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<インタビュ->出版業界の転換期に図書館はどう応えるか――株式会社カーリル 吉本龍司【WITH BOOKS】

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 ビルボードジャパンが、2025年11月6日に総合書籍チャート“Billboard JAPAN Book Charts”をローンチした。本チャートは紙の書籍(書店/EC)と電子書籍、サブスクリプション、図書館での貸し出しなどを合算した総合ブックチャート。今回は、図書館蔵書検索サイト「カーリル」の運営を行う株式会社カーリル 代表取締役の吉本龍司氏に、ブックチャートが図書館に与える影響や図書館が果たす役割について、話を聞いた。(Interview & Text : 熊谷咲花)

図書館は誰でも使えるインターネットのような存在

――「カーリル」は、全国の図書館の蔵書情報と貸し出し状況を検索でき、読みたい本を複数の図書館や書誌データベースから手軽に見つけられるサービスとして親しまれています。このサービスを始めたきっかけは何だったのでしょうか。

吉本龍司:元々ソフトウェア・エンジニアをしていたのですが、新しいウェブベンチャー事業の候補に図書館のサービスを考えていました。実は私自身、カーリルに関わるまで図書館の利用者カードも作ったことがなかったんです。ですので、図書館については知らないことも多くあったのですが、試行錯誤していくなかで図書館の構造が見えてきて、エンジニアやデザイナーも含め図書館の仕組みが面白いと意見が一致し、サービスを作ることになりました。一方で、今までのウェブサービスの収益化のやり方ではなかなか利益が出ないことも分かってきて、それでも長期的に課題解決を継続していきたいと考えたため図書館のウェブサービスを専業とする会社の設立に至りました。


――実際にサービスを始められて、ユーザーからはどのような反応がありましたか?

吉本:2010年にサービスを発表したとき、1~2日ほどで1000件以上のコメントをいただきました。いわゆるアーリーアダプターと言われるような感度の高いエンジニアやデザイナーからも「図書館に新刊があるんだ」「図書館って誰でも使えるんだ」というような声が、想像を超える件数で寄せられたんです。



――図書館を利用したことがない人が一定数いるということでしょうか。

吉本:そうなんです。つまり、図書館は誰でも使えるということすら認知がされていませんでした。私もカーリルを作る中で、図書館には幅広いジャンルの本があるし、遠方から取り寄せもできると知ったのですが、それは誰かが教えてくれるわけではないですし、知る人ぞ知るサービスのような部分があると思いました。
そういった、公共の費用でまかなわれているものにも関わらず多くの人が使いこなせていないということに可能性を感じましたし、無料で誰でもアクセスできるところはインターネットと似ていると感じたんです。ただ、実際はお金が投資されていて、どの本が図書館に置かれるかという意思決定も、もちろんされているのですけどね。


――図書館での選書について、どの本を図書館に置くのかという基準はあるのでしょうか。公共の図書館と学校内の図書館でも違いがありそうです。

吉本:選書は、各図書館の司書さんの一番重要な業務ですね。予算のある図書館は新刊をたくさん買うことができるのですが、学校図書館は、予算が限られるので選書も大変だと思います。一番多いのは新刊選書と言われるように、新しく出た本について買うか買わないかの検討です。多くの公共図書館では、選書方針を策定しておりその方針に沿って全体のバランスを考慮しながら選書をしています。ただ方針そのものは曖昧な点も多いのである程度は司書の裁量によるものになると思います。学校図書館の場合は、実際のユーザー(生徒)と司書の距離が近いですから、より具体的なニーズに沿った選書になっているのではないかと思います。


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図書館本来の機能を電子書籍でも実現できるのか?

カーリル


――図書館の事業に関わる吉本さんから見て、今、出版業界における課題はどのようなところにあると思われますか。

吉本:どの業界においても新規事業・プレーヤーが参入できることが重要だと思っています。音楽業界も、配信サービスが定着したことで、大手のレコード会社への所属に限らずアーティストそのものの力が強くなってきていますよね。出版業界でも作家とユーチューバーを兼任していくような新しいやり方も生まれていますが、そういった創作活動や情報発信自体の変化に、出版業界がどのように対応していくかが課題だと思います。
現状、出版業界ではそういった変化に電子が対応できず、紙のほうがうまく対応できてしまっているのが問題の一つであるとも感じています。というのも、紙書籍は人と貸し借りすることや図書館で借りて無料で読むこともできますし、必要がなくなったら古本屋に売ることも可能です。ですが、電子書籍では紙書籍で当たり前にできていたことが不可能になります。また、音楽業界ではSpotifyなどを契約してお金を払って音楽を聴くことが定着していますが、出版業界ではお金を払って読むという道も減ってしまい、お金を払って購入した電子書籍も紙書籍に比べてメリットも少なく、こうして衰退の道を辿ってしまいます。図書館は、気軽に本にアクセスできるという点で打開策として有効かと思いますが、これに関しても、電子書籍でできるのが理想ではありますね。


――電子書籍の図書館もありますが、現状、紙書籍と電子書籍の割合はどのくらいなのでしょうか。

吉本:圧倒的に電子書籍が少ないです。これはコンテンツの問題だと感じていますが、電子書籍化する本というのは人気がある書籍ではなく、紙ではなかなか買わないような書籍や若者向けの書籍、あとは旅行関係の本が多いため、相対的には利用者が少ないとは思います。そういったことも含め、図書館にとっての費用対効果をみたときに紙書籍のほうがコストパフォーマンスが良いという状況も、電子書籍が少ないことに関係しているのだと思います。


――電子化された書籍を貸し出しするリソースと貸し出される書籍の需要のバランスは釣り合っているのでしょうか。

吉本:そこに難しい問題があるのですが、例えばアメリカは国自体が広大なため、税金を納めているのに図書館に行くことができない人は日本よりも多いはずです。その不公平を是正するために、行政が予算の何割かを電子書籍に対して投資するという判断がされているとも考えられます。借りたい人が多数いれば、住民は行政に対して予算の増枠を求めることができるのですが、日本の場合は電子で買える本が限られていますし、結局紙書籍があるならば紙書籍を購入してもらえるという考えが背景にあるのだと思います。
日本でも、長野県では県内の図書館全体で電子書籍の共同購入をやっているんです。図書館向けに販売されている電子書籍は、通常価格よりも高い価格で設定されているため、いくつかの図書館で共同購入をしてシェアをしていかないと購入できないという現象が起きていますが、そういった共同事業の形がうまく成り立っているのが長野県です。ただ、それでも資料としての電子書籍は紙と比べれば圧倒的に少ないです。
さらに図書館の本来の機能である、情報を保管して長期的に維持していくことについて、どのように電子書籍で実現するかという議論はできていません。そういった面で、電子書籍に関しては図書館のサービスが不完全で不健全な状況になってしまっています。


――書籍を電子化して地域ごとに保管するという取り組みは他の地域でもされているのでしょうか。

吉本:紙の書籍では、例えば渋谷区に関係する本は渋谷区が残していく(地域資料と呼ばれる)部分についてはデジタルアーカイブという形で進められています。ただこれはより古い資料が現時点では対象となっており、電子書籍ですとあまりできていないのが現状です。国会図書館では資料のデジタル化が進んでいますが、多くの公共図書館は未着手の状態ですね。図書館が手を付けないとなると、電子図書館の存在価値というのは危ぶまれてしまいます。住民サービスとしてどのように取り組んでいくか、議論が必要だと思います。


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電子化されることで図書館ニーズはどう変化していくのか

――ビルボードジャパンでは2025年11月からブックチャートをスタートしました。図書館の指標で見ると、新刊の貸し出しが多くあり、そこから上位にチャートインする書籍が多い印象です。

吉本:チャート全体でいうと、複合ということもあり、やはり売上だけのランキングとは被らないのが面白いですよね。カーリルから提供しているのは、全国の図書館が公開している貸出ステータスから読者数を推計したデータですが、特性上、新刊に予約が集中しやすいので数字としては新刊の割合が大きくなってしまいます。ただ書店とは違い、本の部数は決まっており、すぐに貸出中になってしまうというところで、実際にはロングテール作品の市場基盤が広いですし、そこに期待したいです。


――ブックチャートは、出版業界ではどのような面で活用できると思われますか。

吉本:先ほどお話にあった図書館の選書に対して、ブックチャートが活用できる可能性があると思います。単純に新刊だから置くという選び方ではなく、読者が注目し始めている書籍を図書館も評価し、それを収集対象にするという活用の仕方には、非常に可能性があるのではないでしょうか。


――今後、ブックチャートに期待する部分はありますか。

吉本:チャートをきっかけにビジネスが生まれることがとても重要だと思っていて、今まで出版業界は、書籍を売っていく際のきっかけに対して把握しきれていなかった部分があったと思います。今後は、図書館をきっかけに本が売れるようなこともあったらすごくいいですよね。そこに期待したいですし、例えば図書館の指標は上がっているけど、書店での売り上げ指標が上がっていないような、絶版した書籍や重版未定の書籍で電子書籍化されていないものがチャート上で動いたときに、その動きを出版社が把握しビジネスの可能性が出来るきっかけになるといいなと思っています。


――おっしゃるとおり、チャートを細かく見ていくと、図書館指標の順位とECや書店での指標では順位が大きく異なるので、それぞれの指標ごとに分析できるのも注目ポイントです。

吉本:そうですね。図書館に置いてある書籍で電子書籍化されてないものも多くあるので、その部分の電子化も期待していますし、そういった書籍が店頭に並ぶことによって、コンテンツが回っていく、循環が生まれるというのが理想です。


カーリル


――全ての本が電子化されてしまったら図書館のニーズが減ってしまうという懸念はないのでしょうか。

吉本:その心配は全くないと考えています。むしろ、そういう状況になったときに、図書館のミッションについてようやく真剣に考えられるのではないでしょうか。図書館の役割は、新刊が読めることや無料で本が読めることも一つではありますが、情報を探しやすく整理したり、長期的にコンテンツを保管しアクセスできるようにすることも重要な機能です。そういった意味では、実はあまり書籍の売り上げとは競合しないと思っていますし、図書館と出版社も協力していくことができると思っています。


――出版社や取次など、出版業界全体で共同で進めている取り組みはあるのでしょうか。

吉本:はい。出版文化産業振興財団(JPIC)と中小出版社の団体である版元ドットコムとカーリルが共同で「書店在庫情報プロジェクト」という、書店の在庫状況を検索できるシステムの開発に取り組んでいます。このプロジェクトには取次のトーハンや日本出版販売(日販)、POSレジのシステム運営会社の光和コンピューターにもご協力いただいています。今までは、本を紹介する際のリンク先はネット書店のサイトがほとんどでした。また、図書館だと人気の書籍はほとんど貸出中ですので、そういったときに近くの書店の在庫状況を見ることができれば、ということは考えていたんです。ただ、書店もチェーン店や個人店と様々ですし、運営も別々なので難しい部分がありました。そこで、カーリルが持つ、図書館を一括でまとめて検索できる仕組みを開発した知見を応用し、書店の在庫が探せる仕組みも開発することになりました。同様に図書館で検索した際も書店の在庫が表示されるような仕組みにも取り組んでおり、書籍の購入に対して気軽に到達できるというきっかけに図書館が機能できたらと考えています。「書店在庫情報プロジェクト」が大手のチェーン店や個人店に関係なくつながっていくように、出版業界がオープンになっていったら、様々な側面でチャンスが広がっていくのではないでしょうか。


――今後図書館の需要はどのように変化していくと思われますか。

吉本:行政が図書館を評価するときに使われてきた指標は貸出数や利用者数ですが、これらに関しては、人口の減少や少子高齢化、出版点数自体の減少により減っていくと思います。ただ、図書館の需要という部分では、その減少とは関係がないとも思っています。というのも、何をもって図書館の需要とするかというところで、むしろ図書館のミッションや何のために図書館があるのかという議論に立ち返られるのではないでしょうか。今、図書館の館数自体はどんどん増えており、まちづくりの拠点としての役割が見直されています。図書館に投資されているという面は良いことですが、これは過渡期的な現象だと感じており、むしろこれらが縮小するより前に、より良い図書館サービスをどう提供していくか、図書館の仕事の再定義をどうしていくのかという議論と実践をしていきたいと思っています。
図書館を地域からコンテンツにお金を投資する仕組みと捉えれば、もしかしたらもっと新しいコンテンツを生み出せる可能性があるかもしれないですよね。それこそ、図書館が音楽に投資するということもあるかもしれません。図書館から地域の音楽活動を支えられる仕組みが生まれたら、新たに生み出されるコンテンツがでてくるかもしれないですし、そういった部分での図書館の可能性にも期待しています。


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