Special
<インタビュー>レジェンド・ギタリストの山本恭司がトリビュート・ツアー前にジミ・ヘンドリックスの魅力を語る
Interview & Text:石沢 功治 / Photo:汰中沙由香
ロックバンドBOWWOWのリーダーとして日本のロック黎明期を支えてきたレジェンド・ギタリストの山本恭司。2024年1月にサプライズなメンバーが集結したツアー【Memory of Jeff Beck plus Live Tour 2024】で6会場を周り、好評を得てからちょうど一年が経過した来年1月に、同じメンバーで今度は【Memory of Beck & Jim Live Tour 2025】をタイトルに掲げた全国ツアーを予定している。今回、1月15日のビルボードライブ横浜を含む本ツアーにむけて愛すべきギターヒーロー、ジェフ・ベックそしてジミ・ヘンドリックスについて、それぞれ話を伺った。
先刻公開された ジェフ・ベックについてのインタビュー記事 と併せてチェックし、臨場感あふれるライブを是非堪能いただきたい。
──前回のジェフ・ベック編に続きジミ・ヘンドリックス編です。恭司さんはどちらを先に聴きましたか?
山本恭司:ジミです。そもそも僕がギターを始めるきっかけだったのが、ウッドストック・フェスティバル(1969年8月にニューヨーク州サリバン郡ベセルで3日間にわたって開催された伝説の野外コンサート。ジミは大トリで出演)の映画で、中学3年のとき映画館で……同時にそれがロックの初体験でもあったんです。ただ、そのときは理解出来なかった。特にあの有名なアメリカ国歌の演奏……たまにメロディが出て来る以外は、爆弾や飛行機を連想する音が多かったじゃないですか。“この人は一体に何をやってるんだ”って。で、その映画を薦めてくれた洋楽好きの友人が「ジミヘン凄かったでしょ?」って言うんだけど、僕はテン・イヤーズ・アフターやザ・フー、スライ&ザ・ファミリー・ストーンとかの方が印象に残って、正直、ジミは“まあまあ”ぐらいでした。
Jimi Hendrix - Live at Woodstock: An Inside Look
──どのあたりから好きになっていったんでしょうか?
山本:ギターを弾き始めて、最初は今言ったテン・イヤーズ・アフターのシングル盤やLP盤を買って聴いてたんです。そのうち、ウッドストックの3枚組のLPレコードで、もう1回アメリカ国歌を聴いたときに衝撃を受けて、とんでもない人なんだって。それまで自分がギターに対して持っていた概念を覆すようなことをやってるし、表現になんの制約も限界もないんだなと。とにかくノイズだろうが、なんだろうが、美しく奏でられる……『自由に美しく』そこは未だに影響を受けてますね。
──アルバムに関してはどうでしょうか?
山本:最初にはまって聴きまくったのは「ジョニー・B・グッド」や「ルーム・フル・オブ・ミラーズ」なんかが入ってるロイヤル・アルバートホールのライブ盤。もう音も素晴らしいし……ストラトキャスター(以下ストラト)でなんであんな太い音が出るのか不思議で。
一番最初に買ったまともなギターはレスポールで──もちろん当時は国産のコピーモデルですけど──それはピックアップはハムバッカーのだったのでそれなりに太い音は出せてたんですけど、どうしてもアームが使いたくなってすぐストラト・モデルに変えたんです。そうしたらピックアップがシングル・コイルなので音が細いこと、細いこと(笑)。それで買ったばかりのストラトに、道具なんてなかったので、コンロで焼いた火箸でプラスチックのピックガードに自分で穴を空けて、高校の技術家庭科で購入してあった木槌とノミを使ってレスポールのハムバッカーを取って付け替えたんです。あとでエディ・ヴァン・ヘイレンと話したときにわかったんですけど、ストラトにハムバッカーを付けたのは僕の方が先でした(笑)。
──そうでしたか(笑)。
山本:なので、リアとフロントがハムバッカーでミドルがシングルのストラトはおそらく世界で僕が最初です。それはともかく、バンドをやってた友人が「紫のけむり」とか演ろうよって言うので、その曲と「ヴードゥー・チャイル」の2枚はシングル盤を持っていて。で、「紫のけむり」はちょっと今イチな音と曲だなと僕は思ったんですが、「ヴードゥー・チャイル」は大きな衝撃でしたね。ワウから始まるイントロ、そのあとのソロからなにからカッコ良くて、カッコ良くて。
──ジミでフェイバリット・アルバムは?とお聞きしたら何をあげますか?
山本:僕の場合はライブの『ヘンドリックス・イン・ザ・ウエスト』(アナログ盤は1972年リリース)。以前音楽の専門学校で教えてたんですが、生徒たちからも「何を聴いたらいいですか?」と聞かれると「これは絶対に聴け、マストだよ」と答えてました。
──昨年の10月にはジミ自らがオープンした新スタジオ〈エレクトリック・レディ・スタジオ〉での活動を貴重な音源と映像で振り返る、4枚組豪華ボックス・セット『エレクトリック・レディ・スタジオ:ヴィジョン』がリリースされました(編注:3枚のCDには、スタジオでレコーディングされた39曲…そのうち38曲が未発表音源……を収録。ビリー・コックス、ミッチ・ミッチェルをバックに曲を練り上げてゆく過程が展開され、1970年9月18日に急逝したジミの最後のレコーディング・セッションを含んだ内容。Blu-rayの日本盤は日本語字幕付で、倒産したナイトクラブ跡がジミの理想を実現させるための最先端のレコーディング施設エレクトリック・レディ・スタジオに姿を変えるまでの過程を追っている。インタビュー、未公開映像や写真などで構成)。恭司さんもお聴きになられたそうですが、いかがでしたか?
『エレクトリック・レディ・スタジオ:ヴィジョン』トレイラー【日本語字幕付】
山本:CDの方はコアなファンにとっては興味があるでしょうね。驚いたのはBlu-rayのほうで貴重な話が満載だよね。ジミの音楽への、そしてワン&オンリーの世界観を自分の手の届くところに最高の形で実現させようとしていたことがとても理解出来た。ある意味時代に関係なくこれはすべてのミュージシャンたちの夢でもあるし、それに伴う負担や悩みもパーソナルスタジオが容易に手に入るようになった今でも時代を超えて「わかるわかる」と思うことしばしばだったし。今や深夜にドラマーを探し出さなくても、ドラムマシンもあるしベース音だって簡単に呼び出せる。ただ、出音やグルーヴそして何よりも大切な感動を呼ぶ表現にこだわり抜くアーティスト、そしてその為に自分たちの人生を賭けてまで良いものにしていこうというスタッフたちの思いからは、まだレコーディング技術も何もかも全く確立されていない時代を生きてきたジミという希代の天才音楽家がいたからこそ生まれた……そこからはとてつもないパワーを感じるし、そういう部分は現代のミュージシャンたちにもこれを観てもう一度肝に銘じて欲しいなとさえ感じました。時折り交じるジミのライブ演奏を含め、素晴らしい映像作品だと思います。
──私の話で恐縮ですが、2009年2月にコーネル・デュプリーがビルボードライブ東京に出演した際、取材をさせて頂たんです。コーネルがプロとしてのキャリアをスタートさせたキング・カーティス&ザ・キングピンズに起用されたとき(おそらく1962年あたり)、先にいたのが同じくまだ無名だったジミで、ツアーを一緒に回ったんだそうです。同い年でしかも星座も同じで話が合ったコーネルは「ジミは別に目立とうとしてるわけじゃないんだけど、いつも他の共演者を喰っていて、誰がゲストで入ろうが関係なかった。あるとき一緒にチャック・ベリーのバックをやったことがあったんだけど、お客さんはみんなチャックよりもジミに目がいってしまう。普段は普通なのに、ステージに上がると存在感はとにかくすごかった」とおっしゃってました。
山本:やっぱりね、とんでもないギタリストだからね。その頃からすごかったのもうなずける。
──1月の公演ですが、恭司さんは昨年のジェフ・ベック・トリビュートがビルボードライブ横浜初出演で、今回が二度目になります。会場の印象は?
山本:まずステージが広いのでスペースがあってすごく演りやすかった。客席もどちらかというと横に広くて、良い意味で奥行きはそんなないので、その分身近に感じられましたね。
──1月15日はどんなステージはになりそうでしょうか?
山本:去年との大きな違い?あれから一年それぞれみんなが音楽的にも人生的にも経験を積み重ねてきてるわけですし、その進化をプレイから感じとってもらいたいですね。
──「紫のけむり」や「リトル・ウィング」は?
山本:まだ正式にはどれを演るか決めてないんだけど……でも、その2曲は演るでしょう(笑)。いずれにしろ、よりエキサイティングなステージになるのは間違いないです。リズム・セクションは須藤満くんと川口千里ちゃんの超強力なふたりだし、そこに個性の違う3人のギタリストがのっかる……Rie a.k.a. Suzakuちゃんも素晴らしいギタリストだし、安達久美ちゃんなんかファースト・アルバムのタイトルが『Little Wing』ですからね! せっかく来てくださった方々に「なんだぁ、カバーのライヴってこんなもんか〜」とは絶対に思わせない……「うわー、すごかったね」って帰って頂けるステージにしますので、期待してください!
公演情報
【Memory of Beck & Jimi Live tour 2025
featuring 山本恭司、安達久美、Rie a.k.a. Suzaku、須藤満、川口千里】
神奈川・ビルボードライブ横浜
2025年1月15日(水)
1st Stage Open 16:30 Start 17:30 / 2nd Stage Open 19:30 Start 20:30
公演詳細
関連リンク
関連商品