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May J. 『Love Ballad』インタビュー
2013年のNo.1ブレイクミュージシャンは、間違いなく彼女だろう。きっかけは、あるテレビ番組のカラオケ対決。圧倒的な表現力と正確無比な歌唱力で無傷の連勝を重ね、いつしか“無敗の歌姫”なる異名まで。類まれなる実力をお茶の間に知らしめた。
その結果は、夏に発表したカバーアルバムで30万枚という大ヒットとなって表れた。7年の活動を経て、遂に手にしたチャンス。そんなMay J.は今、何を望み、挑んでいくのか。極上の1枚に仕上がったオリジナル・バラードアルバム『Love Ballad』を中心に、多岐に渡る質問に答えてもらった。
これが届かなかったら、私はどうすればいいんだろう?
▲YouTube「May J. / 【独占激白】初めて語る「過去」「今」「未来」」
--YouTubeの公式チャンネルに、猪又孝さんによるインタビューがアップされていて、いわゆる核の部分はこちらで語られているんですよね(笑)。
May J.:アハハ、ありがとうございます(笑)。
--というわけで、せっかくなのでもうちょっとライトな部分も訊いていければと思うのですが、とはいえ2013年はMay J.さんにとって忘れられない1年になりそうですね。
May J.:そうですね。
--7年間を集約したベストがあり、テレビ番組での大活躍があり、夏にはルーツまで掘り下げたカバー作品をリリースした。昨年発表した2作も含め、近年のMay J.さんには、すべて出し尽くす勢いがあります。
May J.:去年12月に6枚目のアルバム『Brave』をリリースした時点で、自分の中にあるものはすべて吐き出して、「これ以上どうすればいいんだろう?」って悩んでいた時期でもあったんです。
そして今年の2月に出したベストは7年分のMay J.で、これ以上のものはできない。「もし、このベストが思うように届かなかったら……?」って所まで来ていたんです。たとえよくない結果でも、次のステップに向けてイチからがんばっていたんだと思うんですけど、凄く落ち込んでいた時期はありましたね、数か月前まで。
--そこにテレビ番組でのブレイクが待っていたと。
May J.:テレビ番組に出演させていただく中で、歌声を期待してくださる方が多くなったんじゃないかと思えて、「やっと歌声にフォーカスしてくれるようになったんだな」って思ったんですよ。
ただ、それまでにあれだけ自分と向き合って、すべてを吐き出して曲を書いて、何時間もレコーディングして作ったものが届かなかった……っていう虚しい気持ちもありましたね、正直に言えば。
その層の人たちに自分の歌声を聴いてもらって、しかも「歌ってこういう気持ちにさせてくれるんだ」っていうきっかけを作ってくれたのがあの番組、あのカラオケ対決ですよね。全部がグラフになって見える“赤ペン先生”みたいな感じ(笑)。はっきりと分かるのは親切なことだと思うし、面白いと思います。
宇多田さんにはダメもとでお手紙を書いたんです
▲YouTube「May J. / 「First Love」(カヴァーAL「Summer Ballad Covers」より)」
--以前、同番組で活躍しているやなわらばーの石垣さんにインタビューしたときに、番組での歌い方とCDでの歌い方は全然違うと仰っていました。
May J.:確かにそうですね。でも、私は負けず嫌いな所があって、音程は崩さないんだけどしっかり気持ちを込めて歌う、それを両立させたかったんです。
--勝つことだけが目的ではなかった?
May J.:やっぱり対戦だし、プロとして勝たなければいけないけど、カラオケだけにはしたくない。アーティストさんによっては「カラオケ? 自由に歌った方がいいよ」って方もいますし、それはそれで凄くアーティスティックだと思います。でも、自分は8歳のときからオペラを習っていたし、音程を保つことは大切に思っているので、そこを出しつつ表現することは意識しながら練習していましたね、ずっと。
--そうした歌い方は、夏にリリースしたカバー集『Summer Ballad Covers』でも実践されたのでしょうか?
May J.:いや、『Summer Ballad Covers』では逆に、初めて音程を気にしなかったんですよ。どうしてもテレビの歌だと置きに行っているように聞こえてしまうので、そこに変化を出したくて。CDでは感動してもらいたいし、普段のMay J.が自由に歌っている感じを出したかったので、「あれはカラオケで歌ってたんだ」って思ってもらっても全然いいです。CDではフェイクも入れるし、ロングトーンをさらに伸ばしたりとか、音程がズレていても歌詞が伝わるならいい、とか。テレビとは全然違いました(笑)。
--同作には宇多田ヒカル「First Love」のカバーもありました。May J.さんにとって宇多田さんはルーツ中のルーツであり、「First Love」は彼女の代表曲中の代表曲とも言える大バラードでしたが……
May J.:元々「First Love」はカバーできると思ってなかったので、実は。だから、宇多田さんにはダメもとで「カバーしたいです!」ってお手紙を書いたんですけど、まさかOKをいただけるなんて……。これは本当に光栄なことだし、自分が歌をやってきた中でトップ3に入るくらい嬉しいことなので、全力で歌うって誓いました。もちろん、全曲そうだったんですけど、思い入れが凄く深いので、大切に歌いたいと思いましたね。
リリース情報
Love Ballad
- 2013/10/23 RELEASE
- 初回限定盤[RZCD-59423(CD+DVD)]
- 定価:¥3,360(tax in.)
- ≪試聴可能≫
- 詳細・購入はこちらから>>
- 通常盤の詳細・購入はこちらから>>
関連リンク
Interviewer&Photo:杉岡祐樹
人生で初めて2回レコーディングした「Lovin' you」
▲YouTube「May J. / 『Love Ballad』(10.23 Release) 映像ダイジェスト&全曲試聴」
--あの作品の最後に収録されていた「I DREAMED A DREAM」は、まるでMay J.さん自身のことを歌っているようにも思えました。
May J.:「I DREAMED A DREAM」は、ここ最近の自分の気持ちに凄くリンクするものがあって、ずっと夢見ていたものが崩れそうというか、「もう叶わないのかな……」っていう所まで落ちていた自分がいた。そのときを思い出しながら歌いました。
凄く良いタイミングでカバーさせていただけたと思いますし、アルバムの最後にレコーディングしたこともあって集大成みたいな所があったし。……最後、歌った後に泣きましたね。初めて、自分の歌声で泣きました。本当に涙が止まらなくなるくらい、誰かにフラれたくらいの勢いで(笑)。
--そうした前作を踏まえた上で、このたびオリジナル・バラードアルバム『Love Ballad』をリリースします。1曲目「Lovin' you」はその歌声から歌唱力、細かいテクニックまで。今のMay J.というミュージシャンにおける集大成といっていい、素晴らしい1曲ですね。
May J.:作曲家の原一博さんが番組を観てくださっていたようで、スタッフの人が曲をお願いしにいったとき、あれだけ大御所な方なのに「書きたい」と仰ってくださったそうなんです。しかも凄くレベルの高いメロディを書いてくださったので、本当に嬉しかったです! 試されているというか、「でもできる」と思っていただけているんだなって。
やっぱり勝負曲ではありますよね、カバー以降、初めてのオリジナルということで試されている所はありますし。しっかり伝えなければいけないって想いはスタッフにもあったので、緊張感はあります。だからレコーディングも、1回では納得できなくてやり直したんですよ。同じ曲を2回レコーディングするのは初めてだったんですけど、それくらい重要な曲だったので、特別にもう1回やらせていただいて。
--結果、一生歌っていける楽曲になりましたよね。
May J.:メッセージとしては大きな愛を歌っているし、誰もが経験することだと思うので、私がおばさんになっても歌えると思います。
--本作には他にも注目曲が多くて、例えば5曲目「泣いていいよ」。
May J.:この曲は歌詞が本当に素晴らしいんです。女性が男性を包み込んであげるっていう、今までの私は歌ったことがないテーマで。歌詞を一番伝えたかったので、聴かせるよりも伝えることを優先して歌いました。だから細かい音のズレとかけっこうあるし、普段だったら気になって歌い直したりするんですけど、「これはこのままがいい!」って判断ができたんです。歌詞が一番伝わるのはこのキーで、このズレ具合があるから一番伝わるって自分で振り切れた。一切、直してないですね。
--そうしたアプローチは今までにもあったのでしょうか?
May J.:さっきも話に出た「I DREAMED A DREAM」が正にそうですね。あの曲は一切音を修正してないし、切り貼りせず、通して歌ったんですよ。本当はちょっとズレてる所もあるんですけど、そこで人は涙するというか、完璧じゃないからいいっていうことをあのとき感じたので。
やっとスタートラインに立てた
--そういう言葉も、ある種の完璧を体現できるシンガーであり、そのスキルを世間に知らしめたMay J.さんだからこそ説得力があります。
May J.:今まではプライドが凄くあった部分で、「自分は歌手だから上手く歌わなきゃいけない」っていうのがあったんですよ。でも、それはもう十分出してきたと思うので、今度は完璧じゃない部分も出せたら、もっと強いんじゃないかなって。
--ちなみに「泣いていいよ」を作詞した前田たかひろさんは、90年代に安室奈美恵、TRF、鈴木あみなどの歌詞を数多く手がけ、近年ではももいろクローバーZにも歌詞を提供している名作詞家です。今作には他にも名だたるクリエイターが多数集結していますし、演奏ではFUZZY CONTROLのSATOKO(dr)とJOE(b)も参加していたりと、最高級の制作陣がどうやってMay J.を料理するのかを突き詰めていますよね。
May J.:それができるのが嬉しいんですよね。今まで色々挑戦してきて、テレビでこうやって注目を集めてきたからこそ、このメンバーが集まった。それはとても光栄なことだと思います。だから、いつも言うんですけど、やっとスタートラインに立てたっていう感じです(笑)。ただ、やっぱりオリジナルで支持されないと一流のアーティストとは呼ばれないと思うので、まだまだ勝負ですね。
--また、そうしてアーティストとしての未来まで見据えていると感じられたのが、この作品に2曲のカバーが収録されていたことで。やっぱり最初は思ったんですよ、「せっかくなら全部オリジナルで勝負すればいいのに」って。
May J.:もちろんオリジナルで勝負したいっていうのはあるんですけど、やっぱりどうしてもカバーで知られているというのが一番大きいので、そこは聴いてくれる人に対して親切にならなければいけない。やっぱり数曲、聴き馴染みのある曲がないと、オリジナルにも入ってもらえないと思ったんです。もちろん、全曲オリジナルで勝負したいんですけど、それはまだ早いって。
リリース情報
Love Ballad
- 2013/10/23 RELEASE
- 初回限定盤[RZCD-59423(CD+DVD)]
- 定価:¥3,360(tax in.)
- ≪試聴可能≫
- 詳細・購入はこちらから>>
- 通常盤の詳細・購入はこちらから>>
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Interviewer&Photo:杉岡祐樹
実はスケジュールに書いてるんですよ、“紅白”って
▲May J. / 「きみの唄」Music Video [10月23日発売 mini AL「Love Ballad」より]
--しかもそのカバー曲にも、V.I(from BIGBANG)という最高級の人材が参加しています。
May J.:嬉しいですよね、本当に。今まで行けなかった所に行けることになったり、出られなかった番組に出られたり、そういった所で新しい人たちに出会って、また刺激を受けてもっともっと夢が大きくなって。V.Iさんから「May J.さんは歌が上手いから一緒に歌いたいです」って言ってもらえたりとか。
--今できる最高の作品を完成させた手ごたえはありますか?
May J.:リスナーが求めているものに対して、自分ができることを考えながら作ったものですし、それができる状況にあることが嬉しいですよね。エゴだけじゃないものを作れるというか。
--そういう今のMay J.さんだからこそ、どうしても見たいのが紅白の舞台に上がる姿です。
May J.:……実はスケジュールに書いてるんですよ、“紅白”って。もちろん何にも決まってないんですけど(笑)、「出る!」って気持ちでがんばってます。この作品の結果が大切ですよね。
--『Love Ballad』を届けたい層の広さは、紅白にも通じる所がありますよね。
May J.:そうですね。ありますね。
--それだけの層に響かせられる自信もある?
May J.:私は、いつでも準備ができています。……強がっちゃった!(笑)
やっぱり純粋に音楽を好きでやってきた結果だと思う
--近年、日本のシーンではアイドルブームがあり、シンガーとしてのスキルがそこまで重視されない文化が注目されました。そして今、その寄り返しがきているとも感じていて、本格的な表現力を持ったパフォーマーが求められる時代がくるのではないかと思うんですよ。
May J.:実力を認めて欲しい人はたくさんいると思うんですけど、日本はどうしても流行りのものが流行るので、何かきっかけがないと難しい。その大きなきっかけとして私にはテレビ番組があったわけで、常に探さなければいけないと思いますね。実力だけで認めてもらうのは、日本では難しいのかなっていう気持ちは正直あります。
--それを痛感させられた7年間だったともいえますよね。
May J.:ただ、それだと言い訳になっちゃうから嫌なんですよね。……何か、何か自分を削らなければいけないと思ったんですよね。自分の信じているものはあるんですけど、一度違う目線から捉えて、違うことに挑戦しなければいけないと思いました。普段ではやらないことでも、やったことで思わぬ出来事に繋がるんだなって。ただ、それは作るものではなくて、出会うものだと思うんですよね。タイミングがあると思っていて。
--そのタイミングがくるまでに何を積み重ね、どう準備するのか。
May J.:普段から純粋に音楽をやり続けることは、絶対に崩しちゃいけないと思っています。
--だから今年の状況は、決してまぐれや奇跡ではないんですよね。May J.さんは歌声のみならず、ライブで魅せるダンスパフォーマンスやルックスなど、表現者として数々の才を持ち合わせている。そうした存在が7年間、真摯に音楽と向き合ってきたからこそ、タイミングが来たときにしっかり打つことができたわけで、簡単に奇跡とは言えないです。
May J.:テレビを見ている人の中には、私の過去まで知っている人はあまりいないので、シンデレラのように出てきたと思われがちかもしれませんね(笑)。やっぱり表舞台でがんばってる人たちって、そこまでの積み重ねをたくさんしていますよね。だから活躍されている人たちを本当にリスペクトしています。
この前、八代亜紀さんとお会いする機会があったんですけど、40年くらいずっと歌われているって、本当に素晴らしいことだと思うし、簡単なことではない。でも、やっぱり純粋に音楽を好きでやってきた結果だと思うんです。
--現在はベスト盤とカバー盤のリリースを記念したツアーも行っており、11月8日にはZepp Tokyoでのファイナル公演も控えています。大きな会場になりますが、今のMay J.さんにとってはここすらも一つのステップといえますよね。
May J.:本当はこの状態をデビューしてすぐに作りたかったんですけど、できなかった現実がある。そんな簡単な業界じゃないって理解しているので、今のステップでこの会場のステージに立てることは光栄です。
……ただ、満足はしていません!(笑) 今後はよりたくさんの人に聴いてもらえるために、オリジナルをしっかり歌うことが必要なステップですので。
リリース情報
Love Ballad
- 2013/10/23 RELEASE
- 初回限定盤[RZCD-59423(CD+DVD)]
- 定価:¥3,360(tax in.)
- ≪試聴可能≫
- 詳細・購入はこちらから>>
- 通常盤の詳細・購入はこちらから>>
関連リンク
Interviewer&Photo:杉岡祐樹
Love Ballad
2013/10/23 RELEASE
RZCD-59424 ¥ 1,980(税込)
Disc01
- 01.Lovin’ you
- 02.きみの唄
- 03.Eternally -Wedding ver.-
- 04.Shine Bright -Love Ballad ver.-
- 05.泣いていいよ
- 06.I Believe [Japanese Version] feat.V.I (from BIGBANG) (Bonus Tracks)
- 07.涙そうそう (Bonus Tracks)
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