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ブリティッシュ・シー・パワー 来日インタビュー
ヤン&ハミルトン兄弟、ノーブル、ウッド、そしてエイモンを中心として英ブライトンにて結成されたブリティッシュ・シー・パワー。その奇想天外で大胆なライブ・パフォーマンスに惚れ込んだUK名門レーベル、ラフ・トレードのオーナー、ジェフ・トラヴィスが即契約。2003年にラフ・トレードより『ザ・ ディクライン・オブ・ブリティッシュ・シー・パワー』でデビュー。その後も、ジョドレル・バンク天文台など様々なユニークな会場でライブをこなし、映画やドキュメンタリーのサウンドトラックを手掛けるなど活動の幅を広げてきた彼ら。2006年にエイモンが脱退、そしてストリングスとしてツアーに参加していたアビとキーボード、ギターのフィルが加入し、今年4月には5枚目となるスタジオ・アルバム『マシンナリーズ・オブ・ジョイ』はリリース。2011年の【FUJI ROCK FESTIVAL】以来、約2年ぶりの来日を6月の【Hostess Club Weekender】で果たし、(案外ベテランなのに)日曜日のトップバッターとして安定感溢れる、BSP節全開のライブを見せてくれた。残念ながらドラムスのウッドは、家庭の諸事情で今回来日できなかったが、ヤン、ハミルトン、ノーブル、アビ、そしてウッドの代役として来日したエレクトリック・ソフト・パレードなどのドラムを務めるデイモ・ウォーターズのメンバー5人でインタビューに答えてくれた。
あの頃のライブの話が誇張されているというのはある
▲ 「The Spirit Of St Louie」 LIVE @ Kendal Calling
??見慣れないメンバーが一人いるのですが…。
デイモ:アハハ。僕のことだね。僕は、BSPフランチャイズの2世代目。
ヤン:デイモっていうんだ。今回残念ながら、ウッディが来れなかったから。
??ちなみにフィルも不在なんですね。
ヤン:彼は先生もしているんだ。それも数学。見た目からは想像できないけど、すごく頭がいい(笑)。
ノーブル:そうそう。教師として賞も授賞してる。
ヤン:なので最近は、週末や休暇の時にしかツアーには参加していなんだ。
デイモ:そうなんだ!それ、僕も知らなかったよ。きちんと両立しているのは偉いよね。
ノーブル:でもここだけの話、彼に少し飽きた部分もある。
ヤン:それにギャラが高いし、わがまま!
一同:(大笑い)
デイモ:僕はその点大丈夫だよ。あのロニー・コーベット、ロニー・バーカーが出てたTV番組のイギリスの階級社会についてのジョークみたいに…。
ハミルトン:ジョン・クリースも出てるやつだよね。
デイモ:「自分の居場所をわきまえてる。」
ヤン:彼はいいバーゲン品なんだよ。
??BSPのメンバーとの付き合いは長いんですか?
デイモ:10年ぐらい前に初めてライブを観たんだ。まだブライトンに引っ越す前で、他のメンバーのことは憶えていないけど、ヤンはクリケットのユニフォームを着ていたから記憶に残ってる。
ヤン:多分その日試合があったんだね。僕がデイモに会ったのは2年前ぐらいかな?彼はブライトンを拠点としているバンドのプロジェクトに色々参加していて、多才でどんなジャンルでも叩けるのが分かっていたから、今回頼んだ。
デイモ:そう、だからバーゲン・ドラマーなんだよ。
??正直な話、このウッディじゃない、ちょっとクリス・フランツぽい人は誰だろうとずっとライブ中に思ってました(笑)。
デイモ:アハハ!
ヤン:ウッディよりニコニコしてるしね。てことは、ティナ・ウェイマスと付き合える!イイね~。
デイモ:BSPのティナ・ウェイマスは誰?
ヤン:う?ん。じゃあ僕と付き合う?
デイモ:それは絶対ヤダ!
一同:(大笑い)
??(笑)。今回は約2年ぶりの来日ライブですが、クラブ・ギグとしては2003年の初来日公演以来ですよね…。
ヤン:そうだね。昼間のショーとしても良かったんじゃないかな。イギリスであんな時間にやったらみんな途中で寝てるよ。僕はかなりアクティヴに動いたけど、観客の反応はいまいち読めなかった…。
??盛り上がってましたよ!最新作『マシンナリーズ・オブ・ジョイ』のジャケットにも登場しているシロクマ君は、残念ながら来日ならずだったんですね。
ヤン:あいつもディーヴァだからギャラが高いんだ。足も延ばせないとダメだし、頭もデカイから、フライトはファースト・クラス!
??氷もたくさん用意しないとですしね。
ヤン:アハハ。そうだね!
ノーブル:それに食欲もハンパないから、食べ物もたくさんいる。
??でも初期のライブ・パフォーマンスに比べると、少し落ち着きつつあるのではないのかな、と思います。あれから10年以上経った今でもその当時のクレイジーなライブが観たいファンの期待に応えないといけないと感じますか?
ヤン:特に最近は音楽のみで切り抜けようとしている部分がないとは言えないね。あの頃のライブの話が誇張されているというのもあるし。でも単純に自分たちが楽しめるパフォーマンスはいつも心がけてる。それが年々変わってきているのかもしれないけど、今でもイギリスでは木や葉っぱでステージ装飾をしたり、クマも多い時では2匹参加してる。
ノーブル:(小さい声で)あの頃はもっと酒を飲んでいたから、その影響もあるよね(笑)。
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他人の意見には左右されていないよ。
よそものは信用できないから!
?? 最新アルバム『マシンナリーズ・オブ・ジョイ』は、ブライトンで主催していたクラブ・イベント【Krankenhaus】の一環として作られたEPを元にして制作されたそうですが、このような新たなアプローチを取ったのはなぜですか?
ヤン:前作『ヴァルハラ・ダンスホール』の制作には2年半を費やした。2年半…時間がかかり過ぎだよね。だから、今回はちゃんとしたデッドラインを設けて、6枚のEPを6か月で作るという全く正反対のアプローチで作業を進めた。何かを作る時、アイディアが多い方が絶対にいい。強制的とは言いたくないけど、短時間でエネルギーを集中させて作業するやり方は有効だったと思ってる。今までは気づかなかったけど、苦役は案外好きなのかもしれない(笑)。
??アルバムに収録する曲はどのようなプロセスで決めていったのですか?
ヤン:民主主義な感じだよね。演奏してみて、よりみんなが笑顔に、ハッピーになれた曲を収録した。
??ライブでの観客の反応が、作品に反映されることはありましたか?
ヤン:それはない(笑)。他人の意見には左右されていないよ。よそものは信用できないから!
一同:(大笑い)
?? 今作はライブのダイナミズムとスタジオ録音の的確さのバランスがよく取れている作品だと感じました。
ヤン:うん。今回はよりライブ感をを出すために、ライブ・レコーディングに近い形で録音を行った。【Krankenhaus】で演奏していたこともあるし、それが一番自然な方法だったんだ。前回のようにウッディが1週間みっちりドラムのレコーディングをして…という風ではなかった。多分2週間ぐらいで全部終わらせたんじゃないかな。
??アビとハミルトンが、ブライトンを離れたということが、レコーディングに支障をきたすことはなく?
ヤン:それが短時間で作られた大きな理由なんだ。
ハミルトン:そう、スコットランドにあるスカイ島というところに引っ越したんだ。全員がブライトンにいたら、ウダウダして未だに出来上がってなかったと思うな。レコーディングは、ブライトンとスカイ島の中間点のウェールズで行われたんだ。
ヤン:うん、早く仕上がって良かったよね。
デイモ:部外者の僕からみても、今回の新たなアプローチによっていい作品ができあがったと思うよ。僕の一番好きなBSPのアルバムだね。このインタビューでいうのも変な感じだけど、とりあえず言ってみた(笑)。
??ではフィルは居ないので、アビが正式にメンバーに加わり、曲づくりに参加するようになったことがバンドにもたらした変化は?
ヤン:彼女、すっごく厳しいんだ!
アビ:そんなこと無いわよ~!
ヤン:「ちゃんとギターをチューニングして!」「ウッディ、もっと早くドラムを叩いて!」とか、ムチを持って僕らをいつも働かせてる、と言うのは冗談で…。彼女は素晴らしいよ。
ハミルトン:言わされてる感が満載!
ヤン:「ハミルトン…」
アビ:「私の靴を磨いて!」
一同:(大笑い)
??主にストリングスを担当しているので、アレンジの部分で、細やかさ、繊細さが増していると感じますね。
アビ:そうなの。前と比べたら良くなった思うでしょ?
ヤン:本人がそう言うんだから、そうとしか言えないよね。
一同:(大笑い)
??初期の作品からレイ・ブラッドベリへのオマージュが何度か登場していて、今作は彼の短編小説『よろこびの機械』のタイトルを引用したものですが、彼の作品のどのような部分に惹かれますか?
ヤン:彼はマジカルな人物なんだ。
アビ:特に短編小説を読むと素晴らしい夢が見れるの。
ハミルトン:喜びと人間味に溢れてる。
アビ:短編小説といっても、難解で展開が長いから、話を読み終わらないまま寝ると、続きが夢に出てくるの。
ヤン:そう、すごく不思議だよね。実はあまり彼の作品を読んだことが無いんだけど、YouTubeでよくインタビュー映像は観るんだ。特に年老いてからのもの。とてもフレンドリーな人柄で、温かい気持ちにしてくれる。執筆中の話は特に印象的で、多くの物語は彼の潜在意識がインスピレーションとなっている。でもそれは彼が4歳ぐらいの時に実際に体験していたことだというのを後から知ったそうなんだ。その潜在的な記憶と夢の関係性にとても興味をひかれる。それが自分の記憶に留まらず、社会の未来を予測するまでに発展しているんだ。
彼は、ある日サーカスに行った時に“ミスター・マグニート”という人に出会った。元々は作家ではなかったんだけど、彼から貰った力でその能力が目覚め、その1週間後から物語を書くようになったんだ。物書きになる為の教育は特に受けていなくて、公共の図書館で独学しながら、その能力を開花させていった。
??たしか『華氏451』の元となる作品を書き上げたのも図書館だったんですよね。残念ながら、昨年亡くなってしまいましたが。
ヤン:彼でも年の流れには勝てなかったんだよね。とにかく彼の人生、生き様には、何か惹かれるものがあるんだ。
デイモ:どんな子供にも、その“ミスター・マグニート”的な人がいたらいいのにね。その子の得意な分野を引き出し、それを脳にインプットする引き金となってくれるような人物。そこから自分自身でそれを追求して行けばいい。理想的には、それが両親のはずなんだけどね。でもそうじゃなくてもいいかもしれない。
??みなさんが幼い時には、そういう人物はいましたか?
ヤン:いないよ?。だから今になってもウダウダとバンドなんかやってる(笑)。
アビ:私が幼い頃に所属していたユース・オーケストラの指揮者はそんな感じだった。50人ぐらいいた団員の前で、何度も演奏させたり、色々な子を泣かせたりして、とっても怖かった。でも素晴らしい先生だったわ。
ヤン:あ、僕のアートの先生だったミセス・ブラッケン。12歳ぐらいの時かな。今までに会った人の中で、一番熱心で、僕の事を天才だって言ってくれた(笑)。
??ハミルトンも同じ先生に習っていたの?
ハミルトン:うん、そうだよ。でも僕はヤンほど、彼女のことは好きじゃなかった。
??ノーブルはどう?
ノーブル:う?ん。
ヤン:お父さんは?
ノーブル:おじいちゃんかな。オルガン奏者なんだ。14、15歳ぐらいから演奏していて、パイプ・オルガンも弾いていたから、僕らが小さい頃によく教会なんかに観に行ったよ。手品もしてくれたり、魔法の国に住んでるような人物なんだ。
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Live Photo:古溪 一道
ここまで絆が深いバンドは稀だと思う
??そして今月(6月)は、デビュー・アルバム『ザ・ ディクライン・オブ・ブリティッシュ・シー・パワー』のリリースからちょうど10年ですよね。
ヤン:まだ何も計画していないけど、何かやりたいとは思っているよ。アルバムを再現するとか…でもそれって目新しくないよね。
デイモ:また【Krankenhaus】みたいなライブをやるとか?
ヤン:アルバム再現は、去年1度やってるんだよね。反応も結構良かった。その時は、エイモンも出てくれたんだ。
??お?。そういえばエイモンは今どうしてるんですか?
ヤン:アメリカで、子作りに専念してる。
ハミルトン:庭に生えてる木を数年後にロッカフェラー・センターに売るみたいだよ。
デイモ:裏庭にピッタリなのが生えてるみたいなんだ。
??え?クリスマス・ツリーの生産をしてるの!?
ハミルトン:アハハ。でもあながち間違いではないよね。セコイアの木だと思うんだけど、その木のせいで庭に影がかかってしまうから、エイモンの奥さんが処分したがっていたんだ。でも業者の人に後2年我慢すれば、ロッカフェラー・センターで使えるよって言われたみたい。木をあげる代わりに果樹園を作ってくれるらしくて、そこでリンゴ酒を造るんだって。
ヤン:へ?、そうなんだ。
ハミルトン:彼はイギリス西部出身だから、リンゴ酒作りにはこだわりがあるんだよ。
??(笑)。元気そうで何よりですね。あと個人的にとても気になっていたのですが、以前ダニエル・ジョンストンがロンドンでライブを行った時に、彼のバックバンドを務めていましたよね。あれはどういう経緯で実現したのですか?
アビ:そのこと訊いてくれて嬉しいわ。あれは、私が今までやってきた事のなかで、一番最高な出来事だった。彼の方から指名してくれたの。
ノーブル:あのライブには、僕は参加していなくて、初めてBSPを観客として観たんだ。俺たちはいいバンドだって再確認したよ。
ヤン:ブリティッシュ・シー・ライオンって紹介されたんだ。
??テキサン・シー・パワーではなくて?
ヤン:うん。本当はそのはずだったんだけどね(笑)。でもいいんだ。とてもフレンドリーで、面白い人だった。ドキュメンタリーを観てから、ずっとファンだったからすごく嬉しかった。
▲ 「Carrion」 LIVE @ Jodrell Bank Observatory
?? では最後に、これほど長く活動を続けてこれた秘訣は何だと思いますか?
アビ:彼らが全然真面目じゃないからかしら。
??ですよね!
ヤン:二人ともヒドいな?!
デイモ:でもそういうことだと思うよ。それに兄弟がいたり、幼い頃からメンバーの仲がいいというのは大きいよね。僕は色々なバンドに所属しているけど、ここまで絆が深いバンドは稀だと思うよ。やはり兄弟がいるというのは、バンドにいい影響を及ぼしているんじゃないかな。
??でもいざ喧嘩をしたら、よりややこしそうですけど…。
デイモ:確かに。
ハミルトン:お互いに言いたい事が言える…。
ヤン:おまえが、兄弟間についていつも言う事は知ってるよ。「見て見ぬふりをする。」だろ。
ハミルトン:そんなこと言った覚えはないよ!兄弟がいつも喧嘩するのはしょうがないから、ほっておけばいいとは言ったけど。
デイモ:アハハ。また始まったよ。
??それにBSPのファンは、とても熱狂的というのもありますよね。海外でも何度かライブを拝見しているのですが、ある意味“カルト”的な人気を誇っているバンドだと思います。
ヤン:人に好かれるのは嬉しいことだよ。
ハミルトン:度がすぎるとちょっと怖いけど…。
デイモ:インディー・ロック界のサイエントロジーみたいな。
ヤン:ライブを観に来るのは、固定のファンが多いから、そう見えるのかもしない。彼らは彼らで実生活では、不思議な仕事をしている知的で興味深い人種だけど、もっと色々な人にも観に来てほしいとは思うね。かつらじゃない人とか…。
一同:(大笑い)
ヤン:もっと若くて、カワイイ子とか。とにかくライブを観に来てくれる人が増えれば、それで嬉しいよ…。
??ファンも、バンドとともに歳を取っていってるって事ですね。
ノーブル:僕らを通り超して年老いてる人もいるぐらい。
デイモ:アルバムを出すのに、時間がかかってるからじゃないの?
ノーブル:でも『ヴァルハラ・ダンスホール』をリリースした時には、若いファンの子が増えたみたいだけど、このアルバムはどうかな…。
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Live Photo:古溪 一道
マシンナリーズ・オブ・ジョイ
2013/04/17 RELEASE
BGJ-10169 ¥ 2,305(税込)
Disc01
- 01.MACHINERIES OF JOY
- 02.K HOLE
- 03.HAIL HOLY QUEEN
- 04.LOVING ANIMALS
- 05.WHAT YOU NEED THE MOST
- 06.MONSTERS OF SUNDERLAND
- 07.SPRING HAS SPRUNG
- 08.RADIO GODDARD
- 09.A LIGHT ABOVE DESCENDING
- 10.WHEN A WARM WIND BLOWS THROUGH THE GRASS
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