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ドレスコーズ 『バンド・デシネ』インタビュー
2ndアルバム『バンド・デシネ』をリリースするドレスコーズから志磨遼平(vo)を招き、各メンバーの特徴と共に、同作を紐解く上で参考にしたい音楽を選んでもらった。キース・ムーン、バディ・リッチ、スティーブ・ジョーンズ、ジェームス・ジェマーソン、クリストファー・オウエンス……。さらにはアルバムタイトルにちなんで、バンド・デシネ的な漫画なども挙げながら、人懐っこい性質が戻ったという本作について語ってもらった。
オープニングチューン「ゴッホ」のドラムが凄い
--1曲目「ゴッホ」のドラムが凄すぎますね。菅さんのドラムは、ドレスコーズが自信を持ってお届けできる大きな武器の1つですよね。
志磨遼平:ありがとうございます。もちろんそう思っております。本人に伝えておきます。喜ぶと思います(笑)。
--ドレスコーズは結成の経緯からしてそうですが、音楽的な探求を突き詰められるメンバーを揃えたんですよね?
志磨遼平:東京に出てきてから10年くらいバンドをやってきた中で、ずーっといっぱいライブをやって、ツアーで色んなバンドと一緒にやってきて、印象に残っている人たち。そのギター部門、ベース部門、ドラム部門で最も印象に残っているプレイヤーにお電話をしたら、みんな暇だったっていう(笑)。みんな暴れ馬だから暇なんですね。どこも雇ってくれなかった3人に……、暴れ馬が暴れ馬に連絡をして、暴れ馬同士のバンドを作ったと。
--「ゴッホ」の最初のパートはラップに近いですよね。毛皮のマリーズを知っている人の中には、志磨さんならやりかねないと想像していた方もいたと思うのですが、意外性のあるアプローチとはいえます。
志磨遼平:この曲は今までで唯一初めて、歌詞も構成もある程度決まった状態でドレスコーズに持っていったんです。何となくのアレンジもほぼ決めていて、空白を2つだけ用意していた。それがそのラップというかおしゃべりの部分で、この空白を埋めてください、と。ビートを刻むというよりは複雑なフレーズみたいなものを叩いて、僕の言葉と拮抗するようなイメージを伝えたんです。
すると菅さんがまず、僕の言葉を全部音符に変えて、そのまま叩くというユニゾンにしたんですよ。そこでギターとベースはどうするかという所で、“何もしない”という選択肢を選ぶという(笑)。最初の最初は菅さんも叩いてないですよね? より冒頭のインパクトをするために、まずは“僕たちは何もしません”っていうことですよね。
ドレスコーズを知る上で、その1:菅大智
▲Keith Moon´s drum kit explodes
--では、そんな菅さんの凄さを知るためにも、参考になるミュージシャンは?
志磨遼平:それはまァやっぱり……
--The Whoのキース・ムーン?
志磨遼平:はい(笑)。キース・ムーンをプライベート、私生活の面でもリスペクトしているのが菅さんですから。
ポップスやロックンロールは70年代以降から、録音機材の進歩でどんどんクリアに録れるようになりましたよね。でも、60年代のドラムのドシャメシャした感じというか、ガシャガシャした感じのドラムが私の理想なんですね。
昔のドラマーと曲を作っているとき、「ここは“ドン!ダカダカダカドンッ!”ってやってみて」と言ったら、“ドン、スタラタトン!”みたいになるんですよ。ドラムの材質とかセットの鳴りが昔とは徹底的に違うし、録音方法も違うしマイクも違う。だからやっていることは一緒だよって言われて、「だったらこう聴こえるようにやってよ?」「いや、だから……」と。「もうああいう風には誰も叩けやんのか……」と思っていた時分に菅さんのドラムを見て、「できるやん!」って。
--求めていた音が鳴ったと。
▲BUDDY RICH IMPOSSIBLE DRUM SOLO
志磨遼平:僕がずーっと探していたドラマー、僕が聴きたかったサウンドを叩ける人だったんです。毛皮のマリーズで『ティン・パン・アレイ』というアルバムを出して、その再現ライブを演ったときも菅さんに手伝ってもらっていたので、自分のドラムスタイルをコントロールできる人だということも分かっていたし、どういうパターンの曲でも叩ける。だから一緒にやるなら菅さんと決めてましたね。
--その上、神経質なくらい引き締まったタイトなリズムも叩けるドラマーって珍しいですよね。
志磨遼平:だからバディ・リッチも近いかもしれないんですけど、やっぱり当時のロックなドラマーもジャズとかの経験のある人が多いですから、スウィングしながら叩けるんですよ。今の若いドラマーでそれができるのは、凄く貴重な存在ですね。
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Interviewer:杉岡祐樹
ドレスコーズを知る上で、その2:丸山康太
▲Sex Pistols Video Collection 03 No Feelings
--3曲目の「Zombie(Original Ver.)」のアウトロでギターソロを弾いているのは丸山さんですか?
志磨遼平:素晴らしいですよね! 彼はほとんどのソロが即興ですね。決め込む方が珍しくて、今回だと(7曲目)「Silly song, Million lights」くらいですね。
--他に丸山さんのギターが強烈だったのは8曲目「Eureka」で、シューゲイザーかと思ったら途中からベルベッツになって、いきなり我に返るという(笑)。
志磨遼平:あ~、ありがとうございます(笑)。
--では、丸山さんを知る上で参考になるプレイヤーは?
志磨遼平:彼は最近、パンクとかハードコアばっかり聴いていて、スティーブ・ジョーンズ状態にありますね。彼だけのトーンっていうのがあるギタリストなんですけど、日本のロックギタリストで自分のトーンを持っている人って、そんなにいっぱいはいないですよね。日本だと鮎川誠さんが近いですね、僕の中では。
丸はジャズが好きなので、ロックだけをやっているギタリストとは根本的に回路が違うんですよね。たとえばDのコードを押さえ方とかを何種類も知ってるから、メロディや曲に合った響きの和音をチョイスしたりできる。メロディに対する感覚が全然違います。
丸はちょっとぶっ壊れた人なもんで、ぶっ壊れた音楽のバンドやセッションに誘われることが多かったんです。家でずっと独りでギターを弾いていた子なので、バンドにちゃんと在籍した期間って凄く短いと思う。
だから凄くストレートなロックンロールのようなプレイも、自分がやるとは思ってもいなかったみたいで。でも、凄く好きなんですよロックンロールが。「ずーっとやりたかったことを今できてる」って言ってくれますから、嬉しくて嬉しくてのスティーブ・ジョーンズ状態。
--1曲挙げるとすれば?
志磨遼平:最近彼がよく弾いてるのは「No Feeling」ですね。“分かってたまるか”……だそうです(笑)。
エゲツないものなら、いくらでも知ってる
--そういえば今作は、ポップと評されることが多いですよね。
志磨遼平:僕が本来持っているメロディみたいなものは人懐っこい性質を持っているんですけど、前作ではそんなにフィーチャーしていないんですね。一度、僕が手癖で書くメロディみたいな所から離れてみたかった。だから作り方とかやっていることはそんなに変わってないんですけど、単に僕の性質みたいなものが前作よりも出ていて人懐っこい。それがポップっちゅう言葉に変換されているんでしょうね。
僕は奉仕っちゅうような言葉を使いたいですけど、サービスというか、そういうアレンジは多いかもしれないですね。1stの頃は、たとえばギターの処理とか、録った所からイジらないでくださいって言ってました。でも今回は、耳なじみが良いように処理している部分は多いかもしれないですね。前作の方がエグかったです。
--ただ、曲の構成や音1つ1つの存在感は、今作もエゲツないですよ。
志磨遼平:エゲツないですよ、僕たちは。エゲツないものなら、いくらでも知ってるというか。“毒にも薬にもならない”っちゅうような言葉がありますけど、本当に中庸っていうのが一番不必要で、毒なのか薬なのか、はっきりした方がいいですよね、ロックンロールっちゅうものは。
これはなんで僕がロックを選んだかの理由の一個になるんですが、僕の声って凄く耳障りな周波数を持っている(笑)。たとえば僕がハモりをつけると、本当にニューン!とハモりが出てくるんですよ。合唱みたいなシンガロングなフレーズを大勢で歌うような録音のときも、僕だけすっごい遠くに置かれますからね。
最初は「志磨さん、ちょっと離れてください」って群れから離されていって、しまいには「後ろ向いてください」って壁に向かって歌わされる。「俺の歌やのに……」って思いながら壁を見つめてるヤツっていう(笑)。
僕が歌うことによってその曲は、集団の群れから離れて壁を見つめる歌になるっていう宿命を背負って生まれるんです。「ハナレグミの永積くんとかに歌ってもらえたらいいのに、かわいそうなヤツ」って思いながら。
--「せっかく良い曲なのに!」って?(笑)
志磨遼平:子どもは親を生まれないってやつですね。僕から生まれたせいで君は絶対にBGMになれない(笑)。僕の声はBGMになることを拒否するんです、凄く聴くことを強要する。
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Interviewer:杉岡祐樹
ドレスコーズを知る上で、その3:山中治雄
--では、山中さんのベースはどうでしょうか。
志磨遼平:丸のスタイルの反転なんですよね、ネガというか。たとえば丸が凄く突出するときに、ちゃんと真逆にいる。丸がメロディに対して支えるポジションにいるとき、治雄はブンッと一瞬突出したりするんですよ。1曲の時間軸の中でもそうだし、音楽に対する距離感もそう。本当に勘だったんですけど、僕は素晴らしい人選をしたなァって。これだけは自分を褒めたい、このメンバーを集めたことを。
--その関係性を象徴している曲を挙げるとしたら?
志磨遼平:(4曲目)「ハーベスト」もいいですね。2番のAメロの最後“例えばそれは たった一輪の”って所で、丸のコードは下降していくんですけど、治雄は同じコードにステイしてるんです。で、それに歌詞を乗せるとき、僕も言葉を停滞させて“例えばそれは 両手いっぱいの” “例えばそれは ベッドいっぱいの”とベースと同じ動きにしたんですよ。これがね、僕は「やったな!」っていうね。これはちょっといいね! っていう、「ハーベスト」で一番好きな所です。
--それを知った上でもう1回聴き直したいですね! 今のは良い話を聞いたなァ……
志磨遼平:でしょ? でしょ?(笑)
--では、そんな山中さんを理解する上で知っておくといいベーシストは?
志磨遼平:ん~……、色々いますけどね。古い人だとモータウンでずっとベースを弾いてたジェームス・ジェマーソン。ベーシストというか凄い優れたメロディを奏でる人で、ポール・マッカートニーとかと同じ括りですよね。凄くグッドメロディを知っている人。その上、ジェームス・ジェマーソンはリズム感も抜群すぎて、素晴らしいベースラインをたくさん作ってますね。
ドレスコーズを知る上で、その4:志磨遼平
▲Girls - "Lust For Life" (official video)
志磨遼平:あと、治雄に教えてもらったGirlsの「Lust For Life」って曲が大好きで、今年は一時、その曲ばっかり聴いてまして、実は(2曲目)「どろぼう」は、っぽいなって思う所もあって(笑)。クリストファー・オウエンスは他人だと思えない。CD棚とかレコード棚が似てると思う(笑)。
--彼は幼少期を宗教団体 チルドレン・オブ・ゴッドですごしたという出自を持っていますよね。
志磨遼平:彼が彼女にフラれたときの話、知ってます? チルドレン・オブ・ゴッドから脱走して、パンクロッカーになるって色んな所を転々として、大好きな彼女ができたと。それで「結婚しよう、結婚しよう」って言ってたんだけどフラれて、「僕をふるのは君にとって得策ではない。僕はこの後、世界的に有名なバンドになるよ?」って言ってたんですって。結局フラれるんですけど、それで結成したのがGirlsっていう。
--夢のあるイイ話ですねェ。
志磨遼平:そう、……他人とは思えない(笑)。「Lust For Life」はPVも大好きで、出てくるのがゲイかレズビアンのカップルなんですよ、たぶん。曲もそうだし映像もそうだし、たとえばGirlsってバンド名を聞いて、まさかオッサン2人でやってるとは思わないじゃないですか。しかもBGMにはなりにくい、あんな甘い声で。なんかもう全部のバランス完璧ィ!って思って。最高ですね。
--また、タイトルトラックにして最後に収録された1曲「バンド・デシネ」は、ヨーロッパの漫画の源流を差す言葉になりますが、歌詞の中ではもう1つの意味。日本語として捉えたときの意味合いも含まれています。
志磨遼平:いわゆる1つのダジャレですよね(笑)。
--そこで最後の質問として、このアルバム『バンド・デシネ』をより深く理解するならこの1冊、という漫画を教えてください。
志磨遼平:ほう! えーっと、本来の意味での“バンド・デシネ”的な漫画を描く人といえば大友克洋さんなんですけど、僕らの音楽は大友さんというよりは青林堂……(笑)。
--『ガロ』で有名な、今なら青林工藝舎的な(笑)。
志磨遼平:『しんきらり』のやまだ紫さんとか、安西水丸さんとかかなァ……。あ、赤瀬川原平さん! このアルバムを作っているときは、よく読んだり見たりしていましたね。僕が大好きなのが“宇宙の缶詰”という作品で、フタの開いたカニ缶のラベルを剥がして内側に貼ってあるんです。つまり“このフタをもし閉じたらどうなる?”っていうことなんですよ。
ラベルっていうのは外側にあるものですから、外側が内側になる。っていうことは、宇宙全部がカニ缶の中になるわけじゃないですか。そして僕らのいる世界は全部カニ缶の中身になるっていう。
他にも赤瀬川さんは千円札を模写していきながら、「これは偽札かどうか?」っていう所で紙幣の価値を試したんですよ。たとえば印刷レベルがめちゃめちゃ悪いコピーを作って「これは偽札ですか?」とやって。どこまでが紙とインクで、どこから貨幣としての価値が発生するのかをギリギリまでやってるうちに逮捕されたんです(笑)。
--ということは、『バンド・デシネ』をより深く理解する上で、赤瀬川さんの作品を知ると……?
志磨遼平:別にアルバムの聴こえ方は変わらないですけど、日々の生活が潤います(笑)。
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Interviewer:杉岡祐樹
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