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<インタビュー>m-flo 世代も国境も、軽やかに境界線を超えていく――10thアルバム『SUPERLIMINAL』が示す化学反応

Interview:三宅正一
Photo:森好弘
境界線(リミナル)を超えて、m-floは今も走り続けている。
1999年のデビューから26年。☆Taku Takahashi、VERBAL、LISAというトライポッドが描いてきた軌跡は、常に日本の音楽シーンにおける「当たり前」を更新し続けてきた。フィーチャリング文化の開拓、アジアを横断するコラボレーション、ジャンルの垣根を軽やかに飛び越えるサウンドメイキング——彼らが「邪道」と呼ばれた時代は遠い過去となり、今やm-floが切り拓いた道は、次世代のアーティストたちにとってのスタンダードになっている。
7年ぶり10枚目のオリジナルアルバム『SUPERLIMINAL』。タイトルが示す「超越した境界」は、トライポッド体制と「loves」シリーズの共存、過去と現在の接続、そして意識と無意識の狭間を行き来するような、多層的な意味を纏っている。ZICO、eill、chelmico、RIP SLYME、櫻井翔、そしてELECTRONICOS FANTASTICOS!!まで——バラエティに富んだ客演陣との化学反応が、m-floの2026年をフレッシュに刻印する。
2月19日、東京ガーデンシアターでの25周年単独公演を経て、m-floは「リミナル期間」と名付けられた充電期間に入る。しかし本作を聴いて、このインタビューを読めばわかるだろう。彼らは燃え尽きてなどいない。『SUPERLIMINAL』——それは終着点ではなく、次なる地平への跳躍台として、ある。
――7年ぶり10枚目のアルバムです。プレイリスト文化やTikTok発のヒットなど、音楽シーンの様相が大きく変化するなかでも、m-floは常にフレッシュであり続けていることを証明するような作品でもあると思います。モダンなビートミュージック主体でポピュラリティを追求するスタイルは、時代やキャリアを重ねるごとに難しくなるはずですが、バラエティに富んだ客演陣やコライトの人選も、多様なビートも、驚くほど鮮度が高い。
☆Taku:年齢を重ねると難しくなってくるのは確かですね。でも今、自分でもフレッシュでいられている実感があります。音楽をやっていて刺激的に感じるタイミングもあれば、何も感じない時期もある。すごく楽しいときもあれば、楽しめない時期もある。それは波なんですよね。今はすごく初期衝動が出やすい時期で、僕にとってはやりやすいタイミングなんです。
――初期衝動が出やすくなっている要因を、ご自身で分析されていますか?
☆Taku:伝えたいことがあるというのが一番大きいです。あとは、何かにガツンとくる瞬間があるかどうか。完全に不感症な時期もあって、そういうときはつまらないし、曲を作りたくなくなる。実際、わがままを言って「m-floをやりたくない」って言ってた時期もありました。『SQUARE ONE』(2012年3月リリースの6thアルバム)手前くらいが一番m-floをやりたくない時期だった。今は逆に、いろんなものを感じやすいタイミングなんです。
――若いアーティストやクリエイターたちから受ける刺激も多いのでは?
☆Taku:そうですね。若い子たちと一緒にいる機会が多いんです。アドバイスを求められることもあるけど、僕は精神年齢が低いので、割と同じ感覚で遊んでる感じですね。
――コライトや制作の現場でも、そういう関係性が活きている?
☆Taku:コライトの時間より、一緒にご飯を食べてる時間のほうが大事かもしれない。普段からそうやって会っていると、「若い人たちはこう感じるんだ」っていう発見もあるし、「そうだね、あるある」って共感できることもある。そういう人たちと同じスタジオに入るのは楽ですね。年齢は全然上だけど、感覚はすごくわかる。本当にいい環境だと思います。
――ご自身のもともとのマインドもそういう傾向がある?
☆Taku:僕はもともとスーパーリベラルで、保守の逆なんです。新しいものを求める気持ちが強いのかもしれないですね。
――LISAさんはいかがですか。今作もまたm-floの2026年のフレッシュな音楽像を提示しているアルバムだと思いますが、今の手応えは。
LISA:☆Takuのトラックがあってからメロディを作るんですけど、彼がすごく先に行ってるので、追いつくのが大変なときもあれば、同じインスピレーションでワーッ! と出てくるときもある。今回の制作は☆Takuからのダメ出しもあったし、何回も作り直したものもありました。彼がこのグループの行く路線を引っ張ってくれているから、いろんなものを出さなきゃいけなかった。だけど、私は非常に楽しくやらせていただいたアルバムです。素晴らしいトラックに感謝しています。
――ビートやトラックがご自身の歌が行くべき方向を引き出してくれる。
LISA:そう。トラックを何回聴いても「難しいところにきたな」という曲もありました。だから、前にプッシュしてくれる人がいないと、また違ったものになっていたと思う。今回、そのパワーがより強くなってるんです。前作『KYO』でもそれを感じていましたが、今回ほど☆Takuの「俺についてこいや」感が強かったことはなかった。私はそれに追いつくのにいっぱいいっぱいでしたけど、楽しくやらせていただきました。
――☆Takuさん、今のLISAさんの言葉を聞いてどうですか。
☆Taku:そんなに引っ張ってるつもりはなくて。ただ、前より思ったことを言うようにはなった気がします。今も社会はすごく息苦しいけど、昔に比べると多様性は幅広くなっているじゃないですか。m-floがデビューしたころは、僕らがやっていることは「邪道だ」って言われた時代だった。でも今、少なくとも音楽シーンでは邪道っていう概念がだいぶ減ってますよね。そこは伸び伸びできる部分ですが、一方で、社会に対してはある種の古さを感じていて、51歳になった今でもそれを感じている。だからこそエネルギーになっているし、思ったことを前より言うようになってると思います。
LISA:☆Takuは前だったら黙っていたことを、「言うだけ言ってみよう」と口にするようになったんです。私はすごく真面目だから、一回一回その言葉を正面からキャッチしちゃう。それで、落ち込む日もあるし、たまに泣くし(笑)。でも、そのプッシュがあるから、今までと違う自分を出せました。「こうじゃなくて、もっとここだと思う」とか、「歌詞をどこまで深く言うか」とか、プッシュされて出せたものなので感謝しています。でも、やっぱりキツかった部分もありましたね(笑)。
☆Taku:僕の意図ではないんだけど、口調や言い方でプレッシャーを与えちゃうんだろうなって……どうやって伝えたらいいのか悩ましいんだけど。
LISA:結果オーライですよ。すごくプッシュできたし、私は満足しています。もちろんもっとこうすればよかったという細かい後悔はゼロじゃないけど、このアルバムに対してはすごくいい感じだと思っています。
――そうやってLISAさんの感情が動かされるほどのディレクションがあって、それが歌に乗る。
LISA:そうなんですよ。メロディも変わってきますし、乗せる歌詞も変わってきます。最近ラップも書かせてもらってるんですけど、VERBALから「もっとラップをやんなよ」「もっとやったほうが面白いんだから」って言われて、自分で書いているんです。私の分野じゃないのに、こんなに上手い人のそばでラップを書いて自分でやるって大丈夫なのかな? って思いながらも、VERBALという大先生が「良かったじゃん」って言ってくれると、めちゃめちゃ嬉しいです。
――VERBALさんはいかがですか。
VERBAL:お互い信頼し合って、「ラップ書いて」と言ったら書いてくれたり。今回は僕も☆Takuにリリックを手伝ってもらいました。インスパイアされてる人が牽引してくれると、エンドプロダクトが良くなる。今回のアルバムは、今までで一番そこに向かってみんな突っ走れたんじゃないかなと思います。
――☆Takuさんがおっしゃったように、昔は「邪道だ」と言われた時代があった。でも今はヒップホップもポップミュージックのあり方も細分化して、あるいはK-POPアーティストとのコラボレーションもフラットに実現する時代になったことで、m-floがもともと持っているマルチリンガル的なフィーリングが活きているとも思います。
VERBAL:僕たちがlovesというフィーチャリングを始めたころは、まだ「K-POP」という言葉も普及してなかったし、ただカッコいいからフィーチャリングしようと言ってやっていました。僕たちは昔から誰に対しても抵抗がなかったので。
☆Taku:そうだね。韓国だけじゃなくてタイのアーティストだったり、今回は実現しなかったけど中国のアーティストとか、VERBALが「この人とやったら面白いよ、実はちょっと会ったことあるんだ」って提案してくれるんです。どこの国の人だからじゃなくて、このアーティストが面白いという感覚で最初から動いているんですよね。
VERBAL:デビューしてすぐ「この人(海外アーティスト)をフィーチャリングしたい」と言っても、昔は「それは難しいです」と言われる時代でした。だけど、僕たちは純粋に「え、なんで?」って。「連絡すればいいだけじゃん、NGだったらそれでいい、聞く前に難しいとか言わないでやってみよう」って、ずっとそういうやり方をしてきた。そこはアドバンテージですよね。
――今はDMなどでアーティスト同士が直接やり取りして、クリエイティブが始まることも多いですよね。
VERBAL:そう、昔は連絡しても「窓口はどなたでしょうか?」という感じでした。今はアーティスト同士で繋がっちゃえば、サクッと制作できる。でも、アメリカは昔からそうで、何十曲、何百曲と作って手応えがある曲だけをリリースするというやり方だったんです。日本はシステマチックで、シングルから出してアルバムっていう流れが主流でしたけど、今はグローバルな流れにマッチしだしていると思いますね。
――VERBALさんが参加するTERIYAKI BOYZ®も然り、ずっとそうですよね。
VERBAL:TERIYAKI BOYZ®も、当時「邪道だ」「ファッションを使ってずるい」って言われていましたが、お互い刺激を求め合っているんだからいいじゃんという感覚でした。たとえばスニーカーをもらったから、曲を一緒にやるみたいな感じで、お互いがカッコいいと思うものを持ち寄って、インスパイアされるなら何でもいい。お客さんが喜ぶというのがゴールだから。そういう感覚はずっとありますね。
リミナル期間前の最後のライブなので、
皆様の心に残るものにしたい

――TERIYAKI BOYZ®の話で言えば、昨年、2009年に起きたSEEDAさんとの「TERIYAKI BEEF」から16年の時を経て、SEEDAさんのアルバムでVERBALさんが客演で参加し、ビーフを回収する「L.P.D.N. ft. VERBAL」という素晴らしい曲が生まれました。歴史や出来事で打たれた点をそのままにしておくのではなく、線につなげていく。あの曲にも、m-floのニューアルバムにも、カルチャーをつなげるという意識を感じます。
VERBAL:SEEDAくんとの曲は、☆Takuがつないでくれたんです。別に仲が悪かったわけじゃないんですけど、周りの環境もあってちょっとモゴモゴしてたのを、☆Takuが開通してくれた。
☆Taku:僕が『ニートtokyo』(SEEDAが主宰するYouTubeチャンネル)に出たときに、オブラートに包まずに言ったんですよ。「2人が『TERIYAKI BEEF』のときにラジオでやったフリースタイルは良くなかったね」って。そしたら、SEEDAくんが「こんなにストレートに言ってくる人なんですね」って、それで仲良くなった。その後、SEEDAくんから「VERBALさんと一緒にラップしたいんです」と言ってきて、VERBALに話したら実現したという流れです。僕は何もしてないんですよ。SEEDAくんに気に入ってもらえただけで。
――なるほど、そんな流れがあったんですね。今作において、このタイミングで櫻井翔さんを客演にm-floのクラシックである「come again」をアップデートするというのも実にm-floらしい。
☆Taku:櫻井くんの場合は、昔、彼がVERBALのラップをすごく評価してくれていて会うようになって。彼が「ラップをやりたいんです」と話してくれた流れから、デモテープをもらってそれをVERBALに渡してという繰り返しがあったんです。櫻井くん本人も言っていたけど、それからVERBALはメンターでもあり先輩でもありという繋がりができたんですね。そういった昔話を経て、去年、音楽番組でコラボが実現したのもご縁だし、このタイミングで彼と一緒に曲ができたのは、VERBALが誠心誠意で彼と向き合って仲良くなったのが大きいんじゃないかな。
――そのエピソードも踏まえると、櫻井さんのヴァースにある〈LOTUS BOWERYで「また聴いて」とMD渡して "可愛いね"と思えるようなエピソード 産声枯らした頃 "take it soso"〉、ここはよりグッとくるものがありますね。
VERBAL:あのリリックはすごくヒップホップを感じました。子供のころ、Run-DMCとかが「俺はクイーンズ」とラップしていて、それがどこだかわからないけど風景が浮かぶっていう。そういう感じがあるなって。
――ここで言う〈LOTUS BOWERY〉から、00年代、カフェブームのころの東京が浮かんだり。
VERBAL:そうそう。若い子が〈LOTUS BOWERY〉って初めて聴いても風景が浮かぶと思うんですよ。それって、めっちゃヒップホップだなと思いました。本当にあそこでよく会って遊んでたんで、あのリリックにはビビりましたね(笑)。
☆Taku:この曲をアルバムに入れようとしたというより、櫻井くんがいいラップを書いてくれたから、形に残したいねとなって、入れた感じですね。
――LISAさんは、「come again」がこうして生まれ変わったことについてはいかがですか。
LISA:櫻井くんが、こんなに頑張ってラップを書いてくれて。すごく気持ちのいい子なので、お姉さん的な角度から嬉しいです。音楽的にも、m-floのファンがまた広がって、いろんな方に聴いてもらえる「come again」になるんだろうなって。また違う「come again」ですから、同じ「come again」では決してない。大好きな曲ですし、自分のなかで古くならない。ありがたいなと思っています。
――アルバムのコンセプトとタイトルについて聞かせてください。m-floはこれまでもアルバムというアートフォームを大事にしてきたと思いますが、2026年にリリースするアルバムとして、どういうコンセプトで全体像を持たせたいと思ったのか。やはり同名のゲームをやっていたというのもあったんですか?
VERBAL:「Superliminal」? そんなゲームがあるんですか?
――同名のパズルゲームがあるんです。強制遠近法を使って、夢のなかの治療から脱出するというゲームで。完全にそこと繋がってるのかと思ってました(笑)。
☆Taku:いや、繋がってないです。そんなゲームがあるんだ(笑)。
VERBAL:そっちのほうがいいストーリーなんだけど(笑)。全然知らなかった。これはタイトルが決まって検索をかけても出てこなかったよね。発見、ありがとうございます。なるほど……このタイトルは僕が考えたんですけど、最初「リミナル」から始まって、「サブリミナル」、「何とかリミナル」、「リミナル」だけでいいんじゃないか、いやいや「SUPERLIMINAL」だって。造語だからネットで調べたときに出てこなかったんですよ。少なくとも僕がパッと調べたときにはこのゲームは全然上がってこなかったですね。この後チェックします(笑)。今まで宇宙旅行やパラレルワールド、タイムトラベルといろんなテーマがあったんですけど、今回はみんなの潜在意識がいろんなレイヤーで共存しているっていう意味です。「すごい境界線」みたいな。
☆Taku:後付けになっちゃうけど、今回トライポッドの3人体制とlovesシリーズが一緒に混ざってるから、そこでも「SUPERLIMINAL」になってるなと。
――インタールードも含めて、アルバムというパッケージの意義をすごく提示していると感じました。
☆Taku:自己分析すると、アルバムで聴いてもらいたいというエゴがあるかもしれない。実際、僕自身も今はアルバムを通して聴くことはほとんどなくて、プレイリストで1曲1曲聴いていくことが多い。ただ、m-floは振り幅が広いから、ある意味プレイリストっぽいんですよね。だからアルバムとしてありなんじゃないかと思うし、流れを通して聴いてもらいたいというエゴはありますね。アルバムを出し続けられるならアルバムがいい。時代的にちょっと違うのは理解してるんですけど。
――でも、「GateWay」や「CHARANGA」のようなドープな曲は、アルバムのなかでこそ輝く部分もありますよね。
☆Taku:今思えばlovesの曲は全部シングルにしても良かったなとも思うし、「GateWay」はアルバムのリード曲になるんですけどね。
――この曲はハイパーポップをm-flo流に昇華したような感触がある。
☆Taku:手前味噌ですけど、ハイパーポップの進化に僕らも多少影響を与えてるんじゃないかなって思うんですよ。そういう意識もこの曲にはありますね。
――2月19日には25周年の集大成となる単独公演を東京ガーデンシアターで開催し、その後、「リミナル期間」という充電期間に入り、一つのフェーズに句読点を打つことになります。今の心境は?
☆Taku:僕が知りたいのは、LISAとVERBALがどんなライブにしたいのかっていうイメージで。
LISA:私たちは☆Takuから音をもらった後に乗っかっていくので、ライブに関してまだ見えてない部分もあって。まず1曲1曲を大事にやらなきゃいけないし、新曲も覚えなきゃいけない。リミナル期間前の最後のライブなので、皆様の心に残るものにしたいとは思っています。頑張ります。
VERBAL:一本筋が通ったライブにしたいですね。lovesを初めてやったときは、いい意味でガチャガチャしていて、次この人、次この人っていうのが面白かった。でも今は超越して、LISAもいてlovesもあって新しい感じだから、もうちょっとストリームラインされたステージにしたい。毎曲打ち上げ花火じゃなくて、抑揚のあるサウンドトラックみたいなステージ。そこで喜怒哀楽を出したいです。前は全部インパクトにこだわってたけど、そうじゃなくてもお客さんはついてきてくれるのかなと思ってます。

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