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<コラム>俳優、シンガーとして躍進する三浦透子――声で切り拓いてきた表現者としての現在地

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 数々の映画やドラマに出演し、俳優としてその存在感を発揮する三浦透子。一方、類まれなる歌声でシンガーとしても活躍し、新海誠監督作『天気の子』では、RADWIMPSによる楽曲にボーカル参加したことが大きな話題に。個性豊かなアーティストらの楽曲提供を受けながら、これまで2枚のオリジナル・アルバムを発表し、“声”によって新たな境地を切り拓いている。そんな彼女が、今回ビルボードライブ東京で初のワンマンライブを開催。特別なステージになるであろうその日を前に、シンガーとしての軌跡を辿ってみたい。(Text:村尾泰郎)

“透明な歌声”からはじまったシンガーとしてのキャリア

 俳優にとって声は重要だ。声に形はないけれど、表情や身振りと変わらないほど様々な感情を伝えてくれる。歌手として評価されている俳優が多いのも、声の魅力を役者として知っているからかもしれない。そんな「歌う俳優」のなかで、近年、音楽好きから注目を集めているのが三浦透子だ。

 彼女が俳優としてデビューしたのは2002年。まだ5歳の頃だった。子役時代はドラマを中心に活動していたが、『悪の教典』(2012年)でスクリーン・デビューして以降、『鈴木先生』(2013年)、『素敵なダイナマイトスキャンダル』(2018年)、『すばらしき世界』(2021年)など様々な作品に出演。そんななかで、彼女が世界的に注目を集めたのが『ドライブ・マイ・カー』(2021年)の渡利みさきだ。その演技が高く評価されて、日本アカデミー賞の新人俳優賞ほか様々な映画賞を受賞した。そして、『エルピス―希望、あるいは災い―』(2022)、『季節のない街』(2023)といったドラマの話題作にも出演。さらに舞台にも立つ彼女は『ロスメルスホルム』(2023年)で紀伊國屋演劇賞を受賞した

 今では若手を代表する俳優のひとりとなった彼女が、シンガーとしてデビューしたのは2015年で、映画『ロマンス』(2015年)の主題歌「Romance 〜サヨナラだけがロマンス〜」を歌った。監督のタナダユキから依頼を受けたのだが、彼女は映画には出演していない。シンガーとしての実力をかわれての起用だった。タナダは2014年に手がけたCMで、三浦が複数の女性と一緒に歌をワンフレーズ口ずさむのを聴いて「声がすごく良いから歌ったほうがいい!」と絶賛。そして、タナダが監督した「ミノン全身シャンプー」のCMのために歌い、続けて『ロマンス』の主題歌を依頼するほど彼女の声に惚れ込んだ。CMソングは後にフルコーラスの楽曲として新録され、「おかあさんへ」という曲名で配信シングルとしてリリースされた。そして、2017年に三浦は初めてのアルバム『かくしてわたしは、透明からはじめることにした』を発表する。

 

 本作はカバー・アルバムなのだが選曲が面白い。スピッツ「君が思い出になる前に」、globe「Precious Memories」、松任谷由実「Hello, my friend」、サニーデイ・サービス「東京」、エレファントカシマシ「はじまりは今」など、ジャンルは様々。アルバム・タイトルからは、歌手として何者でもない、透明なところから歌のキャリアをスタートさせる、という三浦の想いが伝わってくる。また、まったく毛色が違った原曲を三浦の歌声でひとつの世界にまとめ上げることができたのは、三浦の何色にも染まっていない透明な歌声があればこそ。本作で本格的に歌のキャリアをスタートさせて以降、「透子」という名前も連想させる「透明さ」は、彼女の歌声を表現するキーワードになった。

 そんな三浦の歌声が幅広く知られるようになったのは、劇場用アニメーション映画『天気の子』(2019年)の主題歌「祝祭」「グランドエスケープ」のボーカルにフィーチャーされたことだった。曲を手がけた野田洋次郎(RADWIMPS)は女性ボーカルにしたいと思い、1年かけてオーディションを行った。その際、『かくしてわたしは、透明からはじめることにした』を耳にした野田は、三浦にデモテープを依頼していた。映画は大ヒットを記録。三浦は紅白歌合戦でRADWIMPSのゲストボーカルとして登場するなど、シンガーとしての存在感を増した。


▲「祝祭 (Movie edit) feat. 三浦透子」MV / RADWIMPS

 三浦は2020年に3度目の映画主題歌「uzu」(映画『ムヒカ 世界でいちばん貧しい大統領から日本人へ』)を歌うが、なぜ、彼女の歌声は映画に愛されるのか。それは彼女の透明な歌声が特定の映画のキャラクターと繋がることなく、まるで「物語の声」のように聞こえるからかもしれない。彼女は撮影に入る前に脚本を何度も読んで物語を理解しておくことで、自然体でも役でいられるようにするという。歌うときに大切にしているのも、まず歌詞をしっかりと読んでおくこと。そうすることで、素直に歌って歌詞が描く物語や登場人物の感情がしっかりと感じられるのだろう。持ち前の歌声と役者としての感性が溶け合うことで、彼女にしか表現できない歌が生まれる。


▲「uzu」MV / 三浦透子


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個性豊かなアーティストからの楽曲提供

 三浦がシンガーとしてキャリアを重ねていくなかで、重要な作品となったのが初めてのオリジナル・アルバム『ASTERISK』(2020年)だ。曽我部恵一(サニーデイ・サービス)、澤部渡(スカート)、津野米咲(赤い公園)、TENDREなど、多彩なアーティストが中心に楽曲を提供。それぞれが音楽活動をしているミュージシャンで、作家性を大切にする三浦のシンガーとしての方向性が定まってきたことが伝わってきた。そして、彼女が初めて単独主演を務めた映画『そばかす』(2022年)で、彼女は4度目の映画主題歌「風になれ」を歌った。


▲「風になれ」MV / 三浦透子

 自分が出演した映画の主題歌を歌うのは初めてであったが、彼女が演じたのは異性に同性にも恋愛感情が持てないアセクシュアルの女性、蘇畑佳純。彼女は周囲の理解がなかなか得られないなかで自分の生き方を模索していく。映画公開の際に彼女に取材したが、主題歌をまかされた彼女は、どんな曲がふさわしいのか、撮影をしながら考えていたという。そして、佳純が新しい一歩を踏み出すラストシーンの撮影をした時、羊文学の塩塚モエカに曲を依頼しようと思いつく。曲を依頼するにあたって、彼女は塩塚と会って自分の話をした。彼女は新しい曲を制作する際は、デモテープを聴いて一緒にやってみたいアーティストを自分で選び、曲を提供してくれるアーティストには必ず直接会って、自分のことを知ってもらうことにしているという。そして、「風になれ」は映画の印象をそのまま歌にしたような、爽やかで凛とした力強さを持った曲に仕上がった。

 映画公開に合わせてミニ・アルバム『点描』がリリースされたが、曲を提供したメンツは前作からガラリと変わって、YeYe、小田朋美(CRCK/LCKS)、有元キイチ(ODD Foot Works)、butaji、剣持学人といった面々。洗練されたサウンドのなかにアーティスティックなエッジも潜ませた楽曲に、ますます表現力を深めた歌声が美しく響き渡っている。曲を提供した小田朋美や編曲で参加した渡辺琢磨は、以前から好きで聴いていたアーティストらしく、そういった彼女自身の音楽的な嗜好も本作には反映されている。また、収録曲「漂流」で初めて作詞に挑戦するなど、また一歩、歌の世界に踏み込んだ作品になった。


▲「私は貴方」MV / 三浦透子

 それから2年、今年10月に新曲「すっぴん」が発表された。曲を提供したのは有元キイチ。三浦は有元のシングル曲「聞いてたの?」(2023年)にフィーチャーされていて、今回で3度目のタッグだ。有元は「三浦さんの作品群の中で今までは出していないような一面を引き出せたらと思い、曲を書きました」とコメント。音数を削ぎ落としたトラックのなかを自由に泳ぐ三浦の歌声。R&Bフレーバーを漂わせながら、そこには彼女らしい澄んだ空気感がある。新しい展開を予感させる新曲のリリースに伴って、ビルボードライブ東京での初めてのワンマンも決まった。今回は、小田朋美(ピアノ)、有元キイチ(ギター)という三浦が信頼するミュージシャンを伴ってトリオ編成だ。三浦は舞台はもちろん、ミュージカルの経験もあるだけに、ステージで聴かせる生の歌声は、作品とはまた違った景色を見せてくれるはず。作品ごとにシンガーとして進化する三浦の「今」が目撃できる貴重な機会になりそうだ。


▲「すっぴん」MV / 三浦透子


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初ワンマンに向けてコメントが到着

透子さん、初めてのワンマンライブおめでとうございます! ビルボードライブに透子さんの歌声、ぴったりですね。
透子さんとわたしは同い年で、性格は多分、割と対照的。何度かお話したときには、しっかりしていて論理立てた考え方をする、聡明な方だなという印象でした。 歌はそんなお話のときの印象のまま、的確で美しいのですが、それに加えて、機微を声で表現して曲の世界を広げる力には、特別なものがあると感じます。
わたしは透子さんの「私は貴方」が大好きで、あの、冷たいようで、わずかに揺れる感情の表現は、彼女にしか出来ないと思います。
私が彼女に贈った「風になれ」は、私が歌うと感情むき出しのエモーショナルなロックになるのですが、彼女が歌うことで、一歩引いて、オケとメロディの美しさが絡み合い、より洗練された作品として成立したような感じがします。
尊敬するシンガーの初めてのワンマン、とにかく、ライブのお知らせを聞いたときから、とってもとってもたのしみです。

塩塚モエカ(羊文学)

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羊文学 公式サイト

三浦透子 様
初ビルボードライブ、おめでとうございます! 初めて会ったときの透子ちゃんはまだ女子高生でした。1フレーズずついろんな人が歌を歌うコンセプトの企業CMで、歌録りをした際、そのたった1フレーズの歌唱に驚いて「合唱部に入ってるの?」と尋ねた記憶があります。ちなみにそのときは学校帰りで制服姿でした。
それからたまに、お芝居や歌のお仕事でご一緒させていただきました。個性を出すことをよしとするこの世界で、むしろ彼女は、その名の通り透明になって、ひたすら求められる境地に近づきたいと願っているように感じました。それでいて、辿り着く場所はいつだって「三浦透子」でなければ表現できなかった世界。今回のライブではどんな場所に辿り着くのか、あの歌声で会場が包み込まれるのが、目に、耳に、浮かぶようです。

タナダユキ(映画監督)

インタビュー

タナダユキ 公式サイト

大好きな透子ちゃんは、スクリーンの内外でも変わることなく、しなやかでかっこよくて美しい人。
その歌声もまたびっくりするほど取り繕うことなくまっすぐである。ひとりで聴いていると時々どきっとするような寂寥感もあって、だけどそれが心地よいものだったりするからたまらない。みんなで聴いたらどんな感じだろうか?
そんな彼女の記念すべき初ライブの演奏者には、これまたスペシャルにかっこいい私の憧れである小田朋美さんと、新曲「すっぴん」で"機内は狭いが世界はでっかいな あなたはコンソメスープ 私はアップルジュース"(どうしたらこんな歌詞書けるの?)という天才リリックを生み出した有元キイチさん。
11/29が待ち遠しい。I’m proud of youだよ透子ちゃん!

山中瑶子(映画監督)

インタビュー

山中瑶子 公式X

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