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“ボス・リサと呼んで”:BLACKPINKのLISA、スター・パワーをソロ活動だけでなく、新しい成功の形にも注ぐ
By Nolan Feeney / Billboard.com掲載
LISAは困惑している。眉を少しつり上げ、唇をすぼめ、クルミ色の完璧な前髪の下からじっと前を見つめている。ほとんどの人にとっては初歩的な世間話に値する質問に答えようとしているのだが、彼女にとってはスフィンクス級の難問のようだ:「あなたはどこに住んでいるのですか?」
「自分がどこを拠点にしているのか、よくわからないんです」と、彼女は愉快そうにクスクス笑いながら言う。記録的成功を収めてきたK-POPガールグループ、BLACKPINKのメンバーとしての彼女は韓国ソウルを故郷と呼んでいた。しかし今の彼女はあちこち飛び回っている。私たちが会っているここ米ロサンゼルスでは、彼女は多くの時間を費やして新曲のレコーディングを行っている。母国であるタイではHBOの『ホワイト・ロータス』の待望のシーズン3も撮影した。そして仏パリでは、ルイ・ヴィトンの新しいアンバサダーとしてファッション・ショーの最前列に姿を見せている。「今自分がどのタイムゾーンにいるのかもわかりません」と、KITHのトラック・ジャケットとセリーヌのバギージーンズを身にまとい、ザ・ビバリー・ヒルズ・ホテルのスター御用達レストラン、ポロ・ラウンジの奥まったブースでオレンジジュースを飲みながらLISAは言う。
別名ラリサ・マノバンという27歳の彼女は、貴重なオフの時間にポップ・マートという世界的な玩具チェーン店を訪れるのが好きだ。この店の愛らしいキャラクターが大のお気に入りなのだ。ある日、珍しいフィギュアを求めてパリの3つの異なる店舗を訪れたことがあり、冗談めかして、“もう歩くスペースがないくらい”家具よりもコレクション品のほうがたくさんあると明かす。あるいは、どこにいても最高のタイ料理を求める。ロサンゼルスでは誰もが彼女にアナジャックやジットラダという地元の有名店に行くように勧めるが、「私には本場の味ではありません。故郷の味ではない。味が違うんです」とLISAは言う。彼女はルエン・ペアを好んでいる。
「ただフラッと入るんです。あまりメイクをしませんし、(髪で顔を覆いながら)こんな感じで入るんですが、ほとんど気づかれませんね」と彼女は言う。人々が公共の場で彼女に気づいたとしても、少なくとも米国では、普通はクールに振る舞ってくれる。彼女は陽気なアメリカ訛りを真似ながら、「向こうから近づいてきて、『あなたの音楽が大好きってことと、こんにちはって言いたいくて!』って言って立ち去るんです」と話す。もしそうじゃなかったら? 「まあ、もちろん、いつも彼がいますし」と、LISAは隣のブースにいるたくましい刺青男のほうを向いて会釈する。今になって気づいたが、彼女のボディガードだ。
Photo: Joelle Grace Taylor
ポップ界で最もエキサイティングなスターの一人の、まったくファビュラスで、まったく疲労困憊するような、世界中を飛び回る生活へようこそ。LISAは最新シングル「ROCKSTAR」で、空港コードをまるで自分のABCのように詠唱し(〈MIA(マイアミ)に行ったし、BKK(バンコク)はすごくすてき!〉)、多言語スキルを披露し(「LISA、日本語を教えてくれない?」私は、「はいはい!」って言った))、まるで靴下の引き出しを説明するかのようにデザイナー・ブランドとのコラボレーションをさらりと口にする(〈タイトなドレス、LVが送ってくれたの!〉)。彼女は、刺激的な生活を題材にした骨太なロックチューンと、パーソナルで自伝的な素材が同じであるという稀有なポップスターだ。自身を有名にしたガールグループを離れてソロ活動を開始するにあたり、この世界観の構築は彼女にとって最大の喜びのひとつとなっている。「最初は怖かったですし、緊張もしました。自分のことをするためにここに来ることってないですし」と彼女は言いつつも、次に話すことは口にしてはいけないかのように声をひそめ、「でも今はすごく楽しいです。シングルがリリースされた時のファンの皆さんの反応が私を癒してくれました。『あ、そっか、そうだよね、私は素晴らしい仕事をしたんだ!』って感じです」とささやいた。
ポップグループとしての成功がソロ・アーティストとしての成功を保証するわけではないが、BLACKPINKは普通のグループではない。多国籍のメンバー、擬音語のフック、大ヒットしたミュージック・ビデオを擁するこの4人組は、世界制覇のために実質的に作られたようなグループだ。ルミネイトによると、2016年以降、BLACKPINKは世界中で400億回もの公式オンデマンド・ストリーミングを記録しており、米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”には9曲ランクインし、世界最大のステージでパフォーマンスを行ってきた。2019年には韓国のガールグループとして初めて【コーチェラ】に出演し、2023年には韓国のアーティストとして初めて同フェスティバルのヘッドライナーを務めた。米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard 200”でグループにとって初となるNo.1を獲得したアルバムにちなんで名付けられた、2022年から2023年にかけての【Born Pink】ワールドツアーを終える頃には、BLACKPINKは全米のスタジアムをソールドアウトさせていた。これはK-POPアーティストの中でもごく一握りしか成し遂げていない。
BTSのような同世代のアーティストたちとともに、BLACKPINKはK-POPと米国のメインストリームの間に残っていた壁を取り払うのに一役買った。グループの韓国のホームであるYGエンターテインメントとインタースコープ・レコードのパートナーシップが後押しし、彼女達は米国の朝の生番組や深夜番組に定期的に出演し、英語で楽曲をレコーディングし、米国のヒットメーカーたちと組んだ。
BLACKPINKのメンバーは全員がスター性にあふれている。JENNIEは落ち着いたクールさ、ROSÉはシンガーソングライターの知性、JISOOはお茶目なユーモアとお姉さん的エレガンスが強みだ。だがグループの中でLISAの存在感は見逃せない。彼女はピクサー・ランプのような大きく弾むエネルギーでラップし、堂々としたフロウでヒップホップのグローバル化を象徴する存在となっている。YGからリリースされた彼女の2021年のソロ曲「MONEY」は、[ニューヨークのヒップホップFM局]HOT 97にふさわしい派手なビートを基調としており、米ビルボードの“Hot R&B/Hip-Hop Songs”チャートでK-POPアーティストとして初めてトップ40入りを果たした(36位)。また、彼女はミーガン・ザ・スタリオンとオズナとともに参加したDJスネイクの2021年の楽曲「SG」にもしっくり馴染んでいた。ソロの音楽制作に取り組む中で、LISAは、ジャンルを問わない音楽性が自身の強みであることに気づいた。彼女は髪をくるくると回しながら、「あらゆるジャンルでうまくやれてる、みたいな?」とはにかんで言い、「だから、『まあ、やってみよう!』って思うんです」と続けた。
Photo: Joelle Grace Taylor
これまでは、K-POP界で最も輝かしい成功を収めたスターたちがソロ活動をする際、通常独立するか(例えばYGのガールグループ、2NE1のラッパー兼シンガーCLのように)、または所属グループの会社を通じて活動することが一般的だった(例えばBTSのメンバーのように。彼らの所属事務所であるHYBEはユニバーサル・ミュージック・グループとグローバル・パートナーシップを結んでいる)。だがLISAは、自身のマネジメント会社とレーベルのLLOUDを設立し、RCAレコードと提携することで、マスター音源を所有するという異なるモデルを追求している。
RCAのジョン・フレッケンスタインCOOは、「彼女が地球上で最も人気のあるポップスターの一人として世界制覇を狙っているのは明らかで、我々も彼女に全面的に協力しています」と話す。K-POP企業は、通常マネジメント、レーベル、エージェントなどの機能を1つの組織に統合したワンストップ・ショップであり、「マーケティング、プロモーション、A&Rなどあらゆる面で一定のやり方で業務を行っていて、長年にわたり、ファン層が慣れ親しんできたこの体制を確立してきました。ある体制から別の体制に移ることはかなり稀です」と彼は言う。
LISAだけがその方法を学んでいるわけではない。他のメンバー全員も同様に、同時に次の段階に踏み出そうとしている。JENNIEはコロンビア・レコードと自身のODD ATELIER社を通じて、太陽の光を浴びたようなアップチューン「Mantra」を10月にリリースした。ROSÉは12月にアトランティック・レコードを通じてデビュー・アルバムをリリースする予定で、彼女の最初のシングルであるブルーノ・マーズとのポップパンクなデュエット曲「APT.」はHot 100で初登場8位を記録し、K-POP女性ソロ・アーティストとしては最高記録となった。一方、JISOOは韓国のテレビ番組や映画での演技に専念しているが、2月に自身の会社BLISSOOを立ち上げた。LISAは、彼女もいずれ音楽活動を行うようになるだろうと考えている。K-POPアイドルの世界ではアーティストに力があるとは言い難く、肩にのしかかる準外交的なプレッシャーは計り知れないことを鑑みると、まったく新しい競争の場だ。
予定されている2025年のBLACKPINK再結成が刻々と迫る中、LISAはデビュー・ソロ・アルバムの制作を終えつつあるが、彼女はK-POPの女王からグローバルな女性実業家に変身できるのだろうか? 彼女は挑戦するつもりだ。厳密に言えば、LISAはLLOUDのCEOであるが、その肩書に居心地の悪さを感じている。「私はそうは言いたくないです。ボスと呼んで。ボス・リサと呼んでください」と、彼女は笑いながら話す。
Photo: Joelle Grace Taylor
BLACKPINKが1年間にわたる【Born Pink】ワールド・ツアー全66公演を2023年9月に締めくくったとき、LISAにとって睡眠は優先順位が低かった。彼女は、「すごく疲れていました。でも、何でしょうね、仕事をしていないと罪悪感があるんです。何かしていないと落ち着かない感じ。変な感じでした。体から『ビービービー! 休んでばかりいないで!』というサインが送られていたんです」と語る。
彼女はすでに自分の将来についてよく考えていた。BLACKPINKは、その夏に結成7周年を迎えた。K-POPグループにとって、7年は業界で一般的な契約期間であるため、重要な節目となる(K-POPファンは、グループがこの時点で解散する傾向を“7年目の呪い”とさえ呼ぶ)。長年、BLACKPINKの軌跡は明確な輪郭を描いていた。だがメンバーが契約更新について考えたとき、不確かな未来について決断を下さなければならなかった。それは、グループとして、そして個人として、今後何をしたいのかということだ。LISAは、「もちろん、私たちはもっとやりたいですよ、だってBLACKPINKは私たちの生活の一部ですから。もっと多くのことを成し遂げたい。でも一方で、私たちはソロのキャリアのために何かしたいという気持ちもあったんです」と語っている。
彼女たちは変わった取り決めを決めた。メンバーはグループ活動に関してはYGと再契約したが、個々のプロジェクトに関してはフリー・エージェントとなった(ただし、最終的にROSÉはYGが資本参加しているザ・ブラック・レーベルとソロ・マネジメント契約を結んだ)。LISAが独自の道を歩む時が来たが、そのためには彼女自身のチームが必要だった。
彼女が最初に連絡を取ったのは、YGの米ロサンゼルス支社で5年間、マーケティング、マーチャンダイジング、レーベル関係など、あらゆる業務に携わり、LISAと親しくなったアリス・カンだった。YGの北米事業を数年間率いていたジュジョン・“JJ”・ジョーは、カンをスタッフの代表としてLISAの担当に任命していた。「2人とも気さくで楽しい性格なので、これまで完璧に(一緒に)やってこられたのだと思います」と彼は述べている。BLACKPINKのツアーで家を空けることが多かったカンは、2023年の終わりに仕事を辞め、次に何をするかを考えながら静かな休暇を楽しみにしていた。カンは、「私は、『もうすぐ休暇だ、年末だ。家族と過ごす時間だ!』と思っていました。そこへLISAが、『ねぇ!』と」と笑いながら話す。
LISAは、後にLLOUDとなる事業を立ち上げることを彼女に提案した。「彼女は米国の音楽市場で自身の存在を本当に知らしめたいという強い意欲を持っていました」と、LLOUDのグローバル事業および経営責任者であるカンは振り返る。LLOUDはビヨンセのパークウッド・エンターテインメントのような、アーティストが設立した多角経営企業を想起させるが、LISAは将来的に他のアーティストと契約するつもりはないと言い、リアーナのような帝国を築く野望を持っているわけではないと話している。彼女は、「LLOUDは、常にLISAに焦点を当てて、LISAをサポートする、私の安全地帯のようなものだと感じています。私は今年達成したいことだけを考えていました。1年ずつ(やっていく)。だから今年、私がやりたかったことは新しい音楽に取り組むことで、それに集中することでした」と話している。
LISAとカンが取るべきステップを計画する中で、同じくYGを去ったジョーをアドバイザーとして迎え入れた(彼はブランド・コンサルティング会社ABrandsとアーティスト・マネジメントおよびコンサルティング会社ザ・カラーズ・アーティスト・グループを経営している)。YGでのジョーの主な業務は、米国でのネットワーク作りと関係構築だったことから、LISAのコアチームの構築と大手レーベルとのミーティングの設定を手助けした。
LISAはRCAとすぐに意気投合した。「(ミーティングの後)車に乗るとすぐに、私はアリスに、『彼らのこと、なかなか好きかも!』と話していました」と彼女は述べている。それはほとんど直感的なものだったが、LISAは彼らがきちんと下調べをしてくれていたことに感謝した。LISAは5匹の猫を飼っており、RCAは猫をテーマにしたステッカーやぬいぐるみなどの小物を入れたギフト・バスケットを贈ってくれたのだ。カンは、「彼らはミーティングをLISAに特化した非常にパーソナライズされたものにしてくれました。そして、LISAをサポートし、彼女を今以上にスターにするために何をすべきかをすでに考えていました」と振り返っている。
彼らの提案の要点は、LLOUDの作品を拡張し、LISAの強みを補完することだった。RCAのフレッケンスタインは、「K-POPは、ファンが何を期待し、人々が何をしようとしているかという点において、ある意味、限定された世界です。LISAにとって私たちのような者と仕事をするのは、私たちが持つリソースやコネクションを考慮した上で、非常に意識的な選択でした」と話す。彼は、例えば地上波ラジオのエアプレイは、K-POP界のアーティストが“少し苦労している”分野だと指摘する。「彼女は、最終的にどこへ向かうのか、また、どのような感じになるべきなのかを明確に理解していますが、そこに至るまでのギャップを埋める手助けを私たちがしているのです」と彼は述べている。
RCAはまた、いくつかの重要な紹介も行った。ノーマニとテイト・マクレーと仕事をした経験がある振付師のショーン・バンクヘッドとLISAを引き合わせ、彼はLISAの9月の【MTVビデオ・ミュージック・アワード】での熱のこもったメドレー・パフォーマンスを含む、MVやライブ・パフォーマンスで彼女とコラボした。振付を覚えることに関してバンクヘッドはリLISAを“ロボット”と呼び、撮影開始前日にバンコクで「ROCKSTAR」の振付のほとんどをマスターしたと語る。「これは本当に前代未聞です。彼女は勇ましい」と彼は話している。
LISAにとって、このキャリアの段階を自ら指示することは目から鱗の経験だった。自分の会社のボスになるということは、予算や経費報告書など、企業ならではのスリルを今こそ楽しめるということだろうか? 「あ、もちろんです。まだ何もかもが新しいですから、退屈なことは何もありません。『ええっ、こんなこともやらなきゃいけないの? OK!』って感じですよ」と彼女は話す。
「今では、すべてにどれだけの費用がかかるのかがわかります」と彼女は続ける。「私はYGに所属していましたが、スタッフが管理していたので、何が起こっているのかとか、MVや写真撮影やホテルにどれだけの費用がかかっているのか、私はまったく知りませんでした。でも今は、ある程度知っているので、『なるほど、もうファーストクラスは利用できないな』という感じです」と、彼女はスプレッドシートを熟考するようなしぐさをしながら笑った。(ジョーは、「最悪の上司とは、決断をしない人です。彼女は決断をしますから、素晴らしいです」と話している。)
YGのような巨大企業と比較すると、LLOUDは“家族経営の会社のようなもの”だとLISAは言う。 現在従業員数は10名以下であり、スタートアップ企業らしく、各部署の責任範囲は曖昧だ。ジョーは、LLOUDが直面している最大の課題について、「ただただ忙しくて、人を雇う時間がないんです」と語る。目的地に向かう車の中で車を組み立てているようなものだ。「僕たちはMVの撮影を行っている現場で次のMVについて話し合っています。何かをしているときに、常に次のことを行っているのです」と彼は話している。
少なくとも今のところは、LISAはその状態を好んでいる。「最近アリスやチームのメンバーとレストランで食事をすると、仕事の話ばかりしてしまうんです。たとえ『このディナーはただお祝いしよう』というような場合でも、そうはできません。まったく途切れることがないんです。いろんなことが起こっているので、何かを考えていてそれが頭に浮かんだら、すぐに言わずにはいられないんです。そうしないと忘れてしまうので」と言うLISAは言葉を切り、「うん、それは直さなきゃ」と続けた。
Photo: Joelle Grace Taylor
LISAの成功の秘密は、その名前にある。出生名が「プランプリヤ・マノバン」だった彼女は、13歳のときにYGのオーディションを受けた。しかし結果がなかなか返ってこなかったため、母親は占い師に相談し、運を引き寄せるために名前を変えることを勧められた。これはタイ文化ではよくあることだ。2021年、YGからのソロ楽曲について話していた際に、LISAは「私たちはどうしても受かりたかったんです」と語った。LISAによれば、“称賛される者”という意味を持つ新しい名前「ラリサ(Lalisa)」に変えた翌週、YGからソウルでのトレーニングを受けるように誘われたという。
K-POPの練習生システムは、まるでアーティストを開発するためのステロイドのようなものだ。世界中のオーディションから選ばれた若いスターの卵たちは、グループでデビューするために何年も音楽とダンスを学び、熾烈な競争に挑む。長時間労働、少ない休み、頻繁な評価テスト、そして脱落のリスクがつきまとう過酷な環境だ。当時英語は少し話せたものの、韓国語をまったく知らなかったLISAにとって、孤立を感じることがあった。「韓国語の習得に集中するように言われ、他の練習生の女の子たちには『ラリサと英語で話すな』という指示がありました」と彼女は振り返る。しかし、LISAには他の道はなかった。「ステージに立つために生まれたと感じています」と彼女は述べる(他のメンバーも同意しており、JENNIEは2019年に米ビルボード誌に「LISAはすべての科目で常にAを取っていた」と語っている)。
現在、ソロキャリアにおいて、LISAはアーティストとしての自身の成長を最優先事項にしている。昨秋、ジョーがLISAのために最初にしたのは、レコーディング・セッションの準備だった。「彼女は今まで一人のプロデューサーとしか仕事をしていませんでした」とジョーは、BLACKPINKのほとんどの楽曲の作詞・作曲を担当しているテディ・パクについて話す。「だから、他のプロデューサーとも一緒に仕事をしてみて、どんな相性が生まれるか試してほしいと思っています」と彼は言う。
多くのポップグループ出身のアーティストとは異なり、LISAはBLACKPINKで特に窮屈さを感じたことはない。彼女や他のメンバーは、常に意見を尊重してくれるテディ・パクの影響力を称賛している。LISAも新しい楽曲のいくつかで共同作詞を始めているものの、ただ単にクレジットを増やすためにそうしているわけではない。「座って自分で全部書こうとするタイプではありません」と彼女は言う。グループでの役割について彼女は「BLACKPINKでは私はラッパーなので、いつもラップをしています」と語り、明確で忠実にその役割を果たしてきた。「でも今は、できることを(もっと)世界に見せるチャンスです」と彼女は続ける。
「ROCKSTAR」は、強烈なビートとテーム・インパラ風のブレイクダウンで、BLACKPINKのサウンドと次の章をつなぐ曲となった。「企画時には、彼女のコアファン層にしっかり訴えかけたいと考えていました」とフレッケンスタインは語る。その後のシングルでは、LISAが新しい声の質感を試し、より自由に表現できる機会が増えた。「NEW WOMAN」は、ロザリアとのバイリンガルのコラボで、スウェーデンのヒットメーカーであるマックス・マーティンとトーヴ・ローが手掛けた目まぐるしいビート切り替えが特徴だ。甘いシロップのような「Moonlit Floor (Kiss Me)」はシックスペンス・ノン・ザ・リッチャーの「Kiss Me」をサンプリングしており、サブリナ・カーペンターの「Espresso」やドージャ・キャット「Say So」といった最近の控えめなディスコサウンドのヒット曲に近いスタイルだ。「私はすべてにおいて、より創造的な自由を感じています」とLISAは語る。
それには、少しエッジの効いた表現も含まれている。グループ出身のポップスターがソロ活動を始める際、通常、力強い独立宣言を通して若々しいイメージから脱却する。しかし、K-POPスターには、(少なくとも公には)デートやパーティーといったことを控え、ノースキャンダルなイメージを維持することが期待されてきた。その慣習は今、変わりつつあるが、業界には依然として大きな影響を及ぼすことがある。たとえば、SMエンターテインメントのグループ、RIIZEのメンバーであるスンハンは、女性とのキスや喫煙中の写真や動画が流出したため、活動中断となり、最終的にはグループから脱退した。
LISAは少しずつ“大人”へと成長してきた。BLACKPINKとして【コーチェラ】のヘッドライナーを務めた際、ポールダンスを取り入れたパフォーマンスを披露し、Fワードを連発した「MONEY」の新しいエクスプリシット・バージョンを熱唱した。ファンは彼女がその瞬間を心待ちにしていたように見えたとSNSで話題になった。「あのバージョンを歌う瞬間をずっと待っていました。JENNIEが『LISA、やっちゃえ。ここはコーチェラだよ。みんなやっているんだから』って言ってくれたんです」とLISAは語り、実はJENNIEが提案したものだと明かした。今日のLISAは、【ヴィクトリアズ・シークレット・ショー】でランジェリー姿のモデルと共演した10月のパフォーマンスや、より大胆な歌詞からも見られるように、成熟した雰囲気を漂わせている。〈私はロックスター/あなたを興奮させる〉のようなあからさまなダブルミーニングを含む表現と、BLACKPINK時代の遊び心あふれる官能性は結びつかない。
「(今は)少し寛容になってきました」とLISAは自身のイメージについて語る。それは努力して得たものだと感じているようだ。「もう新人ではありません。私は27歳で、30代に向かって進んでいます。もちろんまだ若いですけど、(イメージの縛りが)柔軟になってきたと思います。そして、そんなに大げさなことでもありません。ただ自分のやりたいことをやっているだけで、誰にも迷惑をかけていません。誰かを傷つけないかぎり、好きなようにやり続けます」と彼女は続ける。(彼女の恋愛事情について、最新曲「Moonlit Floor」で歌われる“緑色の目をしたフランス人の男の子”について軽く言及すると、LISAは肩越しに振り返り、髪を華麗にさばきながら、「あの曲は私が書いたものではないので」と答え、LVMHの後継者フレデリック・アルノーとの噂については語らなかった。)
ショーン・バンクヘッドはLISAがリアルタイムで進化を模索していると感じている。「これまで、リル・ナズ・Xがシャワールームで裸で踊るシーンやカーディ・Bとミーガン・ザ・スタリオンが【グラミー】で足を交差させる大胆なダンスを披露するなど、ショッキングな演出が私のお気に入りでした」と、バンクヘッドは過去の仕事を振り返る。LISAについては、「時に限界に挑戦したくなることもありますが、彼女は『まだその準備ができていないかもしれない』と言うこともあります。反対に、【ヴィクトリアズ・シークレット・ショー】でセクシーなブレイクダウンを提案した際には、彼女は『もっとやりたい』と意欲を見せたんです」と振り返った。LISAにとっての成長痛は、今のところ主に身体的な痛みのようだ。「何度もヒールでスプリットの動きを繰り返していたため、彼女は股関節に少し痛みを感じていました」とバンクヘッドは述べる。
Photo: Joelle Grace Taylor
BLACKPINKのコンサートの一番の見どころは、火花を放った爆発的な演出効果やキラキラした衣装替えではなく、アンコールだ。4人が各自のグッズを身につけ、振付を無視してお互いにふざけ合う姿が見られる。彼女たちは、絶頂期にありながらも互いにまったく飽きていない、珍しいガールグループのようだ。そしてメンバーがソロ活動を展開する中で、彼女たちはお互いのSNSで一番のファンとなっている。
「私たちは互いをよく理解していて、1つのプロジェクトにどれだけのエネルギーを注がなければならないのかもわかっています。だからこそ、お互いを応援して『よくやったね!』って伝えたいんです。JENNIEやROSÉが新曲をリリースしたときも、メッセージやFaceTimeで連絡を取り合いました。彼女たちは家族みたいな存在です。私も彼女たちの作品リリースは本当に嬉しいです。これこそ私たち全員がずっとやりたかったことなので、彼女たちの楽曲が大好きだと心から伝えたかったんです」とLISAは語る。
LISAは2025年にグループが再集結することを認めた。「本当に楽しみです」と彼女は語るが、その再集結がどのような形になるかは未定のようだ。YGは今年初めにグループの正式なカムバックと来年のワールドツアーを発表したが、ツアーについてLISAに尋ねると、彼女は目を細めながら「そう彼らは言っているのですか?」と、少し懐疑的な声で答える(「どうなるかわかりません。YGから正式の発表を待つしかないです」とカンが後に私に補足した)。
今後、LISAがソロキャリアとグループの活動をどう両立させるかは「その時々で考えながら決めていく」とフレッケンスタインは言う。「直感的には、誰にとってもプラスになると思っています。既成のルールがあるわけでもないし、そういったルールを設ける必要もないでしょう」と彼は続ける。
現時点でLISAにソロツアーの予定はなく、アルバムが完成するまでは難しいと考えられている。今はアルバムの制作に全力を注いでいるようだ。最近楽しんでいる音楽について尋ねると、「こんなことを言うのは恥ずかしいんですけど。自分のアルバムを聴いています。曲順や何か変えられることはないか、色々と検討しているところです」とLISAは答える。彼女のチームが筆者に聴かせてくれた未完成の曲には、イギリスのアイコノクラストであるM.I.A.や(2006年のアルバム)『ルース』期のネリー・ファータドを彷彿とさせるものもあった。バラードもあるのかと尋ねると、「何でもあります。きっと、私がどれだけ多才かを知って驚かれると思います」と彼女は笑顔で答える。
2019年にLISAと初めて出会ったとき、彼女は本格的なアメリカ進出でグループメンバーと共に初めてロサンゼルスを訪れたばかりで、世界に挑むことにワクワクしている様子だった。ハリウッドの看板を見つけると、彼女は窓に向かって駆け寄っていたが、同時にグループにかかる期待に緊張もしているようだった。現在のLISAは、以前よりも肩の力が抜けてジョークも飛ばしながら、本当にその瞬間を楽しんでいるように見える。では、6年前の自分にアドバイスをするとしたら何を伝えるのだろうか?
「何も言わないと思います」と、LISAは目を大きく見開いて言う。「それじゃ面白くないから! 占い師に言われたことが頭にこびりついちゃうような感じです。『あなたはこれを手に入れる』って言われて、『どうせ手に入るし、何もしなくていいや』ってなっちゃうと、結局手に入らないんですよね。だから、過去の自分には何も言わないと思います。」「でも、もし言うとしたら、『今やってることをそのまま続けていって』って言いたいです」と、LISAは背もたれに寄りかかりながら、そう続けた。
日本を代表して、YOASOBIのikuraがLISAに質問!
ビルボード初のグローバル・カバー・スターとして、今回LISAはアメリカ、アラビア、アルゼンチン、ブラジル、カナダ、エスパニョール、イタリア、ジャパン、コリア、フィリピンの計10か国のカバーを飾った。そんなLISAに、日本を代表して、YOASOBIのikuraが質問! 世界中を飛び回るスーパースターは、どんなことをして息抜きしているのだろうか? 気になる返答はこちらの映像をチェック!
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