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<コラム>Ave Mujicaの1stアルバム『Completeness』――最終回を迎えたTVアニメ『BanG Dream! Ave Mujica』と共に徹底考察



コラム

Text:一条皓太

 TVアニメ『BanG Dream! Ave Mujica』の結末は、いかがだっただろうか?

  劇中、メジャーデビューを果たし、日本武道館のステージに立っていたAve Mujica。だが、アモーリス=祐天寺にゃむ(Dr./CV:米澤 茜)の独断専行で、メンバー全員の仮面を外したことを発端に、若葉睦(Gt./CV:渡瀬結月)が自身、そして彼女を守るべく生まれたモーティスの間で、“多重人格者”としてもがくデスゲームのような展開へと突入。結果、バンドは“メジャー”という立ち位置を他所にあえなく解散したかと思えば…各々の魂胆により、まったく心が通わぬまま再結成した(ただし再デビューではない。また心が通わぬまま再結成をしてしまうのも、それまでの彼女たちらしいと言えばらしいのか)。

 #11は、初華が本編A・Bパートのほとんどを演劇調のモノローグで進行する驚きの構成となったが、それ以上に彼女が単に祥子に対して精神的に重く、いわゆる“報われない幼馴染キャラ”ではなかったという真実が、視聴者にもひどくのしかかる。“初音”の名前すら捨てていたのだ。祥子に対する執着も納得でしかない。




TVアニメ「BanG Dream! Ave Mujica」ダイジェストムービー


 放送前に掲げられたキャッチコピー「史上最狂のバンドアニメ」とは、なんの驕りでもなかった。一般的なアニメ作品であれば、1クールで回収できるか否かの“超ド級”の話題が、次々に登場しては山積みになるのである。残念ながら、本稿執筆時点ではまだ最終話が放送前のため、Ave Mujicaがどんな結末を迎えたのかは明かされていない。が、毎週のように胸を痛めてきた物語からひと段落があり、彼女たちの想いが少しでも報われていれば本望だ。

 『BanG Dream! Ave Mujica』を語る上で、特筆すべき点はほかにも様々。そのひとつが#10を迎えるまで、Ave Mujicaとしての新たな挿入歌が、オープニング/エンディングテーマを除いてまったく披露されなかったこと。これまでの『BanG Dream!(バンドリ!)』シリーズを考えてみれば、なんとも異例なことである。

 厳密に言えば、祥子と睦に過去の因縁が付き纏うCRYCHICが、#7にて一時的に再集結し、新曲「人間になりたいうたⅡ」を演奏した場面こそあれ、これはAve Mujicaの楽曲ではない。またアニメ放送期間中、 YouTubeチャンネル「THE FIRST TAKE」に登場したのもCRYCHIC。そこで披露したのは、アニメ同話で続けて歌唱された思い出の楽曲「春日影」だった。




CRYCHIC - 春日影 / THE FIRST TAKE


 『BanG Dream!』のようなメディアミックスプロジェクトが手掛けるアニメ作品において、物語の進行に伴い、挿入歌となる新曲が一定間隔で公開されるのは、もはや定石中の定石。それを覆すほど、今回はキャラクター同士の関係性を深掘りし、劇中の言葉を引用すれば、Ave Mujicaの「終わりの始まり」を描き切ることにこだわったのだと思う。

 とはいえ視聴者としては、やはり新曲も聴きたい。そんな溜まり溜まった心のゲージを一気に解放するように、#10で2曲、最終話ではなんと3曲もの挿入歌を一気に披露。「人間になりたいうたⅡ」を除き、本アニメに連動して制作された前述曲を含めて、合計7曲がAve Mujicaにとって初となるアルバム『Completeness』に収録され、4月23日にリリース予定だ。




「聿日箋秋」(TVアニメ「BanG Dream! Ave Mujica」#13 挿入歌)





「聿日箋秋」ミュージック・ビデオ


 前置きが長くなったが、本稿ではここから同作の全曲レビューを、収録順に展開していく。ただし、可能であれば“初聴き”はぜひ、自身の手元で歌詞カードとともに堪能してもらいたいゆえ、一部楽曲については軽く振れる程度で留めさせていただこう。

「KiLLKiSS」



「KiLLKiSS」(TVアニメ「BanG Dream! Ave Mujica」オープニング映像)


 物語が進むにつれて、歌詞の“本当の意味”が浮き彫りになり、聴くたびに新たな味がするのがなんともオープニングテーマらしいところ。特に歌い出し間もなくの<名前を捨てたのね あなたのモザイクが泣いてる>が、CRYCHICを離れた祥子ではなく、初華(になりすました姉の初音)の方を指しているという解釈もできるが、さすがに物語序盤、誰も予想できなかったのでは。

 そうした当て書きのほか<you bleed, yes, bleed>など、Ave Mujicaらしいモチーフを登場させつつ、続く<その血で 天(そら)の五線譜を書き換えれば>までをあわせて考えると、#12で祥子がスイス行きを拒み、空港から初華のもとまで駆け、足を血だらけにしていたシーンが連想された。このバンドが運命を“書き換え”たくば、流血くらいは免れないのだろう。<can not, can not, not, not, not deny>のリフレインや、<垂れ流す><泣いてる><真実>などフレーズ終わりの音を揃える仕事ぶりにも、作詞を務めるDiggy-MO'節が炸裂。なお今回のアルバムタイトルも、この楽曲の歌詞から引用したものである。

 構成面でいえば、約3分半尺と決して短くないにも関わらず、落ちサビ、大サビなどが用意されていないところがポイント。2コーラス目のEメロが、いわゆる1コーラス目のAメロと同じ役割となるのだが、譜割りもメロディもかなり違うし、かつそのままストレートに最終サビに突入するのを予想外に感じたリスナーもいたことだろう。

「Georgette Me, Georgette You」



「Georgette Me, Georgette You」(TVアニメ「BanG Dream! Ave Mujica」エンディング映像)


 エンディングテーマに待ち受けるは、極上のパワーバラード。自分の人生の糸が、誰かの糸と織り合わさる。人と人との意図がもつれたまま、それをむしろ利用する……なんてのは、まさに劇中での筋書き通りだ。

 また劇中ではたびたび、“最初からこうなるとわかっていた”という旨が口にされるが、にゃむが睦の演技才能に圧倒されたこと。あるいは、祥子との危険性を孕んだ関係がいずれ、彼女自身に知られてしまうと初華が懸念していたこと。曲中の<あなたが触れたわ この傷口に>は、そうしたシーンに寄り添うようにも聞こえてくる。そのほか<Georgette Me, Georgette You>のみが3拍子で耳に残ったり、落ちサビで遠くから声が聞こえてくるようなラジオエディットのアレンジだったりも見事だ。

 楽曲レビューからはやや外れるのだが、ここまでの2曲は『KiLLKiSS』として、今年1月時点でシングルカット済み。同作は、 “Billboard JAPAN Top Singles Sales”にて、初週セールス37,951枚を記録しており、収録楽曲、今回のアニメ、そしてなによりAve Mujicaの影響力の大きさを伺い知れる。

「Imprisoned XII」



「Imprisoned XII」(TVアニメ「BanG Dream! Ave Mujica」#10 挿入歌)


 ここからの2曲は、アニメ#10挿入歌。もはや“キラキラドキドキ”のメッセージを届けていた『BanG Dream!』楽曲とは思えぬほど重たい本楽曲で、タイトルの“Imprisoned”が“囚われの〜”や“投獄された〜”を意味する言葉なのは察して余りあるところ。祥子に対する自身の独占欲をぶつけた歌詞なだけに、それを無断でグループチャットに投稿された初華の恥ずかしさ、ならびに居場所のなさを考えるだけでも居た堪れなくなる。歪な愛情ほど、人に隠したいものはない。

 そうした内容と裏腹に、あたかも優しい楽曲のように響くコーラスが、歌詞の際どさをますます強調するところもポイント。とはいえ祥子が#12にて、Ave Mujica再デビューを目指して“神になる”宣言をしたのは、この楽曲の<今夜 私の神話になって>にもリンクする、初華への報いや愛情、間接的なアンサーだったのか。初華、救われてほしい。

「Crucifix X」



「Crucifix X」(TVアニメ「BanG Dream! Ave Mujica」#10 挿入歌)


 これまでのAve Mujicaらしさにも繋がる王道ゴシックメタル。タイトルの“Crucifix”は、“磔にされた〜”を意味する。千早愛音(Gt./CV:立石凛)、要 楽奈(Gt./CV:青木陽菜)こそほかメンバー同等に十字架を背負う必要こそないものの、“X”の数字から連想されるのは、MyGO!!!!!とAve Mujicaのメンバー総数か。ともあれ、#7の「春日影」を経てこの楽曲が生まれたとなると、彼女たちもまた“運命共同体”であり、なんらか“決別”を迫られるのかもしれない。キーボードが間奏でなにかを喜ぶように、のびのびと鳴り響く役目を担っているのに、妙な不気味さを抱いてしまうのは筆者だけだろうか。

「八芒星ダンス」

 アルバム後半3曲は、アニメ最終話挿入歌。収録順に「八芒星ダンス」は、#1を思い起こすアコーディオンと、その音が徐々に壊れていくサウンドから始まる。全体的にドライブ感を帯びるなかで<無い 成さない style 災い じゃ従わない>から始まるBメロは特に聴かせどころ。

 ここでは同様の歌い回しが2フレーズ並べられているのだが、前半は表ノリ、後半は裏ノリとドラムのリズムの切り返しが。前半で“ノれる”と確信したところで、後半でグッと引き寄せられる仕掛けとなっているし、いわゆる“裏ノリ派”はますます首を振ってしまうはず。また、ワードごとに細かく音の落としどころを設けているあたり、メロディではなくヒップホップ的に“フロウ”と呼ぶのが適切かもしれない。全体的にリズムの作り方が気持ちよすぎる。

 ちなみに、タイトルにある“八芒星”の意味には、再生、循環、そして完全性といったものがある。ーーこれもまたアルバムタイトル、そしてアニメ本編の伏線回収を意図してのものか?

「顔」

 タイトルからして気になる本楽曲は、踊りロックに寄せたサウンド、ならびにコール&レスポンスになりそうなフレーズがあることから、ダンスナンバーと判断してよいだろう。アルバム終盤に向けて、あるいはアニメ最終話だからか。楽曲もややポジティブな雰囲気を帯び始め、“足を引っ張ってくる相手がいるのも慣れっこ”と言わんばかりに、飽き飽きして仕方がないという方向性での微笑が浮かんでくる。

 ただ、曲中に登場する<pretender>の意味は、なりすまし。<こっちがほんもの 勝者 勝者 勝者>など、こうしたフレーズをもし、あの初華(=初音)が一連の経緯を踏まえ、ある種の笑い話として歌詞にしたのだとすれば……。とんでもない強靭メンタルすぎるが、あくまで想像の域を出ないし、そうでないことを願う。

「天球(そら)のMúsica」



「天球(そら)のMúsica」(TVアニメ「BanG Dream! Ave Mujica」#13 挿入歌)


 アルバム唯一の“救い曲”と呼んでよいだろう。ほか6曲に比べて、初華の歌声が明らかにポジティブで<ゆこう 明日へと 美しい時代(とき)よ 人は忘れてく いつかは消えてく>と、ともすればAve Mujicaらしからぬ言葉選びにも意識を向けられる。途中、これぞヘヴィメタルと言わしめんフレーズ運びのギターソロを挟みつつ、“こう書いて、こう読ませるか”と思わされる歌詞然り、大胆なアレンジでのコーラス然り、楽曲ラストパートをぜひ自身の目と耳で確認してもらいたい。あえて、ここは深く触れないでおく。

 やや気弱な締めくくりとなるが、そもそもAve Mujicaの歌詞は聖書や哲学に造詣が深い、あるいはそれらを掘るだけの熱量、時間、探究心がなければ、本当の意味で読み解くのが難しい作品といえる。『Completeness』のアルバムタイトルに反して、筆者自身が完璧もおおよそ十分な理解に至っていない部分があり恐縮なのだが、同時に胸のなかに理解できないゆえの“欠落感“や、それを求める“渇望”が湧き上がっているのが現状だ。

 とはいえ、Ave Mujicaのすべてを理解しようなんて、もしかすると思い上がりも甚だしいなんて言われかねないのかもしれない。そう痛感させられるほど、今回のアニメで描かれた通り彼女たちを取り巻く物語には、“禁忌”の雰囲気が漂っていたのだから。

Ave Mujica「Completeness」

Completeness

2025/04/23 RELEASE
BRMM-10917 ¥ 2,970(税込)

詳細・購入はこちら

Disc01
  1. 01.KiLLKiSS
  2. 02.Georgette Me, Georgette You
  3. 03.Imprisoned ⅩⅡ
  4. 04.Crucifix X
  5. 05.八芒星ダンス
  6. 06.顔
  7. 07.天球(そら)のMusica

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