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特撮 『5年後の世界』インタビュー
“想像してたかい 5年後の世界”
大槻ケンヂ率いる特撮、遂に再始動!
近年では「さよなら絶望先生」シリーズの主題歌などで、これまで以上にリスナーの幅を広げてきた特撮が、遂に5年ぶりのフルアルバムを完成させた! 今回は大槻ケンヂに作曲やプロデュースを担当するNARASAKIを加え、ずっと追い続けてきたマニアから、アニメで知ったアナタまで。人として軸がぶれている方なら必見のインタビューです。
アニメと特撮の接点
--5年ぶりの再始動となりますが、06年の筋肉少女帯の復活以降と、特撮の充電期間は重なりますね。
大槻ケンヂ:時系列で言うとそうなりますね。
NARASAKI:ただ、アニメ「さよなら絶望先生」シリーズの第2期までの主題歌は、特撮のメンバーで録音しているんですよね。
--では、5年ぶりのアルバム制作における意気込みなどは?
NARASAKI:個人々々のパーソナリティを打ち出したモノにしたいなと。楽曲メインというよりも、個々が立っている、強く前に出るモノになれば良いなっていうのがあって。何故なら、アレンジとかよりも削ぎ落とした骨太……って言うのもアレですけど、シンプルな4人でやっている、ってところをベーシックに作りたいなと思いましたね。メンバーが気に入ってくれるような作品というか。
--それは三柴理さん、Arimatsuさんと超絶的なメンバーが揃うからこそのアプローチですよね。
NARASAKI:結成当時はあんまり思ってなかったことでもあるんですけど、ピアノのプレイにしても、ドラムの音色にしても、なるべくそのままダイレクトに聴かせることがロック、ってところに辿り着いたのかな。色々、紆余曲折ありまして、結局そこに行き着いたと。
大槻ケンヂ:これは特撮に限らず、筋少もそうだし、絶望少女達とのライブでもそうなんだけど、僕は超絶技巧系なミュージシャンとばかり演らせてもらう機会に恵まれているんですね。そんな中、特撮は、いうたらスタイリッシュなところがありますよね。
これはナッキー(=NARASAKI)のサウンドメイクによるところが多いと思うんだけど、洗練されたところがありますね。あんまり引き合いに出すのもアレなんだけど、いい悪いじゃなくて筋少はもっと……、八ッ場ダム強行建設のように、ねじ伏せるところがあるので。その違いが面白いですね。
Arimatsuは元々達者なドラマーだったんだけれども、5年の休止中に色んな現場で世界を回ってきて。そういうこともあってか、プレイに対する姿勢も、とても良い方にビシッとなっていて、「巧いなー!」って唸らされましたね。歳を取ると喉が弱くなってくるばっかりなので、円熟期に入ってきたボーカルは困っちゃいますよ(笑)。
--筋少の再結成は、制作に影響を与えましたか?
NARASAKI:ないですね。
大槻ケンヂ:ナッキーはあんまり筋少を聴いたことがないだろうしね(笑)。それはボーカルの方が、集まりの違うところで歌い分けるってことでね。ナッキーはディーパーズ(COALTAR OF THE DEEPERS)でボーカルもやっているから、M-04『霧が晴れた日』とかも、本当は「オーケンのボーカルじゃなくて俺が……」って思っているんじゃないかと思って、「ナッキーっぽく歌えばいいのかな?」って考えてました(笑)。段々分かってきたの。ぅふわぁ~……って、菊池桃子を入れて歌うと良いみたい。
--……実際、NARASAKIさんも歌いたいって気持ちはあるのでしょうか?(笑)
NARASAKI:仮歌を入れる時にイメージを伝えたくて、っていうのはあるんですけど……。そこで気持ち良く歌っているだけなんですけどね(笑)。
--先に挙がったディーパーズや、他ミュージシャンへの楽曲提供など、NARASAKIさんは多岐に渡って活躍されています。特撮の楽曲制作で心がけていることは?
NARASAKI:やっぱり大槻さんをかっこ良く見せることが、自分の仕事だと思いますよ。特撮は大槻さんの男らしさが、前に出た方が良いと思うので、そこを中心に考えます。後、特撮はピアノがどう絡んでくるのかとか、スタイル的にアグレッシブなことをやりたいと思うので。
--今作には“絶望シリーズ”の主題歌が再録、新録という形で計4曲収録されています。ここでアニメファンにも大槻さんやNARASAKIさんの凄味を見せ付けられたと思いますし、実際にM-03『林檎もぎれビーム!』は神曲とも呼ばれています。
NARASAKI:アニメという媒体を通して、“色んな音楽があるんだよ”っていう橋渡し的な存在に自分がなれればって考えて、第1期のM-05『人として軸がぶれている』を作ったんですけど、それは無理だってことが分かりました(笑)。……っていうのは冗談ですけど、アニメ好きな人にっていう気持ちは、あったりなかったりって感じですね。最近のアニソンとか勉強で聴くんだけど、やっぱり全然面白くないというか、受け入れられないですね。……理由ですか? 作家ですね、作家性。
Interviewer&Photo:杉岡祐樹
震災が特撮に与えた影響は?
--ただ、そういう意味でもシャフトは、「夏のあらし!」のオープニングに面影ラッキーホールを起用するなど、冒険的なアプローチをしてますよね。
大槻ケンヂ:【咲く乱状態 in 日比谷野音2011】とかは特殊なんだけど、水木一郎アニキに呼ばれて他のアニメ系イベントとかに行くとさ、僕は勉強になるところがあって。ゆうてもアニメを支持している人って、音楽的にはコンサバティヴ(保守的)な人が多くて、歌の巧いミュージシャンのを聴いて落ち着きたいって方向になってるみたいで。だから、出演する歌手の方々は、歌の巧さが尋常じゃないんです。トンでもない人たちばっかり出てくる。すごく勉強になる。
--実際、ご自身のエッセイにも、近年のアニメ系音楽イベント会場の独自性に驚いたと記していましたよね。
大槻ケンヂ:ガラパゴス現象になってるよね。ただ、何でも盛り上げちゃうっていうのは、ある意味ミュージシャン殺しだよね。お笑いでさ、何でも笑ってくれる人のことを“芸人殺し”なんて言うじゃない? ちょっとそういう面がある。特撮の再始動における原点になるアニメのお仕事では、ボーカリストとして本当に色々勉強させてもらいました。
--また、“絶望シリーズ”の楽曲は、歌詞がリスナー層とフィットしていたのも大きいと思います。
大槻ケンヂ:「絶望」3部作は、本当に自分の得意とするところだったんです。だから、ナッキーと作った“大槻ケンヂと絶望少女達”のアルバム『かくれんぼか鬼ごっこよ』は、そのテーマで全部いけた。
でも、今回はね、やっぱり震災があったでしょ? そこから原発があって……、ミュージシャンとして、どうしても関わってきてしまう。そういう部分と、今までの3部作とを、どうコンセプチュアルにまとめていくのか、っていうのは悩んだところではありますね。しかもM-10『かってに改造してもいいぜ』も入ってくるしね。
--今作には、震災後に書かれた詞もあるのでしょうか?
大槻ケンヂ:ありますね。M-04『霧が晴れた日』なんかは、モロにそういう曲ですよね。真っ当な方が震災を受けて発表した詞や曲は、割と拾い上げられる。けど、うちらみたいなモンもさ、こういうモノなりに、一度ビシッと歌っておかないとなって。
--当たり前ですけど、今回の震災は日本中のミュージシャンにあらゆる影響を与えましたよね。
大槻ケンヂ:実際、僕はライブが何本か延期になったんだけど……、今にして思うのは“あの時延期にして良かった”ってことで。あの、俺って“しゃべるボーカル”じゃない? あの状況で声を張って、コール&レスポンスにノセてくのは自分にウソをついているようで。人によっての温度差も気になっちゃってたし、正直「みんな何でこんなに鈍感なんだッ!?」って思った、周りのさまざまなことに対して。
NARASAKI:俺は4月2日にディーパーズのライブを演ったんだけど、それは演って良かったな。ディーパーズも長いお休みから復活したんだけど、メンバーが居て演れるうちは演ろうっていうのがあった。もちろん、マネージャーとも色々話したけど、ライブハウスもかなりキツいって話を聞いてたし、そういうために再始動した訳だから。
--自分は震災後、割と早い時期からライブに足を運んでいましたが、あの時のお客さんの表情は、一様にほっとしていたように思えました。
大槻ケンヂ:そうとばかりは言えない。でもさ! その時にマグニチュード7以上の余震がきていたらどうなっていたんだって話ですよね。
--そこが結果オーライになっていた危うさは、確かにありますね。
大槻ケンヂ:そう。それじゃダメなんだろうな……っていうようなことも考えないとね。
--そうした状況下だからこそ、M-01『5年後の世界』は、非常に残る楽曲になりますよね。
大槻ケンヂ:これは最初、ナッキーが「(歌詞を)書かせたい人がいる」っていうから、じゃあ是非って話になったんだけど、……その人と連絡が取れないって言い出して(笑)。結局、ナッキーが書いてきた詞を、レコーディング当日に僕が直して、スタジオに入ってからもブースとコンソールとであーだこーだ言いあって作ったんです。
NARASAKI:俺が言いたいところは、“メロが無い”ってことですね。叫ぶだけで何処までいけるか。そういうところで育ったハードコア世代ってのもあるんですけど、メロの無いところで人を泣かせることができるのか。……簡単に言うと、才能があればコレができるってことです。あまりマネできないと思いますね。
Interviewer&Photo:杉岡祐樹
特撮 VS さだまさし?
--それは先ほどの“個々が立っている”というお話とも繋がる部分ですよね。
NARASAKI:それはありますね。
大槻ケンヂ:まあ、僕はデビューしたての頃は叫ぶ曲ばっかりだったから、久しぶりでしたよ(笑)。……あの、5年前と色々変わったんですけど、個人的には“俺は音楽理論をはじめ、そもそも音楽とはどういうモノなのかを分かっていない”って分かったんですよ(笑)。
逆に言うと、音楽ができる人には想像できないような歌を鼻歌で作ってきて、「これを曲にしてくれ」ってお願いしても、けっこう曲にしてくれるんです。これはナッキーのみならずなんですけど、みんなよくこんな旦那の道楽みたいのに付き合ってきてくれたなーって(笑)。
--大槻さんは最近アコギにハマッてますよね?
大槻ケンヂ:(恥ずかしそうに)いやいや、あ、あんまり……。何となくやってますけど、……ナッキーの曲は難しいね! テンションコードとか色々入ってるから、抑え難いんですよ。
--近年の大槻さんはより音楽を楽しんでいるように思えますし、実際に多作ですよね。
大槻ケンヂ:40歳を過ぎてから、けっこうアルバムを出させて頂ける機会が多くてね。そのせいか……この間のスタチャのイベントに出て思ったんだけど、僕、最近歌巧くなりましたね!(笑) ちゃんと横隔膜を使って声が出てる!
--そうした聴きどころも楽しめる1枚を、“絶望シリーズ”の各主題歌がカットインするM-12『メビウス荒野~絶望伝説エピソード1~』から、壮大なパワーバラードM-13『ルーズ・ザ・ウェイ(011)』で締める。ある種の王道的な作品になりましたよね。
大槻ケンヂ:イーグルス的なね! ……例えがイーグルスは違うか(笑)。『ルーズ・ザ・ウェイ』は本当に、今の状況をそのまま歌っているかのようで、預言者であったかのような歌ですよね。余震のあるスタジオで録音していて、何とも言えない気持ちになったし、このアルバムの最後にピッタリな曲になったなって。
……この間、震災後の特番で、さだまさしさんが石巻に行って歌ってたのね、「頑張れ~……ッ!」とか。するとさ、やっぱりみんな泣いちゃうわけ。同じボーカルとして、そういう泣かさんばかりの人とも戦っていかなければいけないと思ったらさ……
NARASAKI:だってアッチはプロだもん!(笑)
大槻ケンヂ:泣かせのね。でもさ、もしも被災地で、さだまさしさんと特撮で演らなければならなくなったらさ、較べられるんだよ! そん時はどうすっかだよね! “俺がさだまさしと演ったら、どうすっかな!?”ですよ、Arimatsu風に言ったら(笑)。例え、さだまさしさんが来ても負けない、何か……
NARASAKI:勝てないよ~、絶対勝てないよ~……。
大槻ケンヂ:アハハ、『関白宣言』とかやられたらね(笑)。
NARASAKI:だって、言うなればライオンとインパラみたいなモノだも~ん。
--泣かせ界のライオン(笑)。
大槻ケンヂ:逆に、LOFTなりに引っ張り出して、ディーパーズと特撮、臨終懺悔も出してさ、「そういう時にさだ、やれんのか!?」って(笑)。でも、たぶん持ってっちゃうんだよね~。パンクス全員号泣、「さださん、凄ぇ!」みたいな。で、結局、「負けた……」って。
--ここで話を終わりにしたら、負けで終わっちゃいますよ(笑)。
大槻ケンヂ:そうだよ! インタビューが「負けます」で終わっちゃうよ! じゃあさ、今のさださんのくだりは無しにしよう! 全部カットして下さい。
--せっかく盛り上がったのに!(笑) ただ、NARASAKIさんは最近、話題のももいろクローバーの楽曲も手掛けましたし、特撮はアイドルファンからも注目を……
NARASAKI:(アーティスト写真を指しながら)で、調べたらこんな奴が出てくる(笑)。まあ、僕は特撮がどうこうっていうところではなく、このアルバムを愛聴盤にしてくれる人がいてくれれば、それが一番嬉しいです。ずっと聴き続けてもらえる、それが一番ですね。
大槻ケンヂ:全方向に向けてね、5年前からファンの方、これから特撮を知る方、アニメファンの方も、エッジの利いたロックファンも、みんなが聴けるアルバムだと思うんですよ。
--実際、ロックの大名盤になりうる快作ですよ。おふたりにそうした手応えは?
大槻ケンヂ:ありますよ! 歌入れ以外あんまりスタジオ行かなかったけど(笑)。
NARASAKI:スタジオの回数は関係ないでしょう(笑)。
大槻ケンヂ:スタジオの場所もよくわかんないとこでさー……
NARASAKI:こんなところで言い訳しないで下さいよ(笑)。僕は死ぬほど聴いてるんですよ、本当に。だって絶望少女達の頃から、そのたびに聴いてたから、聴いてる回数が凄い。聴きすぎててジャッジができないし、まだ客観的にはなれないんです。まとまったかなっていう、ベスト盤的な感覚はありますけど、強力なラインナップだとは思いますね。
Interviewer&Photo:杉岡祐樹
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