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<インタビュー>シド、22年の積み重ねを経た新たなチャレンジは『Dark side』――攻めの姿勢を崩さない4人が今、思うこと

Interview & Text:西廣智一
シドが最新EP『Dark side』をリリースした。本作は10月5日からスタートするコンセプチュアルなライブツアー【SID TOUR 2025 ~Dark side~】とリンクしたもので、シドのダークな面を押し出した世界観にスポットを当てて制作。ツアーでも本作収録曲はもちろん、これまでに発表してきたシドのダークサイドを表現した楽曲群を軸に、独創的な世界が構築されていくことになる。
2023年にバンド結成20周年という大きな節目を迎え、今もなお新たな挑戦に取り組むシド。この“攻め”に対するメンバー4人の思いやそれぞれが考える“ダークサイド”、そして22年も続くバンドに対する今の思いなどを聞いた。
新しい刺激となった“ダークサイド”
――10月から始まる新たなワンマンツアー【SID TOUR 2025 ~Dark side~】の情報がこの7月に解禁された際、まずそのアーティスト写真が話題となりました。特にShinjiさんのビジュアルに対して、驚きの声が多かったようですが……。
Shinji(Gt.):そうですね。普段からメンバーの中でもメイクをあまり濃くしないほうだったので、おそらくファンの皆さんも驚かれたんじゃないかなと思っています(笑)。
――そのツアー【SID TOUR 2025 ~Dark side~】について詳しくお聞きします。昨年は「白」と「黒」2つの世界で構成されるコンセプトツアー【SID HALL TOUR 2024 ~Monochrome Circus~】を行い、今年はダークサイドにスポットを当てたツアーを開催することになりましたが、今回のコンセプトやアイデアはどのような過程を経て発案されたものなのでしょうか。
マオ(Vo.):EPのリリース日程とツアーのスケジュールが決定した段階で、今回はそのふたつをリンクさせたものにしたいなと思ったんです。シドが持っている強みや特徴的な部分ってどういうところかな?と振り返ってみると、“曲の幅広さ”が大きいじゃないですか。その中でもダークな楽曲ってどれくらいあるのかなと調べてみたら、かなりの数があったので「これだけでツアーを1本やれるな」と思い、そこからいろんなアイデアが浮かんできて、メンバーにもどんどん提案していって。かつ、EPというフルアルバムよりも少ない曲数の作品を作るんだったら、せっかくならフルアルバムではできないぐらい自由度の高いことをやりたいなと思いましたし、自分たち的にも新しい挑戦とか新しい刺激になって、かつファンのみんなも驚いてくれるようなことをやりたかったので、そこでもダークな側面にスポットを当てた作品が作れるんじゃないかと思ったんです。
――なるほど。マオさんのこのアイデアを聞いたとき、皆さんは最初にどう思いましたか?
ゆうや(Dr.):めちゃくちゃいいなと思いました。僕自身はマオくんみたいに全曲振り返ったわけではないので、「そうだったんだ」という驚きはあったんですけど、確かにシドにはダークめな曲が多い印象がありましたし、それこそうちらが最初に出したアルバム『憐哀 -レンアイ-』(2004年)もだいぶ暗かったですし。暗いとかダークにおいてもいろいろ幅がありますし、その側面にスポットを当てて新しいツアーをやれるのがバンドとしても新しかったので、すごくいいなと思いました。
明希(Ba.):すごく明確で、何よりもファンの方が今いちばん見たいシドがすごく詰まっていると思ったので、僕も初めてこのコンセプトについて聞いたときから自分の中で合点がいきましたし、いろいろとすぐイメージできましたね。
Shinji:シドって明るいイメージを持たれている方が多いかと思うんですけど、もちろんそれだけではないですし、自分自身はわりと暗いものを表現するのが得意なほうだったので、マオくんから説明を受けたときは「そういうこと、自分も思ってた!」ぐらいの感じですぐイメージできました。とはいえ、僕自身は普段の生活からトゲトゲしているわけではないですし(笑)、ツアーがどういう感じになるのかは始まってみないとわからないところもあるので、今からすごく楽しみです。
シド 『Dark side』Teaser Movie
――そのツアーとリンクした新作EP『Dark side』ですが、曲作りにおいてもダークさを意識して制作に臨んだのでしょうか?
明希:そうですね。多分みんなそうだと思うんですけど、本当にコンセプトがわかりやすかったので、明確なイメージを持って制作に臨んだんじゃないかなと思います。
――明希さんにとってダークな世界観って、おそらくいろんな表現方法があると思うんですけど、今作においてはどういうところに焦点を当てましたか?
明希:コンセプトと曲がリンクしているのはもちろんなんですけど、その中でも今までにないテイストを加えたいなっていうのは個人的にあって。果たしてそれはどんな音なのか、どんなメロディなのか、そういうところから広げて作っていった感じですね。で、その答えが「0.5秒の恋」で表現されているとことん激しく攻撃的なサウンドだったのかなと思います。
――ゆうやさんはいかがでしょう?
ゆうや:ツアーとリンクしたEPということもあって、今回はライブの画を想像しながら作りました。たとえば、ダンスビートというか四分打ちのリズムを取り入れた楽曲って、昔からのお客さんも新規の方もすごくノリやすいけど、ここ最近のシドにはあまりなかったかなと思うのでそういう曲を作ろうと思いましたし、加えて導入からすぐにアクションを起こせそうな曲っていう部分もすごく意識しました。
――おっしゃるように、ゆうやさんが今回作曲された「記憶の海」や「悪趣味」はライブでお客さんが盛り上がっている画が、容易にイメージできる曲調ですものね。
ゆうや:僕ら4人がステージでこれを演奏していると、ここできっとお客さんはこんな感じになるんだろうな、みたいな。そういうイメージが湧いてくる楽曲になったと思います。
――EPの冒頭を飾る「記憶の海」はダークな世界観をまといながらも、浮遊感の強いメロディが特に新鮮で。かつ、サビになるとすごく解放感の強いメロディに従来のシドらしさを感じるという、そのバランスが絶妙だなと思いました。
ゆうや:確かに。サビでちょっと開けて、四分打ちですごくノリやすい状態に持っていくまでの、緊張と緩和じゃないですけど、その感じがすごくいいんじゃないかなと思います。
――その一方で、「悪趣味」はストレートな曲調の中で、楽器隊がそれぞれ個性を発揮させているという、聴きどころの多い仕上がりになっています。
ゆうや:これはまさに、さっき言ったような「頭からすぐにアクションが起こせそうな曲」を意識して作ったもので、リズム的にも四分打ちで始まるわけです。しかも歌始まりなので、お客さんも手拍子をしやすいかなとか、テンポ感込みで考えました。あとは、とにかくギザギザさせたいなっていう(笑)。耳がジャキジャキするような音にしたいなっていうイメージが、すごく強かったです。

――こういう楽曲群において、特に今作ではギターがヘヴィさやダークさを演出する上で重要なポジションを担っていると思います。Shinjiさん、ギターに関して今作でこだわったポイントはいかがですか?
Shinji:曲にもよるんですけど、まずチューニングからダークさにこだわりましたし、あとは音色やフレーズ選びでもダークに寄せるアレンジをすごく意識しました。たとえば、ゆうやの曲はチューニングもドロップD(6弦を1音下げるチューニング)で重めなんですけど、音自体はわりとハイ(高音)が強調されて耳に突き刺さるような感じで。普段だったら削ぎ落としちゃう部分をわざと出したエッジーな感じというか、重さの中にも軽快さがあるサウンド作りはだいぶ意識しましたね。
――Shinjiさん作曲の「shout」はリフワークを含めてグルーヴィーさが強調されていて、ダークさの中にも気持ちよさがある仕上がりですよね。
Shinji:この曲はみんなと話し合って、リフで押す曲にしようということになって。シドの曲作りにおいてはメロディ中心になることが多いんですけど、「shout」ではそれよりもノリ重視で振り切ってみようということで、こういうアレンジになりました。
――曲中に出てくる〈Oi! Oi!〉の掛け声含め、ライブでとにかく楽しもうという空気が伝わってきます。
Shinji:まさにその通りで。あと、この曲に関しては一発録りというのも、ノリ重視を表現するうえで大きいのかな。みんなで「せーの!」で演奏して、2〜3テイクで終わらせるぐらいの荒々しさがこの曲には欲しいなと思ってやりました。
――ギターソロもだいぶ暴れていますものね。
Shinji:そうなんです。ギターソロも普段だったら別録りするんですけど、そこもあえて一発録りの中でソロを弾くという。ちょっと現代的なレコーディング手法から逆行した、アナログな感じでやらせてもらいました。

――「shout」はリズム隊が放つ疾走感も非常に気持ちいいです。
明希:やっぱり一発録りならではの空気感がちゃんとパッケージされたんじゃないかなというのは、完成した曲を聴いて思いますね。きれいに録ることからかけ離れた、ちょっとダーティーな部分もしっかり意識しながら弾いたので、コンセプトにすごく沿ったサウンドになったかなと思います。ただ、リズム的にはだいぶ速いんだよね。
ゆうや:本当にそう(笑)。これ、リズムの取り方的にも八分で取れちゃうギリギリくらいのラインなので、体力的にもちょうど疲れるくらいのテンポ感なんですよ。しかも「せーの!」で録ったので、レコーディングもライブをしているような感覚でした。
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コンセプトに引っ張られて
――ボーカルにおいても、ほかの曲と比べると荒々しさが伝わってきます。
マオ:今回は4曲ともそれぞれ色が異なるので、それぞれの色に合った歌い方を意識しました。なので、「shout」は演奏の荒々しさに引っ張られたところも大きいと思います。
――作詞に関しても、ダークな世界観を意識した表現になったのかなと思いますが。
マオ:そうですね。楽曲自体がダークな空気感をまとっているので、歌詞も必然的にそういうカラーになりました。
――マオさんの中でイメージするダークさだったり、ダークな世界観を表現する際の言葉遣いだったり、そういうところでのこだわりって何かありますか?
マオ:言葉にはなっているんですけど、結局は感情じゃないですか。その感情とは怒りであり悲しみでありつらさであるわけで、いわゆる負の感情をいかにダークに表現するか……怒りだって、悲しみだってポジティブに表現することもできると思うので、そこの表現の仕方でいかにダークな側面を見せていくかというやり方ですかね。なので、ポジティブ/ネガティブどちらからでも書けるものであったとしても、今回はすべてダークなカードを選んで、全部引いていくような作業をしました。
――今回特に印象的だったのが「悪趣味」の歌詞で。「悪趣味」っていうタイトルもインパクトが強かったですけど、この歌詞の中で描かれている世界も個人的にすごく引っかかるものがありました。
マオ:ありがとうございます。「悪趣味」の歌詞は今回の4曲の中でも、わりと大人な歌詞ですよね。ダークな中にも、ちょっとエロ要素が入った曲がひとつくらいあってもいいかなと思いましたし、単純にエロいというよりは、俺にしか書けないエロい世界をもう1回提示できるかなという意味で書きました。今回の4曲それぞれタイプが異なるので、「悪趣味」がいちばん好きという方もいるんじゃないかなと思いますし、いちばんに選んでもらえたら嬉しいですね。

――「0.5秒の恋」についても聞かせてください。明希さんが先ほどおっしゃったように、この曲はかなりヘヴィ側に振り切っていて、演奏からはラウドロック的な質感も強く感じられます。
明希:ダークというコンセプトにぐいぐい引っ張ってもらって、こういう形に振り切ることができました。かつ、演奏に関しては特にギターがこのダークでヘヴィな世界観を担ってくれていて。
Shinji:この曲のキーはCマイナーなんですけど、レギュラーチューニングのままだとラウド感とかヘヴィさを出すのが難しくて。なので、これまでのシドではなかったドロップC(6弦を2音、その他の弦を1音ずつ下げる)というチューニングを取り入れています。
ゆうや:「0.5秒の恋」は荒々しさや激しさの中にも縦ラインを意識したキメが用意されているので、ドラムもそこをかなり意識していないと、スピードも速いからぐちゃぐちゃになっちゃうんです。ある意味ではライブとは違ったポイントを意識して叩かないといけなかった曲ですね。
――この曲はMVも制作されています。
明希:ダークというコンセプトとヘヴィな曲調が、ああいう世界観の映像とかっちりハマりましたね。ここ最近はスローで大人っぽい曲でのMV制作が続いていたので、ここでガラッと変わった打ち出し方ができたのも、個人的にはよかったかなと思っています。ただ、撮影のときがクソ暑くて、当時の記憶があんまりないんですよ(笑)。廃墟みたいなところで撮影したんですけど、電気も通ってないからエアコンもなくて、ものすごく暑くて。それだけはよく覚えています(笑)。

0.5秒の恋 / シド
結成20周年の節目を越えた今
――EPの話題からは逸れますが、シドのインタビューがBillboard JAPANに掲載されるのは2023年の4月以来。前回はちょうど結成20周年のタイミングでした。あれから2年以上経過しましたが、大きな節目を超えた今のシドとの向き合い方やバンドのあり方、あるいは新たに発見したことや再確認できた変わらないことなど、皆さんの中で見つけられたものはありましたか?
ゆうや:たとえば、その1年1年で何をやろうか、これをしようかっていうことを、20周年のときはいつもよりも大きいことを思い描いたと思うんですけど、22年目に突入した今もダークサイドに振り切った作品を作ったりツアーをしよう、なんていうのも初めての提案だったりするので、まだまだやっていないことがたくさんあるんだということを知れたきっかけになったのかな。
――アーティストによっては、長く続ければ続けるほどひとつのルーティンの中で活動するようになってしまうこともありますが。
ゆうや:逆に、「これがルーティンなんだ」っていうことが喜びになっているような感じはしますけどね。それこそ、コロナ禍では普通だったことが普通にできなかったわけですし、その時期を超えてルーティンを日常の中のひとつのサイクルとして、ライブ活動ができるとかCDを出せるとか、そういうところにも喜びを感じられるようにはなっているような気がします。
――なるほど。Shinjiさんはいかがでしょう。
Shinji:年が経つごとに、メンバーみんなに「すごいな」って思うことが多くなっていて。昔は自分のことだけで精一杯で、周りに対して「負けてらんないな」って気持ちが強かったんですけど、そういう時代が過ぎ去った今では「個々の音に対する意識が高いバンドだな」というリスペクトの気持ちが、20周年を超えてどんどん高まっています。
――Shinjiさん含め、シドの皆さんはそれぞれソロ活動も行っておられますが、そういった課外活動が増えることでもシドに対しての見方や捉え方に変化は生じていたりするんですか?
Shinji:外での活動はシドではできないことに積極的にトライしているので、それができるようになった結果、最終的にその経験をシドに持ち帰ってこられていて。やってよかったなと思います。あと、シドに帰ってきてリハーサルに入ったとき、この4人で一緒に音を出した瞬間、やっぱり長く培ってきたグルーヴがあるんだなと再確認できるんですよ。それって1日2日じゃ生み出せない、22年の積み重ねがあるからこそのものですし、シドはすごいパワーを持っているバンドなんだと改めて感じます。
――マオさんはいかがですか。
マオ:バンドって、そのときのベストの表情を外に見せていくとか、自分たちの中で納得できる活動をやるっていうのが軸にあると思うんですけど、必ずしも自分たちが思うような活動がやれないときもあるわけですよね。シドでもたくさんライブをやりたかった時期にライブができなかったりしたこともありましたし、それはシドが22年歩み続けるために必要だった期間だったのかなと、今振り返ってみると理解できるんです。そうやって、平坦ではなく荒波の中で22年も続けてこられたのは、やっぱりファンのみんなの応援のおかげだなと思います。
ちょっと言い方が合っているかわからないですけど、4人のメンバーだけは変わることなく、音楽的には「今やりたいのはこういうことだ」とかその時々で顔を変えながら、わがまま放題やらせてもらえているのは、ファンのみんながしっかりついてきてくれて、応援してくれているからやれているんだなってことを、最近はまた改めて強く感じるようになりました。これからも、みんながいてくれる限りは好き放題に音楽やらせてもらえるかなと思っています。
――明希さんはいかがでしょう。
明希:今3人がしゃべったことは全部共感できるし、改めて付け加えることはないんですけど(笑)。強いていうなら……また5年10年と区切りのいいところで何かあるのかなと思うんですけど、そういう周年の時期じゃない今というタイミングに、シドはよりバンドらしくなれているんじゃないかという気がしていて。このままバンドを楽しみながら続けていけたらなというのが、純粋に思うことですかね。
――今回の『Dark side』を聴いたとき、バンドとしてまだまだ前進し続けているということが強く伝わってきたんです。正直、22年続いているバンドの新作とは思えないほどのフレッシュさやみずみずしさも感じられて、それは皆さんがシドに対して今も新鮮な気持ちで向き合っている証明でもあるのかなと思いました。
明希:ありがとうございます。そう言っていただいて、僕も今「そうだな」と感じました。そういうマインドや姿勢のままずっと続いていけたら、気付けば25周年、30周年を迎えられているのかもしれませんね。

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