯ごたえのあるサウンドを持ち、ボーカルもしっかりしている。年齢とは関係なくレパートリーに「ラスト・タイム」をとり上げていることからもわかるように、充実感のある落ち着いたサウンドを聴かせる。地味な感じだけによけいサウンドからのインパクトが大きい。
●チープ・トリック
抜群のユニークさ。メンバーの容貌のアンバランスさ、国籍はマチマチで、結成されたのが南フランス。本拠地はアメリカで、人気に火がついたのはまず日本といった具合。ハードっぽさを前面に押し出した1枚目から、ポップ味も加えた2枚目でアメリカでも人気が急上昇している。彼らの鍛え抜かれたハード・ロックは、決して安直な仕掛でつくられたものではない。
<レコードリスト>
勝手にしゃがれ/セックス・ピストルズ
夜獣の館/ストラングラーズ
ノー・モア・ヒーローズ/ストラングラーズ
白い暴動/クラッシュ
イン・ザ・シティ/ジャム
直撃波/ディテクティブ
衝瑛の共同体/ディテクティブ
ベイビーズ/ベイビーズ
ブロークン・ハート/ベイビーズ
青春の暴走/ティーズ
宇宙反射/プリズム
アメリカン・ガール/トム・ペテイ&ハートブレイカーズ
パイパー/パイパー
チープ・トリック/チープ・トリック
蒼ざめたハイウェイ/チープ・トリック
(共同)
ボズ・スキャッグスが初来日
ステージから発散する男の色気
No.6
Photo: Getty Images
ボズ・スキャッグスが初来日。日本公演の幕開けとなった、2月3日、横浜文化体育館は熱心なボズ・ファンで埋めつくされた。白の上下に長身の身を包んだボズ。ギター、ベース、キーボード2、ホーン2、ドラムス、パーカッション、コーラス2、総勢10人に及ぶバック・ミュージシャンを従えてのステージ。「何ていえばいいんだろう」「港の灯」「スロー・ダンサー」と、次々に彼のヒット曲が飛び出す。その度に、客席にワッざわめきと拍手が広がる。ボズはギターや、ピアノの弾く精一杯のステージぶり。ラスト・ナンバーが終わっても、観客のドンドンドンと床を踏みならす、アンコールの催促が長い間、鳴り響いていた。
ボズ・スキャッグスの魅力は、ボズ・サウンドともいえる洗練された音づくり、それにステージから発散する男の色気----これにつきるのではないだろうか。
(共同)
ボブ・ディランがやってきた
「特別理由があったわけじゃないけど、一度は行ってみたかった」
No.6
Photo: Redferns
ボブ・ディランがやってきた。「特別理由があったわけじゃないけど、一度は行ってみたかった」という日本へやってきた。
ディランのしわがれたアクの強い声は必ずしも万人に好まれる種類のものではないだろうが、鋭く物事を見抜く詩に触発されたという人は多いに違いない。「風に吹かれて」「ライク・ア・ローリング・ストーン」などが、日本のフォーク界に与えたショックは計り知れないといえる。
そういったヒーロー、ディランが、2月20日の東京・日本武道館を皮切りにコンサートを行っている。
1万人を超すファンでいっぱいに埋まった初日のステージに11人のメンバーとともに現れたディランは、すぐに「ミスター・タンブリン・マン」から演奏を始めた。余計な(?)あいさつなどもなく「ショウをやりにきたので、メッセージを送りにきたのではない」という記者会見での言葉通りだ。もちろん、曲と曲との合間もほとんどなく、演奏が次々に続く。しかし、その素っ気ないステージ進行とは対照的に演奏自体は熱気と気迫の込もったもので、ちょっとサウンド作りが荒っぽいとはいうものの、ディランの主張は十分に客席に届けられたといえる。
1963年の「時代は変わる」をアンコールに、2時間を超えるコンサートの幕は降ろされた。ディランの歌い続けた16年間に、とにかく時代は変わり、ディランも変わった。今のディランは、これまでに残した21枚のアルバムで聴かれるディランのいずれとも違う。が、変わらないのはディランをシンボライズし、時には神格化さえしてしまう周囲の評価だ。あるいはこの日の「時代は変わる」は、「ディランは変わる」に置き換えてもかまわなかったのかもしれない。かつてのように眼を社会 に向けた不正に対するプロテストだけではなく、”人間”ディランによる、独り歩きしている”神様”ディランに対するプロテストだったのかもしれない。だから人間臭い「ラブ ・ソングは最高のプロテスト・ソング」と、ディランは言ったのだろうか。
そして「僕は神様なんかじゃない、ただの人間だよ」とも。
(共同)
トム・ウェイツ 好評に応えて今年も来日
その強烈な個性をふりまいた
No.7
Photo: Getty Images
昨年度のベスト・ステージのひとつに数えられたトム・ウェイツのコンサート。好評に応えて今年も来日、その強烈な個性をふりまいた。
編成はトム・ウェイツ(ボーカル、Pf)、フランク・ヴィカーリ(Sax)、ノア・ヤング(Bs)、チップ・ホワイト(Ds、Vib)の4人。昨年来日したベーシスト、フィッツ・ジェンキンスは本業の医者の仕事が忙しくて、今回のツアーには同行していない。フランク、チップ、それにフィッツはアメリカではニューヨークを中心にジャズ・ミュージシャンとして活躍している。
フランク・ヴィカーリはトム・ウェイツの音楽を「どちらかといえばジャズだと思う。昨年来日した時、どこかの本でトムのことをロック・ミュージシャンって紹介していたけど、決して彼はロック・ミュージシャンではないね。だけど彼の場合はジャズって狭く考えるよりも、もっとフリーな音楽と考えたほうがいんじゃないかなあ」という。
水銀灯とおぼしき街頭をステージに持ち込み、トム・ウェイツはタバコをふかし、例のダミ声でがなりたてる。さながら”安酒場の酔いどれ男”。それが彼のキャラクターであり、サウンド・ポリシー!?昨年と比べて、彼はリラックスしているのか、より動きのある楽しいコンサートをみせてくれた。
(共同)
ハッスル・コンサート リトル・フィート
待ったかいのあったコンサート
No.16
熱心なファンの声援と腕達者なミュージシャンの熱演。当たり前のことだが、このふたつの条件が満たされなければいいコンサートだとはいえない。来日ミュージシャンの数が増えてそうしたコンサートに接する機会も多くなってきた。待ちに待ったファンとしては待たされた印象も強いかもしれないが、このリトル・フィートのコンサートはふたつの条件が満たされたグッド・コンサートだった。
ロウエル・ジョージ率いる6人のミュージシャンの演奏は満員のファンを大いにわかせた。ライブ・アルバム「ウェイティング・フォー・コロンブス」のようにホーン・セクションにタワー・オブ・パワーの参加といったスペシャル・メニューはなかったが(アンコール曲では矢野顕子がコーラスに加わったことを除いては)、リトル・フィートというグループの魅力を十分に見せてくれた。
前半はさすが年期の入ったグループ、と思われるがっしりとした演奏。後半に向かうに従って、メンバー自体も音楽に乗り始め、特にロウエル・ジョージはステージ狭しとばかり、靴を飛ばして踊りまくるほどの大ハッスルぶり。ファンとしては”待ったかいのあったコンサート”だったろう。(撮影・大田良一)
<レコード・リスト=ワーナー・パイオニア>
●リトル・フィート・ファースト
●セイリン・シューズ
●ディキシー・チキン
●アメイジング
●ラスト・レコーディング・アルバム
●タイム・ラブス・ア・ヒーロー
●ウェイティング・フォー・コロンブス
(共同)
ビリー・ジョエルがホームグラウンドのニューヨークで新しいアルバムを完成
日本発売は12月ごろの予定
No.22
「ストレンジャー」の大ヒットで爆発的人気を呼ぶビリー・ジョエルがホームグラウンドのニューヨークで新しいアルバムを完成させた。この人の作り上げる音楽は、特別に新しさだけを追求していくという感じはない。むしろ、ニューヨークに育った音楽のすべてを凝縮し、そのうえひとつのサウンドを築き上げているといえる。いわばビリー・ジョエルの音楽は、この都市のふん囲気をかん詰めにしたような味がするのだ。いつ聴いても、新鮮な人間模様が眼前に描かれている。
そのビリー・ジョエルが新作「ニューヨーク52番街」(仮題)と取り組んだのは、日本公演から帰国してすぐの7月のこと。プロデューサーにフィル・ラモーン、ギターにはニューヨーク・オールスターズの一員として来日したスティーヴ・カーンを迎えている。A&Rスタジオでレコーディングされたこのアルバムは、サウンド的にはこれまでの延長線上にあるものといわれるが、鋭い感性と優れた作曲能力に裏打ちされたもので「ストレンジャー」「ニューヨーク物語」以上にスケールアップしているという。
ことしのポピュラー会の台風となったビリー・ジョエルの期待の作品だ。日本発売は12月ごろの予定。
(共同)