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<インタビュー>来日公演を控えるレイラ・ハサウェイ、新境地を拓いた最新作『VANTABLACK』と人柄に迫る

インタビューバナー

 2017年以来のフルアルバム『VANTABLACK』で新境地を拓いた、レイラ・ハサウェイ。タイトルに掲げている“ベンタブラック”は、可視光の最大99.965%を吸収するコーティング物質だ。つまり、真っ黒── そんな7作目についての話を中心に、歌声の秘密や制作過程、親日家ぶりまでを聞いた来日直前インタビュー。温かみのある、落ち着いた歌声が魅力のレイラだが、本人はラーメンとゲームが好きな、明るく豪快な女性である。

 この記事は、2024年10月発行のフリーペーパー『bbl MAGAZINE vol.201 11月号』内の特集を転載しております。記事全文はHH cross LIBRARYからご覧ください。

Interview & Text 池城美菜子 / Minako Ikeshiro

――7作目のオリジナル・アルバム『VANTABLACK』のリリース、おめでとうございます。7年ぶりの新作は、日本のファンの間でも大評判です。どのような想いでまとめましたか?

レイラ・ハサウェイ:パンデミック中から取り組み始めた作品だから、いつもと少し作り方が違ったの。ロサンゼルスも車の行き来がなくなって、すごく空が澄んでいて……いろいろ振り返ったり、考たりする時間があった。自分自身にリチャージする時間だったし、一緒に音楽を作ってみたい人たちに連絡する余裕もできた。

――アルバム・タイトルと1曲目の「BLACK.」でコンシャス系のラッパーであるコモンとラプソディを招いていて、はっきりとしたコンセプトを感じました。コロナ禍はブラック・ライヴズ・マターが高まった時期でもありました。

レイラ:その通り。たしかに思うところはたくさんあったけれど、私自身どこへ向かうか、どれくらい長い間この状態が続くのかわからないまま制作していたのも事実。だいたい、アーティストは6ヶ月時間が空いたからEPを作ろうとか、あの人と組んでみよう、とかまず計画を立てるでしょ。それがなくて、曲の仕上がりを考えずに自由に作ってみた作品。

――日本のファンの間では、マイケル・マクドナルドをフィーチャーした楽曲「No Lie」がとくに人気のようです。ヴィンテージ・ヴォイスをもつふたりの共演は、どのように実現したのでしょうか?

レイラ:そうなの? 嬉しいな。フィル・ボードローと一緒に、アルバムの中で最後に書いた曲なの。とても美しい、ヨット・ロック……70、80年代のソフトロックの空気をまとった曲ができた。彼は自分のバンドを率いて、自分の思うようにプロジェクトを進めるアーティストだけど、クリストファー・クロスやスティーリー・ダンの曲で客演もしているから、サンダーキャットに電話で頼み込んでつないでもらったの。私は、マイケル・マクドナルドの歌声を聴いて育ったから、彼と曲を作れたのはすごく名誉なことだった。

――私はネオソウルの香りが強い「So In Love」がお気に入りです。音を絞った大人っぽい曲で、あなたもリラックスして歌っていますよね。この曲をシングルに選んだ理由は?

レイラ:ありがとう! 明るくて希望に満ちているし、キャッチーで記憶に残りやすいし、ライブでも反響がよかったから、シングルはこれしかないな、って。

――ケリー・クラークソンのトーク・ショーに出演したとき、彼女があなたを「オーバートーン・シンギング(倍音歌唱)ができる」と紹介しました。そういえばそうだな、と納得したのですが、練習してできる歌唱法なのでしょうか?

レイラ:それが、私自身も自分の声がそうなのか確信していないの。ケリー・クラークソンは多重なトーンを出せることを指したのかな、とは思うけど、練習したわけでもないし。自分でもわからないのに、インターネットで私の歌唱方法を分析する人がいるのはちょっとおもしろいよね。

豪華ミュージシャンをゲストに迎えた最新アルバム

――今回のアルバムはゲストが多いのも特徴です。「You Don’t Know」では、リトル・ブラザーのフォンテが参加して歌ってもいます。ゲストを選ぶ基準はありましたか?

レイラ:そこも自然な流れが多かったかな。今までも組んできた、友達の輪から話がつながって曲になるのはありがたいことよね。コモンはこれまでにも何曲か一緒に作っているし、MCライトは20年来の友人。フォンテも15年以上知っているし、ジェラルド・アルブライトは30年以上……。 ウィロー・スミスとは去年会ったばかりだけど。

――ウィローはジャンルも少し遠いですし、嬉しいサプライズでした。

レイラ:ウィローはすばらしいミュージシャン。多作な作詞家、リリシストであり、よく音楽を知ってもいる。なにも恐れていないところとか、彼女を見ているとあのくらいの年齢だった自分を思い起こすの。

――コモンはあなたと同郷のシカゴ出身ですよね? バックグラウンドが似ていることで、共通点が多いのでしょうか?

レイラ:それが、何回か曲を作っているけれどじっくり話をしたことはない。私が「何か感じるものがあったらラップして」って曲を送ると、きっちりやってくれる。たしかに、ふたりともシカゴの街からヴァイブレーションを受けて育ったし、大好きなラッパーのひとりよ。

――本作は、アップテンポからミドルテンポの曲も多いですね。

レイラ:私はアニタ・ベイカーやルーサー・ヴァンドロスのカヴァーで知られていて、バラッディア(バラードが得意なシンガー)の印象が強い。ありがたいことだけど、自分が好きなダンス・ミュージック、それもハウスといったみんなが踊ってくれる曲も作りたくて。クラブに遊びに行くと、DJの人たちが「レイラ・ハサウェイが来てるよ! 大好きだよ!」みたいにブースから言ってくれても、そこでかけられる持ち曲がなかった。だから、みんな一緒に踊ったり、運転中に大音量でかけたりできる曲を作ってみたの。

――テンポの速い曲のリミックスを作る予定は?

レイラ:じつは、ダンス・ミュージックにしたEPを出す予定よ。

――あ、予想が当たりましたね。楽しみです。

レイラ:アルバム本体も気に入っているけど、EPの出来もすごく気に入っている。さっきまで、そのやりとりをしていたところ。ムーンチャイルドのアンバー・ナヴランやDJジャジー・ジェフがリミックスを手がけてくれた。

――前作『Honestly』は、ミキシング・エンジニアでもあるフィル・ボードローと共同で作ったセルフ・プロデュース作でした、今作は半分くらいの曲にギタリストのホアン・アンドレス・カレーノ・アリザがプロデューサーとしてクレジットされています。彼について少し教えてください。

レイラ:彼のことはTikTokで見つけたの。アリザ・ミュージックという名で活動していて、彼の曲が気に入ったかSNSを通じて連絡して、隔離期間中にZoomを通じてやりとりが始まった。彼が曲を流してくれたら、それに乗せて私がメロディーを作って返す、みたいなやり方ね。とても才能がある人で、作業するたびに曲が出てくる。彼と出会ったおかげでライターとして成長できたから、本当に感謝している。

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久しぶりの来日公演に向けて

――11月の来日公演が楽しみです。長年のファンが聴きたい曲は外さないとして、新曲もセットリストに入れますか?

レイラ・ハサウェイ:セットリストは先に言わないようにしている。理由のひとつは、私も当日までわからないから。2つめは、あまり予習しないでその瞬間を楽しんでほしいから。今、ツアー中で、まったく新しいショーをやっている、とだけ言っておくね。

――日本に来たら必ずやることがあれば教えてください。

レイラ・ハサウェイ:私はガジェット・クイーンだから、秋葉原は絶対に行く。あと、一蘭。日本は90年代の新人シンガー時代から多くのライブをこなしてきた国だから、思い入れがあって……バーケイズのオープニングを務めたり、よみうりランドでマーカス・ミラーと共演したり、ハービー・ハンコックとも一緒に演奏した。ショッピングするのも、歩いて文化を吸収するのも好き。(アメリカとは)まったく異なるのに、地元に帰ってきたような気分になる。ゲーマーだから、ゲーム・センターも行く(笑)。

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