Special
菅野よう子 『CMようこ』インタビュー Vol.2
世界が認める天才音楽家 菅野よう子の魅力に迫る!
海外のアーティストやコンポーザーからも高い評価を受け、アニメファンはもちろん、音楽ファンにとっても欠かせぬ存在となった、菅野よう子のスペシャルインタビュー第2弾!
前編に引き続き、『CMようこ』についてより深く掘り下げると共に、今回は作詞やコンサート、そして次回作についての構想と、ファンなら誰もが知りたい数々の質問に答えてもらいました。
後半に差し掛かり、興奮を抑えきれなくなったインタビュアーのテンションに、少々お見苦しい点もございますかと思いますが、前編同様、ファンならずとも必読! 日本人なら誰もが一度は耳にしたことがある、菅野よう子の音楽の魅力に触れてみて下さい。
それはアニメや映画に比べて豊かな15秒
--15~30秒の中で何かを表現する、というのは外から見ていると難しそうに思えるのですが?
菅野よう子:逆にその15秒に莫大な制作費を当てられる訳ですから、それはアニメや映画に比べて豊かな15秒ですよ。本当に色んなことができますから。そういう中で先端的なことができれば、長い尺でも応用できると思いますね。
--そういえば『CMようこ』の中には4分を超える楽曲もありますよね? それって良くあることなんですか?
菅野よう子:ありますね、私は特にそうです。ロシアのマトリョーシカ(入れ子人形)みたいに、細部に大きいものが宿るというか、フラクタルというか。15秒を切り取ろうが4分になろうがやりたい世界は一緒なんですよ。だから15秒で収めている楽曲でも、本当はもっと大きい世界がある場合もあるし、時間とお金が許せばちゃんと作りたいって欲望はありますね。
--アニメや映画では楽曲の一部分を監督が切り取って使う訳ですよね。その中で「そこじゃねえよ!」って思うこともある?
菅野よう子:あります!(即答)
(一同爆笑)
--そういう時って「ぅあ゛~!」って思います?
菅野よう子:思ったら言います! で、怖がられます(笑)。私、MA(音楽編集)の現場に良く行くんですけど、私が行くとみんな戦々恐々としちゃって。部屋に入った途端に「ごめんなさい!」と最初に謝られる。「本当はコッチだろうなと思ったんですけど、ココ使っちゃいました」とか(笑)。
まあ最近は思わないんですけど、最初の頃は「どうしてこういう使い方すんの!?」って本気で思って、試写会の時にスタッフが全員集まってる中でもの凄い色々言いまくって(笑)。
(一同笑)
菅野よう子:そしたらその内、「自分でやれば?」みたいになって、色々言えるようになりました(笑)。でもそうなるのに5年から10年はかかりましたね。
アニメの文化って脈々と受け継がれたものがあるじゃないですか。アレが許せん!みたいな感じだったんですけど、今思えばそれがお決まりというか、安心できるお約束だったんだなって。
--因みに……、現在放送中の「マクロスフロンティア」で「ん!?」って思うことも?(笑)
菅野よう子:10年前とは随分変わりましたよね。CGも凄くなってきたし、負けないようにしなきゃって思います。
--アニメのキャラが自分の作った歌をうたうってあんまりないですよね? 私はたまたま観た回で、可愛い女の子が戦闘機の上で歌ってるの見て、思わず爆笑しました(笑)。
菅野よう子:アレ最高ですよね! ああいうのは幾らでもやりますよ!
--ではCM音楽を手がける時、真面目な作風の映像にあえてバカバカしい楽曲を当ててみることなどはあります?
菅野よう子:空気穴がないような時にはやることもあるけど、あんまりないですね。でもCMにもお約束がいっぱいあるんですよ。そういうのは楽しく思えますね。
Interviewer:杉岡祐樹
身体に悪いもの3部作
--制限の中で楽しむ、というのが菅野さんにはあるんですね。
菅野よう子:ありますね。「ご自由に」って言われるより、冷蔵庫の中にあるものを見てまかない作る下宿屋のおばさん、みたいな感じ(笑)。「1万円で買い物して作って」って言われるより、他人の家の冷蔵庫を勝手に開けて、「じゃがいもしかない……」とか言いながら美味しいものを作る方が好きですね。
--菅野さんは自身のオリジナルアルバムを作ることには興味がないんですよね?
菅野よう子:制限の中、じゃがいもしかない中でも作ってもそれが私だと思うので、違いが分からないんです。自由にしないと何かが表現できない、とは特に思ってないので。
--ただ、『CMようこ』では初めてジャケットに菅野さん自身が登場した作品でもあるんですよね?
菅野よう子:恥ずかしいし絶対に人前に出たくなかったんですけど、ここまで長くやってくると、もはや自分を遊んでしまおう、という気に……。丸くなりましたね(笑)。
コンサートは好きなんですけど、テレビとか苦手なんですよねぇ。だって言葉で表現でき難いから音楽やってるのに、顔と言葉で何か言えっていわれても困るじゃないですか!? 「凄い苦手なことやれ!」って言われてるみたいで……。大体、スタジオでも「何言ってるのか分からない」って言われてるのに(笑)。
--でも菅野さんは作詞をされることもありますよね?
菅野よう子:昔、小説を書きたくて一生懸命書いてた時があったんですけど、辞めちゃったんです。他にいっぱい才能のある人がいるのを見て、「私がやることないんだ」と完全に筆を折った。だから、言葉は好きなんですけど非常に勇気がいるんです。
でも、今まで色んな作詞家の方にこうしろああしろと言いまくってて、しまいには「このように書け!」とかやってたら(笑)、プロデューサーに怒られて。「そんなことしたら作詞家が育たない。任せるか自分で書くかにしろ」って言われて、「そりゃそうだな…」と。
--また、詞に歌がのった瞬間、想像を凌駕する瞬間もありますよね?
菅野よう子:ありますね。
--『CMようこ』収録の『MAGICSWEETS』はCharaさんがボーカルを務めていますが、本作の中でもかなり印象的な楽曲ですよね。
菅野よう子:あの曲は面白いですよね。演奏者もそうですけど、ミュージシャンの手を通すことによって、楽曲が自分の手を離れてその人の作品になる瞬間が嬉しいんですよ。言葉や譜面がその人の表現になる。その人のものになってもらえないとつまらないんです。
--因みに、『CMようこ』は次回作の構想などもあるんでしょうか?
菅野よう子:1枚目がジェリービーンズみたいに甘ったるくて可愛くて、キラキラしたポジティブなもの。2枚目はおつむが良いことを楽しめるような内容にしたくて、例えるとビタミン剤。やっぱり色はカラフルだしずっと飲んでると身体に悪いんだけど(笑)、その瞬間だけは「元気になった!」みたいな。
で、3枚目は市場に出回っている大量商品とは違って、ちょっと下手っぴに作ってある限定品というか。決して売れはしないけれども気になる、手作りっぽいものにしたいなって。身体に悪いもの3部作(笑)。
--「そればっか食ってっとマズいことになるぞー」的な?(笑)
菅野よう子:「時々、ゴボウとか食えよー?」みたいな(笑)。
Interviewer:杉岡祐樹
みんなが共有できる世界
--また、今後コンサートなどの予定は?
菅野よう子:やりたいんですけど、私、異常にお金がかかるんですよ(笑)。去年、韓国で演った時も、蓋を開けてみたら大変なことになってて、普通のコンサートの正しい予算の3~4倍は当たり前、みたいな感じ(笑)。
韓国の時はフルオーケストラを隠しておいて、回り舞台で登場するの! そんなことする人、誰もいないし、オーケストラの人も「初めて回った」って(笑)。しかもそのお盆に100人も乗せて回したことないっていうから、前日にテストしてみたら出てくるまでに時間がかかり過ぎたんで、譜面書き直したりとか。
--そっちを変えるんですね!(笑)
菅野よう子:しかもどうしてもその時、影絵もやりたかったんですよ、ピアノを弾きながら指でキツネさんとかをぴょこって。だけどその影絵をどうやってスクリーンに映すか、が大問題になって(笑)。
ちょっと考えて頂くと分かると思うんですけど、ピアノって両サイドが出っ張ってるから、鍵盤を弾く手を照らす光源と、その影を映し出すスクリーンとの関係が非常に難しいんですよ。私はただキツネさんをやりたいだけだったのに、本当に色んなことを試して、シミュレーションするためにわざわざ日本でホール借りて(笑)。
--途中で諦めなかったんですか?(笑)
菅野よう子:思わない! だってやりたかったんだもん。
--それが素晴らしいです!
菅野よう子:だって見たくないですか? 真面目にピアノ弾いてると思ったらキツネさんが出てくるなんて、面白いじゃないですか。Wアンコールの時だったかな、ピアノが前に出てお客さんにも「さよなら」ってしんみりした感じになって、最後にピンポコピンポコ♪ なんてキツネさんが出てきて大爆笑(笑)。その後、韓国語のメッセージが書かれたボードを弾きながら出していって、最後にバイバイって終わったんです。
--最高ですよそれ! ではこれから音楽で表現していきたいことは?
菅野よう子:ん~……。コマーシャルでも何でも、その人が表現したい世界を音楽で通訳するのがやっぱり好きなんですよ。それにどの世界に行っても言葉を介さずコミュニケーションできる。通訳ツールとして音楽が機能できるんだっていうのが、最近実感としてあって。だからマクロスじゃないですけど、音楽で戦争を止められたらいいなって、そんな気持ちがありますね。
--先日、カンボジアに赴かれて現地の子供たちと演奏したりもしたんですよね?
菅野よう子:それはたまたま、カンボジアで作品を撮るっていうから、他のスケジュール全部ブッ飛ばして強行したんですけど(笑)、行って良かった。私、子供なんて見たことないっていうか、周りにいないですからビックリしました!(笑)
カンボジアの言葉は何ひとつ分からないんですけど、音楽で一緒に歌おうよっていうと分かるんですよね。この時も「音楽やってて良かった!」って思いました。だからこういうこと……、といっても別に黒柳徹子さんになりたい訳じゃないよ?(笑)
(一同爆笑)
菅野よう子:そういうのは全っ然ないんですけど!(笑) 人が表現したい世界を表現することを丁寧に続けて、みんなが言っていることもちゃんと通訳できたら、結果的にみんなが共有できる世界ができるんじゃないかなって思いますよね。
--私もそういう音楽の力を信じてるんで、本当に期待してます。
菅野よう子:……じゃあ歌で戦争を止めます(笑)。
--是非、戦闘機の上でピアノ弾いて歌って下さい(笑)。
菅野よう子:じゃあキツネさんも(笑)。
(一同笑)
…と、いう訳で2回に分けてお送り致しました“菅野よう子 アーティストスペシャル”、如何でしたでしょうか。掲載が予定より遅れてしまい、大変申し訳ありませんでした。なお、Billboard JAPANでは今後も彼女の最新情報等、精力的にピックアップしていきますので、お楽しみに!!
Interviewer:杉岡祐樹
CMようこ
2008/04/25 RELEASE
GTCA-12 ¥ 2,200(税込)
Disc01
- 01.彼100%トレビアン
- 02.Lion Man
- 03.電線にタコが絡まっちゃったらどうするの?
- 04.Silent Star
- 05.Seeds of Life
- 06.walk travel along
- 07.Exaelitus
- 08.チヤホヤされたい女
- 09.Don’t Spend MONEY!MONEY!
- 10.Dear Blue
- 11.Long Goodbye
- 12.ママ新発売!
- 13.MAGICSWEETS
- 14.Melody
- 15.em outro lugar「どこかよそで」
- 16.ビバこばら
- 17.From Metropolis
- 18.Melty Kiss
- 19.Beautiful Memories
- 20.Family Affair
- 21.ゆうじCMバージョン
- 22.MAGICSWEETS -Masao Nisugi Remix-
- 23.チョコと勇気
- 24.Living In Future (CD Bonus Tracks)
- 25.Glass Shoes (CD Bonus Tracks)
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