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<インタビュー>「スピードを出しすぎるとクラッシュする」――カトリエル&パコ・アモロソが語る、加速の果てに見つけた静けさ『フリー・スピリッツ』

インタビューバナー

 カトリエル&パコ・アモロソが、2026年3月20日に最新アルバム『フリー・スピリッツ』を発表した。昨年の【ラテン・グラミー賞】では10部門ノミネート、5部門受賞という歴史的快挙を成し遂げながら、その直後にアルバム『トップ・オブ・ザ・ヒルズ』を電撃的にキャンセル。今年2月の【第68回グラミー賞】でも栄冠を手にし、レッドカーペットには従来のイメージを刷新したビジュアルで姿を現した。その佇まいは、明らかに新章の到来を告げるものだった。

 【コーチェラ】や【グラストンベリー】といった世界的フェスへの出演、ケンドリック・ラマーの南米ツアーへの帯同など、国際的な飛躍を遂げた一方で、彼らは自らの進路に微かな違和感を覚えていたという。そこで足を運んだのが、スティングが“主宰する”とされるホリスティック施設<フリー・スピリッツ・センター>。そこで“12ステップ・ヒーリング”を体験したというコンセプチュアルな物語を経て完成したのが、本作『フリー・スピリッツ』だ。

 成功の絶頂であえて歩みを緩め、内省へと舵を切った2人。その現在地を静かに、力強く映し出す『フリー・スピリッツ』は、随所にユーモアは散りばめられているものの、通底するのは「立ち止まる」という真摯なメッセージ。2月中旬に英ロンドンで開催されたアルバムの先行リスニング・パーティーにて、その真意を語ってもらった。(Interview: Mariko O.)


先行リスニング・パーティーの模様



まだアルバムをリリースする心の準備ができてなかった

──ニュー・アルバム『フリー・スピリッツ』を通して聴いてみて、いかがでしたか?

カトリエル:すごく穏やかでした。ほんとに平和な気持ちで。みんなにスマホを置いてもらって、自分たちも目を閉じて聴いた。ちゃんと“つながってる”感覚があって。それがうれしかったですね。

パコ・アモロソ:少し前に、スタジオでプロデューサーがアイマスクを持ってきてくれて。それで全曲を通して聴いたんです。今って、何かとすぐ気が散るじゃないですか。だから40分間、ただ音楽だけに集中する時間ってすごく贅沢だと思うんです。このアルバムに限らず、ぜひやってみてほしいですね。

──『トップ・オブ・ザ・ヒル』を中止して生まれた作品ですが、何が変わったんでしょう?

パコ・アモロソ:【グラミー賞】を獲ったあと、『トップ・オブ・ザ・ヒル』に収録する予定で完成していた曲もあって、その夜はテンションも高くて「ファンに早く新しい音楽を届けたい!」って思ってたんです。ヴェルサーチを着て、シャンパンを飲んで、レコーディングして。でも直前になって、作品をリリースして、プレスをやっていうサイクルを「また何度も繰り返すのか?」って気づいてしまった。自分たちはまだアルバムをリリースする心の準備ができてなかった。だから止めました。今振り返ると、正解だったと思います。

 そして今は、あの時期に自分たちが感じていたことや、その間にあった未熟な振る舞いも含めて、もっと時間をかけて表現できた音楽を届けられていると思います。

──アルバムでは“12の問題”をテーマにしているそうですね。

パコ・アモロソ:特定のテーマについて向き合い、言葉にしてみるというのは、僕たちにとってとてもいいエクササイズだったと思います。各トラックごとにそれぞれ異なるテーマがあって、ときには重なり合う部分もあるけれど、この作品では自分たちの本音をしっかり語ろうとした。

 若い頃は、いつかお金や評価を手に入れればすべてうまくいくと思っていた。でもその道のりの中で、それだけでは足りないと気づくんです。もしそれですべてが解決すると思っているなら、どこかで道を見失ってしまう。だからこそ、一度立ち止まって自分の内側を見つめ直し、何かもっと深いものとつながる必要があったんです。

──スティングが案内役を務めるフリー・スピリッツ・ウェルネスセンターというコンセプトはなかなかユニークですよね。

パコ・アモロソ:いや、本当にセンターをオープンしたいと思ってて(笑)。そこでいろんなトリートメントもやります。というのも、この体験が自分たちにとってすごく良かったから。だからみんなにもシェアしたいなと思って。

──スティングは、どのように本作に関わることになったんですか?

パコ・アモロソ:1年半くらい前にアルゼンチンでスティングに会ったんです。彼がライブをしに来ていて、話す機会があった。それで、いろいろ聞きました。奥さんや子どもとの関係をどう保っているのか、いつも旅をしている中でどうバランスを取っているのか、どうやって夜ちゃんと眠っているのか、とか。ホテルでたくさん話してくれて。彼の中には本当に“答え”がある感じがした。

カトリエル:だから僕らにとってはメンターみたいな存在なんです。おじいちゃんのようでもあり、必要としていた父親のようでもある存在。彼が言ってくれたのは、「スローダウンしなさい。人生にはたくさんカーブがある。速く行きすぎるとクラッシュする」ということだった。



▲ 「Hasta Jesús Tuvo un Mal Día」MV / CA7RIEL & Paco Amoroso, Sting


▲ A MESSAGE FROM STING




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前よりずっと、ちゃんと“生きている”感覚がある

──アルバムを聴くと、サウンド面もとても多彩ですよね。これまでの作品から意識的に広げた部分や、新しく挑戦したことはありますか?

パコ・アモロソ:『Tiny Desk Concerts』のあとに気づいたんです。僕たちがリスクを取ったり、いろんな顔を見せたりすることを、みんなが面白がってくれているって。だから今回は、「もう全部やろう」って(笑)。コーラスも、オーケストラも、ストリングスも。サルサのプレイヤーも呼んで、テクノも入れて、本当に何でもありにした。とにかく「全部持ってこい!」って感じで。制作はめちゃくちゃ楽しかったですね。

──テクノと言えば、今作では再びフレッド・アゲインとコラボしています。

パコ・アモロソ:ロンドンで初めてライブをしたときにフレッドと出会いました。本当に最高な人なんです。その後、一緒にギリシャへ行ったこともあって。彼のための曲も作ったし、自分たちのアルバム用のアイデアも一緒に形にしていきました。彼や、彼と一緒に制作している弟とも、とてもいい音楽的な関係を築けています。この音楽の旅が出会わせてくれた、大切な友人のひとりですね。



▲ 「Goo Goo Ga Ga」MV / CA7RIEL & Paco Amoroso, Jack Black


──他にもアンダーソン・パークやジャック・ブラックも参加しています。

カトリエル:アンダーソン・パークとは3日間一緒に制作して、いい曲がたくさんできました。その中から最終的に選んだのは、僕らの音楽ともアンダーソンの音楽とも全然違うタイプの曲「Ay Ay Ay」でした。

パコ・アモロソ:もちろん、彼らしいファンクやソウル寄りの曲もありました。彼は曲を本当に気に入ってくれた。大きなスピーカーを持って、LAの街中で流していたくらい(笑)。それが最高で。だからこのコラボレーションは本当に誇りに思っています。

──ちなみに、それが今回のアルバムで一番クレイジーな制作体験でしたか?

パコ・アモロソ:アンダーソンとの曲は、間違いなく一番クレイジーな体験のひとつだった。その日は僕たちもかなりクレイジーだったし(笑)。本当に最高だった。曲の最後でビートが切り替わるけど、彼がドラムを叩いていて、カトがギターソロを弾いていて、すごく強烈な瞬間になってる。

──あのギターソロはカトリエルだったんですね。

カトリエル:そう、あの曲はとにかくアナログなんですよ。感情も、楽器の音も、同じ空間でぶつかり合っていて。お互いの顔を見ながら演奏して、身体で感じるような体験だった。マジで最高な時間だったね。

──曲のミュージック・ビデオも楽しみですね!

パコ・アモロソ:もう作ってるよ(笑)。

──今後ライブでアルバム収録曲に息を吹き込んでいくことについては、どう考えていますか?

パコ・アモロソ:レコードで聴くものと、ライブで体験するものは必ず違うものになる。バンドも常に変化を加えたがるので。でもこのアルバムで、ショーのパズルがすごく面白い形に完成した感じがあるんです。

──ライブで演奏するのが一番楽しみな新曲は?

パコ・アモロソ:毎日変わるけど、今日はフレッド・アゲインとのコラボ「Muero」をやりたい気分かな。ライブでどうなるか見てみたいから。

カトリエル:僕は「Todo Ray」。お気に入りの一曲だから。

──これまで名声やイメージをユーモラスに扱ってきましたが、今回はより弱さや内面も見せていますよね。そのバランスはどう取っていますか?

カトリエル:僕らも人間だから、愛するし、泣くこともある。でもできれば笑っていたい。自分のイメージも、泣いている姿より笑っている姿で見ていたいしね。

パコ・アモロソ:それに「フリー・スピリッツ」はショーじゃない。本気で、もっと深い何かとつながろうとしている。毎朝瞑想しているし、年齢を重ねて、人生との向き合い方も変わってきました。前よりずっと、ちゃんと“生きている”感覚がある。

カトリエル:特別な瞬間って、意外とシンプル。スマホを持っていない時間とか。あれは本当に特別。仕事のことも全部忘れられるし。だから毎日スマホを手放す時間をつくってる。特別な時間で、スマホを放り投げてしまえば、ちゃんと“感じる”ことができるんです。



▲ 「FREE SPIRITS (the film)」


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