Billboard JAPAN


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<インタビュー>HoneyWorksのキャラクターの中にある音楽――“王子様”として完成したLIP×LIPと、バズよりも大切なものを語る

インタビューバナー

Interview & Text:小町碧音


 HoneyWorksがプロデュースする、勇次郎(CV:内山昂輝)と愛蔵(CV:島﨑信長)による男性アイドルユニットLIP×LIPの2ndアルバム『生まれてきたことに感謝しなさい!』が3月13日にリリースされた。

 今回、LIP×LIPとして約4年ぶりとなるアルバムのリリースを記念して、HoneyWorksのshito(コンポーザー)とヤマコ(イラストレーター&ムービー)にインタビューを実施。HoneyWorks、今作、そして“バズ”よりも大切にしていることを語ってもらった。

“キャラクターソングを手掛ける”のがHoneyWorks

――HoneyWorksの楽曲の中でも、個人的に「告白予行練習」や「金曜日のおはよう」が好きで、よく聴いていた時期がありました。そこで、普段の楽曲制作はどのように分担されているのか、とても気になっていたんです。

shito:ありがとうございます。基本的に、Gomと自分がそれぞれ作曲して、作曲した人が歌詞のテーマを決めます。その後ふたりで作詞に取り組んで、作詞が終わるとヤマコがミュージックビデオを制作する流れですね。“キャラクターソングを手掛ける”のがHoneyWorksなので、キャラクターの特性を逸脱しないように、作詞する際にはヤマコに確認を取りながら進めていて。キャラクターの個性を生かしつつ、楽曲としても印象に残る言葉を選ぶようにしています。

ヤマコ:私は楽曲のイラスト制作はもちろん、ミュージックビデオの監修もほぼ全て行っていますね。絵コンテ、イラスト、動画編集などは基本的に確認しています。


――HoneyWorksといえば、“キュンキュン系”や“青春系”の楽曲を多くの人が思い浮かべるのではないでしょうか。

shito:自分は大人になってから少女漫画を読んで、こんな世界もあるのか!と衝撃を受けたのをきっかけに少女漫画にハマったんです。それまでは少年漫画、少年誌ばかり読んでいたんですけど、その少女漫画にハマったタイミングでHoneyWorksを結成して。ヤマコの絵が少女漫画チックだったこともあり、自然と“キュンキュン系”や“青春系”の方向へ進むことを決めました。


――Gomさんも少女漫画にハマっていた?

shito:いや、どちらかというと自分ですね。歌い手として活動しているGeroと一緒にハマっていたので、ふたりでGomに勧めた感じで(笑)。


――HoneyWorksの楽曲は、女子がキュンキュンするワードが散りばめられています。普段からそういったワードや表現をどこから取り入れているのでしょうか。

shito:最近は昔に比べて、少女漫画よりもSNSでテーマを探すことが増えましたね。たとえば、「金曜日のおはよう」は、「好きな男子を見つけたから前髪を直している女の子を見つけた」という、キュンキュンするつぶやきを見てテーマにしました。他にも、ちょっとしたネット上のつぶやきや話題をメモして広げていくこともあります。



金曜日のおはよう / HoneyWorks feat.Gero


“ファンの期待をいい意味で裏切る”楽曲群

――LIP×LIPの2ndアルバム『生まれてきたことに感謝しなさい!』についてお話をうかがいたいと思います。今回、音楽面でも新たな挑戦が見受けられるように感じました。

shito:LIP×LIPはこれまで“王子様”というキャラクターで、ファンを“お姫様”に見立てて曲を作ることを大前提としてきたんです。でも、今作ではその枠を少し超えて、よりアーティスティックな表現をしていて。いわば、ファンの期待をいい意味で裏切るような、自分たちが本当に作りたい音楽でLIP×LIPをプロデュースしよう、というコンセプトです。メンバーで話し合った結果、いろんなジャンルの曲が生まれました。


――「A.B.SECRET」はアラビアン、「めおと」は和ロックになっていて。今までのLIP×LIPにはない音色です。

shito:そうなんです。「めおと」については、どんな曲がいいかヤマコに相談したら、「和ロック」って返ってきたので。

ヤマコ:LIP×LIPにゴージャスなファンタジー風の和服を着てもらいたいというイメージから、和ロックを歌ってもらいたいという発想になりましたね。私の場合、ミュージックビデオでこういう衣装を着てほしいという願望から発想することがあるんです。
あと、アラビアンの衣装は露出が多くて、キラキラの装飾もたくさん使われているので、絵的にすごく煌びやかになるイメージがありました。音楽の詳しいことは全然わからないので、「アラビアンな曲聴きたい!」という感想だけを音楽チーム(Gom、shito)に丸投げして(笑)。

shito:ヤマコは、LIP×LIPにとっていちばんのプロデューサーであり、いちばんのファンでもあるので信用しています。

ヤマコ:これまで、ファンの方たちが見えるところで「LIP×LIPの和ロックを聴きたい」という話をしたら、「わかる、わかる!」と言ってくれることが多かったんです。そういうファンの方たちの気持ちを汲み取って、ふたりにイメージをプレゼンすることもあります。



めおと / LIP×LIP


――ある意味でファンだからこそ、共感性の高い作品が作れるのですね。LIP×LIPの表現がよりアーティスティックになったことについては、何か理由があったんでしょうか。

shito:普段からLIP×LIPの声優さん(内山昂輝、島﨑信長)のレコーディングに立ち会って、ディレクションをしているんですけど、長年の付き合いから、共通認識に基づいた言葉や高度な表現方法を伝えやすくなったように感じていて。内山さん、島﨑さん自身も「LIP×LIPはこういう表現」と理解してくれていますし、やっぱりおふたり自身の成長が大きいかなと思います。これまでは自分たちの独断で決めていた部分も、今は声優さんと意見交換を行うなかで、より良い表現やファンの方に喜んでもらえるニュアンスについて話し合うようになりました。


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“リアル”アイドルから取り入れた「コール」

――おふたりの中で、特に印象に残っている曲はありますか?

ヤマコ:愛蔵の歌い方が(これまでと)全く違う「めおと」ですね。こんな歌い方もできるようになったんだ!とびっくりしました。あと、今後の展開にもつながる「ラストステージ」は絶対に聴いてほしい曲ですね。等身大のLIP×LIPの生々しい感情が詰まっているので。

shito:自分は「推しの魔法」ですね。LIP×LIPとしてこれまで挑戦したことのない、ぶっ飛んだ曲を作りたいというコンセプトで作りました。これまでのLIP×LIPでは絶対にやらなかったであろう楽曲で、声優さんの表現の幅が広がったからこそ、挑戦したいと思えたんです。


――LIP×LIPの楽曲のなかでも、いちばんコールが多いとか。

shito:HoneyWorksとして、“リアル”アイドルの可憐なアイボリー、高嶺のなでしこをサウンドプロデュースさせてもらっていて、アイドル現場に顔を出すようになったんです。そこでコールや熱量を肌で感じて、面白いなと。これはLIP×LIPにも取り入れたいと思って。



推しの魔法 / LIP×LIP


――コールの歌詞はどのようにして完成させたのでしょうか?

shito:この歌詞は、男性ファンが女性アイドルに対して使うコールのテンプレートを参考にしているんですよ。テンプレートには決まったフォーマットがあって、推しのアイドルやグループ名に一部を置き換えて使います。実際に現場でコールを聴いて、何を言っているのかを勉強して、そのテンプレートを拝借して作りました。

ヤマコ:私もコール文化については知っていました。でも、私自身が女性アイドルの現場に行くことがなく、可憐なアイボリーと高嶺のなでしこのライブ現場で観ることが多かったくらいで。女性アイドルに対する男性ファンのコール文化を男性アイドルで取り入れるのは、意外でした。


――LIP×LIPのファンネームをタイトルに冠した、ファンへの愛を感じる「ジュリエッタ」は、LIP×LIPの代表曲「ロメオ」ともつながりを感じる曲です。

ヤマコ:「ジュリエッタ」は「ロメオ」の続編で、同じ世界観を描いています。「ロメオ」はどう描いていいか分からず、王子様とお姫様の世界観をどう表現するか、資料をどこから集めてどう世界観を決めるか、迷いながら作っていました。その後、時間が経ってから「ジュリエッタ」を描く機会があって、再びその世界線で作品を作ることになった時は、正直すごくワクワクして。まだ全てを理解していなかった時に描いた「ロメオ」と、LIP×LIPを深く理解してから描く「ジュリエッタ」とでは感じ方が大きく違ったので、すごく感慨深いものがありましたね。

shito:ヤマコの絵は、技術面でめちゃくちゃ成長しているなと思っています。

ヤマコ:「ジュリエッタ」を描いた頃には、LIP×LIPのキャラクター像や、どんな“王子様”像がみんなに楽しんでもらえるのかがだんだんとわかってきました。shitoからは、愛蔵や勇次郎に特定のポーズをとってほしいというリクエストがあって、その要望はミュージックビデオに反映されています。具体的には、愛蔵や勇次郎にお姫様を攻めてほしいというリクエストをもらっていて。より一層、“王子様”として完成されたふたりの姿を映し出すことができたんじゃないかなと思います。



ジュリエッタ / LIP×LIP


“バズ”を狙うよりも大切なもの

――2023年の年間Billboard JAPAN“TikTok Songs Chart”では、HoneyWorksの「可愛くてごめん (feat. かぴ)」が1位に輝きました。ミュージックビデオでは、TVアニメ『ヒロインたるもの!~嫌われヒロインと内緒のお仕事~』に登場するちゅーたん(中村千鶴)の、LIP×LIPを推しながら自分らしく輝く姿が支持されました。この曲は世界にも届いていますが、今後海外を視野に入れた展開も考えていますか?

shito:LIP×LIPに関しては、「バズを狙って作るのではなく、キャラクターに歌ってほしい楽曲を制作する」という根底は変わりません。そのなかで、海外でのバーチャルライブを実現してほしいなという夢は持っていますね。彼らはどこにでも行けるので(笑)。



可愛くてごめん feat. ちゅーたん(CV:早見沙織) / HoneyWorks


――2022年、LIP×LIPが出雲観光大使に就任したように、海外でイベントなどを開催している姿が想像できますね。

shito:ちなみに島根県は自分の出身地で、そういう意味ではLIP×LIPが自分の代わりに観光大使を務めてくれたことは、嬉しさ半分、悔しさ半分です。自分よりもLIP×LIPのほうが影響力を持っていると思うので、地元を盛り上げてほしいです(笑)。

ヤマコ:そんな……(笑)。


――「可愛くてごめん」のミュージックビデオでLIP×LIPの姿が映ったことで、彼らの存在を知った人もいるのかなと思います。実感はありますか?

shito:そうですね。むしろ、ファンの方たちや声優さんとは、「LIP×LIPよりファンのほうが有名になっちゃったね」という話で盛り上がっていました(笑)。「可愛くてごめん」でバズってからは、バズることよりも、キャラクターソングを作るうえで、そのキャラクターたちがどんな動きをするか、何を思うのかといったことに思考が傾いていましたね。次のちゅーたんの楽曲は、どうしようかみたいな感じです。

ヤマコ:基本的に“キャラクターソング”なので、物語はキャラクターの世界観の中で進んでいます。LIP×LIPはその世界でどうやって売れるか、どうやって頑張るかを考えて、そのような行動をとるんだろうな、と。現実世界ではちゅーたんの曲がバズっているけど、あくまでHoneyWorksの世界観の中では、ちゅーたんはただのいちファンで、特に有名でもないメイドカフェで頑張っている側のポジション。今後も現実世界と物語世界の境界線は引きながら、良い作品を作っていきたいと思っています。


LIP×LIP(勇次郎・愛蔵/CV:内山昂輝・島﨑信長)「生まれてきたことに感謝しなさい!」

生まれてきたことに感謝しなさい!

2024/03/13 RELEASE
SMCL-874 ¥ 3,080(税込)

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Disc01
  1. 01.LOVE&KISS
  2. 02.ジュリエッタ
  3. 03.青へ
  4. 04.推しの魔法
  5. 05.A.B.SECRET
  6. 06.許してサンタさん
  7. 07.ホワイトデーキッス
  8. 08.めおと
  9. 09.フィアンセ
  10. 10.他のやつにいくなんてさ
  11. 11.俺無しじゃ生きていけない?
  12. 12.ラストステージ
  13. 13.この世界の楽しみ方

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