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<インタビュー>にゃるら&原口沙輔が生み出す新次元プロジェクト――テクノポップ・有機・シンセサイザーちゃん

インタビューバナー

Interview & Text:草野虹


 全世界で200万本を突破した人気インディーゲーム『NEEDY GIRL OVERDOSE』を手がけた“にゃるら”と、ボカロ・トラックメイカーシーンで異彩を放つ“原口沙輔”。この二人がタッグを組み、音楽を軸に生まれたキャラクター「テクノポップ・有機・シンセサイザーちゃん」が、初のオリジナル楽曲「エレクトリック・ミラージュ・感情」を公開した。

 現代のデジタルカルチャーと音楽の接点を再構築するかのように、創作・表現・テクノロジーの境界線を軽やかに越えるこのプロジェクト。果たして「シンセサイザーちゃん」が描く新しい“音楽とキャラクターの関係性”とは──。その誕生の裏側と、二人が目指す未来を聞いた。

”テクノポップ・有機・シンセサイザーちゃん”って?


――にゃるらさん、原口さん、テクノポップ・有機・シンセサイザーちゃん、本日のインタビューよろしくお願いいたします。まずはテクノポップ・有機・シンセサイザーちゃんへのインタビューさせてもらいますが、愛称などはありますか?こういう風に呼ばれたいといったようなニックネームがあれば教えてほしいです。

シンセちゃん:んー。なんだろ? シンセちゃんって呼ばれてる。あと、ポッちゃんとか?


――ありがとうございます。ではシンセちゃんと呼ばせてもらえれば。シンセちゃんの基本的なプロフィールをお願いします。年齢とか、性別、お名前がどういった由来なのかみたいなところをお話しいただければなと思うんですけども。

シンセちゃん:テクノポップ・有機・シンセサイザーは、テクノポップ・有機・シンセサイザーだよ。


――好きな音楽はなんでしょうか?

シンセちゃん:電子音楽全般。


――たとえばどんな方を聞いていますか?

シンセちゃん:最近聴いてるのは、YMOの「君に、胸キュン。」や、石野卓球さんが作曲した「だっこしてチョ」とか。あとはプラスチックスの「COPY」という曲、好き。




だっこしてチョ / 細川ふみえ




COPY


――事前に頂いたプロフィールで、「ゲームセンターやゲームが好き」と伺いました。好きなゲームジャンルはなんでしょう?

シンセちゃん:洋ゲーが好きなの。最近やったのは『Detroit: Become Human』。あとは『Cyberpunk 2077』とか『Life Is Strange』シリーズかな。じつは『Life Is Strange』はシリーズぜんぶやったことがあって、どれも良かった。




『ライフ イズ ストレンジ ダブルエクスポージャー』TGS2024トレーラー


――もしも好きな小説や映画があったら、教えてくれると嬉しいです。

シンセちゃん:『インセプション』『メメント』。


――こうやって活動すると決まった時の、シンセちゃんの心境を教えてください。

シンセちゃん:ゲームを始める時のワクワク。


――ゲームスタートしたときの感じに近い?

シンセちゃん:うん、それに近いかな。


――楽曲「エレクトリック・ミラージュ・感情」が10月22日にリリースされましたが、約5分ほどの楽曲を初めて聴いたとき、どういった印象でしたか?

シンセちゃん:なかなかやるよね。


――こちらの楽曲はミュージック・ビデオが制作されていて、草原の中にいるシンセちゃんの映像から、グリッチがたくさん入ったりエフェクトがさまざまにかかっていくビデオになっていて、とてもかっこよかったです。シンセちゃんは映像を見た時どう思いましたか?

シンセちゃん:綺麗で穏やか。




「エレクトリック・ミラージュ・感情」ミュージック・ビデオ


――さきほどまでアーティスト撮影をされてました。わたしも立ち会いましたが、とても興味深い瞬間でした。いかがでしたか?

にゃるら:今回松武秀樹さんのご厚意があって、YMOのライブで実際に使用されたアナログシンセの実機を持ってきていただいて、3人それぞれ撮影しました。自分はYMOが好きですし、このプロジェクトを始める一つのきっかけでもあります。ある意味ではゴールにたどり着いちゃったぐらいの感覚ではあります(笑)。

原口さんと松武さんが二人でライブしてるイメージとかもすごくかっこよかったですし、こういう機会を作ってくれた原口さんにはありがたいなと思ってます。


原口:松武さんに今回の件を伝えるのはどうだと提案したところ、YMOのツアーで使用したというアナログシンセサイザーをスタジオに持っていこうかと返事が来まして、ぜひとお願いしたんです。自分としてもほんとに驚いてしまいました。



テクノポップ・有機・シンセサイザーちゃん

――シンセちゃんは、実際見てみてどうでしたか?

シンセちゃん:かっこよすぎて震えた!!!


――あれほど大きいアナログシンセはなかなか見ないですからね。

シンセちゃん:見たことがないわけじゃなかったけど、実際に出会うとあんなにでかかったなんて、驚き。それに、あんなにぐるぐる巻かれるとは思わなかった。


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シンセちゃんという存在が音楽へと入り込んでいく
入口になれるといいんじゃないかな

――ありがとうございます。にゃるらさんと原口さんにお話を伺えればと思います。そもそもお2人が知り合うキッカケはどこからだったんでしょう?

にゃるら:自分が『NEEDY GIRL OVERDOSE』でAiobahnさんと楽曲を作っていたんですが、新しい方と新たな楽曲を作るという話になった時、原口さんに声をかけたことがきっかけです。

その時の制作も2人ですごく楽しかったですし、またなにかの機会でご一緒したいとその時から感じていて、結果今回のように制作を頼むことになりました。


原口:曲制作へといきなり進む前に、いちどにゃるらさんとお話する機会を設けさせてもらったんです。というのも、Aiobahnさんと楽曲を制作してきたこともあるので、本当にお受けできるか? 僕なんかが迂闊にその中に入って良いのか?と迷っていたんです。

ただお話ししてみると、『NEEDY GIRL OVERDOSE』としてお願いするというよりも、僕がなにを作るのかを聞きたいという風におっしゃっていただいて、やってみようと思ってお受けしました。


にゃるら:確かに。原口さんがどういうものを作ってくれるのか、『NEEDY GIRL OVERDOSE』を理由にして話しかけたようなイメージかもしれません(笑)。

原口さんから「いちど曲を作り上げて、そのあとにバラバラにしたものを作りたい」という話をされ、「きゅびずむ」「きゅびびびびずむ」という楽曲ができました。その発想がでてくるあたり、原口さんに頼んで良かったなと思いました。



――今回の「シンセちゃん」のアイディアはにゃるらさんから発信されたと聞きました。プロジェクトとして動き始めたのはいつ頃でしょう?

にゃるら:たしか2023年ごろですね。『NEEDY GIRL OVERDOSE』が終わったタイミングから動いていて、途中で止まっていた時期もあったんですが、無事にここまでやり遂げることができました。

原口さんには、プロジェクトが半分以上進んだタイミングで声をかけさせてもらいました。じつは、『NEEDY GIRL OVERDOSE』の制作が終わったあとも、たまに2人で連絡を取り合うような仲になっていたんです。そういった近しさもあって原口さんにお話をしてみたところ、原口さんが主宰しているCDs(原口沙輔を首謀者とするクリエイターグループ)から作曲家やトラックメイカーを紹介してもらうという話になり、このプロジェクトに参加していただく形になりました。


原口:今回の立ち位置としては、いわゆるキュレーターという立ち位置になります。なので必ずしも僕やCDsに関わっているメンバーが作曲をするわけでなく、「CDsのメンバーで見つけてきた面白い作曲家」をこのプロジェクトに呼びたいと考えています。

テクノやハウスをテーマにしていますが、だからといってその道の有名な方だけでなく、誰も知らないけどかっこいい音楽を作ってる人に声をかけていきたいですね。


――CDsが参加しているという点に驚かれる方も多いかと思います。このアイディアは自然と生まれたものなのでしょうか?

にゃるら:どちらかというと自分から「CDsでお願いします」と伝えた記憶があります。


原口:そもそもこの企画にあった人はいるのかどうか?という部分から、何人か僕から提案させてもらって、マッチした人が起用されている形になっています。「エレクトリック・ミラージュ・感情」を作曲したNamitapeさんは、まさにその流れで作曲をお願いする形になりました。


にゃるら:自分も新しいボカロPをどんどんフックアップしていきたいと思っているので、CDsの周辺でまだどうしてもメジャーにはなりきれていない作曲家さんをご紹介してくれれば、プロジェクト自体がすごく面白くなるかなと思ってます。


――ゲーム『NEEDY GIRL OVERDOSE』をリリースしたあと、ヒロインの超てんちゃんを通じて様々な楽曲をリリースしていきました。このタイミングで音楽とキャラクターという結びつきでコンテンツを生み出そうと考えたキッカケや経緯を教えていただきたいです。

にゃるら:自分はこれまでVTuberさんとの楽曲で作詞を担当する機会が多かったわけですけど、キャラソンぽいものよりも、音楽そのものにもっと寄り添ったコンテンツを出したいなと思っていたんです。

あと、自分と原口さんが雑談している内容ってYMOやKraftwerkの話が多いんですよ、原口さんはもちろん自分もすごく好きで、そのフィーリングがかなり大きかったんです。

音楽をモチーフにしたキャラクターとして作ってみたい、キャラクター性よりも先に「テクノ」というものを立たせる。これは面白いなと思って決めましたし、原口さんとだったら実現できるかなと感じています。



原口沙輔

――一連のアイディアや具体的なお話を聞いて、原口さんはどう思われましたか?

原口:このアイデアをちゃんと実現するまで持っていきたいなって思いましたね。ただ、かなりニッチな層に向けたものになるし、関わる人間全員がしっかり動いていかないと実現しないなと思いました。僕もできる限りサポートさせていただきたいなと思ってます。


――次はシンセちゃん含めて3人に答えてほしい質問です。今後、シンセサイザーちゃんが発表する楽曲を、どういった人に聞いてもらいたいと思っていますか? もしくはこういう人に聞いてほしいというお答えでも構いません。

原口:答えてほしいお答えとはすこし違いますけど、いったん何も考えずに聴いてもらいたいですね。初見だったり初めて知る方が気に入ってくれたらそれはそれで面白いなと思うし、こういう音楽がもともと好きな方が聴いて気に入ってくれても、とても嬉しいなと思います。


にゃるら:自分はVTuberさんやアニメ作品などで作詞をする側の人間ですが、インスト寄りなものしか聞かなかった人たちがシンセちゃんの楽曲を聞いたらどうなるんだろう? とは思いますね。

自分の名前や原口さんの名前をみて聞いてみようとなった人が、「こういうのあるんだ」って気づいてもらえれば嬉しいですね。こういうテクノがあって、シンプルな歌詞で音の気持ち良さが優先された音楽があるんだなって知ってもらえれば。


シンセちゃん:もしわたしの音楽を聞いてもらって、さらにもっと過去の音楽だったり、いろんなテクノや電子音楽の楽曲にすこしずつ興味を持って聴いてくれる人が増えたら、面白いし嬉しい。


――今回の「テクノポップ・有機・シンセサイザーちゃん」というプロジェクトは、VTuberやボカロという領域ととても近いと思いますし、にゃるらさんや原口さんを知る方の多くがそういった領域のファンの方じゃないのかなと思います。VTuberやボカロといった領域・コンテンツとはなにが違うのかというのをお話いただければ嬉しいです。

にゃるら:まずは肉感ですね。いわゆる絵の世界からはみ出てきて、こうしてパフォーマンスをしてくれる点は違うかなと。ボーカロイドやVTuberではないアニメカルチャーにある程度依っている女性ボーカルの方々が、どのように活動していけばいいのか。シンセちゃんに興味を持ってくれた人にも考えてもらいたいですね。


原口:ボーカロイドでもなく、VTuberでもなく、「シンセちゃん」である。それだけですね。どちらかに分類しなくてはいけないものでもない。シンセちゃんを聴く人・知る人に、解釈を委ねている部分もあると思ってます。

VTuberも最初は3Dかつ動画メインでしたけど、急にLive2Dのビジュアルが出てきた時に、「これは同じにしていいのか」みたいな話がありましたよね。

逆にいうと、さらにもっとキャラクターっぽい方、アバターとして一枚絵だけを出している方、VSingerの方々は、いまVTuberと括られていますけど、ここにシンセちゃんという存在をぶつけることで、皆さんはどう解釈するのか、どこに分類するのかというのを見ている感覚といっていいかもしれないです。


にゃるら:もともと自分は音楽のひとではないですし、ゲームをつくって、実はいまアニメ制作も進めている状況でして、一般向けになにかする必要はあまりないんです。でもそんな中でも、常になにかに挑戦しなければ自分がやる意味もないと思っています。

外様の人がやってきて、好き勝手が暴れて、どうなるのかなと世界に投げかけているような気持ち。原口さんがおっしゃってくれた気持ちと同じですね。



にゃるら

――始まったばかりのプロジェクトですが、ライブの予定はあるのでしょうか?

にゃるら:ぜひやりたいなと思っています。ただ自分はDJイベントや音楽ライブには全然いかないタイプでして、ライブやクラブイベントがよく分かっていないんです。原口さんからライブイベントやDJイベントについて聞いて、どんな会場が良いかを今後考えていきます。

自分のなかで肌感がないので曖昧なんですけど、シンセちゃんがパーティのメインとして出演していて、カジュアルな層から音楽好きな層までひっくるめたパーティができたら良いなと思います。「この子がいたらいちど試しにクラブへ楽しみに行ってもいいな」と思えるくらいの、そういうシンボルになればいいと思います。

自分はオタク皆さんのコミュニティが好きですし、シンセちゃんという存在が音楽へと入り込んでいく入口になれるといいんじゃないかなと思ってます。当然これは理想の話なんで、実際にどうなっていくかは楽しみにしてほしいです。


――シンセちゃんがライブ配信をしたり、ラジオの出演などはありえるんでしょうか?

にゃるら:お呼ばれすればやりたいなと思いますし、シンセちゃんがやりたいといえば、自分たちからは全然止めないです。


シンセちゃん:ふふっ。


――最後に3人それぞれにお答えいただきたいのですが、このプロジェクトを通じてやりたいことはありますか? これができたら嬉しいと感じられることを、ひとつあげるとするならなんでしょうか?

にゃるら:先にも話しましたが、自分はあんまりクラブシーンとか知らないので、シンセちゃんをメインにしたテクノポップなイベントやったときは、それを客の1人として体験してみたいです。それは単純に面白そうだなと思って。


原口:シンセちゃんにはイベントの主催であってほしいなと思っていて、シンセちゃん主催のイベントというか、シンセちゃんがいるところにパーティあり! であってほしいんです。そういうのを1回2回ではなくずっと続けていって、ちゃんと規模も大きくしていきたいですね。最後には、僕が生きている内にもう一度【WIRE】(1999年から2014年まで開催されていたテクノ・ミュージックのレイヴ・イベント。横浜アリーナやさいたまスーパーアリーナなどで開催され、00年代には国内最大級のレイヴイベントとして名を馳せていた。)のような、大きなテクノイベントを主催しているシンセちゃんを見てみたいですね。


――シンセちゃんはいかがでしょう?

シンセちゃん:わたしもパーティがいちばんやってみたい。クラブって、一人で行っても不思議と誰かと繋がれるというか…。誰かと話さなくても、同じ音で揺れているだけで通じ合える瞬間があって、そういう音でつながる空間がすごく好き。


――自分がメインアクトになっているイベントをやってみたい?

シンセちゃん:それよりも、テクノ好きだったり、興味あったり変な人集めたい。そういう人たちを自分のイベントでいっぱい集めたい。CDsのみんなといっしょに楽しいパーティを作ってみたい。



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