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<インタビュー>「これ1曲でベストアルバム1枚分!」ポルカドットスティングレイ・雫が語る、許せない過去の自分への“決別”と新曲「JO-DEKI」から見せていく“ポルカ第二章”

インタビューバナー

Text & Interview: 本間夕子
Photos: 辰巳隆二

 とんでもなく赤裸々で、だけどポップでキャッチーで。7月31日に配信リリースされたポルカドットスティングレイの新曲「JO-DEKI」は、バンドのソングライティングを一手に担う雫(Vo.& Gt.)いわく「初めてと言っていいくらい、自然に自分のなかにあったものが溢れ出してきた」と語る魂のキラーチューンだ。このリリースを明かさぬまま、先駆けて行われた7月の東名阪対バンツアーのファイナルで活動の第一章を終了すると宣言、メンバー各自のSNSでは投稿がすべて削除されるなど、ファンをやきもきさせていたポルカだが、今作より堂々第二章が幕開ける。前向きに刷新された今の率直な心境と「JO-DEKI」に込めた想い、第二章の展望など雫にさっそく語ってもらった。

──「JO-DEKI」からポルカドットスティングレイの第二章がスタートするとのことですが、なぜこのタイミングで第二章なのかというところから、まずは伺わせてください。

:ちょっと内部的な話になるんですけど、バンドを取り巻く体制が一新されて、新チームになったんです。これまでの第一章、旧体制の最後のほうは特にいろいろありまして、活動が滞りがちだったんですね。言ってしまえばスタッフがほとんどいなかったんです。もともとポルカドットスティングレイは私がやっている業務の幅が広いバンドではあるんですけど、チームが機能しなさすぎて、私自身がクリエイティブ以外のことでカバーしなければいけないことが多くなってしまって。それで曲を作る時間がなかなか捻出できなくて思ったようにリリースができなくなっていったんですよね。そこそこ精神的にも追い詰められまして、音楽業界に来たのは間違いだったのかなとか、このままの環境で活動していていいのか、みたいな話にもメンバー内でなっていたくらい、結構な大ごとだったんです。でも昨年末から今年の年始にかけて体制が一新されたんですよ。環境が良くなったことで俄然、やる気を取り戻して、メンバーにもスタッフにも支えてもらいながらバリバリ曲を書いて、生まれたのがこの「JO-DEKI」だったんです。

──そんな経緯があったとは。傍目にはリリースやタイアップがコンスタントにあってライブも精力的になさっている、むしろ順風満帆なイメージがあったので、ちょっと驚きです。

:やっぱりお客様第一でやっているので、私たちとしてはファンのみなさんやクライアントの方々に心配とか不安を与えたくはなくて。必死に順風満帆なイメージを守る努力をし続けていたんです。

──クリエイティブ以外のことで肝心の曲作りなどがストップしてしまう状況はかなりストレスフルだったでしょうね。

:私、曲作りでスランプに一度もなったことがないんです。いつでも作れます、なんでも来てくださいっていうスタンスでずっといたのに、最低限の活動を維持するための動きをしなければ、みたいな感じにどんどん変わっていって、バンドとして攻めることもできないし、新しく面白い企画を考えることもできない、このままやっていて意味あるのかなっていう気持ちにどんどんなってしまうのは苦しかったですね。だから今、こうやって新しい体制で活動できるのが本当にありがたくて。

──じゃあ今はすごく前向きに、しかもクリエイティブに対してご自身のエネルギーを全投入できている?

:はい! もう「なんでも来い!」ですね。すべての案件がうちに来ればいいっていうくらいの気持ちでやらせてもらってます(笑)。今ならマジで、来た球は全部打ち返せますよ。

──全部ホームランにしてやる、みたいな。

:してやります! それくらい自信がありますね。

──頼もしいです。「JO-DEKI」の歌詞にも、そうした「やってやるぜ!」的なパワーが溢れていますよね。雫さんの内側からブワーッと噴き出した本音がそのまま歌になったかのような。

:そうですね。若干、愚痴というか悪口みたいな歌詞になっちゃいましたけど(笑)。それこそ、ここまで活動してくるなかで理不尽だなと感じるようなことはたくさんあって。できることならちゃんと理由を聞いて、お互い納得したうえで一緒に解決したいと思っているんですよ。でも、そうならないことのほうが多くて、そのたびに「ああ、それは仕方ないですね、はい、わかりました」って言いながらやり過ごしてきたんですけど、「いや、もうそういうのはやめた! これからは攻めてやるんだ!」みたいな。自分のなかのそんな気持ちをゲロみたいにバーッと出したら、こうなったという(笑)。

──まさに感情のほとばしるままに。

:基本的に私は自分のことを歌詞には書かないんですよ。自分がどう思っているとか別に伝えたいことはないし、書きたいこともないからなんですけど。曲を作る際はターゲットを決めて、そこからどういう主人公にするかペルソナを作るんですね。この人の一人称はこうで、こういう仕事をしていて、何歳で、って資料を作ってから曲を書き始めるんです。もともとゲームのシナリオライター出身なので、そういう作り方が合っていて。ただ、「JO-DEKI」に関しては、本当に初めてと言っていいくらい、自然に自分のなかにあったものが溢れ出してきたというか……過去にファンの方から私のことを書いた曲も聴いてみたいって言われて、私のお客さんへの想いを書いた曲はあるんですよ。「ラブコール」と「FREE」がそうなんですけど、「JO-DEKI」は初めての完全なる自分語りで。

──あの……先ほどおっしゃっていた、愚痴とか悪口みたいな、っていう、その矢印って実は雫さんご自身に向かっているんじゃないかと今ちょっと思ったんですけど。

:たしかにそうなんです。〈うるせえなー〉とか〈はあしょうもない〉とか書いてますけど、それって私もしょうもなかったよなっていう。理不尽なことを言われて納得してないのに、しかも自分でなんとかできたかもしれないのに「はあ、わかりました」って言っちゃってた自分に対しての〈サヨナラ!〉でもあるっていうか。

──「JO-DEKI」というタイトル、歌詞では“上出来”ですけど、この言葉自体、手放しの褒め言葉ではないですよね。

:そう、ちょっと含みがありますよね(笑)。どこか斜に構えてる感じ。

──そういう言葉をタイトルに持ってきて、なおかつ堂々と吹っ切れているところがめちゃくちゃ痛快だな、と。

:吹っ切れ感はありますね。過去の自分に対する憤りや無駄にしてしまった時間へのやるせなさは消えないので、それに関してはムカついているんですけど、今後のことは私がまた自ら選択していけるじゃないですか。今までのムカつきと未来へのやってやるぞっていう気持ち、陰と陽がいい感じに混ざってこうなっているので。私のなかではこれ、相当ハッピーな歌詞ですよ。すべてから解き放たれた、吹っ切れモンスターになってしまって(笑)。

──ちなみに“上出来”というワードが浮かんできたきっかけなどはあるんですか。

:突然降ってきました。私はいつもメロディから作るんですけど、この曲のサビのメロを鼻歌で歌いながら「ここはタイトルを繰り返したいな」って考えていたら、ふと「あ、“上出来”かも」って急に閃いたんです。メロのイメージから言葉が降ってきて「え、“上出来”ってエグくない? ピッタリ!」みたいな。そこからはほぼ自動筆記でバーッと歌詞が書けちゃいました。いつもは歌詞を書くのにすごく時間がかかるんですけど、あまりにすんなり書けすぎて「本当に私?」ってなりました(笑)。

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──一方で、ご自身の心の内を歌詞として書く、それを世の中に放つということに対して躊躇はしませんでしたか?

:今までは正直あったんですよ。私が自分のことを書かないのは、書くことがないからっていうのもあるんですけど、私の性格ってたぶん普通の枠にはまってないというか、共感性が低いんですよね。だから、私のことをそのまま書いても、大部分のお客さんは共感してくれないだろうなって。例えばタイアップで恋愛ソングを書くことになったとして、クライアントから3分半のポップで明るい告白ソングを書いてくださいって言われるとするじゃないですか。それを聞いて私は「告白まで3分半も時間かかる?」って思っちゃうんですよ。「3分半も何をしゃべるの?「好きです」終わり!がいちばん伝わるんじゃない?」って。

──ああ、なるほど。

:でも、みんなはきっと告白までの3分半にドラマがあることを期待しているはずだから、その時点で私の気持ちを歌詞にしても共感してもらえないんですよ。なので「3分半もウジウジしやがって!」って思っちゃう私のことをそのまま書くより、共感してもらえるペルソナを作って書いたほうがいいなと思って、今まではそうしていたんです。でもこの曲では関係なくなっちゃいましたね、そんなことは。誰にどう思われるとか、正直1ミリも気にせずにただ出てきたことを書いた初めての歌詞なので。ただ、書いたのがちょうど体制が切り替わったぐらいの時期で、まだ私のなかのダウナーさが若干残っている、完全に元気になる前のタイミングだったので、精神状態的にはまだちょっと普通じゃなかったのかもしれないですけど(笑)。「ああ、もう知らん、知らん!書いてやる!」みたいな。

──でもその後、リリースに至っているということは、冷静にこれはいいぞと判断したということですよね。

:はい。正直、歌詞だけを見たら自分でも「うっ」となるところはあるかもしれないんですけど、曲がいいので。メロとオケとサウンドにぴったりハマった歌詞だなって思えるのですごく好きですね。音楽的に好きな一曲です。

──この曲を初めて雫さんから聴いたとき、メンバーのみなさんはどう反応されたんですか?

:シンプルに「いいじゃん」って言ってました。でも私の思い入れが強すぎて、メンバーへのオーダーがシビアになっちゃって(笑)。「BPM142で、こういう音使いをしてほしくて、ここのパートはこういうふうにして」とか最初からいろいろ注文したから、たぶんそっちに対してグッと緊張感が高まっていた気がします。「あ、今回の雫さん、うるさいかも」みたいな(笑)。実際、相当うるさかったと思うんですけど、みんな、見事に応えてくれて。今やベースのウエムラユウキが私よりこの曲を気に入っていて、ずっと〈上出来、上出来~♪〉って口ずさんでいるのがちょっと気持ち悪いです(笑)。

──ウエムラさんがそうなるのもわかります。もともとポルカには中毒性の高い楽曲が多いですけど、これはもうキラーチューンですよね。歌詞もメロもすぐに頭に入ってくるし、まさに気づけば歌っちゃってる状態で。

:ホントたまたまなんですけどね。書けちゃいましたね、こういう曲が。

──もしかして、これまででいちばん初期衝動的な楽曲だったりしませんか?

:そうかもしれない。初期衝動的な楽曲という意味でこれまでを振り返ってみると、喜ばれそうな要素は若干意識しつつも、勢いで「書いちゃえ!」って作った初めての曲が「テレキャスター・ストライプ」なんですね。あの曲から現メンバーになったポルカドットスティングレイが始まっていて。なので「JO-DEKI」も「テレキャス〜」と同じBPMにしてるんですよ、実は。セルフオマージュというか。

──おお!

:中華っぽいフレーズとかもそうですよね。「テレキャス〜」っぽい音使いにしてほしいっていう私のオーダーに、ギターの(エジマ)ハルシがすごく頑張っていろいろアイデアを出してくれて。

──どこか原点回帰的な気持ちもあったんでしょうか?

:ありますね。原点に帰るという気持ち、もう一回リセットして次の章に入るという気持ちが強すぎて、「JO-DEKI」のミュージック・ビデオのなかで私、「テレキャスター・ストライプ」のMVで着たバニーをもう一回着てますから(笑)。「いやこれ、大丈夫かな?」ってなりながら。しかもそれだけじゃなく、過去のMVのキービジュアルも全部出ているような映像になっていて。それこそ「バケノカワ」のメガホンとか「dude」のラブレターとか、過去のMVのモチーフを全部登場させて、それをMV内でモグモグッと食べて、オェ〜ッてリリースしてるんですよ(笑)。


──マジで攻めてるなぁ(笑)。

:ポップでキラキラでちょいグロい、そういうMVになっていて、そこで過去を総決算する、みたいな。

──それは今までの自分たちに対するカウンターというか、アンチテーゼみたいなことですか?

:今までも素晴らしい作品を生み出してきた自負はあるんですが、過去に縋りついているのも好きじゃないし、「こんなものは全部食べて吐いちゃうよ。でも、キラキラでかわいいリスさんになって出てきちゃうからね♡」みたいな(笑)。本当にアニメーションでかわいいリスになって出てきますから。「JO-DEKI」のリリースとそのMV公開に向けて7月14日からメンバー全員、X(旧Twitter)の過去ポストを消したんですけど……

──びっくりしました。思い切りましたよね。

:新しいバンドになったぐらいの気持ちで第二章をやっていこうと思って。「JO-DEKI」のMVで過去のキービジュアルも全部清算しちゃうことだし、「ツイートも全部消そうぜ」って。ドラムのミツヤス(カズマ)は「結婚発表したツイートも?」ってちょっと躊躇してましたけど、最終的には覚悟を決めてくれました。

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──繰り返しみたいになりますけど、これまでのポルカの活動をなかったことにしたいとか否定したいっていう気持ちではないんですよね?

:ではないです。でも、もうこだわりたくなかったんですよね。もちろん過去のクリエイティブたちも愛してるんだけど、それ以上に完全に未来を向きたいっていう気持ちが強くあるんです。

──ファンのみなさんとか、かなりザワついたでしょう?

:ザワつきましたね。活動休止するんじゃないかとか、すごく言われて、こっちとしては「しめしめ」みたいな(笑)。でも、なかには「ニューアルバムじゃない?」「いや、ベストアルバムだよ」とか言ってる人もいて、「ごめんよ、それは違うんだ」って焦ったりもしました。ただ、「JO-DEKI」という1曲が我々にとってはベストアルバムくらい思い入れも情報量もあるものなんですよ。だから、これ1曲でベストアルバム1枚分なんだとみんなには解釈してほしい(笑)!

──でも、今はクリエイティブに集中できているぶん、楽曲もどんどん生まれているのでは?

:はい。「JO-DEKI」のあとにも新曲のリリースを予定していますし、他の案件でも曲を作っています。私のなかでは完璧にフルコーラスできている曲も1曲ありつつ、ここ数年のなかで作ったデモのかけらとかもストックしてありますし。


「JO-DEKI」と同時期に制作した新曲「アウト」
8月28日に配信&MV公開

──なんだかニューアルバムもいけそうな気が……。

:正直、アルバムのビジョンも見えてます(笑)。今まではアルバムを作るにもスケジュール的にカツカツで、1か月間スタジオに缶詰になりながら急いで6曲作ったりしていたんですよ。でも、それって体力的にも金銭的にも大変なことだし、クリエイティビティを十分に発揮できなかったりもするんですよね。今までは、「またそういうつらい時期が来るのか」っていう感じだったんですけど、チームが新しくなってスケジュールの管理もちゃんとしてもらえるようになったおかげで、「アルバムもどんと来い!」っていう。

──第二章の活動についてはどんなことを思い描かれていますか?

:デビューのときに「バンドの垣根を越えた、国民的音楽グループになりたい」って言っていたんですけど、それは今でも本当にそう思っていて。メンバー全員、ポルカには音楽的な引き出しやセンスがすごくあると自負しているので、バンドの形態は取っているけど、ロックな曲だけ作って満足はしないんですよ。むしろタイアップとかコラボとか、クライアントから「バンドの音は一切使っていない、めちゃくちゃEDMの曲がほしい」とか「ラップでお願いしたい」とかオーダーをいただいても応えられるような、バンドの曲でもなんでもない曲でも、ポルカに作らせれば間違いないって言われるような音楽グループになりたいです。お客さんにもポルカの曲はどんなジャンルでもハズレがないって思われたいですし。

──それで言うと「JO-DEKI」も、この後に控えている新曲もサウンドはかなりロックな仕上がりですけど、そこにはどんな狙いが?

:そこはあえてそうしました。MVを考えたときに、4人で演奏している画がばっちりハマる曲でありたかったんですよね。第二章のスタートであり、原点回帰する気持ちで作った曲なのに、MVで4人の演奏シーンが上手くハマらないような、納得感のないサウンドになるのはイヤだったので。他の楽器の音をたくさん入れるとバンドの存在感って薄くなっていくじゃないですか。そうではなく、「この4人の音だぜ。この4人で全部作ってるんだぜ」っていうものにしたい。そういうこだわりがあったんです。

──よくデビュー曲に“名刺代わり”という言い回しが使われますけど、これは第二の名刺みたいな。

:そうです、またここから始まるという気持ちを込めて。

──本気がビシビシ伝わってきますね。第二章が本当に楽しみ。

:ありがとうございます。我々も楽しみです。堅実に、素敵なクリエイティブをどんどん届けていきたいですね。ここまで10年近くバンドをやってきて大概のしょんぼりなことは経験してきたので、もう怖いものなしですよ(笑)。

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