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<わたしたちと音楽 Vol. 70>住吉美紀 毎朝の“バーチャル同僚”として、女性にエールを届けたい

米ビルボードが、2007年から主催する【ビルボード・ウィメン・イン・ミュージック(WIM)】。音楽業界に多大に貢献し、その活動を通じて女性たちをエンパワーメントしたアーティストを毎年<ウーマン・オブ・ザ・イヤー>として表彰してきた。Billboard JAPANでは、2022年より、独自の観点から“音楽業界における女性”をフィーチャーした企画を発足し、その一環として女性たちにフォーカスしたインタビュー連載『わたしたちと音楽』を展開している。
今回のゲストは、NHKアナウンサーを経て、現在はTOKYO FMの朝の生放送『Blue Ocean』のパーソナリティとして14年にわたり活躍する住吉美紀。50歳を迎えた節目にエッセイ『50歳の棚卸し』を上梓した彼女に、声だけで届けるメディアの魅力から女性として働き続けることまで、幅広く聞いた。(Interview:Rio Hirai l Photo:Yukitaka Amemiya)
ラジオで培った“具体的に語る”ということ

――住吉さんはラジオのお仕事を長く続けていらっしゃいますが、声だけで届けるメディアだからこそ気をつけていることはありますか?
住吉美紀:基本的なことですが、聴き取りやすいこと、そしてどう分かりやすく言葉で表現するか、ということですね。テレビなら「見てください」と言えば説明しているものの様子がすぐに伝わりますが、ラジオはそれも全部言葉で伝えなければなりません。一方で、説明調になってしまうと聴いている人もつまらないと思うので、どうライブ感を保ちながら、聴いている方に想像して楽しんでいただけるか、心を動かして共感していただけるか。そこはいつも心掛けています。
――いつも住吉さんの生き生きとした声色に勇気付けられてきました。このたびエッセイ『50歳の棚卸し』を出版されましたね。自分のことを書くエッセイ執筆のお仕事は、ラジオのお仕事とはまた異なる難しさがあったのではないでしょうか。
住吉:『Blue Ocean』を担当して丸14年になりますが、最初の頃は一人喋りが上手くできなかったんですね。リスナーの方からのメッセージを紹介するまでは良いものの、その後に「何を話したらいいんだろう?」と思っていたんです。「私の個人的な体験を語っても、誰も興味ないでしょう」と思っていて。でもトライ&エラーをするうちに、リスナーの方のメッセージに対して「分かります、私も最近こうでした」と、まるでお喋りしているかのように自分の体験を具体的に話したほうが、聴いている方に興味を持っていただけるのかもしれないと思うようになったんです。私の感情が伝わることで、聴いている方が「今日もいっちょ頑張るか」という気持ちになることもある。個人的な経験が全く関係ない方からの共感を呼んだり、だからこそ何かを感じてとってくれることがあるんだと分かって、少しずつ自分のことを話すようになりました。
エッセイはずっと、また書きたいと思っていたのですが、毎日の仕事が忙しくて書かないままだったんです。「そろそろ書かないと、もう一生書かない」と決意して書き始めたら、書きたいこともたくさんたまっていて。ラジオでちょっとずつ話してきた個人的なエピソードの裏には、実はもっとフルなストーリーがある。文章ではそれを具体性を持って書くことができました。15年近くラジオで話してきた経験があったからこそのエッセイになったと思います。
――話すことと書くことでは、体験として違いがありましたか?
住吉:絶対的に違うのは、時間ですね。特に生放送だと、5秒後に話す言葉は今自分の中で生成されて、取捨選択されて発している。すごく“今”にあるというか、過ぎ去っていくものなんです。今日のこの天気の、この状況の私が、このリスナーメッセージを発端に選んだ言葉を瞬間冷凍したみたいな、閉じ込めたみたいな愛おしさがある。
書くほうはまた別で、すごく贅沢な作業に感じています。1つのことを表現するのにどんな言葉を使おうか、どんなシーンで始めて、どこから説明したらみんなに分かってもらえるか。時間をかけて言葉を選んだり、話の道筋の順番も迷って選んだりできる。確かにすごく違いがあるけれども、両方あるからこそ完成するような感覚があります。
“性別を忘れて仕事をする”瞬間
――これまでのお仕事や人生の中で、ジェンダーギャップを感じた瞬間はありましたか?
住吉:少しずつ放送業界も変わってきてはいると思いますが、駆け出しの頃は、メイン司会者は男性のほうが多いなと感じていました。女性がアシスタントという立場が多かったんじゃないかな。
ただ、NHKに在籍していた頃は、逆のパターンもありましたね。振り返ってみると、NHKはすごく恵まれた職場でした。15年間在籍していましたが、アナウンサーは女性でも男性でもちゃんとその適性や能力を見てもらえましたし、女性の私や同僚、先輩もメインを張る場をちゃんと作ってもらえた。性別を忘れて仕事をする瞬間がたくさんあったんです。
私はアメリカやカナダで育った時期があるんですけど、日本のほうが女性が声を上げると「出しゃばっている」と言われてしまう場がすごく多いなと感じていました。アメリカもカナダも、男女関わらず自分で主張して声を上げないと“いないも同然”みたいな文化なので、自然と声を上げる習慣が身に付く。日本に帰ってきてからの「奥ゆかしくなくてはならない」みたいな感覚は、ちょっとカルチャーショックでしたね。
日本は女性リーダーが世界的にもまだまだ少ないと言われていて、社会を見渡したときに「まだまだ社会を形作る立場に女性があまりに少ない」と思います。でも、私自身は、自分のキャリアパスとして、やりがいとか、どう自分のできることで社会に役立つかを追求していく中では、意外とジェンダーということを考えずに、目の前の仕事に集中できていたのかもしれません。
――そんなアナウンサーとして走り出したばかりのキャリア1年目の住吉さんに、今の住吉さんがアドバイスするならなんと声をかけますか。
住吉:1年目の私は、“英語文化の私”でした。通っていた大学で使っていた言語も半分は英語でしたし、留学生や帰国子女が多くミックスカルチャーだったので、NHKに入ったときにものすごいカルチャーショックを受けました。いわゆる“The 日本社会”にぶち当たって、飲み会で「とりあえずビール」と言われて「どうしてとりあえずビールなんですか? 私はウーロン茶がいいんですけど」と言ったり(笑)。会議で「この会議の結論は何でしたか?」と聞いて、「言っちゃダメ、言っちゃダメ」と止められたり。「聞き方がキツイよ」と言われることにすごく悩んだり。「私、ダメなのかな」と思っていたのをすごく覚えています。
取材のネタ探しが上手くできないとか、ニュースを読むのが上手にできないとか、目の前のことにも日々悩んで頑張っていました。でも悩みながらも、自分が楽しい、面白いと思えるものに出会えて、それに挑戦させてもらえるご縁には恵まれた。だから、1年目の自分には「失敗もいっぱいあるし、辛いこともいっぱいあるけど、大丈夫だよ」と伝えてあげたいですね。
――『50歳の棚卸し』を経てその言葉が出てくるというのは、すごく確かなアドバイスですね。
住吉:棚卸しをしてみて、人生の失敗は、自分次第で正解に変えられるんだと思えたから言える言葉かもしれないですね。
女性の仕事仲間の大切さ

――「女性がエンタメ業界でもっと活躍していくには」というテーマについて、一緒に考えていただけますか。
住吉:今思うと、私は割と諦めから入っていたのかもしれません。だからか、あまり辛かったことを覚えていないんです。確かに女性として酷いこともたくさん言われてきたし、「セクハラだったかな?」と思う目にもいっぱい遭ってきました。でも私の世代くらいまでは、「そういうものだし、働きたいならもう諦めるしかない。その代わり頑張ってやる」みたいに、負けてたまるか、と来てしまった気がします。それが正解だったかというと、そうじゃないかもしれない。下の世代が悩んでいる中、「私たちがもっと反発したり、訴えてこなきゃいけなかったのかな」と反省することもあります。ただ、仕事を一生懸命頑張っている中でそこまでの余裕もなかったし、声を上げたとしても、力もなかった。「しょうがない」と思っていたことだけ覚えています。本当に良くないんですけど、「減るもんじゃないし」と我慢したことがいっぱいありました。
でも周りには信頼できる女性の同僚たちがいて、女性同士でそういう話をして「頑張ろう」と言い合えた。女性の仲間がいるというのは、すごく大事だと思います。差別や、働きにくい現場、居づらい現場があってはなりません。そういうことがなくなるべきだという前提で、共感して、経験をシェアしたり、励まし合ったりできる女性の仕事仲間はすごく大事だと思います。
――年齢を重ねるごとにライフイベントに個人差が生まれ、女友達と疎遠になってしまうこともあると思うのですが……。
住吉:私もそうでした。早くから子育てをしている人、働き続けて独身の人、結婚しても子供がいなくて働き続けている人……時間が合わなくて会えない時期もあったんです。でも大丈夫。50を超えれば、子育てしていた人はちょっと落ち着くし、働き続けていた人も立場が上になって自分のスケジュール調整ができるようになる。また合流できるんです。
昨年、ひさしぶりに女子高時代の同窓会を開いたら、近況報告するだけで2時間半かかりました(笑)。病気のこと、離婚のこと、子供の不登校のこと、仕事での転職のこと……けっこうディープな話をまた一堂に会して話し合えるようになって。最後はみんなで明るく歌って終わったんです。ちゃんと繋がり続けられるんだなと思いました。
――とても楽しそうです!
住吉:私、40代になってから大親友に出会えているんですよ。生涯家族のように大事だと思っている友達に、趣味を通して出会えた。いくつになっても、どういう立場になっても、魂で繋がれる友達ってきっといます。あと、1人の友達に全部受け止めてもらおうとしなくて大丈夫。いろんな立場の友達がいると「この話は〇〇ちゃんとしよう」「仕事のことはこの人に聞いてみよう」と、バラエティある繋がりが自分を救ってくれる。いろんな人に頼るのを怖がらずに、女子トークをしてほしいと思います。
バーチャル同僚でいたい

――住吉さんのラジオ『Blue Ocean』やエッセイ『50歳の棚卸し』からも、どこか仲間のように感じさせてくれる雰囲気があると思います。
住吉:ラジオは本当に“バーチャル同僚”のような気持ちというか……特にコロナ禍以降、在宅勤務が増えた人も多いと思うのですが、「1人で仕事をしながら、ラジオの向こうの同僚の話を聴いている気持ち」とおっしゃってくださる方がすごく増えました。話している私の方も本当にそういう気持ちでいます。私自身が、女性の頑張っている先輩の姿を見て励まされたり、同僚たちと「頑張ろうね」と言い合うことで頑張れてきました。だから、「私も女性の味方でいたい、女性の力になりたい」というのは、ライフワーク的にずっと思っていることなんです。エッセイを書くときも、ラジオの仕事をしているときも、女性として生きている中で悩んでいたり、もうひと押し力が欲しいと感じていたりする方々に、私の経験談というエールが届くといいなと思っています。
プロフィール
フリーアナウンサー、文筆家、ラジオパーソナリティ。NHKアナウンサーとして15年間活躍し、『プロフェッショナル 仕事の流儀』『第 58 回 NHK 紅白歌合戦』総合司会などを担当。2011年にフリーに転身し、TOKYO FMの生ラジオ番組『Blue Ocean』(月〜金、朝9〜11時)のパーソナリティを務めて14年になる。2025年にエッセイ『50歳の棚卸し』(講談社)を上梓した。
衣装クレジット
シアーシャツ/モガ(03-6861-7668) 、デニムパンツ/フィーリック(03-6861-7668)
ピアス・リング(左手人差し指)/ケンゴ クマ プラス マユ(ヴァンドームヤマダ 03-3470-4061)
ネックレス/ヴァンドーム青山(ヴァンドーム青山本店 03-3409-2355)
リング(右手中指)/ヴァンドームブティック(ヴァンドームブティック 大丸東京店 03-6206-3688)




























