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<インタビュー>MIMiNARI 20人のシンガーとの“連続性”が形になった、初のフルアルバム『freq.』
Interview & Text: 西廣智一
コンポーザーのnariとshamからなる、“記憶を音楽にする”をテーマとしたボーカルのいない音楽プロジェクト、MIMiNARI。2022年からスタートした彼らの活動における最初の集大成となる1stアルバム『freq.』が完成した。本作には「言えない feat. asmi」や「眠れない feat. 楠木ともり」といった代表曲に加え、新たに制作された楽曲も多数収録。さらに、アルバムの特典Blu-rayには伊澤一葉(東京事変 / the HIATUS)がアレンジを手がけたピアノバージョンによるスタジオライブ映像も収録されるなど、豪華な内容となっている。
今回のインタビューでは新録楽曲の解説を中心に、ふたりがアルバムに込めた思いやユニットのこれからについて、たっぷり話を聞いた。
20曲収録、20人のシンガーを招いたアルバム
――MIMiNARIとして楽曲を制作していく中で、ある段階からアルバムのことも想定していたのかなと思います。
nari:そうですね。今から1年ちょっと前にリリースした『眠れない EP』のあたりから、アルバムを少し意識し始めました。ただ、そのあとすぐに次のEP『クランシック』の制作に入っていったので、それと並行して……初期の曲から最近の曲までをまとめた、名刺代わりになるものを作りたいなと意識するようになって、制作に取り掛かりました。
sham:僕たちの約3年におよぶアーティストとしての足跡を、この1枚で網羅できるといったような内容で、何よりMIMiNARIというアーティスト像がしっかりお伝えできるような楽曲のラインナップ、そしてアルバムを通しての曲のつながりやストーリー性も意識しながら作っていきました。
――にしても、1枚のアルバムに20曲収録、20人のシンガー参加という結果はさすがに想像できませんでした。
nari:結果的に20曲になっただけなんですけど、僕たちもこの曲名と錚々たるシンガーの皆さんの名前を並べて見たときの破壊力はすごいなと思いました(笑)。
――そのシンガーのラインナップも、ポップスやロックのフィールドで活躍する方だけでなく、ネット系の歌い手さんもいれば声優さんもいて、今のJ-POPシーンを総括するような形になっていますし。そういうメンバーにしようということは、意識的だったんですか?
sham:意識していた部分もありますし、それこそアニメタイアップを通して声優さんとご一緒させていただくという予期せぬ機会もありましたし。そこは半々ですね。
――そう考えると、本作はMIMiNARIへの入門編的な一枚であるというだけでなく、いろんな界隈の音楽リスナーにとってのカタログ的作品でもあるのかなと。
nari:そう思ってもらえるのはめちゃくちゃ嬉しいですし、ありがたいですね。正直、デビュー当時はここまでの方々に参加していただけるとは思っていなかったんですが、こうしてアルバムという形になってみると、自分たちだからこそのラインナップでもあるのかなと、改めて実感しています。
アルバムは
“アーティストとしての矜持を表したもの”
――そこは固定のボーカリストがいないユニットとしての強みかもしれませんし、サブスクでのプレイリストが主流になった今時の作風でもあるのかなと。おふたりは、現代における“アルバムを作る意味”については、どのように考えていますか?
sham:おっしゃるように、ここ10年でストリーミング・サービスが台頭してきたことで、国境の壁やジャンルによる分断がなくなり、楽曲単位で好きな音楽を追求する、みたいな音楽スタイルが主流になってきたと思うんです。僕たちも多分に漏れず、基本は「いかに皆さんへいい楽曲をお届けできるか」を重視していることは確かなんですが、逆にこういった時代だからこそ、アルバムは単なる既存曲の寄せ集めじゃなく、“アーティストとしての矜持を表したもの”でもあるべきじゃないかな、という思いがあります。なので、今回のアルバムでは歌い手さんのラインナップや曲順に関して、僕らなりのこだわりが強く表れた内容にすることができたと思っています。
nari:そうだね。せっかく自分たちがアルバムを作るのであれば、ただ既存曲を並べるだけじゃ面白くないと思ったので、新曲や別バージョンみたいにアルバムでしか聴けない曲は必ず入れたいなと思っていましたし。
――とはいえ、20曲のうち多くが既存曲なわけで、それらをアルバムという形で並べるとなると大変さも伴ったのかなと思います。
sham:なので、そのアルバムのバランス感やストーリー性を補完する要因として、今回制作した新曲たちはすごく効力を発揮してくれたというか。そこに入れる意味がある曲になったんじゃないかなと思います。
――個人的には、想像していた以上に気持ちよく、20曲をスルッと聴けたのが意外でした。
nari:ありがとうございます。それもshamが言ったように、既存曲を繋ぐうえで足りない要素を新曲で補っていったので、聴きやすい流れを作れたのかもしれません。
――アルバムタイトルに周波数などを意味する『freq.(フリークエンシー)』というワードを採用した理由は?
nari:MIMiNARIというユニット名から通ずる言葉がいいなというのが漠然とありまして。僕たちのいちばんの特徴として、曲ごとに歌い手が変わること、それに付随してサウンドもチャンネルが切り替わるような印象があるかと思うんですけれど、それらが波形になって皆さんの耳に届いていくようなイメージを思い浮かべて、そういう要素を全部含む言葉がないかなと探したところ、ストレートに周波数を意味する“フリークエンシー”っていう言葉が出てきたんです。その流れから『freq.』という表記を見つけて、ふたりとも「これでいこう!」と即決しました。
――ここからは、アルバムのために新たに制作された新曲群についてじっくりお話を伺えたらと思います。まずは「スペクトル feat. HACHI」について。
nari:今回のアルバムタイトルでもあるフリークエンシーにちなんで、「スペクトル」(“連続体”などの意味)っていう題名を最初に思いついて。そこからどんなサウンドや歌詞をつけていくか?という、MIMiNARIとしては初めての作り方をした曲なんです。なので、今まででいちばん時間をかけて作った楽曲でもあって。強度分布――周波数ごとに分けて可視化されるという意味のスペクトルを、四季や幼い恋の中で感じる、見える世界に見立てて、歌詞を紡いでいきました。
――なるほど。サウンド的にはチャイニーズテイストを散りばめたディスコサウンドですが。
sham:チャイニーズテイストはかなり意識して作りました。今まで僕たちの中でいちばん手応えがあったのが「眠れない feat. 楠木ともり」という曲で、国内外からたくさんの反響をいただいていたので、その流れを汲む曲をアルバムのリードに当てようかなという意識は漠然とありました。なので、浮遊感であったり、変拍子を用いたりするところは「眠れない feat. 楠木ともり」の延長線上にあって、制作過程でチャイナ感が加わっていった感じですね。
nari:この曲はメロディやサウンド、BPMも一度、できたものを壊して作り替えているんですよ。途中から「何が足りないんだろう?」と考えて、その結論が見つかるまでが最難関で。最終的にチャイナ感のあるサウンドや、歌詞に中国語を取り入れたりしたことで今の形に至ったのかな。
――HACHIさんという歌い手を起用した理由は?
sham:「眠れない feat. 楠木ともり」の系譜の曲を作ろうとしていたので、HACHIさんの囁き声というか、儚さのあるようなボーカルに惹かれて、声を掛けさせてもらいました。
――確かに、アルバム1曲目の「眠れない feat. 楠木ともり」と2曲目「スペクトル feat. HACHI」は楽曲のトーンもボーカルの質感も統一感があって、気持ちいい並びですものね。続いては「東京愛's feat. 吉乃」についてです。
sham:以前「デモ曲チャレンジ」という、毎週1曲サビだけを作ってSNSにアップする企画を1年間ぐらい行っていたんですけど、『クランシック』の制作後にも不定期で企画を続けていて。この曲はその一環から生まれて、ショート動画で公開していたものが晴れてフルサイズ化されたものなんです。
nari:この曲を制作していた頃、今の時代を象徴するようなネット系の色恋沙汰みたいなのをよくSNSで見かけたんですね。そういうエピソードから、エグ味をいい塩梅にしながら歌詞に落とし込んでいきました。
sham:曲の構成に関してもかなりこだわった曲で、結構複雑なんですよ。例えばA(メロ)、Aダッシュ、B、Bダッシュみたいな感じで、初見サビだと思えるようなフレーズが実はBダッシュだった……みたいな。いろんなギミックも施されているので、そういう部分も新鮮に響くんじゃないかと思います。
――この曲に吉乃さんを起用した理由はどうでしょう。
sham:デモの段階から、声を歪ませるような歌い方ができる曲をイメージしていて。そういう、ちょっと狂気じみた声を出せる方ということで、吉乃さんが最適かなと思ってお声掛けしました。
――「東京愛's feat. 吉乃」はアルバム序盤において、いいパンチになっていると思います。そこから「インスタント・ラヴ feat. natsumi」へと続く構成も絶妙です。
nari:この曲はちょうど昨年末、2025年に向けて何か新しいサウンドがほしいなと思って作ったもので。何かリファレンスがあってそこを明確に目指したというよりは、単純にラテン味を感じるリズムと管楽器の響きを生かしたくて作りました。
sham:実際にサックスも生で収録していて。その音を切り貼りするような感じでサンプリングして、ループ感を意識しています。
nari:実は「インスタント・ラヴ feat. natsumi」にはギターが1本も入っていなくて。それによってさらに管楽器にフォーカスが当たるようなアレンジを心掛けました。
sham:natsumiさんに関しては以前「見えない feat. natsumi」という1st EP『言えない EP』のときにご一緒させていただいたんですが、今回はそのときとはまったく違う曲調で。それなのに、曲を作っている最中から、この雰囲気に導かれるようにnatsumiさんの声が浮かんできたんです。
インスタント・ラヴ feat. natsumi / MIMiNARI
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リリース情報
関連リンク
freq.
2025/03/26 RELEASE
VVCL-2670 ¥ 4,400(税込)
Disc01
- 01.眠れない feat.楠木ともり
- 02.スペクトル feat.HACHI
- 03.酔えない feat.Anonymouz
- 04.られない feat.Such
- 05.東京愛’s feat.吉乃
- 06.インスタント・ラヴ feat.natsumi
- 07.会えない feat.相沢
- 08.想い槍 feat.Sanghee
- 09.とけない feat.EMA
- 10.言えない feat.asmi
- 11.消えない feat.春茶
- 12.きゃない feat.麻婆豆腐
- 13.Ring Line feat.nene
- 14.クランシック feat.北澤ゆうほ
- 15.厭わない feat.富田美憂, 市ノ瀬加那
- 16.醒めない feat.WaMi
- 17.しくない feat.水槽
- 18.戻らない feat.八木海莉
- 19.言えない -Acoustic ver.- feat.北澤ゆうほ
- 20.水槽の中の脳 feat.竹内アンナ
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