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<インタビュー>ポルノグラフィティ デビュー25周年の節目を越え、さらに先を見据えるふたりが新作「ヴィヴァーチェ」とともに今、思うこと
Interview: もりひでゆき
1999年9月8日に「アポロ」をリリースしてから、2024年でデビュー25年を迎えたポルノグラフィティ。その節目を記念したアニバーサリー・ライブ【因島・横浜ロマンスポルノ'24 ~解放区~】で、10月30日のデジタル・リリースに先駆け披露されていたのが、最新作「ヴィヴァーチェ」だ。イタリア語で「いきいきとした」「活気に満ちた」という意味を持ち、音楽記号としても使われるこの言葉。岡野昭仁(Vo.)、新藤晴一(Gt.)のふたりに話を訊くと、この言葉の通り、26年目以降への“活気に満ちた”今のモードを知ることができた。
【ロマンスポルノ'24】を終えて
――まずは【因島・横浜ロマンスポルノ’24 ~解放区~】のお話から。おふたりの故郷である因島での凱旋ライブはいかがでしたか?
新藤晴一:1日目は台風の影響で中止になってしまったし、2日目もね、本当に天気が大丈夫なのだろうかっていう不安もあって。因島のライブに関してはゲネプロができなかったという状況でもあったので、ライブをやっている最中は「めっちゃ楽しいな」と思えるほどの余裕はなかったかもしれないな。
岡野昭仁:そうね。故郷でのライブということをじっくり噛みしめる間もなく本番に入っちゃったところはあったかもしれない。しかも当日はめっちゃ暑くて。記憶が飛ぶくらい暑かったんですよ(笑)。
――ライブ中、けっこうしんどそうな瞬間もありましたよね。
岡野:そうそう。ただね、ライブ後に映像を観ることができたんだけど、ドローンを使ってウワッと上空から撮ってる会場の画を見たとき、「あ、俺らは確かに因島でライブをやったんだ」ということを心から感じることができて。会場となった因島運動公園では高校時代にサッカーをやったなとか、いろんな思い出、感情が蘇ってきたりはしましたね。
新藤:ライブそのものはもちろん、因島で【島ごとぽるの展】という催しをやらせてもらえたのもすごくうれしいことでしたよね。島で静かに暮らしている方には迷惑をおかけすることもあったとは思うんだけど、たくさんの方々が本当に協力してくれたんですよ。島外から来てくれたたくさんのファンの人たちのことも、しっかり歓迎してくれていたし。それが本当にありがたかったです。
―― 一方の横浜スタジアム公演はいかがでしたか? 僕は2日目を拝見しましたが、そこで昭仁さんが「この25年でいちばんいい歌が歌えた」と力強くおっしゃっていたのがすごく印象に残っています。
岡野:ライブというものは一期一会だと思うので、本来はそんなこと言うべきではないとは思うんですけどね。でも、あの日の雰囲気……ファンの方々やスタッフ陣の「25周年を祝おう」という思いがものすごく伝わってきたし、みなさんの後押しがあったからこそ実現できたライブだと強く感じていたので、「いい歌が歌えた」と素直に思いを言葉にしてしまったんですよね。
新藤:実際、因島も含め、すごくいいライブができましたからね。ファンのみなさんも大きな声で楽しそうに歌ってくれていましたし。そういう意味では本当に幸せなキャリアを積ませてもらっているなって思いましたよ。周年をいいライブで締めくくれたという意味では、またひとつステップアップできた気がします。
――Billboard JAPANのスタッフ曰く、今年頭に開催されたツアー【19thライヴサーキット“PG wasn’t built in a day”】と、今回の【因島・横浜ロマンスポルノ’24 ~解放区~】という2つのライブでポルノの25年の歴史を総ざらいできた感覚があったとのことで。因島公演と横浜公演のセトリはどんな思いで決めていったんでしょうか?
新藤:ここのところ宮島での奉納ライブ(昨年9月に開催された『TikTok LIVE at厳島神社』)や『THE FIRST TAKE』への出演で新たに僕らを知ってくれた人が多いんですよ。そういう人たちにとっては、そこで演奏した曲がある意味、新曲なわけですよね。そんな今の時代ならではのおもしろい現象を大事にする選曲は意識したかな。映像を通して僕らの音楽を知ってくれた人たちに楽しんでもらうライブにするにはどうしたらいいんだろう?っていう。もちろんね、ずっと応援してくれている人たちがいてこその25周年なので、その歴史を感じてもらうことは当然、頭にはありましたし。
岡野:ワズビル(【PG wasn’t built in a day】)は周年らしいベスト感みたいなものを込めたセットリストだったけど、【ロマンスポルノ】はポルノの代名詞となっているようなシングル曲をちょっと外した内容にしたところもあったかな。そもそも【ロマンスポルノ】と題したライブはそういうスタイルでやってきていたから。今回で言えば、ライブであまりやってきていない「むかいあわせ」や「FLAG」「メジャー」なんかを入れたのはそういう理由。あとはせっかく因島でライブができることになったので、因島の匂いのする曲をやったり、横浜ではスタジアムに映える曲を多めに入れたところもあったと思います。
ライブで新曲を解禁する理由
――【因島・横浜ロマンスポルノ’24 ~解放区~】では、新曲「ヴィヴァーチェ」がいち早く披露されました。ここ最近はライブで未発表の新曲を先出しすることが多いですよね。
岡野:そうですね。まあ新曲を披露せずにライブを終えたとしても、「もしかして活動が終わるのでは?」と思うファンの方はいないとは思いますけど(笑)、僕らとしては次に繋げると言いますか、その先を感じてもらいたいという思いで新曲を聴いてもらっているところはありますね。言葉で言うよりも、曲で思いが伝わればなと。もちろんね、今後は新曲をやらないツアーだってあるかもしれないわけですけど。
新藤:別にリリースした曲じゃないとライブでやっちゃいけない、なんてことはないわけで。リリースした楽曲をどのタイミングで最初にやるかという考え方でずっとやってきたところもあるけど、別に新曲がないわけでもないし、言ったらストックしている曲もあるからね。あまりいろいろ考えず、今後も新曲をやっていくのもいいかなとは思ってますよ。
――新曲をライブで初披露するときって緊張するものですか?
岡野:ファンの方の反応はやっぱり気にはなりますよね。ただ、うちらのファンの方って反応がすげぇ早いんですよ。「え、この曲知ってた?」「海賊盤、出てた?」くらいの勢いで、みんなの振りがびっちり揃うんです。あれが不思議でしょうがない。そういう意味ではいつも「すごいなあ」と思いながら新曲をやってます(笑)。
――晴一さんは?
新藤:新曲は演奏が間違ってもバレないから緊張は一切ないです(笑)。
――あははは。わかりました(笑)。「ヴィヴァーチェ」の作曲は晴一さんが手がけています。これは元々、どんなイメージで作り始めたんですか?
新藤:僕のアトリエに(アレンジャーの宗本)康兵を呼んで、一緒に曲作りをすることがあるんですけど、この曲もそのスタイルでできましたね。自分の中にまったくアイデアはなかったんだけど、まあおしゃべりしながらランチを食べるだけでもいいかと思って、康兵に来てもらって。で、おしゃべりにも飽きたので、「ちょっとやってみる?」って言いながら康兵がピアノを弾いて、僕が気持ちよく鼻歌を奏でて作ったのがこの曲です(笑)。そういうやり方は今回が初めてでした。で、曲ができた段階で、これは昭仁に歌詞を書いてもらった方がいいなと思い、投げたんですよね。
岡野:なぜか僕のところに作詞の依頼が来ました(笑)。今回の曲は「カナデビア」の企業ブランドCMイメージソングというタイアップがついていて、先方から「新しい船出」とか「希望」といったイメージ、あとは企業の名前にちなんで「奏でる」といったワードを盛り込んでほしいというオーダーがあったんです。なので、それらを使うことを意識しつつ、自分らしくストレートな歌詞を書いた感じですね。
――晴一さんの曲に昭仁さんが歌詞をのせるのは久しぶりですよね。
岡野:そうそう。久しぶりに歌詞を書くにあたって考えたのは、その段階ではライブで歌うかどうかはまだ見えていなかったけど、歌い手としてどうお客さんに向き合って歌いたいかなということで。どうせ書くのであれば、やっぱり自分はライブ会場で聴いてくれた人の心を動かせるような、みんなが前に一歩を踏み出せるような歌詞を書きたいと思ったんですよね。
――自分らしく生きていくための勇気や希望を与えてくれる歌詞だと思います。
岡野:うん。前回、新藤が歌詞を書いてくれた「解放区」は、希望が見えにくい時代だけど、今の状況をよく見てみれば案外、悪いものでもないんじゃないかということを歌っていて。それがたくさんのファンの人たちの心に届いた実感があった。じゃあ今度は、自分の立ち位置を変えてみるとか、目線を変えてみれば、今の状況がいろいろよくなることもあるんじゃないかなっていうことを歌おうかなと。そんな気持ちが強く出た歌詞になった気がしますね。
ヴィヴァーチェ / ポルノグラフィティ
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こういうキラキラしたタイプの曲が
自分はやっぱり好きなんですよ
――アレンジは宗本さんとポルノの共同クレジットになっています。ピアノやストリングスが効いたサウンドになっていますね。
新藤:アレンジについては康兵とどんな話をしたっけなあ……。割とストレートなJ-POPの手法を使った曲だと思うんですけど、こういうキラキラしたタイプの曲が自分はやっぱり好きなんですよ。だから、あんまり悩むこともなかった気がするな。ストリングスは絶対入るよね、みたいな話は最初にしたと思う。あと、間奏とギターソロをどこに入れるかみたいなやり取りはあった。大サビに繋げるまでの構成ですよね。
――ああ、なるほど。ちょっとシンフォニックな雰囲気になった後、大サビに行き、そこからギターソロが入ってくる流れはすごく気持ちいいところでした。
新藤:そうね。そこの順番はちょっといろいろ考えたかな。ストリングスで1バースやりたいというアイデアがあった上で、じゃあどんな構成にするのがいいのか、みたいな部分はけっこうこだわったかもしれないです。
――ボーカルに関しては今回、昭仁さんのプライベートスタジオで録ったそうですね。
岡野:そうなんですよ。ボーカルのレコーディングはすべて自分のオペレーションでやらせてもらって。自分のソロではそういう録り方をしたことがあったんだけど、それをすっかり忘れていて。今回、ポルノでもやってみようかなと。完全にひとりで録ったので、気兼ねなく何度も歌い直せるし、その中で歌詞をより精査していくこともできたのが良かったですね。
――今回のボーカルで特にこだわった部分というと?
岡野:ボーカルのテクニックうんぬんというよりも、メロディの上に乗る言葉の響きみたいな部分を大事にしましたね。今回は自分で歌詞を書いたこともあり、サウンドやリズムの中でしっかりと言葉を響かせるにはどうしたらいいかっていうことをすごく考えた。そのために言葉を変えたりしたところもありましたね。で、ちょっと多めに6テイクくらい録ったものを康兵に送って、セレクトしてもらった感じです。
――テイクのセレクトも宗本さんがやられているんですか。
岡野:うん。仮歌の段階で「こんな感じで歌うよ」っていうのを聴いてもらい、そこでOKをもらってから本チャンを何パターンか録っていく感じですけどね。
――今後もボーカルはひとりで録っていくスタイルでやっていくんですかね?
岡野:全部が全部そういうやり方でできるわけじゃないとは思うけど、時間的な余裕があるときは今回のようなやり方がいいなとは思っていますね。ひとりで録るのは気が楽なので(笑)。
――「ヴィヴァーチェ」に関しては、ジャケットのデザインもかなり話題になっていましたよね。
新藤:おじいさんのやつね。あれ、いいですよね。
岡野:デザイナーさんがいろんな案を出してくれた中から、“ヴィヴァーチェ”っぽいものを選んだ感じですけどね。常識や枠組みにとらわれず、そこから逸脱して生きていくことの大事さみたいなテーマがいちばん表現されていたのが、このジャケットだったので。
――ファンの間では「ハネウマライダー」味があるという声もけっこう見受けられたのですが。
岡野:あー、確かにありましたね。
新藤:え、ジャケットの雰囲気が?
――そう。文字のフォントも含めて、「ハネウマ」のジャケットに似ている部分があると。
岡野:そう言われたら、確かにそうかもしれないな。全く意識してなかったけど(笑)。
新藤:いっぱい作品を出してるからね、どうしても何かと被ってくるんですよ(笑)。
岡野:25年もやってると、どうしてもね(笑)。しかし、みんな細かいところまでよく見てくれてますよね。自分らじゃ、そんなこと思いもせんかった。
新藤:そういう考察みたいなことをしてくれるのは嬉しいですよね。逆にこっちから何らかの爪痕を残そうと仕掛けることもあるし。そういうときはニヤニヤしながら、みんなの反応を見てますけど(笑)。
――この新曲を引っ提げて26年目に突入したポルノの今後がどうなっていくのかが楽しみです。おふたりの中には何かビジョンはありますか?
岡野:これからも目線は下げずにいたいですよね。周年がすべてではないけど、5年後、10年後にはまた新たな山に登っていたい。5年後には55歳になっていますけど、いろんな意味での高みは見続けていたいなと思います。
――晴一さんはハマスタで「自己更新していきたい」といった発言をされていましたよね。
新藤:うん。同じことをやり続けていると、それは“落ちて”いるんだろうみたいな理屈ってあるじゃないですか。でも、その逆の見方もあって。年齢を重ねていくといろいろと奪われていくものもあるわけだけど、その上でなお同じことをやり続けられていたら、それはすなわち“自己更新”していることにもなる。僕が思っているのは、そういう意味での自己更新。ここからまた時間が経っても、今回の25周年と同じような景色が見られるように頑張ろうかなと思っています。
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