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<インタビュー>零、ソロ活動で提示する「嘘のないヒップホップイズム」
Interview:高木"JET"晋一郎
Photo:Yuma Totsuka
THE RAMPAGEの川村壱馬が、アーティスト“零(L.E.I.)”として、両A面シングル『Delete / Enter』でソロデビューする。グループの作品やライブの中でもラップへのアプローチを展開してきた彼だが、零としては楽曲制作とアートフォームの中心にラップを据え、ラッパーとしての存在性を高めた。
「Delete」では、社会や状況に対して彼が感じるフラストレーションや怒りを、シリアスで沸々とした熱が伝わるようなラップで形にし、ダークなTRAPビートに刻み込んでいく。そして、その思いをリスナーに問いかけ、ともに次の段階へ進むような意思を感じる構成が印象的だ。
一方、アニメ『Aランクパーティを離脱した俺は、元教え子たちと迷宮深部を目指す。』の主題歌となった「Enter」では、ボーカルワークからオートチューン、温度の低いマンブル(不明瞭な発音のラップ)など、様々なラップスタイルを一曲の中で提示し、そのラップスキルへの探究心を感じさせる。
文中でも語られる通り、ヒップホップに大きな影響を受けてきたと話す彼は、いかに自分自身やラップ、そして社会に向き合い、ソロというアプローチに至ったのか。その真意を聞いた。
ヒップホップには一番自分の考えが共鳴する
――ソロアーティスト“零(L.E.I.)”としての活動をスタートさせたきっかけを教えてください。
零:ソロは以前からずっと思い描いてきたものではあったんです。ただ、大きなきっかけとしては、昨年……もうちょっと前かな、少し調子を崩した時期があって、そのタイミングでEXILE HIROさんと二人でお食事に行かせていただいたんですよね。そこで、いま自分が何がしたいのか、何に興味があるのか、何にフラストレーションを感じているのか……そういうことを全部吐き出したんです。そして、ソロにも挑戦したいという話、ソロではラップに挑戦したい、ということも相談して。
零 L.E.I. / TEASER MOVIE
――その時点で、ソロとして動くときにはラップというイメージがあったんですね。
零:そうですね。ラップのほうが自分には向いていると思っていたし、九割九分九厘はラップでいきたい、そして自分でリリックを書きたいとも話して。そうしたらHIROさんからも「ライブでのラップもいいし、しっくりくるよ」とおっしゃっていただけて。それぐらいから、ソロの話が本格的に進み出したんですよね。
――そもそもヒップホップやラップに興味を持たれたのは?
零: THE RAMPAGEが結成されるタイミングですね。THE RAMPAGEには、ヒップホップの感触を取り込むというコンセプトが結成当初からあったんです。当時はグループとして集まったばかりだし、好きなものもバラバラだったので、グループのひとつの芯にヒップホップを据えるというテーマがあったし、僕もそこでヒップホップに興味を持って。リーダーのLIKIYAさんはもともとUSのヒップホップやR&Bに詳しくて、そこで音源を教わったり、山彰(山本彰吾)さんから映画『8 Mile』の話を聞いて、見てみたら衝撃を受けたり。そうやって手探りのなかでヒップホップの世界を知るようになって、どんどんハマっていきました。NYにあるヒップホップの発祥の地を見に行ったりもしましたよ。
――DJクール・ハークが最初にパーティを始めた、ヒップホップの原点であるレクリエーション・ルームですか。いわゆるオールドスクールまで追われているんですね。
零:ただ、ヒップホップの楽曲やアーティストにめちゃくちゃ詳しいわけではなくて、いまだに勉強中です。
――情報として詳しいこととヒップホップイズムへの理解度は比例しないですからね。
零:もちろん影響を受けたラッパーもたくさんいます。早口の影響を受けたのはバスタ・ライムスだし、総合的にすごい存在だと感じているのはエイサップ・ロッキーで、ずっとフェイバリットでいまだにヤバいと思うのはケンドリック・ラマー。4エレメントで言えば、ダンスにももちろん影響を受けています。例えばトミー・ザ・クラウンや、彼のクラウンダンスに影響を受けたタイト・アイズのクランプダンスには心臓を掴まれるぐらい惹かれたし、「お前も動けよ!」と言われたような気がして。

――トミー・ザ・クラウンは、彼のダンスクルーのメンバーにギャング活動やドラッグを禁止したり、ダンス以外にも勉強を推奨したり、根本的なヒップホップイズムを体現した存在ですね。そういう思想的な背景にも衝撃を受けたと。
零:文化として、考え方としてのヒップホップにすごく影響を受けたので。だから、いわゆる(現在的な、パブリックイメージとしての)ラッパー的なライフスタイルに憧れはないんですよ。酒、ドラッグ、異性、遊び、暴力みたいなものにはまったく憧れないし、単純な悪自慢とか乱暴なボースティングには興味がない。それよりもヒップホップの持つ「世の中を変えていきたい。良くしたい」というイズムに興味があるんですよね。
――現状社会にプロテストする、世の中をより良い方向に進ませるというか。
零:言葉にするのは難しいんですけど、ヒップホップには一番自分の考えが共鳴するというか、性に合っている感じがするんですよね。視点がつながっていると思う。
――THE RAMPAGEの楽曲の中ではヴォーカルに加えてラップをされているし、「Dream On」などでリリックも書かれていますね。
零:4作目の「100degrees」が最初でした。ずっと書きたかったし、やっと叶ったという感じでしたね。THE RAMPAGEではグループ全体のメッセージとしても、そして個人としても感じていることをリリックにしています。
THE RAMPAGE from EXILE TRIBE / 「100degrees」 (Music Video)
――リリックはどのように書かれるんですか?
零:喋り自体はそんなに上手ではないんですけど、言葉は頭に収納されているというか、本とかマンガは人より読むし、ゲームやアニメを通していろんなテキストを読むので、言葉のボキャブラリーや美しさはインプットされているから、それをリリックで出していくという感じですね。自分の気持ちをベースにしたうえで、ラップしてそれをどう表現するか、どういうワードを使うかを取捨選択するというか。
――不定形である「思い」を掬い上げて、具体化するための言葉を選択しているということですね。
零:同時に、それがラップになったとき、どういう音になるのか、どう聴こえるかもがっつり意識していますね。この言葉はダイレクトに伝えたいから音のハマりよりも言葉を強く、ここはもっと音として気持ちよく、みたいな。
問題提起にならないとダメだと思った
――そして今回の両A面シングル『Delete/Enter』ですが、「Delete」は攻撃性も含め、かなり過激な、ヒリヒリするような内容になっていますね。
零:零としての一発目、ソロとして発信するものだから、本当に妥協したくなくて。ラップという表現をメインにしていくなかで、世の中に一石を投じるようなものを作らないと意味がないと思ったし、その思いをより強く表した曲が「Delete」です。伝えたいことがたくさんあるなかで、まず伝えるべきは「囚われているものからの開放」だと思って、この曲を作りました。
――世の中に対する憤りや、システムに対する怒りを通して、リスナーにも問いかけ、気づきを与えるという構成ですね。この社会を作っているのは自分であり、みんなだから、もっと考えようという展開が印象的でした。
零:「俺が変えてやる!」みたいなボースティングの方向も考えたんですけど、このテーマに関しては、そういう視野だけでは意味のあることを書けないと思ったんですよね。


――自己欲求だけではないと。
零:「それはノーだ!」みたいな言い方は簡単じゃないですか。でも、このテーマを歌詞にして、リスナーを説得したり、実行力のあるメッセージにするためには、もっと問題提起にならないとダメだと思ったし、この曲を聴いてくれた人が考えたり意識するには、問いかける必要があるなって。ただ言いたい放題、自己満足するために何かを言いたいわけじゃないので。それに今の社会って「自分で考えることを止めた世界」だと思うんですよね。
――AIも含めて、サーチすれば答えを出してくれるし、「思考するのは非効率」ぐらいの状況はありますね。
零:それはやっぱり危険なことですよ。ただ、そこで「それはダメだ!」とか「考えるべき!」と頭ごなしで言うんじゃなくて、「そういう状況について俺はヤバいと思う。君はどう思う?」っていう問いかけにしたかったんですよね。
――そういった「社会に対する視点」はどのように生まれたんですか?
零:何を見てもそう思いますよ。「まじで大丈夫か? それが常識だと思ってたらヤバイよ」と感じることばかりで。様々な問題が発覚する。そういうのを聞くと「いまだにそんなことがまかり通ってるのか」と、当然だけど憤りが湧いてくるんですよね。
――当然ですね。
零:自分はなんのためにこの世界にいるんだろうと考えたら、それは「世界を変えたい」からだし、そうじゃないと意味がないと思っていて。それぞれアーティストごとのやり方や目指す方向性はあると思います。でも、僕はチヤホヤされたり、人気者であるために、この世界に入ったわけじゃないので。ファンやリスナーに対しても、ファンタジーを語って、幻想だったり、桃源郷に連れて行きたいわけじゃないんですよ。確かに幻想を見せて夢に誘う、ファンもそのときだけ現実を忘れられるというエンタメの楽しさは絶対にあると思うんです。


――それは一つの効能ですよね。僕自身、そういうライブやエンタテイメントに勇気づけられるときがあります。
零:僕だってそうだし、それはまったく否定しません。でも、それが行き過ぎて、嘘だらけで、ファンもアーティストも不幸になるような状況が生まれたり、不健康な関係性だったり、過剰にプレッシャーがかかるようなエンタメは果たして正しいのかと思うし、少なくとも俺は望んでない。それだったらリアルを正直に語って、ぶつかったり、離れたりしても、目の覚めた状態で楽しめるものがいいと思うんですよ。その考えを、まずは自分の声が届く範囲から言っていきたい、伝えたいからこそ作った曲ですね。そして、自分の言葉には責任を持たないといけないし、そういう音楽を作っていきたいともあらためて感じました。
――誠実ですね。そして川村さんのマインドと、ヒップホップのイズムは近かったということですよ。世界を変える――それはエンタテイメントのあり方や、リスナーの意識も含めて――という発想で THE RAMPAGEの活動をしてきたし、それをもっとパーソナルな形で先鋭化させるのが零だと思うんですが、ヒップホップ自体も世の中の不平等や構造に対してプロテストする、それを意思表示するアートフォームだから、根底的な部分でその二つはつながっていたんだと思います。だからお話を聞いて、ソロが「Delete」に着地する理由がよくわかります。
零:ありがとうございます。THE RAMPAGEや俳優として活動するなかで、人目に自分が触れることで、理不尽な言葉も向けられるし、腹が立つこともたくさんある。でも、その気持ちをヒップホップだったら消化できると感じるんですよね。
――ただ、そういった言葉は先ほども話にあった通り「摩擦」を生む可能性がありますね。
零:そういうことを恐れたり、我が身可愛さで発言できないこともあると思うんですよ。でも、俺はそうはなりたくない。感情的に言い返したいわけじゃないけど、自分の感情を吐き出すことは大事だと思うんですね。言っていることとやっていることが違うようなアーティストには俺はなりたくないし、魅力も感じない。自分はアーティストである以前に、人間としてどうありたいのか、どういう気持ちでいたいのかを考えながら生きてきたし、零でもそれをそのまま出すだけかなって。そして、それに説得力を持たせるために、自分が自分であるための生き方をしたい。
――「Delete」も「信念」を歌う曲ですからね。
零:そして、その根底に「愛」があれば、メッセージもちゃんと伝わると思うんですよね。
本物の言葉を伝える
――ポジティブなエネルギーを生むために、というか。その意味では「Enter」は、アニメ『Aランクパーティを離脱した俺は、元教え子たちと迷宮深部を目指す。』の主題歌という部分もあり、そのポジティビティがわかりやすい形で表現された、キャッチーな内容になっていますね。そして、この曲はライミングの丁寧さはもちろん、零としてのラップフロウのバラエティの多彩さが織り込まれている。
零:フロウの変化は意識しましたね。アニメも含めて、この曲のほうが流れる機会が多いと思うので、「このラップのバリエーションを一人で出してるの!?」と驚いて欲しかったという気持ちはあります。パートごとにラップのアプローチを変えることで自分の表現の幅も出したかったし、ラッパーとして活動していくうえで、どんなラップフロウの引き出しがあるのかを、一曲の中で提示してみたいなって。単純にいろんなラップが形にできるのは楽しいですからね。
――こちらはアニメのモチーフがあって、そのうえでの作詞になりますね。
零:この曲も自分の本心なんです。「Delete」のような陰の部分が確かに自分には多いと思うんですが、陽の部分もアニメのテーマから引っ張り出してもらったことで、「Enter」ではそれが形になったと思うし、このリリックにもまったく嘘はなくて。作品に対するリスペクトがあるし、インスピレーションを受けたワードと自分の気持ちをリンクさせて、歌詞として形になったと思います。その意味でも、もっと純粋に前向きになれるような、ポジティブな曲も作っていきたいですね。
TVアニメ「Aランクパーティを離脱した俺は、元教え子たちと迷宮深部を目指す。」ノンクレジットOP
――これから書いていくリリックのテーマはもう蓄積されていますか?
零:かなりありますね。大雑把な形ではあるんですけど、テーマやイメージは浮かんでいて。ただ「ここまでにリリースをしましょう」「じゃあこのストックを使って」みたいな形ではなくて、「いまはこういうマインドなので、こういう作品を出したい」みたいな、ふさわしい時期に、ふさわしいテーマとラップを落とし込んだ作品を出したいですね。
――自分のバイオリズムやマインドとリンクしたリリースというか。
零:「その時々のリアル」とか、「いまはこのメッセージが必要だと思う」みたいな、フレッシュな状態で作品が形にできるように頑張りたいですね。

――最後に、零と川村壱馬の関係性は、これからどうなっていきますか?
零:THE RAMPAGEの川村壱馬と零がリンクする部分もあるし、もしかしたらそれが今後はもっと離れていくかもしれない。どういう形になっていくのかは、自分でも気になるし、楽しみでもありますね。川村壱馬としても零としても変わらないのは、自分の言葉を聴いてくれる人に対して、まっすぐに100%の気持ちでやっていくことですね。そして零としても、この表現に共感してくれて、助けられる人がいるなら、そこにまずは届けたい。より多くの人に、というのはその先ですね。自分の価値観を提示できる、いち人間としてのアーティストでありたいし、それが突き詰められれば唯一無二になれるんじゃないかなって。本物の言葉を伝えるような、「本当のラッパー」を目指します。
Delete/Enter
2025/01/29 RELEASE
LAMR-4038
Disc01
- 01.Delete
- 02.Enter
- 03.Delete -Instrumental-
- 04.Enter -Instrumental-
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