Special
菅野よう子 『CMようこ』インタビュー Vol.1
世界が認める天才音楽家 菅野よう子の魅力に迫る!
近年ではMBS・TBS系テレビ系アニメ「マクロスフロンティア」関連の音源で次々とヒットを記録。海外のアーティストやコンポーザーからも高い評価を受け、アニメファンはもちろん、音楽ファンにとっても欠かせぬ存在となった菅野よう子が、Billboard JAPAN 初登場!数え切れないほどのCM音楽の中から、自らがセレクトした楽曲を収録した『CMようこ』を中心に、アニメ、CM、映画、そして音楽と、多岐に渡って楽しく、真摯に語ってもらいました。
そこでBillboard JAPANでは“菅野よう子 アーティストスペシャル”として、前編後編に分けてのロングインタビューを掲載! その才気からは想像もつかないほどに柔らかくあたたかい空気感と、慧眼とも言うべきしなやかな音楽観。驚くべき真実から爆笑エピソードまで、盛りだくさんの内容でお届けしますので、絶対にお見逃しなく!
音だと誰とでも話せる
--実を言うと私は、初めて買ったアニメのサントラCDが『マクロスプラス』だったんですけど、菅野さんはこの作品からアニメ音楽にも携わることになったんですよね。
菅野よう子:コマーシャルをやって4~5年目くらいだったと思うんですけど。コマーシャル以外の仕事ってゲーム音楽くらいしかやったことがなくて。アニメも観たこともなければそのサントラを買ったこともない。何も文化がわからないままやったので、もっとアニメを知っていたらアプローチが違っただろうなって思いますし、知らないからできたこともいっぱいありましたね。
--そもそも菅野さんはCMやアニメに携わることを志していたんですか?
菅野よう子:まったくないです!(笑) だってテレビなかったんだもん……。レコードプレイヤーもないしラジオも聴いたことないですし、エンターテイメントって経験なかったんですよ、大学に入るくらいまで。映画も観たことなかった、真面目だから(笑)。だから未だに決意してやっている訳ではなくて、流れるままに……。
--でも大学時代にはバンドを組んでいたんですよね?
菅野よう子:頼まれてトラでやったというか、「バンドコンテスト出るのにピアノいないから」っていうのでとりあえず弾いたら優勝しちゃって、CDになることに。譜面が書けたので便利に使われていたら、そこのサークルが色々と顔が広くて仕事が流れてきたり……。流れるがままですね(笑)。
2歳半くらいの頃にはもう曲を作っていました。言葉で言えないことを音にしてたと思うんです。致し方ないコミュニケーション手段と言った方がいいのかも。だから例えばコマーシャルでスポンサーさんが「商品をこう見せたいんだ」とか理論的なことをおっしゃる。その概念は分かるんですけど、言葉よりも音楽にしちゃう方が自分にとっては楽なんです。通訳みたいな感じがしますね。
--では多岐に渡る活動の中で伝えていきたいものは?
菅野よう子:……それを言葉で言えたら言ってると思うんです。昔は小説を書きたかった、そういう欲望もなくはないんですけど、言えないから(音楽を)やってるところがあるかもしれない。
--変な質問になりますが、音楽で表現することの限界を感じる時は?
菅野よう子:もしほんとうに感じたら辞めてますね。音だと世界中の誰とでもお話できるじゃないですか。言葉だと大変ですけど、音楽なら譜面かもしくは自分が弾けば、誰とでも仲良くなれる。音楽やっててよかったな!って感じますね、この頃特に。
Interviewer:杉岡祐樹
頭の中で流れている音楽は「何て素敵なんだあ!」
--そして今年の5月にはアルバム『CMようこ』を発売しましたが、配信で大ヒットとなり、満を持してのCD発売となりました。選曲は菅野さんが手がけていますが、その選定は?
菅野よう子:広告の良いところを出せた楽曲を集めようと。私にとってコマーシャル音楽って、見捨てられ聴き捨てられ、どんどん古くなっていく前提。その時だけのインスタントな味わいを追求するもの。
CDにしちゃうと、インスタントなその気持ちとは裏腹に、何回も聴かれることに耐えなくてはいけない。「インパクトが強いだけでうるさくなっちゃうかな?」などと思ってあんまり出したくなかったんですよ。だけどたまたまバイオリズムが合ったところもあって(笑)、消費されていくものの軽さ、可愛さとか、そういうものを表現できればいいなって思いますね。
--『CMようこ』は全体を通してポップでカラフルな作品になりましたよね。
菅野よう子:身体に悪い感じにしようと(笑)。どぎつくてうるさくて、ジェリービーンズみたいに攻撃的に甘かったりして毎日は食べたくない。けど気分転換にちょっといいかな、みたいな。
--iPodでシャッフルにして聴いてると、まさにCMのように『CMようこ』収録曲が入ってきて面白いんですよ。
菅野よう子:なるほど! そんな風に聴けるのは良いですね、新しい(笑)。 辛子とかスパイスみたいな音も必要なんでしょうね、みんなが一生懸命作ってる音楽の中に、そういうちっちゃくてくだらないもの(笑)。
--いやいや……。でも本当に音楽に対する縛りがないですね。
菅野よう子:だってその縛り、“かくあるべし”がないんですもん。よく「どんなクラシックやジャズが好きなんですか?」って聞かれるんだけど、そのカテゴライズもよく分からないし。
--菅野さんはジャズがそれほど好きではないと伺いましたが、その人がどうして『Tank!』をはじめとする、「カウボーイビバップ」のサントラを作れたのか、本当に不思議です。
菅野よう子:私の非常に少ない情報の中でのジャズっていうのは、みんながず~っと同じことを繰り返してて長い! どこ聴いて良いのか分からない!(笑) 監督の渡辺信一郎さんにジャズの良さを聞いてみると、その人なりにあるんですよね、「人生が……」とか「新しい人間性が……」とか。多分凄いものがあるに違いないんですけど、でも全然分からない! 絶対無理!(笑)
で、自分で面白いと思えるフォーマットを作成したらあんな感じに。あの時、私は演奏者が楽しんで弾ける曲にしようと思ってましたね。
--菅野さんは曲作りをしている時がピークなんですよね?
菅野よう子:作っている時は頭の中がドリームでいっぱいになるんですよ。ぽんっと世界が表れて、こんな音でああしてこうして……、頭の中で流れている音楽は「何て素敵なんだあ!」って(笑)。子供の頃から頭の中で鳴っている音楽で踊ったりしていたので、想像で満足しちゃって譜面に書いてる内に飽きてきちゃう、「な~んか違うな、これぇ……」って。
(一同笑)
菅野よう子:もちろん思っていたより良くなることもありますけど、やっぱりドリームの方が大きいんですよね。今まで何十年もやってきて、一生懸命言葉で伝えようとしてもなかなか分かってもらえず、少しずつやってきてる感じですね。
Interviewer:杉岡祐樹
左脳で考えた理論やコンセプトを越えてしまう瞬間
--また、CMのクライアントって急な依頼も多いと思うのですが、かける時間によってクオリティは変わるものですか?
菅野よう子:時間をかけたからって良くなるとは思わないですね。第一印象がストレスなくペロンと出た時の方が、抜けが良い印象があって、むしろ急なクライアントの方が良い作品になることの方が多いです。っていうのは時間がないとみんながすぐにまとめに入ってくれるから、うるさいこと言われないっていうのもあるんですけど(笑)、なんかすーっと抜けていく時があるんですよね。
左脳で考えた理論やコンセプト、思い入れの上をぴょんと越えてしまう。皆さん色んなことを仰るんですけど、ぴょんって行けた時に「あ、それだったみたい!」って、納得感が訪れる瞬間があるんです。時間がないということはお客さんに新鮮なまま届けられることでもある、私としてはその方が抜けの良い感じ、伝わる力があると思っています。
--クライアントの要求に困ることなどもある?
菅野よう子:ありますよいっぱい。皆さんがバラバラなことをおっしゃって、話が広がっちゃったりとか、「社長がピアノ好きなんで……」とか(笑)。個人的な楽器の趣味をオーダーされることは案外あるんですけど、極端に言えばクライアントに好きだからと言われればやらざるを得ないですよね。でも、基本的には無茶なワガママって大好き!(笑)
--菅野さんってそういう厳しい状況は……?
菅野よう子:大好き!うまくいかないことがあると燃えちゃうんですよね。コンサートで途中、「電源が切れた」とか「タレントの靴が脱げちゃった」とか、「よしっ、私が何とかしてやる!」って(笑)。アクシデントがあればあるほど好きですね。
--そういえば以前、「∀ガンダム」の時に富野監督から難しい注文を受けたこともあったとか……?
菅野よう子:とにかく言葉がいっぱい、攻撃か弾幕のように出てくる方で(笑)、おまけに本人が音楽の力をまったく信じてない。多分、自分の言葉しか信じてない、全部台詞で言っちゃう。最初は「あ゛ぁ~! 」って感じでしたけど、「音楽も絵も信じてない人なんだ」って分かってからは大丈夫でした(笑)。
--今、絵の話が出ましたが、菅野さんは以前、アニメでは実写の俳優が見せる表情の機微までは表現できないから、音楽のアプローチも変わってくると仰ってましたよね。
菅野よう子:今は両者は段々近づいてきましたけど、絶対的に違うのは実写だとその場のタレントさんや俳優さんの演技に、脚本も変えうる力がある。けどアニメは最初に発想されたものから抜けることはできません。絵コンテを減らすことはできても急に増やすことはできませんよね。
頭の中で組み立てた以上のものにはならない。っていうのがアニメの宿命で、それだと人生にたくさんあるはずの振り幅がないんですよ。だから如何に音楽でぶっ壊すか。実写だと時々あるんですよね。監督の想像を越える演技だったり、瞬間の風景だったりとか。
--ではCMの楽曲を作る上での一番の特徴は?
菅野よう子:アニメや映画に関わらず、私は監督やプロデューサーなどの表現したい世界を一生懸命やっているだけなので、「広告だからこう」とは考えてないですね。広告の監督もひとりひとり、みんな違うんですよ、表現したい世界が。
商品を売りたいという理由の奥にある、「人間を表現したい」とか「美しいものをただやりたい」とか「新しいものを」とか。それに応えていくって感じですね。
…と、いう訳でお送りしております“菅野よう子 アーティストスペシャル”、次回掲載は8月下旬を予定しております。後編では「マクロスフロンティア」や作詞、コンサート。そして更には…?と、前編に引き続きファン必読の内容となっています! お楽しみに!!
Interviewer:杉岡祐樹
CMようこ
2008/04/25 RELEASE
GTCA-12 ¥ 2,200(税込)
Disc01
- 01.彼100%トレビアン
- 02.Lion Man
- 03.電線にタコが絡まっちゃったらどうするの?
- 04.Silent Star
- 05.Seeds of Life
- 06.walk travel along
- 07.Exaelitus
- 08.チヤホヤされたい女
- 09.Don’t Spend MONEY!MONEY!
- 10.Dear Blue
- 11.Long Goodbye
- 12.ママ新発売!
- 13.MAGICSWEETS
- 14.Melody
- 15.em outro lugar「どこかよそで」
- 16.ビバこばら
- 17.From Metropolis
- 18.Melty Kiss
- 19.Beautiful Memories
- 20.Family Affair
- 21.ゆうじCMバージョン
- 22.MAGICSWEETS -Masao Nisugi Remix-
- 23.チョコと勇気
- 24.Living In Future (CD Bonus Tracks)
- 25.Glass Shoes (CD Bonus Tracks)
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