Interview & Text：森朋之

　LiSAから新曲「Shouted Serenade」が届けられた。

　アニメ『魔法科高校の劣等生』第3シーズンのオープニング主題歌として制作されたこの曲は、強靭かつダイナミックなバンドサウンド、鋭利にしてしなやかなボーカル、そして、〈握ったメッセージのその先へ〉という歌詞が共鳴し合うアッパーチューン。第1シーズンの1stオープニング主題歌であり、LiSAの代表曲の一つである「Rising Hope」（2014年）と同じく、田淵智也（UNISON SQUARE GARDEN、THE KEBABS）が作詞・作曲（作詞はLiSAとの共作）、堀江晶太（PENGUIN RESEARCH）が編曲を担当している。

　4月19日、20日に東京・日本武道館でワンマンライブ【LiVE is Smile Always～i SCREAM～】を控えたLiSAに、「Shouted Serenade」の制作、楽曲に込めた思いなどについて語ってもらった。

パフォーマンスを「もう少し楽しもうと思えるようになった」

――まずは昨年9月～12月にかけて行われた全国ツアー【LiVE is Smile Always～LANDER～】のことから聞かせてください。約4年ぶりの“声出し解禁”ツアーでしたが、LiSAさんにとってはどんなツアーになりましたか？

LiSA：2021年に【LiVE is Smile Always～LADYBUG～】、2022年に【LiVE is Smile Always～Eve＆Birth～】という全国ツアーを行ったのですが、コロナの影響で自分たちのライブのスタイルが問われたというか、「どんなふうにライブを作っていけばいいのか」というのがわからなくて。そのなかでもいろいろな挑戦を続けてきたし、その状況の中でできる最高のライブを作ってきたと思っていたんですが、“幕開け”を迎えて「やっぱりこれ！」って確認することができました。みんなで同じ経験をしたことで、「一緒にスタートを切れた、幕開けを迎えられた」という喜びを共有できたツアーだったと思います。

――ファイナル公演を観させてもらいましたが、オーディエンスの声が本当にすごくて。

LiSA：前よりも大きいですよね（笑）。声を出せる空間がうれしくて、一緒に歌える楽曲をメインにしてセットリストを組んだんですよ。「LANDER」というアルバムを引っ提げたツアーだったので、“ランドする（着陸する）”ことを目的にした世界観を作って、そのうえでいろんな演出もできて。

――メッセージ性とエンタメ性のバランスもすごく良かったと思います。LiSAさん自身のパフォーマンスの印象も以前とは少し違っていて。ヒリヒリした緊張感だけではなく、みんなで一緒に音楽を楽しむ時間が増えた気がします。

LiSA：以前は“自分をどれだけ削れるか？”じゃないけど、そういう方法でしか自分の存在を証明できない気がしていたんだと思うんです。自分自身をすり減らさないと愛情が伝えられないという感覚があったというか。

――フィジカル的にも限界まで攻めていた？

LiSA：そういうところもあったと思います。今はもう少し楽しもうと思えるようになった気がしていて。みんなは（声出し禁止、マスク着用などの制限によって）冷静に見なくちゃいけないのに、自分がもがいてる姿を見せるだけでは伝わらないというか。ライブハウスだったらその熱量で届くと思うんだけど、ホールやアリーナではそれだけではダメで。そのなかで見つけられた表現もあるんですよね。たとえば“歌”でしっかり伝えるとか、秘めたパフォーマンスとか。抜き差しというか、情緒も付けられるようになってきたのかなと。

「Rising Hope」から10年を経た変化

――ライブにおける表現が広がっているんでしょうね。では、新曲「Shouted Serenade」（作詞：LiSA、田淵智也／作曲：田淵智也／編曲：堀江晶太）について。アニメ『魔法科高校の劣等生』第3シーズンのオープニング主題歌ですが、めちゃくちゃカッコいいロックチューンですね。

LiSA：ありがとうございます。うれしいです。

――10年前にリリースされた第1シーズン1stオープニング・テーマ「Rising Hope」（作詞：LiSA、田淵智也／作曲：田淵智也／編曲：堀江晶太）を想起させる部分もありつつ、今のLiSAさんにふさわしいアップデート感があって。制作はどのように進められたんですか？

LiSA：私も田淵先輩も晶太くんもそうなんですけど、「Rising Hope」を発売してから、「『Rising Hope』のような曲を作ってください」というオーダーを各所からずっと受け続けてきたんです。田淵先輩、晶太くんが他のアーティストに提供するときに「『Rising Hope』みたいな曲をお願いしたい」と依頼を受けることも多かったみたいだし、私が別の作品に関わらせていただくときも「Rising Hope」の話が出てくることがけっこうあって。今回『魔法科高校の劣等生』の楽曲を改めて制作させていただくことになったとき、まずは「『Rising Hope』とは何なのか？」という打ち合わせからはじまったんです。私、田淵先輩、晶太くん、アニメサイドの制作のみなさんも含めて、「Rising Hope」を分析したというか。ただ、いろんな要素があるじゃないですか。BPMなのかラップを入れることなのか歌ってる内容なのか。田淵先輩だったら作曲、晶太くんやアレンジやサウンド、私は歌詞のことを主に考えていたし、結局、明確な答えが出てきたわけではないんです。話し合い自体はすごく面白かったですけどね。10年後に答え合わせをしたというか。

――しかも10周年を迎えたアニメ『魔法科高校の劣等生』のためにこの3人が新しい楽曲を制作するという。これ以上ないストーリーですよね。

LiSA：私が今もこうやって活動を続けられていて、田淵先輩、晶太くんも現役でやり続けていて。その3人がこうやって集まれることが、まずはすごく素晴らしい未来だなって思います。ただ「Rising Hope」の焼き回しをするわけにはいかないじゃないですか。しっかり意味を持って制作しなくちゃいけないという責任感はすごくありましたね。

――実際の制作としては、まずは田淵さんがデモを作るところからですか？

LiSA：はい。田淵先輩も10年前の制作スタイルとは違うし、彼自身もすごく進化していて。UNISON SQUARE GARDENの曲もそうだし、提供曲もそうなんですけど、めっちゃ高度になってて、歌うのも難しくて。「私、今の先輩の曲をちゃんと歌えるかな」という不安もあったというか……ほら、昔のバンド仲間と久しぶりに集まったからって、以前と同じようなライブができるとは限らないじゃないですか。

――確かに。

LiSA：田淵先輩が「Rising Hope」に対してどう思っているのか、『魔法科高校の劣等生』に対してどんな曲を作ろうとしているのか、そういう温度感も曲が送られてくるまでわからなくて。でも、上がってきたものを聴いたら、「進化しているだけではなくて、私に似合う服を選んでくれる感覚も変わらないまま持ってくれてるんだな」と思ったんですよね。

――そういうフィット感は、堀江さんのアレンジにも共通していた？

LiSA：そうですね。「REALiZE」（2023年／映画『スパイダーマン：アクロス・ザ・スパイダーバース』日本語吹き替え版主題歌）もそうですけど、晶太くんとはずっと曲作りを続けているし、感覚のズレみたいなものはまったくなくて。晶太くん自身も「Rising Hope」の頃に比べるとめちゃくちゃいろんなものを吸収して、変化してますからね。

「Shouted Serenade」は“LiSAの物語の続き”

――「Shouted Serenade」のサウンドメイクも強烈ですよね。すべての楽器、すべての音に存在感があって、それがぶつかり合って。そのなかをLiSAさんのボーカルが突き抜けていくという。

LiSA：ボーカルレコーディングの前日、田淵先輩に「何か私がやっておくべきことはありますか？」って聞いたんですよ。そうしたら「キレ散らかしてください」と返事が来て。キレ散らかしてシャウトしまくりました（笑）。なんていうか、私も晶太くんもそうなんだけど、もともとはキレやすいんだと思うんですよ。怒ってるとか負けたくないという気持ちよりも、「戦い続けたい」という感覚が強いんじゃないかなって。これは「Shouted Serenade」の歌詞にも入ってるんですけど、周りの評価とかではなくて、自分たちのなかにやるべきことがずっとあって。それと戦い続けているんだと思います。

――歌詞はLiSAさん、田淵さんの共作ですね。

LiSA：デモの段階では意味よりも音や響きがしっかりハマっている仮歌が入っていて。そこから私の思いや言いたいこと綴らせてもらうというやり方ですね。たぶん田淵先輩のなかに「こういうLiSAでいてほしい」というものもあるだろうし、私がどんなことを歌いたいかもわかってくれていて。自分の状況を説明しなくても、データのやり取りだけで通じ合えるものがあったと思います。〈魔法〉というワードだったり、〈握ったメッセージはもっと先へ！〉などは先輩の言葉ですね。

――「Rising Hope」は劣等感、葛藤、苦しさもテーマだったと思いますが、「Shouted Serenade」には〈叫ぶようなserenade／キミと作るその未来まで〉というポジティブなワードがあって。2曲のつながりについては、どう考えていましたか？

LiSA：「Rising Hope」は初めての武道館ライブ（2014年1月）への思いを書いてしまった楽曲で。私自身のストーリーを描いた楽曲でもあったからこそ、田淵先輩も「『Shouted Serenade』はLiSAの物語の続きだ」ということを大事にしてくれたんだと思いますね。私の気持ちを汲み取ってくれたというか……。ただ私の感覚としては、10年前と今を比べて、変わったところのほうが少ないなと感じているんです。活動のスタイル、楽曲制作への向き合い方、LiSAとしてのステージの立ち方もそうだけど、あんまり変わってないなって。いつも心配でビビってるし、だけど一生懸命やりたくて、本当のことを歌いたくて。誠実に向き合っていたいという気持ちでやってるんですよね、ずっと。そうやって続けてこられた10年は、私にとってとても誇りです。

――そうやって生きていくしかないんでしょうね、LiSAさんは。

LiSA：そうかもしれないです。私、パンクが好きなんですよ。パンクは何となくの雰囲気ではやれなくて。伝えたいことがあるからやるし、言いたいことがあるから歌詞に書くし、歌いたいことがあるから歌う。それが私にとってのパンクなんです。パンクは寄り添ってくれるし、戦っている私にいつも優しくて。そういう音楽が好きだし、自分が歌う理由もそういうところにあるんだと思います。

――根本にあるパンク精神は変わらない、と。

LiSA：それも10年以上やってきて気付いたことなんですよね。「どうして私は“なんとなく”やれないんだろう？」「どうして手を抜けないんだろう？」と思ったときに、子供の頃に好きになったパンクが植え付けたものだったんだなと。それはずっと変わらないんだけど、表現の幅は広がったと思います。最初の話に戻っちゃいますけど、自分をすり減らして歌うだけではなくて、ライブも音源制作も、技術や経験値は上がった気がするので。

――コンディションを整えるのも上手くなるのでは？　キックボクシングも上達してるだろうし。

LiSA：そうですね（笑）。大人になるにつれて自分のことがちょっとずつ理解できるというか。データが増えてきて、「今年の春は大丈夫そうだな」とか「ここのところ少し無理したからヤバいかも」みたいなこともわかってくるので。

「私まだまだ叫びます。叫びたいことがあります！」

――4月19日、20日には日本武道館でのワンマンライブ【LiVE is Smile Always～i SCREAM～】が開催されます。LiSAさんが初めて武道館のステージに立ったのが2014年なので……。

LiSA：10年なんですよ。最初の武道館は私にとって大変だったし、今も笑って話せるような思い出ではなくて。ただ「これがいい経験だと思える未来がありますように」と願っていたし、その思いを込めた「Rising Hope」、そして、10年後に作った「Shouted Serenade」を持って武道館に行けますからね。10年前の自分に「よくやったよ。未来はとても良かった」と言ってあげられるような楽曲が出来たことは本当にうれしいです。楽曲を制作してくれた田淵先輩と晶太くん、『魔法科高校の劣等生』の制作サイドの方々を含めて、みなさんのおかげで私のストーリーを歌い続けてこれたんだなと思いますね。

――今回の武道館はどんなライブにしようと思っていますか？

LiSA：そうですね……。「私まだまだ叫びます。叫びたいことがあります！」という宣言かな。「まだまだ、ぜんぜん満足してません」というほうが近いかも。武道館って、いろんな顔があるじゃないですか。ライブハウスのようにも見せられるし、すごくエンターテインメントできる場所でもあって。アーティストの方によって雰囲気が違うし、私もテーマによって全然違うライブができていると思います。そういう意味では、今の自分を確かめられる場所なのかも。故郷みたいな感じですね、今となっては。

――素晴らしい。デビュー13周年を迎える春以降も、精力的な活動が続きそうですね。

LiSA：今年は忙しいですよ！　アジアツアーもありますし。

――約6年ぶりのアジアツアー【LiVE is Smile Always ～ASiA TOUR 2024～】ですね。

LiSA：ベストアルバム（2018年5月にリリースした初のベストアルバム（『LiSA BEST -Day-』『LiSA BEST -Way-』）のときにアジアツアーを回らせてもらって、それ以来なんですよ。「紅蓮華」もまだ海外で歌ってないし、新しい楽曲をたくさん持って、さらにパワーアップした私をお見せしたいと思っています。コロナの制限で行えなかったことがたくさんあって。ようやく幕開けして、夢の続きをみんなと一緒に過ごしているような感覚ですね。