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<インタビュー>アイナ・ジ・エンドが3年ぶりにフルアルバムをリリース――走り続けた3年間と、“宝石”のような楽曲を詰め込んだ『RUBY POP』を語る

インタビューバナー

Interview & Text:永堀アツオ
Photo:興梠 真穂


 アイナ・ジ・エンドが、11月27日にメジャー3rdアルバム『RUBY POP』をリリースする。2021年11月にリリースされた『THE ZOMBIE』から3年ぶりのリリースとなる本作には、TVアニメ『機動戦士ガンダム 水星の魔女』最終回挿入歌「宝石の日々」やTBS系日曜劇場『さよならマエストロ~父と私のアパッシオナート~』主題歌「宝者」など17曲が収録。ブロードウェイミュージカル『ジャニス』や映画『キリエのうた』の主演から、BiSHの解散など、この3年間を怒涛の勢いで駆け抜けた彼女の経験や思いが込められた“人間味の強い”1枚になったという。

 また、インタビューでは周りの人をもっと大切にしたい、感謝を伝えていきたいと語っていたが、そんなアイナ・ジ・エンドの柔らかな雰囲気がこのインタビュー記事からも伝わってくるはずである。

やっぱり自分は地に足つけて、
音楽を頑張るべきなんだろうなって

――フルアルバムとしては2021年11月にリリースした前作『THE ZOMBIE』から3年ぶりとなります。この3年間を振り返って、どんな日々でしたか?

アイナ・ジ・エンド:BiSHが解散して1年ちょっと経つんですけど、映画『キリエのうた』や初めての舞台『ジャニス』があって、もう毎日、特急電車に乗ったまま景色がどんどん変わっていくようなせわしない3年間でした。


――ブロードウェイミュージカル『ジャニス』はどんな経験になりましたか?

アイナ・ジ・エンド:ジャニス・ジョプリンは27歳で亡くなっているんですけど、当時、私も27歳で同世代で。彼女は70年代に生きて、酒、ドラック、セックス、ロックンロール、ブルースみたいな人生だったと思うんですけど、私も歌が好きで、ちょっと共通点もあったりして。割と心を通わせることは難しくはなかったですね。ただ、本当にジャニスみたいにシャウトをするには、死ぬしかないなって思っちゃった時期もあって。


――それは大変だ!

アイナ・ジ・エンド:ふふふ。不器用なので入り込みすぎちゃって。なかなかジャニスが抜けるのに時間がかかりました。


――どうやって抜けたんですか?

アイナ・ジ・エンド:本当にありがたいことに……過酷でもあったんですけど(笑)、「ジャニス」が終わった次の日からフェスだったんですよ、BiSHの。しかも、2日連続で。


――あははは。笑い事じゃないか。それは過酷ですね。舞台も3日間ありましたし。

アイナ・ジ・エンド:結構、過酷でしたね。ジャニスのセリフ量がめちゃくちゃ多くて。ほぼジャニスしか喋ってないし、歌も自分のワンマンよりも多くて、20曲ぐらい歌ってて。しかも、ずっとシャウトなので、ガラガラの状態でフェスに2本出たときに、辛すぎて笑っちゃって。笑ってたら自然と抜けたし、メンバーがいたのもデカかったです。ハシヤスメ・アツコやモモカン(モモコグミカンパニー)が本当に楽しかったんで、一緒にいるだけでアイナ・ジ・エンドになりました。


――ミュージカルの楽しさも感じましたか?

アイナ・ジ・エンド:実は私、中1から中3までミュージカルスクールに通ってて。ミュージカルをやりたかったんですけど、いつも役をもらうのがうじ虫役とかで。


――ミュージカルにそんな役ある!?

アイナ・ジ・エンド:あったんです(笑)。天照大神系の神系ミュージカルなので虫も偉大なんですけど。だから、うじ虫とは言えども、踊りのチャンスがあって。ちゃんと踊りで芽吹かせてもらったんですけど、セリフは一回ももらったことがなかったので、初めてセリフがある役が主演で、しかもジャニスだったので、もう緊張と嬉しさでカオスでした。


――それが2022年の出来事ですよね。2023年は映画『キリエのうた』が公開されました。

アイナ・ジ・エンド:実はジャニスよりも前に映画を撮ってて。ジャニスをやって、またキリエをやってるんで、黒髪、赤髪、黒髪みたいな時期。だから、演技はキリエが初めてなんですね。よく私みたいなものを——芝居の“し”の字もわからないやつを、岩井さんが拾ってくれたなって思いが、正直、今、とっても強くて。当時は、駆け巡ってるので必死だったんですけど、今顧みれば、「岩井さん、勇気のいる行動だっただろうな」と思って。どんな芝居するかも全くわからないじゃないですか。BiSHもやってて、曲も書けるかわかんなかったと思うし。そこを信じて、アイナ・ジ・エンドっていうのを引っ張ってくれた。岩井さんの懐の深さに改めて感謝してるし、広瀬すずちゃんにも思う。私、本当に広瀬すずちゃんがいなかったら何もできなかったと思うんで、本当にありがたかったです。


――表現の一つとしての演技に挑戦して、どんなことを感じましたか?

アイナ・ジ・エンド:ものすごい真剣にやったし、顔の色が土の色になるぐらい、生気がないぐらい練習してたと思うんですけど(笑)、やっぱり広瀬すずちゃんが目の前にいたので、もう、すずちゃんについていくしかないっていう状況でした。すずちゃんは、監督がスタートって言った瞬間に空気を変えてくれるんですよ。私はそこに飛び込む気持ちで、毎日真剣にやってたってだけ。思い返すと、楽しかったとかではなくただただ必死でしたね。


――BiSHをやりながらキリエとして8曲の作詞作曲を手掛けてますよね。

アイナ・ジ・エンド:映画のお話をいただいたのが2021年で、撮影が始まるまでの短い期間で1、2曲は書いておいて。すずちゃん曰く、こんな急ピッチで始まることはないっていうくらいにすぐに撮影が始まったみたいなんですけど、岩井さんとちゃんと向き合って、その中でメロディや言葉が浮かんできたんです。

 ただ、撮影の途中で曲が書けなくなったんですよ。それで、岩井さんに「私はもうできない」って弱音を吐いたら、「アイナさんが最後まで諦めずに曲を書かないと後悔するよ」って言われて。もう、はいと言うしかなくて。でも、撮影を遅らせてくれたんですよね。本当は春に終わる予定だったのが秋までかかって。何百人と動く撮影を私の曲が作れないからっていう理由でずらしてもらって。岩井さんの優しさとか、いろんな方々にたくさん救われて何とかできました。


――キリエとして曲を書いて、キリエとして歌うという経験はどうでしたか?

アイナ・ジ・エンド:とても難しかったかもしれない。でも、不思議なんですよね。私は当時、27歳だったので、少女であるキリエの心になるために、割と子供っぽい所作を日頃からしてたんです。でも、いつの日からか、パタリと意識せずともキリエになれてたときがあって。それは、岩井さんやすずちゃんがキリエを守ってくれたからなんですよ。岩井さん率いるチームのみんなが「キリエちゃん」って呼んで、紙とペンを渡してくれて。「ここに自由に絵を書いてていいよ」とか、子供に喋るみたいなことをしてくれて(笑)。すずちゃんも「逸子さん」っていうマネージャーの役だったんですけど、「アイナちゃんはお姉ちゃんと同い年だからお姉ちゃんだと思ってるよ」って言いながらも、基本的にマネージャー役のままの心でずっといるんですよね。本当はもっと妹バイブスを放ちたいだろうに、ずっとしっかりしてくれてて。そのおかげで自分がキリエでいれるんだ、じゃあ飛び込もうって思えた日があった。そのおかげで歌も自然にキリエとして歌えていたので、環境のおかげでいけました。だけど、もうあの歌は歌えないです。あれはあのときしか歌えないです。


――キリエとジャニスを自分に取り込んだことで、ソロのアーティストとして何か変わりましたか?

アイナ・ジ・エンド:日々、変わっていってると思います。『キリエのうた』はかなり大きなきっかけになってるかもしれない。岩井さんやすずちゃんのおかげで、韓国の釜山国際映画祭に連れて行っていただいたり、アカデミー賞の体験もさせていただいて。みんなで青春時代みたいに熱く作り上げた1つの作品が賞を獲ったときのチームごとの感動っていうのは、やっぱ音楽でアルバム作ってリリースしたときとはまたちょっと違っていて。こういう嬉しさもあるんだな、だからまた作りたくなるんだな、だから俳優さんたちはもっともっと頑張ろうと思うんだなって知ることができた。素晴らしい職業だなと思いながらも、やっぱり自分は地に足つけて、音楽を頑張るべきなんだろうなって感じて。こういう経験をさせていただいたし、これも糧にしてやるべきなんだろうなと、毎度、いろんな現場で思ってますね。


――では、たとえ役が入ったとしても、いつでもアイナ・ジ・エンドに戻してくれるBiSHという場所がなくなったことはどんな影響を与えてますか?

アイナ・ジ・エンド:モモカンとはよく話していたので、あんまり会えなくなったのは寂しいですね。この前もご飯に誘ってくれて、犬を連れて行ったんですけど、モモカンがドッグカフェ行きたいって言ったのに、犬にずっと怯えてて(笑)。モモカンが言ったんじゃん! っていう変な気持ちになって。そういう人って生きててあんま出会わないので、初期メンの二人でもあるし、貴重な8年間だったなって思います。そういうのも思い返すと、毎日一緒にいれなくなってるのは寂しいですね。でも、その寂しさを感じる間もなく、忙しくさせてもらってたんで。あんまり立ち返ってなかったかもしれない。





Kyrie(アイナ・ジ・エンド)- キリエ・憐れみの讃歌 [Official Music Video](映画『キリエのうた』主題歌)


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「アイナは宝石アルバムを作りたいんだろうな」って思ってきて

――3年ぶり3枚目のアルバムの制作はどんなところから始めたんですか?

アイナ・ジ・エンド:BiSHを解散してすぐ次の日から【ap bank Fes】のリハがあって。


――東京ドームの翌日? また過酷ですね。

アイナ・ジ・エンド:マネージャーが調整して、違う日を作ろうとしてくれたんですけど、やっぱり難しくて。でも、行ってよかったなと思います。あれがなかったら、ドームで燃え尽きて燃え尽きて、大阪の実家にでも帰ってしまったかもしれない(笑)。そこは小林武史さんに本当に感謝してるんですけど、そこからの『キリエのうた』のプロモーションはもう、鬼ほど忙しくて。スタッフのみんなと毎朝集合して、日付は超えるまで一緒にいて、また何時間後かに会ってるっていう。気がついたら、ツアーもあったり、武道館もあったり、さらに先のスケジュールも見えてて。この先もずっとバタバタしてるなと感じたので、どっかでちゃんとまとめて作品出したいなと思って、エイベックスの人と相談して。この3年間でしたためてきたものをちゃんとまとめて、宝石のように提案して、聞いてもらう。駆け抜けるだけじゃなくて、いったん聞いてもらうっていう時期を作りたかったので出すことになりました。


――「宝石のように」とありましたが、最初から“宝石”というテーマやコンセプトがあったのでしょうか?

アイナ・ジ・エンド:いや、並べて思ったんですよ。顧みると、“宝”という言葉が3個あるなって。「宝者」と「宝石の日々」と「Jewelry Kiss」。自分は1曲1曲、宝物みたいに、宝石みたいに扱ってるんだろうなって。そこから考えてこのタイトルにしました。


――アルバムのタイトル『RUBY POP』にはどんな思いを込めてますか?

アイナ・ジ・エンド:3年間、走ってきた中で、いろんな曲ができて。「Love Sick」みたいに情念にまみれた曲もあれば、最近作った「Jewelry Kiss」のように物静かな女の子の気持ちで書いた柔らかい曲もあったりとか、幅がめちゃくちゃ広くて。1個にまとめるとすごく混沌としちゃったんですよね。これを1枚のアルバムにするのムズイなと思うぐらい、ぐちゃぐちゃに見えたんですけど、1曲1曲、全部に思い出があるんです。誰と作って、どこで初披露して、どんな季節に作ったのか。振り返ってみると、ちゃんと思い出があるから、ぐちゃぐちゃにしたくないし、曲の並び次第ではめちゃくちゃ光る曲も多いなと思って。“光る”とか、“大切”とか、浮かんでくる言葉が全部宝石のようで、「アイナは宝石アルバムを作りたいんだろうな」って思ってきて。それが弾けるという意味でポップってつけました。


――宝石や宝物にまつわる曲でいうと、「宝石の日々」はTVアニメ『機動戦士ガンダム 水星の魔女』最終回挿入歌として書き下ろした楽曲ですよね。

アイナ・ジ・エンド:そうですね。スレッタちゃんとミオリネちゃんという2人の主人公の関係性を描きつつ、当時、怪我をしてしまって、おでこを30針縫った時期(2023年3月にソロ撮影中の事故で頭部を負傷)で。死ぬと思ったんですけど、生きてたんで(苦笑)、改めて今までのことを顧みたときに、全部ありがとうって言って死にたいなと思って。あのときこうすればよかったと思いながら死にたくないじゃないですか。





宝石の日々 [Official Music Video]


――そうですね。後悔は残したくないですよね。

アイナ・ジ・エンド:でも、私、救急車で死ぬかなと思ったときに、めちゃめちゃ悔しいことしか思いつかなかったですよ。私はBiSH解散コンサートの東京ドームにも立てずに死ぬのかとか、忙しくて親にも会えてなかったので、親孝行もできずに死ぬのかとか、後悔ばっかりだった。だから、死にたくないと思って生きてた気がするんですけど、そういう経験もまぜこぜましたね。ずっと人生に薄氷が張っていて、いつ割れてもおかしくない。だからこそ、大切に守っていこうっていう。それはスレッタちゃんとミオリネちゃんの壊れそうな関係とも近いかなと思ったので、おりまぜて書かせてもらいました。


――ドラマチックなバラードですよね。「宝者」もTBS系日曜劇場『さよならマエストロ~父と私のアパッシオナート~』の書き下ろしになってました。

アイナ・ジ・エンド:基本的には台本を全部読んで、主人公の芦田愛菜さんが演じてた役を自分の中で咀嚼して、自分の中にある、本当は素直になって、ありがとうって言いたいのに言えない心と照らし合わせて。これもちょっと同じなんですけど、まぜこぜにして書きました。





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――「Jewelry Kiss」はアルバムの新曲です。

アイナ・ジ・エンド:バンドメンバーのベースのしょーこちゃんのおうちで部屋を真っ暗にして、プラネタリウムを見ていたんですよ。そこで好きな音楽を聴きながら、ゆっくり喋ったりする時間があるんですけど、こういう時間みたいな曲を作りたいなと思って。いつも抽象的な言葉で喋ってるんですけど、「こういうまどろみの曲を作ろうよ」って言ったら、しょーこちゃんがすぐにトラックを作りってくれて。アイナもメロを考えたり、歌詞を考えたりして出来た曲です。


――メロウで優しくて心地いい曲になってますが、どうして「Jewelry Kiss」に?

アイナ・ジ・エンド:その時間っていうか、人っていうか……なんて言うんですかね。私、本当はとても恥ずかしがり屋で、人と喋ってて、例えば恥ずかしいときに、おどけてしまうんですよ。恥ずかしいときに「恥ずかしい」って照れる方がかわいいじゃないですか。でも、それができないんですよね。笑いに変えようと思ってるっていうか、関西人みたいな。


――西の血が騒いじゃうのかな?

アイナ・ジ・エンド:それが自分は嫌なんですよ。大切な人の前ぐらいは、ちゃんと素直でいたいし、恥ずかしいのも出したいという気持ちを書きたいなと思っていたら、相手も意外に恥ずかしがり屋だったから安心したよっていう。みんな一緒だね、私ももうちょっとさらけ出そうかなっていうちょっと前向きでもある曲なんですね。そういう思いにさせてくれる出来事や時間には“きらめき”っていうワードが似合うなと思ったのでジュエリーがいいなと思いました。


――アルバムの新曲で、他にもご自身でキーになってるなと思う曲はありますか?

アイナ・ジ・エンド:アイナ・ジ・エンドとして、割とカロリーが高い曲が多かったんですけど、ドライブでも聞ける曲を作りたいなと思って。車でも楽しく聞ける曲にしたいと思って作った、フォルクスワーゲンのCM曲にもなってる「Poppin’ Run」かな。こういう爽快な曲っていうのはあんまりなかったので、このアルバムの中だとスカッと明るく聴けると思う。だけど、さらっとしすぎてないので、今の私っぽいなと思って。例えば、〈つけてきた傷跡だってアクセサリー〉っていう歌詞が入ってて。今の自分すぎますね。痛みや傷も全部アクセサリーにしてこうよ、みたいな。そうじゃないと意味ないよね、みたいな気持ちで書いているので、ちょっとリードにしたい思いがあります。


――1曲目の「風とくちづけと」もドリーミーで心地よかったです。

アイナ・ジ・エンド:これはバンドメンバーと楽曲制作の合宿をして。それもびっくりするぐらい真面目で、昼から夜までずっと作るっていう。私、みんなで花火をしたりするのかなと思ったんですけど(笑)。


――毎晩、みんなで集まって飲み明かしたりとか。

アイナ・ジ・エンド:それが全くなくて(笑)。みんなで喋ったのが、君島大空くんが差し入れしてくれた時くらいで、ただただ制作をしてました。そのときに生まれた曲で、ニベアさんのタイアップもいただいてた時期だったんで、「優しいイメージがいいよね」とか、「ニベアのクリームみたいに柔らかい曲がいいよね」とか言いながら、みんなで顔を突き合わせて、メロディーが生まれていきました。


――この合唱のようなコーラスは?

アイナ・ジ・エンド:バンドメンバーが歌ってるんですけど、そのときいたマネージャーの女の子とかにも歌ってよとか言って。女性の声が欲しかったので、スタジオにいた受付の女の子も呼んで歌ってもらってます。


――すごくリラックスする曲ですよね。今のアイナさんを象徴するのは、やっぱり「Poppin’ Run」ですか?

アイナ・ジ・エンド:一番自分らしく歌詞が書けたという意味だと、最後の「はじめての友達」ですね。このアルバムで一番好きです。また30針の怪我がでかいんですけど、死ぬまでに大切な物や人をなるべく愛でて、愛おしいと自覚して死にたいじゃないですか。


――その思いはアルバム全体に共通してありますね。自分の大切なものを守りたいっていう。

アイナ・ジ・エンド:そうかも。年を重ねてきたのかもしれない(笑)。前は本当にもう「私は絶望している!」とか「長所のない私です」とか言ってて。何言ってんねんって感じですけど(笑)。今はもうちょっと周りの人を大切にして、ちゃんと愛してるよ、ありがとうって伝えてから、お別れしたいじゃないですか。何も言えなくて、自分も周りのことを大切にできてないまま亡くなってしまったら、もうそれこそ、何の人生やったんやと思うんですよ。っていう気持ちを書いてみたんですけど、このアルバムの中だと、本当に集大成ですね。愛でて愛でて消えようっていう気持ちです。


――どうして“はじめて”の友達にしたんですか?

アイナ・ジ・エンド:いつだって初めての気持ちを思い返すと、人は柔らかくなれる気がするんですよ。例えば、上司に何か言われて、めちゃめちゃむかついても、この上司も赤ちゃんのときがあったんだろうなって。


――あははは。そこまでさかのぼる!?

アイナ・ジ・エンド:こいつも誰かの子宮から生まれてきてとか。私はよく、そういうふうに思ったりするんですよ。すごく悲しいことを言われても、この人もいろんな初めてのときはこんなに意地悪じゃなかったんだろうな。何かがあって意地悪になっちゃったんだろうなって。“はじめて”ってみんなの心を柔らかくしてくれるワードでもあるなと思ったので、今回はアルバムの最後に、アイナの思う、一番柔らかいタイトルにしました。


――全17曲が出来上がって、ご自身にとってはどんなアルバムになりましたか?

アイナ・ジ・エンド:ファーストアルバムは亀田誠治さんがトータルプロデュースでいてくれて、統一感があった。やっぱりアイナの中では傑作で、もうあれは書けないし、あれが1位なんですよ。決して越えることはできないんですけど、今回はあれよりも人間味が増している。そういう意味では同率1位ぐらいのアルバムが出来た気がするので、何の後悔もないし、リリースが久しぶりに待ち遠しいです。


原点回帰のつもりで、「ハリネズミスマイル」

――来年1月にはツアーが決定してますが、どんなツアーになりそうですか?

アイナ・ジ・エンド:ハリネズミスマイルっていうふざけたタイトルで(笑)。私が2015年ぐらいのときにBiSHになって初めてファンの人ができて。チェキ会にも並んでくれる人が多少いて。その人たちの前で笑ってチェキを撮ってるときに「ハリネズミみたいだね」って言われたことがあって。そっから“ハリネズミスマイル”っていう名前をつけて、チェキでも、「ハリネズミスマイルで撮ろう」とか言って、ポーズの名前みたいになって。だから、古いファンの人は知ってるワードでもあるんですけど、今回、武道館が終わって、久しぶりに沖縄や北海道まで行くツアーをやるにあたって、しっかりと周りの人に感謝して回れた初期の頃を思い出そうと思って。


――それも“はじめて”なんですね。

アイナ・ジ・エンド:そうですね。原点回帰のつもりで、「ハリネズミスマイル」っていうタイトルにして。アルバムも結構ポップなイメージがあるんで、暗がりがないライブにしたいと思ったので明るいタイトルにしてみました。


――1枚目と2枚目は暗がりと明るさ、ダークとポップを常に行き来してましたが。

アイナ・ジ・エンド:もういいですね。年も年で、30になるんで。ファーストアルバムを作ったときは本当にもう体中がずっとダークでひしめいてて。「歩く暗黒」みたいな気持ちで歌ってたんですけど(笑)、歳を重ねるにつれて、やっぱ人って強くなってしまうのか。数々の罵詈雑言も受けても、そんなに凹まなくなったりとか。何ですかね。


――セカンドがゾンビだったから、1回死んで生き返った状態なのかな。

アイナ・ジ・エンド:そうかもしれない。暗がりを書くならば、明るい中でぽつりぐらいの曲をこれからは作っていきたいという気持ちが芽生えてきました。


――今後はどう考えてますか?特急列車に乗ったままの3年間が終わって。

アイナ・ジ・エンド:そろそろ人に丁寧に接することができる人生を送りたくて。例えば、メイクして、かわいい服着て、友達とディナーに行くとか。そのディナーに行ったときに、相手の子の大変だった仕事が終わったとしたら、花でも買って渡したい。私、そういうこと、この10年間で全然やってなくて。


――いや、そんな粋なことはなかなかできないですよ。

アイナ・ジ・エンド:でも、やってみたいんですよ、友達に。アイナの周りにはそういう子がいて。その子もすごく忙しいはずなのに、解散してご飯連れてってくれたら、ちゃんと「おめでとう」って言ってお祝いしてくれる子がいたり。そういう女の子ってかっこいいなと思って。アイナももう30にもなるし、気づけば後輩もたくさんいて。全員とは言えないけど、自分にとって、とっても愛おしい存在にはちゃんと丁寧に接していきたいなと思います。友達に花をあげてみたいし、映画もいっぱい見たいし、歯の矯正もしたいし。これまでは全部、表現するために生きちゃってたので、これからは普通の人生を過ごして生まれる曲を作りたいですね。


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