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<コラム&お祝いコメント>やなぎなぎ【Special Live from 『EN』 to 『ENcore』】開催記念特集――音楽活動20周年、唯一無二の歌声と世界観を持つ音楽家の足跡

Text:日詰明嘉
やなぎなぎ音楽活動20周年、その足跡を辿る
自分が作った音楽を投稿サイトにアップロードしたところ、それが評判を呼び、さまざまなクリエイターからオファーの声がかかり、やがて大手レーベルからアニメソング主題歌でメジャーデビューを果たす……と記すと、どんな夢物語、あるいは過去にどこかで聞いたサクセスストーリーではないかと、素通りされるかもしれない。だが、この話が20年前のYouTubeが正式サービスを始める前のような時代に実際にあった事実だとしたら、いかがだろうか。シンガーソングライター・やなぎなぎは、こうしたエピソードが世間で“どこかで聞いた話”として扱われるような今日に至るまで、この道筋の先頭に立って灯りを照らしてきたトップランナーだ。
あらためて、やなぎなぎのキャリアを具体的に振り返っていこう。ネットを通じて彼女が自身の楽曲を世に発表するための投稿先として選んだのは、YAMAHAが運営していた『YAMAHAプレイヤーズ王国』だった。ネットコミュニティが現在ほど均一化していなかった2000年代、ここは当時としては珍しく既存曲のカバーを許可していたことが特徴で、音楽好きの中でもとりわけ創り手に近い人々が集まるコミュニティだったという。やなぎなぎは中学生の頃からアイスランドやアルゼンチンのエレクトロニカやアンビエントを聴いていたような音楽通で、自作曲を作る研究の一環としてカバー曲をアップしていた。自身としては注目を集めるための手段として歌モノにしていたそうだが、すでにこのときから歌声を褒められることが多かったという。
こうした音楽の自主制作界隈は小さなコミュニティで、熱心なリスナーだと思っていた相手が自分の推しだった、といったことが珍しくなかった。この頃のネットに投稿するクリエイターはより個性的な音楽を嗜好する人々が多く、ニッチな同好の士に出会えた喜びの大きさは想像に難くない。そうしたなかで、クリエイター同士のコラボも頻繁に行われ、音源はコミックマーケットや自主制作音楽専門の即売会【M3】などでリリースされていった。後述する『EN』もこの2006年に作られたもので、当時の音源は機材的な要素を除くと、すでに彼女の独特な世界観やサウンドスケープが確立していることが窺える。
その約1年後にネット上の音楽創作コミュニティは激動する。ニコニコ動画とボーカロイド『初音ミク』の登場だ。初期は創作界隈も手探りの状態が続いていたが、ミクの発売後3か月ほどで発表された「メルト」は圧倒的なクオリティでたちまち人気となり、多くの“歌ってみた”シンガーを生み出した。やなぎなぎもガゼル名義で歌い、このときマッシュアップがのちにryo(supercell)が制作した「君の知らない物語」(TVアニメ『化物語』エンディングテーマ)へのゲストボーカルとしての起用につながる(nagi名義)。彼女の声を世間一般に広く知らしめ、いまだにカラオケの上位にランキングされるほど歌われている楽曲で、耳馴染みの多い方もいることだろう。
supercell - 君の知らない物語
そして2012年、やなぎなぎは「ビードロ模様」(アニメ『あの夏で待ってる』エンディングテーマ)で待望のメジャーソロデビューを果たし、これを含めてこの年に3作のアニメ主題歌シングルをリリースし、快調なスタートを切った。また、この年はもうひとつの重大な出来事として、コラボレーションで作ったコンセプトアルバム『終わりの惑星のLove Song』の発表が挙げられる。
これは恋愛ゲームの傑作『Kanon』、『AIR』、『CLANNAD』などで脚本・音楽を手掛けたマルチクリエイターの麻枝准が、やなぎとのコラボを熱望したところから生まれた作品。このときのコラボで蒔かれた種が10年後、麻枝が脚本・音楽を手掛けたRPG『ヘブンバーンズレッド』における、作中音楽のボーカリストとしてのやなぎの起用へとつながる。作品は麻枝の最大のヒットを記録し、やなぎが歌った楽曲は30曲近くにまで増え、定期的に音楽イベントも開催されるなど展開も活発。このゲームをきっかけにやなぎなぎの名前を知った人も少なくないだろう。
2013年には上記アニメソングに続けて大ヒット作品『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』の主題歌「ユキトキ」を歌い、大きな人気を獲得する。これらシングルカットされたアニメ主題歌は、いずれも第一線のクリエイターから楽曲提供を受けたもので、その音楽ジャンルもアニメ作品のテイストに合わせてさまざま。エレクトロニカもあればヘヴィな変拍子ロック、軽快な青春ロックまで多様性に富んでいる。それらの楽曲をやなぎが歌いこなすというよりも、むしろクリエイター側が彼女の歌声に寄せていきたくなるような個性や表現力があり、規模は違えどもコラボに引っ張りだこだったインディーズ時代を思い起こさせる。
やなぎなぎ「ビードロ模様」Official MV (short ver.)
やなぎなぎ「ユキトキ」Official MV (short ver.)
また、特筆すべきはデビューシングルから作詞を担当していること。作品の解釈や作中のワードを拾うセンス、それらを内包したストーリーテリングは、自主制作やゲストシンガーの頃にはなかったスタイルだが、デビューの段階でこのスキルが完成されていることにも驚かされる。近年の彼女は声優やVTuberへの歌詞提供もさかんに行っており、他者へ向けたさらなる歌詞の紡ぎ出し方でそれぞれのファンを喜ばせたりもしている。2013年7月にはメジャー1stアルバム『エウアル』をリリース。アルバム曲の中にはついに“作編曲:やなぎなぎ”の文字が踊り、彼女の世界観やクリエーションがメジャーシーンにおいて轟くようになる。
イベント情報
やなぎなぎ Special Live from 『EN』 to 『ENcore』
2025年11月2日(日)
神奈川・ビルボードライブ横浜
1stステージ 開場15:00 / 開演16:00
2ndステージ 開場18:00 / 開演19:00
https://www.billboard-live.com/yokohama/show?event_id=ev-20963
2025年11月3日(月・祝)
大阪・ビルボードライブ大阪
1stステージ 開場15:00 / 開演16:00
2ndステージ 開場18:00 / 開演19:00
https://www.billboard-live.com/osaka/show?event_id=ev-20964
やなぎなぎ「Roundabout」Official MV (Full ver.)
メジャーデビュー前は音源をじっくり制作するイメージが強かったやなぎなぎだが、以降はライブ活動も精力的で、ライブ制作は彼女の活動の大きな柱のひとつになっている。アルバム発売に伴うライブのほかに、2014年にはコンセプチュアルライブ【color palette~blue~】を開催。以降ほぼ毎年のように続けられているライフワークともいえるライブシリーズだ。このライブでは毎回、あるひとつの色を決め、それがモチーフとして使われている自身の楽曲やカバー曲を歌う。キャリアを重ねるごとに楽曲も増えてくるため、複数日で開催されたり、意外な色が選ばれることもある。ファンにとってはセットリストを予想する楽しみもあったり、色選び自体から想像する人もいるようだ。2018年は【color palette ~2018 Black~】を開催し、5日間連続で毎日違った編成で公演するチャレンジングな企画を行っている。
また、2022年は10か月連続で異なるゲストを呼んで行うライブ【Roundabout】を開催。そして、2025年はカバーソングだけで構成した2daysのライブを行った。デビューアルバムの時点から特典CDにカバーソングを入れたり、【color palette】のセットの一部にはカバーソングコーナーを盛り込んでおり、それらを発展させた格好だ。歌声はもちろん、楽曲のアレンジにおいても彼女の世界観が色濃く現れており、こうした公演はファンのためだけではなく、自身のクリエイティビティをより多彩にし、ライブと音源が活動の両輪となっている。
2025年を音楽活動20周年と位置づけ、“第2期”を掲げて施策を続けているが、決して急激なシフトチェンジではなく、メジャーデビュー10周年の2022年頃からさまざまな準備を進めてきたことがうかがえる。先のライブ【Roundabout】は10周年記念の同名アルバムに基づいたもので、ファンからの投票をもとに選曲された楽曲で構成されている。その中には自主制作時代の作品が収録されており、これは同時に彼女には熱心なファンが付いていること、それに応えるアーティスト側の姿勢も同時に示している。
また、ライブの【Roundabout】ではゲストに彼女が敬愛してやまない新居昭乃を迎えた公演もあり、それが次の“第2期最初の”(メジャー通算7th)アルバム『ホワイトキューブ』における新居とのコラボ作品制作へとつながる。新居は86年にデビュー。独自の幻想的な世界観に基づく音づくりや透明感のある歌声、内面に訴えかける歌詞など、時代に左右されない作品作りで音楽通のあいだで根強く愛される実力派アーティストだ。やなぎなぎもそのひとりで、特徴に共通点もあり自他ともにその影響を認めている。ファン層の重なりも少なくないだろう。こうして近年のやなぎなぎの活動を見てみると、デビュー10年から、次の10年へステップするためのリスタートとしての“第2期”の宣言であり、そのなかで自身が温故知新をしようと引き出しを開ける気配をうかがわせる。
そうして届けられたのが音楽活動20周年記念アルバム『ENcore』だ。これは最初の自主制作EPである『EN』と、当時に作った未発表曲からなる12曲の作品。歌詞とメロディ以外をリメイクし、歌も再レコーディングしたというセルフプロデュース作品だ。筆者のインタビュー(https://e-talentbank.co.jp/news/music/587481/)に彼女は「改めて歌詞や曲を聴いてみると、今の自分とあまり変わっていないなという気もしました。やはり根っこは同じ自分なんだなと思いながら向き合っていた気がしますね」と答えたように、やなぎなぎの世界観が初期衝動のまま保存されており、そこにこの20年の月日で磨かれた音楽クリエイターとしてのスキル全般が遺憾なく発揮されている。
「懐かしさと新しさが混ざっていくのは面白い感覚でした。当時は自分の未熟さゆえにできなかったことや、『もっとこうできたら良かったのに』と思ったことを制作に詰め込めたので、今の自分がリメイクした『ENcore』という1枚の形にしっかりまとめられたなと思っています」(同インタビュー:やなぎなぎ談)。
やなぎなぎ「花のいのち」
アニメ主題歌であってもやなぎなぎの楽曲から彼女らしさが減衰することはないが、それでも『ENcore』に収められた楽曲たちは濃厚だ。何度も考えを巡らせ、自分と照らし合わせて初めて輪郭が見えてくる歌詞の楽曲もあれば、アレンジをドラマティックに磨いて作品世界を迫らせてきた「虹彩」のような楽曲もある。やなぎなぎの特長であるハイトーンを生かした曲もあれば、彼女の見ている世界を透視しているような、世界観を語りかけるような歌い方の曲もある。楽曲自体に耳を傾けると、ケルティックでアコースティックでゆったりとした空気感だからこそ映えるメロディがあったり、彼女のルーツであるアンビエントなアレンジがされている曲もある。やなぎなぎが作った最古の楽曲だという「花のいのち」は、「新居昭乃さんのように曲を作ってみたいと思い浮かべながら作りました」(同インタビュー:やなぎなぎ談)という曲だが、やなぎなぎの魅力のひとつであるウィスパーやヒーリングなコーラスが彼女らしく生き生きと吹き込まれている。
こうした音楽がライブで披露される機会がやってくる。作品づくりからして、大規模で行うことは考えにくい。世界観を大切にして、ひっそりと皆で見守るようなイメージだろうか。彼女が大事に作り上げる音の世界に浸れるような音響だとうれしいかもしれない。作品のクリエーションの成立からして、こうしたパッケージングで一気に聴くことができる機会は今後また訪れることはなさそうだ。アルバムを何度もリピートするように昼夜公演続けて来る聴き方があってもいい。やなぎなぎの原点がもうすぐあなたの目の前で幕を開ける。
イベント情報
やなぎなぎ Special Live from 『EN』 to 『ENcore』
2025年11月2日(日)
神奈川・ビルボードライブ横浜
1stステージ 開場15:00 / 開演16:00
2ndステージ 開場18:00 / 開演19:00
https://www.billboard-live.com/yokohama/show?event_id=ev-20963
2025年11月3日(月・祝)
大阪・ビルボードライブ大阪
1stステージ 開場15:00 / 開演16:00
2ndステージ 開場18:00 / 開演19:00
https://www.billboard-live.com/osaka/show?event_id=ev-20964
逢田梨香子

やなぎなぎさん、音楽活動20周年おめでとうございます!!
supercellさんの楽曲ももちろんですが、デビューシングル「ビードロ模様」からずっとずっとなぎさんの楽曲に触れてここまで生きてきました。私にとってなぎさんは、人として、アーティストとして、心から尊敬している存在です。
とてもありがたいことに、念願叶って2020年には「Tiered」という楽曲を提供していただきました。ずっと1ファンとして楽曲を聴かせていただいてきた身として、なぎさんの紡ぐ世界の楽曲を私が歌えるなんて、、、と夢のような出来事でした。
なぎさんの楽曲は私の日々には必要不可欠な存在で、プライベートでは癒しをもらい、お仕事をしている中では沢山刺激をいただいてます。
これからも変わらず、ずっと大好きです!
南條愛乃

なぎさん音楽活動20周年、そしてBillboard Liveでの公演決定おめでとうございます!
なぎさんとは私の楽曲「一切は物語」でご一緒してからのお付き合いとなるので、今年で8年?とかになりますね。ずっとずっと変わらず穏やかで繊細な空気感のなぎさんですが、意外にも激し目な(?)ゲームが好きだったり、なんでも自分でできちゃう器用さと天才的なアウトプットスキル、そして様々な知識を得るための行動力をお持ちで、こんなに柔らかい空気をまとっているのにガッツのある生き方でほんといつもカッコいいなと思ってます。
そんななぎさんが歌われる天国にいるみたいな綺麗な楽曲と歌声はやっぱり唯一無二ですし、それをBillboard Liveで聴けるなんてめちゃくちゃ贅沢な時間、私も早く味わいたいです。そう、もう勝手に行く気満々です。言うまでもなく皆さんも楽しみにしていると思いますが、全身でなぎさんワールドを堪能しましょうね!!!
AZKi

やなぎなぎさん、音楽活動20周年、誠におめでとうございます。
静かな情熱と繊細な表現力を兼ね備えたその音楽に、いつも深く心を動かされています。
「map in the cup」でご一緒できたことは、今でも私にとって大切な宝物です。
やなぎなぎさんの音楽は、静かに寄り添いながらも確かな光を届けてくれる存在です。
これからも、やなぎなぎさんの音楽がたくさんの人の心に温かな風を届けていくことを願っています。
大神ミオ

やなぎなぎさん、音楽活動20周年、そしてライブの開催おめでとうございます!!!
やなぎなぎさんの作る曲の暖かさ、優しさが大好きです。
先日リリースされたアルバム『ENcore』拝聴いたしました。静かな海の中に浮かんでいるような...やなぎなぎさんの透き通るすばらしいお声がしっかりと堪能できるアルバムとなっており、最高でした!
大神ミオのオリジナル楽曲「little pack」をやなぎなぎさんに制作していただいたのですが、本当に素敵な曲でして。
宝物のような大好きな一曲となりました。
やなぎなぎさんの作る、奏でる音楽が大好きな一ファンとして、これからのご活躍応援しております!
天音かなた

やなぎなぎさん、ライブ開催、そして活動20周年本当におめでとうございます!歌をうたい続けてくれてありがとうございます。
ホロライブ所属のVTuber天音かなたと申します。以前作詞をしていただいたご縁がありコメントさせていただいてます。
私の人生にはずっとやなぎなぎさんの歌声があって、人生の半分はやなぎなぎさんの歌と共に過ごしてきました。昔毎日「羊の群れ」を聴いて寝ていました。
やなぎなぎさんの歌を何百曲、何千回と拝聴しました。それでもまだまだ聴き足りません。
今回300文字以内でコメントと言われているため急に終わりますが、これからも歌声を聴かせていただけると嬉しいです。ライブも心から応援しております。
イベント情報
やなぎなぎ Special Live from 『EN』 to 『ENcore』
2025年11月2日(日)
神奈川・ビルボードライブ横浜
1stステージ 開場15:00 / 開演16:00
2ndステージ 開場18:00 / 開演19:00
https://www.billboard-live.com/yokohama/show?event_id=ev-20963
2025年11月3日(月・祝)
大阪・ビルボードライブ大阪
1stステージ 開場15:00 / 開演16:00
2ndステージ 開場18:00 / 開演19:00
https://www.billboard-live.com/osaka/show?event_id=ev-20964
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