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獅子志司×菅原圭 対談インタビュー│“稲妻が走った”二人の出会い



インタビューバナー

Interview & Text:小町碧音


 5月29日にリリースされるボカロP・獅子志司の2ndミニアルバム『プラウラー』から、「神下り feat. 菅原圭」が、3月27日に先行配信された。今回ビルボードジャパンでは、獅子志司とフィーチャリング・ゲストとして参加したシンガーソングライター・菅原圭の対談を実施した。

 トレンディでジャジーなエレクトロサウンドと雷の要素が菅原圭の歌声を駆り立て、見たことのない境地を開く。自身初のコラボ作品であると同時に、Disc2のVOCALOID ver.では、CeVIO AIの音楽的同位体“可不”をフィーチャーしている点も、これまで初音ミク一択だった獅子志司にとっては実験的な試みと言えるだろう。

 すべてが挑戦となった「神下り feat. 菅原圭」が導いたものとは?

“稲妻が走った”二人の出会い

――お二人はどのタイミングでお互いの存在を意識し始めたのでしょうか。

獅子志司:僕は、2、3年前ですね。YouTubeのおすすめに出てきた菅原さんの楽曲「シトラス」に初めて出会ったときに「うわ、なんだ、この歌声」と思いました。稲妻が走ったような歌声で、地声から裏声に上がって戻るときの必殺技のようなものが、すごいなと感じました。作詞作曲もされていることを知って、もう本物だと感じましたね。普段はミドルテンポでおしゃれで、どこか切なさも感じる曲を歌われているイメージなんですけど、菅原さんの声は、絶対にかっこいい曲も似合うとずっと思っていました。

▲菅原圭「シトラス」MV

菅原圭:普段、曲を制作する方と関わる機会が少ないので、自分の印象を聞くのは新鮮で、少し照れくさいですね(笑)。私の中の獅子さんの第一印象はボカロPだったんです。でも「喰らいながら」でセルフカバーもアップしていることを知ってから、獅子さんの歌声にもハマっていきました。男性なのにどことなく地声の高さがあって、低い音域もしっかり出ているのに高く聴こえる。そんな不思議な歌声にやみつきになりました。獅子さんの曲をご自身が歌うと世界観が完成する感じがして、ボカロとはまた違う世界観として素敵だなと思っていました。

▲獅子志司「喰らいながら」MV

――獅子さんは、現在に至るまでどのような音楽遍歴を辿ってきたのでしょうか?

獅子志司:高校生の頃は軽音楽部でバンドのボーカルをしていたんですけど、「ちょっと違うな」と感じて。その後、音楽の専門学校に進学してDTMの使い方を学びつつ、シンガーソングライターとしての活動を本格的に始めたんですが、路上ライブをしても素通りされてしまうことがほとんどだったので、達成感が得られなくて、心がすり減っていきました。でも、音楽が好きな気持ちはずっと変わらなかったので、ボカロPとしての活動を始めました。そうしたら、評価してくれる人たちに出逢うことができて。ネットに曲を投稿してみると、数字で反応が見えるし、コメントももらえるので、価値観が一気に変わったと同時に温かい場所だなと感じました。僕にはこれしかないと思って、突き進んできたことで、自分がやりたかった“歌うこと”が、今できています。

――リスナーとしてはどんな音楽を聴いてきましたか?

獅子志司:子供のころはアニソンを聴いて育ち、高校時代にはダンスミュージック、パンクロックと聴く幅が徐々に広がっていきました。専門学校時代には、J-POP、K-POPを聴いていましたね。自分の音楽のストライクゾーンはめっちゃ広くて、バズっている曲、ミーハーな曲含めていろんなジャンルの曲を聴きます。

――お二人に共通しているのは、作詞作曲から歌まで手がける、ということだと思います。

菅原圭:私は路上ライブをしたことがなく、曲作りを始めたのもここ3、4年のことなんです。もともと歌うことが好きで、インターネット上にカバー曲を投稿していたんですけど、私が高校を卒業する頃は「歌ってみた」で生計を立てている人はまだ少なかったですし、見た目に対するコンプレックスもあって、人前に出るのは到底無理だと感じていました。匿名でインターネットに投稿できる環境はありがたかったんですが、そこで音楽を続けていくためには自分で作曲するしかないと思って、独学で作曲を始めました。その過程で、レーベルにデモテープを送ったりもしていました。楽器もコード進行もあまりよくわかっていなかったんですけど。

獅子志司:僕は、専門学校で音楽理論について習ってはいたんですけど、少しずつ自分なりの方法が出来上がってきました。理論を完璧に理解しているわけではなくて、流れを掴む感じですね。たとえば、最初はボカロでアイドル風のキラキラした明るい曲も作っていたんですけど、受けがいまいちで、現在は非公開にしている曲もあります。作り続けているうちに、視聴者の反応を見て、何が受けて何が受けないのかがよくわかるようになって、評価していただける楽曲を作れるようになったと感じています。

菅原圭:確かに制作していると、自分の得意なメロディーラインやキーが自然と見えてくることはありますね。私は普段、オケやコード進行の土台の部分の制作にはあまり関わっていなくて、メトロノームを使いながらアカペラで作曲しています。一緒に制作してくれる編曲者から、「キーを一つ上げてみたらどう?」、「テンポを少し速めてみたらどう?」といった提案をもらうことで、なんとかマンネリを避けることができているので、もしそういった外部の意見を取り入れなかったら、同じような曲ばかり作ってたのかもなあ……って思っちゃってます(笑)。

――獅子さんがアレンジでこだわっていることとはなんでしょう。

獅子志司:僕はK-POPの音作りの影響を受けているので、生ドラムを使わずに、電子音の要素を強めにして制作することを心がけています。でも、J-POPの要素も絶対に入れたいと思っているので、ギター、ピアノの音色も使って、しっかりと音を重ねるようにアレンジしていますね。

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男女デュエットの難しさとは?

――2ndミニアルバム『プラウラー』収録曲「神下り feat. 菅原圭」についておうかがいします。まず、菅原さんをフィーチャーした理由を教えていただけますか?

獅子志司:「シトラス」の曲を聴いて以来、自分の曲でその歌声を聴けたらどんな仕上がりになるのか、いつも頭の中で考えていました。今回ミニアルバムを作るにあたって、獅子チームともフィーチャリングを入れたいと話していたので、僕から「菅原さんに相談したい!」とお願いしました。菅原さんにしか出せないあの素敵な声はもちろん、がなりも入ったアップテンポでかっこいい曲を歌う菅原さんをプロデュースしたかったんです。

菅原圭:「喰らいながら」を初めて聴いたときから、獅子さんにぜひ私のために曲を書いてほしいという熱い思いがありました。マネージャーさんにもその思いをずっと伝えていたんですよ。今回フィーチャリングの話をいただけたときは、本当に嬉しかったです。「やった!ラブコールしててよかった!」って。

――今回気になったのが、『プラウラー』Disc2の「神下り」では、CeVIO AIの音楽的同位体“可不”をフィーチャーしていることです。その理由も教えていただけますか。

獅子志司:僕の曲では、ずっとミクさんを使ってきたんですけど、今回のフィーチャリングで新しいボカロにも挑戦してみたいと思っていて。それで、KAMITSUBAKI STUDIOに所属したタイミングだから、せっかくだし大々的にいこうと思って、可不さんを使うことにしました。普段はMacでミクさんを使っているんですけど、可不さんはWindowsでしか動かないんですよ。なので、よくゲームする時に使っているゲーミングPCを使いました。大変だったんですけど、可不さんがめっちゃいい声をしていて新鮮でした。

――「神下り feat. 菅原圭」は歴史上の人物、菅原道真がコンセプトの一つとなっているようですが、その背景は?

獅子志司:いつも曲を作るときに大事にしているのは、韻を踏むこと、おしゃれでかっこいい系統であること、それに加えて、隠し要素、ダブル・ミーニングみたいなものを入れることなんです。菅原圭さんと何かを重ねたいなと思ったときに、以前から菅原という名前がかっこいいなと思っていたので、菅原道真の要素を入れました。単純な理由ですみません(笑)。

菅原圭:実は私、友達に菅原道真ってたまに呼ばれています。

獅子志司:本当に呼ばれているんですか?

菅原圭:Discordでサーバー名を変えられるじゃないですか。友達がもとの名前から変えていて、それが菅原道真だったんです。なので、獅子さんから「菅原道真から着想を得て作りましたよ」って聞いて、既視感がありました……(笑)。


▲獅子志司

――お二人が特にこだわったところはどこでしょうか。

菅原圭:この曲のテーマが“復讐”だと聞いたときに、その言葉に対する自分のイメージは、やられたことを返したいみたいな苦しくて悲しいものだったんですね。でも、曲を深く掘り下げていくうちに、獅子さんから「最初は苦しい感情を表現してもいいけど、復讐の気持ちを吹っ切れる形でもいいかもしれない」というアドバイスをもらって。それで、復讐を通じてどんどん楽しくなっていくような感じを歌に込めました。後半部分では、そのグラデーションを意識して歌いました。

獅子志司:僕が曲を制作する上で苦戦したのは、フィーチャリングのバランスですね。特に男女のデュエット曲を作るとき、最初は菅原さんに8割歌ってもらいたいと思っていたんです。でも「これはさすがにフィーチャリングしすぎじゃないか?」と意見がチーム内で出て、自分もある程度歌わないといけないと思ったんです。相手のいいところを出したいけど、そうなると自分のいいところが出しにくくなるというか。そんななかでもキーを転調したり、パート分けを調整しながら、結果的に二人のいいところをバランスよく出せたんじゃないかと思っています。

菅原圭:わかります。私も女性のボーカリストとして、男女で歌うときは、男性にとって歌いやすいキーを意識するようにしています。以前、シンガーソングライターの春野さんとコラボしたデュエット楽曲「celeste feat. 春野」でも、お互いに歌いやすいキーを模索しながら作詞作曲を行いました。試行錯誤しながらの調整は必要ですよね。

――なるほど。「神下り feat. 菅原圭」は、菅原さんの新たな一面を引き出した、見事なフィーチャリング作品といえますね。

獅子志司:そうですね、初めてのfeat.作品を菅原さんと一緒に創り上げることができてよかったです。

菅原圭:最近は、自分の曲でも「熱帯夜」「キラッテラッテ」のようなバラード以外の曲も作るようになって、アップテンポだったりロック調の曲にも挑戦して、徐々に慣れていきたいと思っています。今回の「神下り」も、いつもの自分とは違う新しい「菅原圭」を知ってもらえる機会になると思っています。


▲菅原圭

――では、最後にお二人からリスナーへのコメントをお願いします。

菅原圭:獅子さんが人と歌っているところを私も聴いたことがないので、自分が獅子さんと歌っているのを聴くのは、初めての経験でした。私のパートでは、後半に向けて復讐すること自体が楽しくなっていく感じを意識して歌ったんですけど、その後に入る獅子さんのソロパートでは、急にグッと切なさが詰まったフレーズがあるんです。これは2人で歌っているからこそ生まれたもので、獅子さんの歌声が何重にも倍増した美味しさになっていると思うので、ぜひ聴いてくださいね!

獅子志司:菅原さんの声が雷のような性質を持っているとずっと思っていて、この曲が完成したときに、やっぱりその認識は間違ってなかったと思えたんです。菅原さんが歌った復讐パワーに自分の歌声がプラスされることで、何か伝えられたんじゃないでしょうか。「目には目を歯には歯を」のような力強さが感じられる曲になっているので、ぜひそのパワーを感じてもらいたいです。

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