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<インタビュー>Furui Riho、手紙を書くように思いを綴った『Letters』は“誰かに愛を伝えるアルバム”に

Interview & Text:内本順一
Photo:Kana Tarumi
Furui Rihoの3rdアルバム『Letters』が素晴らしい。2024年リリースの「言えないわ」「Tomorrow」、2025年リリースの「MONSTER」、それにTVアニメ『CITY THE ANIMATION』のオープニング主題歌となって各方面から高い評価を得た「Hello」などのシングル曲に新曲6曲を加えた全11曲だが、新曲群のクオリティが既発のシングル曲にまったく負けておらず、とりわけ「愛泣きて」「灯台」「Letters」という3曲のバラードではこれまでになく深くてエモーショナルな表現を見せているのだ。
「手紙のように、温度のある音楽を届けたい」。そんな思いで作られたこの『Letters』は、まさに彼女の温かみと愛に溢れたアルバムだが、しかし制作時は1曲目のタイトルと歌詞の通り、相当ハードモードだったと言う。そんななかでどのようにアルバムを作り上げたのか。新曲の6曲にはどんな思いを込めたのか。完成したばかりのタイミングで話を聞いた。
誰かへの愛、自分への愛、それが詰め込まれているアルバム
――新作『Letters』、驚くくらい、いいですね。傑作だと思います。
Furui:えっ、嬉しい! 実はまだ自信が持てないんですよ。
――こんなにいい内容なのに?
Furui:まだ客観的に聴くことができなくて。今回はすごく言葉にフォーカスしたのですが、悩みに悩んで書いた曲が多かったんです。これでよかったのかなぁ、みたいな。私には二面性があって、プロデューサー的な目線で客観的に物事を見て曲を作る自分と、アーティスト目線でエゴを出しながら曲を作る自分と両方いるんですね。それで、今回は自分のエゴをすごく強く出したアルバムになっているなと思っていて。客観的にものを見る自分が「ちょっとエゴを出しすぎじゃない?」って言っている気がするんです。
――どういったところをエゴだと感じるんですか?
Furui:もともと私は、聴いてくれるみんなのことをよく考えて、なるべくわかりやすいポップスを作ろうとしてきたほうなんですね。だけど今回は、「そんなに曝け出して大丈夫?」っていうくらい自分の思いをかなり曝け出していて。サウンドにしても、「こうやりたい!」っていう衝動でどんどん作っていったから。
――それでいいじゃないですか。そういう意味のエゴならどんどん出すべきだし、そうやって作ったからこそRihoさんの思いがズバっと感じられるアルバムになったんだなと今、思いましたけど。むしろ僕はそういうところがこの作品のよさだと感じるし、そういうところが好きです。
Furui: ありがとうございます。励みになります。

――とりわけ新曲の6曲が素晴らしい。「MONSTER」や「Hello」といったポップなシングルのインパクトやクオリティに少しも負けてない。特にバラードが感動的で。本来のFurui Rihoというアーティスト性、人間性が、ダイレクトに表れているんじゃないかと。
Furui:嬉しい! でも、めっちゃ辛かったんですよ、このアルバムを作るのが。
――そうなんですか?
Furui:はい。おかげ様で2025年はすごく忙しくさせてもらったんですけど、正直に言うと、仮面をつけた1年でもあったんです。実は2024年の終わりに人を傷つけてしまったり、自分のことも大切にできなかったりすることがあって、それが「MONSTER」という曲に繋がりました。それで私は誰かを傷つけるようなことは言いたくない、そんな人間にはなりたくないってことを固く心に決めて2025年を迎えたんですね。で、2025年を過ごしていくなかで、何か問題があっても冷静でいようと努めたり、悲しい出来事があっても悲しまないようにしたり、なるべく感情を平坦にしていった。それはある意味、大人になるってことのステップだったとも思うんですけど、でもそうするうちに、このままだと自分がロボットみたいになっていく気がしてきて。
今までの私の人生はすごく恵まれていたので、世界には愛がたくさんある、世界は美しいものなんだって、無邪気な子供のようにキラキラした目で世の中を見ていたところがあったんです。でも、世の中には絶望があって、悲しいこともたくさんあるんだっていうことに初めて気がついたし、そう実感した。それが2025年で。特に後半はツアーもあって、体力的にも精神的にもかなり追い込まれていたところがあったので。無邪気さとは真逆の、心が荒んだような状態になっていたんです。そんななかでのアルバム制作だったから……。もちろん全部の曲をそういう状態で作ったわけではなくて、初めの頃に書いた曲は元気な自分が出ているし、希望もあると思うんですけど、最後に書いた「Letters」はどんどん自分のなかから希望が失われていって、もう落ちそうってなりながらも必死になって、どうにか希望に賭けようという思いで書いたものなんです。

――明るく、創作の喜びに満ちた状態で作ったアルバムなのかと思ったんですが、実際は精神的にギリギリの状態で作ったものだったと。
Furui:そうです。いいものを作らなきゃというプレッシャーがすごくあったし、人間関係についていろいろ考えることもあったし、辛かったことも悲しかったこともありました。まあ、誰しも生きていればいろんなことがあるものですけど、とにかく自分と深く向き合わなければならない瞬間がすごく多かったので。
――でもだからこそ、これまでで最も深みのあるアルバムになったんでしょうね。僕はこれを聴いて、ものすごくエモーショナルで深い愛のある作品だなと感じたのですが、今のRihoさんの話を聞いて、そういうことだったのかとわかった気がしました。
Furui:このアルバムは誰かに愛を伝えるアルバムなんですよ。今話した通り作るのが辛かったのは確かなのですが、誰かを思い、誰かのために愛を注ぐということはできた2025年だったと思うんです。愛そうという努力をした。それは自分を含めてです。誰かへの愛。自分への愛。それが詰め込まれているアルバムだと思います。
――愛を詰め込もうと努めたアルバム。早い段階から、そういう作品にしたいと考えていたんですか?
Furui:手紙を書くように思いを綴ったアルバムにしたいということは、2024年の終わり頃から考えていました。「言えないわ」(2024年10月リリース)ができる前ですね。その頃からスタッフのみんなと話して、『Letters』だって決めていて。
――そんなに前から?
Furui:はい。誰かへの手紙として曲を書いていこうと決めていたんです。なんでそうしたかというと、「LOA」というのは私が妹に向けて手紙を書くように書いた曲で、こう言ったら妹はどう思うだろう? と考えながら大切に作ったものなんですけど、その曲の伝わり具合がほかの曲とは違ったんですよ。だから、やっぱりそうやって書いた曲ってパワーを持つんだなと思って、じゃあそういう曲を集めたアルバムを作ったらどうなるんだろう? と興味が湧いてきた。手紙を書くように曲を作ることで、届き方が変わるんじゃないかなって。
――伝える相手を明確にイメージしながら歌詞を書くということですよね。今までだったら漠然と若いファンの方たちだったりをイメージして、いいことを言わなきゃ、いいメッセージを込めなきゃみたいなところがあったかもしれないけど、そうではなくて。
Furui:はい。伝えたい相手に書く。そうすると、やっぱり出てくる言葉も変わるんですよ。この言葉をこの人に言ったらどう思うかなって。そう考えて書くと、言葉に対しての責任感もより出るし。手紙って、そうじゃないですか? 私はいつも下書きをしてから手紙を書くんですけど、そのときにすごく相手の気持ちを考えるんです。LINEだったらその場のノリでパッと送って、送信取り消しもできちゃうから、それだけに言葉も軽くなりますよね。それと真逆のことをしたかった。軽く流れていくものじゃなくて、それなりに重みを持つものを作っていきたかったんです。

――今作の言葉が耳だけじゃなく心に残るのはそういうことなのでしょうね。
Furui:とにかく言葉と格闘しながら作ったものなので。ボロボロになりながらも絶対に妥協したくなかった。だから最後まで諦めなかったですし。
――そのあたりの心情が、1曲目の「ハードモード」に如実に表れていますね。
Furui:まさに(笑)。本当にハードモードだったんです。
――サウンドや曲調に関しては、今回はどんなビジョンを持っていましたか?
Furui:自分のルーツにもう一度立ち返ることの重要性を感じていたので、何曲かゴスペルのサウンドを元にした曲を作ろうと考えていました。「LOA」も「Hello」もそういうものでしたけど、やっぱりゴスペル・サウンドによって自分らしさが出るんだな、自分らしくいられるんだなと気づいたので。なので、「ハードモード」もゴスペルを取り入れているし、「Letters」もそうです。ゴスペルというとブラック・ゴスペルのイメージが強いですが、ロックやカントリー、ポップスの影響を受けて発展してきた現代的な礼拝音楽の流れもあって。「Letters」はそうしたワーシップソングをリファレンスにしています。自分らしさはここにあるなって、この2曲をレコーディングしながら改めて感じていました。
最後の望みというか、
とにかくもう信じるしかないんだという思いで書きました

――ゴスベルのサウンドを取り入れながらポップスに落とし込むのは、Rihoさんにとって自然なことですか? それとも難しいことですか?
Furui:自然となっちゃうかもしれない。サウンドがゴスペルでも、日本語を乗せると自然にJ-POPになる気がしますね。例えば「ハードモード」も、(英語詞で1フレーズ歌って)こんなふうに英語で歌ったら洋楽っぽいけど、「また」「朝」「起き」「たら」って一語ずつ音にハメるとめっちゃ日本の歌っぽくなるんです。
――確かに。面白いものですね。因みに「ハードモード」がアルバムのリード曲ということで、曲のなかでも<この曲がどうやら アルバムのリードに なるみたいね>と歌っています。
Furui:これ、レコーディングの前日にまだ歌詞が書けてなくて。もう今思っていることをそのまま書こうってなって、こうなりました(笑)。初めは明るい歌詞を書くつもりだったんですけど、追い詰められている状態だし、今の自分が明るいことを書いたら嘘じゃんって思って。そういうリアルな歌です。
――「太陽になれたら」という曲はどういったところから着想を得たんですか?
Furui:この曲はある映画の主題歌になるんですけど、人の生き死にをテーマにした映画なので、生きるとは?死ぬとは?というところから考えて書いていきました。さっき「世の中には絶望があって、悲しいこともたくさんあるんだってことに初めて気がついた」と言いましたけど、絶望から命を絶って突然自分の目の前からいなくなる人がいたとき、私は一体何ができたんだろうかと考えた体験があって。そうなる前に、自分が生きているうちに、相手に愛を注いであげたい。たとえ遠く離れてしまって直接何かができなくなっても……もう会えなくなっても、遠くからでも私はあなたに愛を注いで見守っていたい。そういう思いを、映画の内容と照らし合わせながら書いたんです。
――<正しさも幸せも みんな物差しは違うでしょう きみはきみだけの 自由えらんで>という箇所がとてもいいですね。
Furui:もちろんこれも具体的に伝えたい相手がいて書いたものなんですけど。アルバムのなかでも特にこの曲は言葉を伝えたかった。これ、歌詞から作ったんですよ。普段はメロディから作るんですけど。私はよく、ひとつのメロディにあえて言葉を詰め込むことでリズムを出したりするんですけど、これはそういうこともしないで、一音一音に言葉を当てはめて作っていきました。それによってJ-POP感が出た曲になったなと思っていて。今までと違う作り方という意味でも自分にとっては挑戦の曲でしたね。
――5曲目は「そのうち」。これは古くからの友達に向けて書かれた曲ですか?
Furui:そうです。私の幼馴染。幼稚園のときからの友達で。
――亡くなられたわけではないですよね?
Furui:はい。生きてます。
――<君はそっちに行って何年? 今日は君の曲をアルバムに入れたよ>って歌っているので、深読みしちゃいました。
Furui:そう捉えられてもいいように書いたんです。この曲はさっき話した「太陽になれたら」と制作期間がかぶっていたので、命の重みみたいなことを引きずっていたところもあって。いつ会えなくなるかわかんないよな、っていうのも思ったし。だから、大切な誰かがいる人にも、そういう人を亡くした人にも、刺さる曲になればいいなと思いました。
――8曲目は「愛泣きて」。今までのRihoさんの楽曲にはなかったタイプで、ギターとボーカルのみのジャジーな曲。個人的には一番気に入っています。
Furui:嬉しい! この曲が新曲のなかで一番早くできたんです。何も悩まずできた曲。アルバムに入れるつもりもなく作ったんですよ。入れたとしてもインタールードかなって思っていました。「愛泣きて」という言葉があるとき突然浮かんで、いいなって思って。
――「会いに来て」という言葉からの連想で出てきたんですか?
Furui:そうです。「会いに来て」って、子供っぽくて、大人になってから言うのは恥ずかしいよなって考えていたら、そこから言葉遊びみたいな感じで「愛泣きて」が出てきました。いろんなことが連想できるいい言葉だなと思って、これで曲を書いてみようと。この言葉に導かれるままに、スラスラ書けました。サウンドもこれは自分でやったんですけど。
――ギターは?
Furui:ギターはうちのバンドの坂本遥です。
――遥さんのギターの音色、めちゃめちゃいいですね。
Furui:そうなんですよ。とにかくナチュラルな感じを出したくて、スタジオではなく、私のギターを使って宅録で弾いてもらったんです。私の歌は宅録ではないけど、ピッチ修正とかはゼロ。で、ビートのところも生活音がいいと思ったので、鍵の鈴の音を入れたり、ハイハットの音のところをコンロのチチチチという音を録って使ったりして。そうすることで、あたたかさが出せたと思います。
――歌詞も詩的で、ほかの曲のようにストーリー性があるわけではない。音数同様、言葉数も少なくて、なのに切なさもあるし、控えめながら官能的なムードもある。端的に言って、これまでになく大人っぽい歌だなと。
Furui:何も狙わずに作ったんですけど、作っていくうちに、これは私にとって大事な曲になるんじゃないかなって思いました。

――10曲目の「灯台」は、今作のなかでもとりわけエモーショナルな重要曲ですね。「愛泣きて」 はギターとボーカルだけでしたが、こちらはピアノとボーカルだけのバラード。
Furui:ピアノはうちのバンドのハナブサユウキです。付き合いが長いので、言葉で言わなくてもお互いの求めているものがわかるという。この曲はNakamuraEmiさんに向けて書きました。Emiさんは私の音楽活動を引っ張ってくれた存在で。私がまだ全く売れてなくて、音楽をやめようかと考えていたときに、Emiさんの曲が力をくれたんです。そこからずっと追いかけているんですけど、2023年に初めてツーマンをやらせていただく機会があったんですね。そのときに、Emiさんに手紙を書くように曲を書こうと思って、作って、そこで初披露したんです。
――Emiさんはどんな反応を?
Furui:泣いてださって。めっちゃ喜んでくれました。今回『Letters』というアルバムタイトルにして、手紙のような曲を集めようと決めたときに、この曲を入れるしかないって思って。
――リアルな歌詞内容であるだけに、ボーカルにおいての感情表現力がすごいですよね。
Furui:同じ部屋で(ハナブサユウキと)二人で「せーの」で録ったので、ピアノも歌もごまかしが効かないし、まさしく生ものならではの温度感が出せたんじゃないかと思います。その人のことを本当に思って書いて歌ったものだから、嘘がないし、思いの全てがそこに乗っかっている。そういう歌ですね。
――そして最後にもう1曲、ズシンと心に響く表題曲「Letters」が。Rihoさんがゴスペル・ルーツを持ったシンガーであることを真正面から表明した1曲ですね。
Furui:ギリギリの状態でグッと自分の手を握り締めて作って歌っていたことを思い出すので、まだ客観的になれないんですけど。最後の望みというか、とにかくもう信じるしかないんだという思いで書きました。今は辛くても、このアルバムを聴いた誰かがきっと喜んでくれるはずだ、自分も成長できるはずだって思いながら。
――誰に向けて書いたかというと、これはやっぱり自分自身ってことになるのかな。
Furui:そうですね。でも真実を言うと、自分と同時に私はGodに歌っています。
――ああ、なるほど。<You never let me go>の「You」は神のことなんですね。
Furui:そうです。自分の曲では、本当の意味でのゴスペルを作ったことはなかったんですけど、今回は自分の原点に立ち返るという意味でもそこを残して表現しておきたかったので。ただ、日本語で神様って言ってしまうと急に宗教感が濃くなってしまうかもしれないし、英語詞で書くというトライもしてみたかったので、大半を英語にしました。メロディを作っているときから、これは英語で歌うのがいいなって思っていたんです。英語であるだけに、ストレートに言いたいことを言えたと思います。
――Rihoさんにとって、書かなくては済ませられない歌だったんでしょうね。自分のために必要だった歌というか。
Furui:そうですね。振り絞りました。この曲を聴くと、血と汗と涙の味がします。一番重い曲になりました。
――軽快で楽しい曲からズッシリ響く曲まで、多彩でありながらも、流れが非常にいいアルバムになっていますね。通して聴くことで感動もひとしおという。なので時間を置いて聴いたら、またそのときならではの発見や心の動きがありそうなアルバムだなと思いました。
Furui:ありがとうございます。手紙って、もらったときも嬉しいけど、あとから読み返したときに、“ああ、こういうふうに思ってくれてたんだ”っていう発見があったりするじゃないですか。そもそも手紙を書くこと自体が労力だと思うし、それだけに読み返す度にその人の愛が伝わってくる。そこが手紙のよさだなと思っていて。このアルバムもそういうものであってほしいんです。辛くなったときとか寂しいときに、このアルバムの手紙たちがみんなの心に寄り添ったり満たしたりするものであったら嬉しいですね。

――4月から始まる初のホールツアーも楽しみです。
Furui:このアルバムのテイストは、今までの私の作品とちょっと違うじゃないですか。だからライブも今までと違う感じになると思います。より、みんなのそばにいられるようなライブをしたいですね。ワクワクするような展開もありながら、何かこうメッセージを受け取って持って帰ってもらえるライブにしたいと思っています。
――とりわけこの作品のバラード曲がどういう場面で歌われるのか、ナマだとどんなふうに響くのか、そこに期待したいです。
Furui:ちょうど昨日セトリを考えていたところで、そういう曲をどこに置いたら一番伝わるかなって考えていたところなんですけど。いい感じになりそうなので、楽しみにしていてください!
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