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<インタビュー>betcover!!・柳瀬二郎に聞く バンドの美学と揺るぎない音楽観

インタビューバナー

 2016年、柳瀬二郎のソロプロジェクトとしてスタートし、昨年は10月リリースの5thアルバム『馬』を携えた初の全国ワンマンツアーも見事成功に収めたロックバンド・betcover!!。アメリカ大手の音楽コミュニティ・Rate Your Musicにおいて、4thアルバム『卵』が2022年のベストアルバム13位にランクインするなど、世界でも高い評価を得る彼らが、2月18日ビルボードライブ大阪についに初登場を果たす。そこで今回は、大阪にあるFM802の番組『Grace Place』と『THE OVERSEAS』でDJを務める深町絵里が柳瀬にインタビュー。彼の音楽的背景や、バンドそしてライブに対する思いなど、その素顔と魅力に迫る。(Text:服田昌子)

バンドありきの制作

深町絵里:まずは音楽に触れることになった経緯を教えてください。

柳瀬:祖父の家にギターがあって、ちょっと弾いてみるかと。それで友達のお父さんが宅録機をくれたので、重ね録りしてたらハマりました。

深町:ハマったのはなぜ?

柳瀬:映画が好きで劇伴の作家になれたらなって。僕は中学の時に吹奏楽部だったのもあり、自分でギターを重ねて曲を作って……という感じです。

深町:当時はクラシックを聴いていたんですか?

柳瀬:そうですね。吹奏楽の曲を。東京スカパラダイスオーケストラも好きで、フュージョンとかジャズとか、いろいろ聴いていて、ザ・ホワイト・ストライプスやジャック・ホワイトも。

深町:ジャック・ホワイトはどういうところが好きなんですか?

柳瀬:最近より2014年ごろが(好み)。バンドを終えて集めたメンバーが別々のキャラクターを持っていて。キーボードはアイキー・オーウェンズというマーズ・ヴォルタのメンバーなんです。マーズ・ヴォルタも好きなんですけど、そういうオルタナティブな要素が入っていて、ドラムスもヒップポップのドラマーが叩いてたり。なんかいびつでジャンルレスな空気感があるのと、あとはやっぱりステージング。ザ・ホワイト・ストライプスのころからローディーもスーツを着ていて、僕がスーツを着るのもザ・ホワイト・ストライプスとニック・ケイヴの影響です。


深町:ジャック・ホワイトのライブで、女性メンバーばかり集めて衣装をブルーで合わせていた時がありましたよね。あれもめちゃオシャレだった。毎回メンバーをチェンジしながらも統一性を持っていてかっこいいですよね。

柳瀬:その時の女性ドラマーもめっちゃ好きですね。なんかドカドカしてる……グッとバンドがいく感じが好きです。

深町:楽団っていう感じ。

柳瀬:ジャック・ホワイトと仲間がいく感じ。僕らの形式もそうで、最近はサックスやピアノを入れていて、そういういろんな要素があって、ごちゃごちゃしてる……きれいにまとめられてないのがすごく好きです。

深町:ジャック・ホワイトが出演したフジロックフェスティバル '22は行きました?

柳瀬:悩んで……行かなかった。

深町:山が苦手とか(笑)?

柳瀬:人(ごみ)が……(笑)。

深町:そっか、じゃ遠慮しましょう(笑)。次は、制作方法についても知りたいです。

柳瀬:弾き語りでは作れないのでバンドありきの作り方をしてます。バンドのイメージがないとメロディも出てこない。弾き語りだと聴いたことのあるようなメロディしか出てこないです(笑)。




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音楽に込めるのは社会性とかを切り離した人間の根本みたいなところ

深町:詞は詩的で文学的。現代的じゃなく古き良き日本語。

柳瀬:それは意識してますね。誰がどの時代で聞いても関係ない感じにしたいから。

深町:いつも二郎さんは、メッセージ性は特にないっておっしゃいますよね。

柳瀬:でも勘違いされることがあって。音楽自体に込めるメッセージがないんじゃなく、人にどうこう言うメッセージはないってことですね。音楽に込めるのは社会性とかを切り離した人間の根本みたいなところです。

深町:音楽で一石を投じて社会を変えてやろうとか……。

柳瀬:……ないないない(笑)。でも社会に興味がないのではなく、いろいろ考えてはいるんですけど、音楽を通じてメッセージを伝えようみたいにはならない。

深町:言ってること、すごくわかる。アートがそこにあるっていうだけというか。でも創作の姿勢・アティチュード自体がすでにメッセージな気がするんですけど(笑)。

柳瀬:そうですね。姿勢的にはメッセージ、めっちゃあります。音楽でそれ(メッセージを伝えること)をやらないっていうのは一種メッセージでもあります。簡単なんで、音楽でメッセージとか(笑)。


深町:逆にね(笑)。

柳瀬:それっぽいこと言えばいい(笑)。

深町:いいですね。ぶれませんね(笑)。で、さっきのバンドサウンドが好きという話に少し戻るんですが、バンドへの思いについても教えてください。

柳瀬:最近すごく思うことがあって、今日も話してたんですけど、今若者がバンドをやらないじゃないですか。マイクが1本あればラップもできて、かっこよく踊れて……そりゃバンドなんてやんねえよなって(笑)。バンドって足かせじゃないけど、普通にステージから動けないのもあるし、身軽じゃないじゃないですか。でも今はマイクさえあればどこでもかっこいい人たちがかっこいいことをやれる。昔ならバンドをやるような熱のあるガチな人が、どんどんヒップホップに流れているんですよね。現状でバンドをやる人たちは、思うことがあって……でもないだろうし。

深町:反骨でもないし。

柳瀬:あと、ポップスにどんどん寄っていってるので、新しくておもしろいアーティスト(ロックバンド)はなかなか日本で生まれ難いだろうなと。でも逆に、バンドの動きづらさがいいなって。重い腰を上げてスタッフとかたくさんの人に動いてもらって、ドラムがどうとかアンプがどうとか、その生モノ感みたいなものがバンドの特別なところですね。ビート、テンポを自由自在に操れるのが、僕はやっぱりいいなって。二度とないトラックがその場でできるっていうのがいいですね。

深町:ループミュージックじゃない、その場その場。

柳瀬:その瞬間その瞬間。すべてがそういう状態だから安定感はないんですけど、そこでどう動かせるか?が、おもしろいなと。

深町:私もバンドで育ってきたというか、ロックミュージックが好きな人間なんで、そのバンドの不自由さみたいな話はとても共感できて、そこに美しさがあると思います。さっきのジャック・ホワイトの楽団の話もだけど、いろんな人が生の音で音楽を作り上げていくのはかっこいいですよね。

柳瀬:やっぱ、でかい機材がステージにいっぱいあるってかっこいい(笑)。

深町:単純にね(笑)。

柳瀬:ずっとそれでやっていきたいと思います(笑)。




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エンターテインメントとしてよりおもしろいものにしたい

深町:ではライブの話も。昨年は初の全国ワンマンツアーを開催。手ごたえはどうでしたか?

柳瀬:『馬』のツアーだったんですけど、お客さんが増えてたくさん集まってくれたのでびっくりしました。最終日の会場のキャパが900人ぐらいで、人多いな~って(笑)。やっぱ変わってきたんだな、軌道に乗り始めたんだなと思いました。あとはちょっと反省なんですけど、バンドの強度というかをちゃんとしていかないと次はないなって思ったので、ここからまた頑張ります!という感じですね。

深町:わりといつも自分に厳しめの評価ですか?

柳瀬:そんなことないです。普通に客観的に見て少し足りてないなって。まだまだやんないとなって思って。

深町:ライブに臨む姿勢というか、いつもどんな心持ちでステージに立っていますか?

柳瀬:前はライブハウスのテンションだったんですけど、会場のサイズが大きくなってきて、今はもうちょっと人が集まった時でもエンターテインメントとしてよりおもしろいものにしたいなっていうのがあります。

深町:具体的には?

柳瀬:なんですかね……自分が大ステージに立つ気持ちをしっかり持ってないと場に食われちゃうなって。バンド自体も。そういうのはすごくあると思う。

深町:いつもライブでは何かが憑依したかのようにパフォーマーとして表現者としてステージに立ってるじゃないですか?

柳瀬:まだ全然なんですけど、見せ方も意識してます。僕は真ん中にいるので、わかりやすい要素というか……ツアーファイナルの会場・クラブチッタでも真っ白なスーツを着たんです。そういう見た目も中身もキャラクターになるみたいな気持ちで臨んでいますね。

深町:ステージ上で即興的なこともやるじゃないですか。それは大事にしていますか?

柳瀬:大事にしてます。それこそバンドである必要がそこにあるんで。尺もテンポも自由にその場で考えてやってますね。

深町:でもそれは一応の打ち合わせもあるんですか?

柳瀬:大体はあるんですけど、以前は結構その場でやってました。さすがに失敗も多かったんで……音止まるみたいな。最近それはやめました(笑)。でも、アイコンタクトで誰がここ出てとかは今も結構あります。

深町:あのヒリヒリした感じはライブならではだし、たまんないですよね。キャパシティはさらに大きくなっていくと思いますが、どうですか?

柳瀬:改めて気合いを入れ直さないとなって思ってます。どんどんキャパは上げていきたいし、あまりアンダーグラウンドとかオルタナティブっていう意識もなくて。僕はもうでかい所に出れるんだったら、どんどん出たいし、そのためにどうやってステップアップするかを今いろいろと練ってるって感じです。

深町:ここに立ちたい!とかあるんですか?

柳瀬:東京ドームですかね(笑)。

深町:すごいな(笑)。

柳瀬:前にマネージャーとドームまでの気合いは持ってろ!っていう話をしてたんです。実際にドームに立つっていうより、そのくらいの気持ちでいこうっていう。




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舞台上でのエンターテインメント……表現での挑戦

深町:そして今年、挑戦したいことがあれば……。

柳瀬:フェスに出たいです。

深町:フジロックフェスティバルはあまり行きたがっていなかったのに(笑)。

柳瀬:出るのはいいんです。バックヤードがあるので(笑)。

深町:フェスに出たいのはなぜ?

柳瀬:やっぱバンドやってたら憧れなんで。でも頑張んないとなかなか出れないなって実感してます。

深町:いやもう、フジロックフェスティバル、出ていいでしょう!

柳瀬:お願いします(笑)!

深町:グラストンベリー・フェスティバルとか海外のフェスにも出てほしい。海外での評価も本当にぐんぐん上がってますよね。私の番組「THE OVERSEAS」のゲストにブラック・カントリー・ニュー・ロードが来てくれた時、最近聴いてる音楽は何ですか?って聞いたら、日本のアーティストに限定したわけじゃないのに、betcover!!をすごくプッシュしてた。

柳瀬:うれしいです。諸事情で実現はしなかったんですけど、そのあとにブラック・カントリー・ニュー・ロードがサポートアクトでツアーに誘ってくれて。


深町:海外での展開、どうですか?

柳瀬:したいですね。ヨーロッパもアジアも。今、ちょっと話もしたりしてて。ちょうど今、見えてきてます。

深町:期待してます。またビルボードライブ大阪公演が2月18日に。

柳瀬:ビルボードライブの舞台に立つのは、相当遠い話だと思ってたんで、すごく焦って、どうしよう?みたいな(笑)。憧れのステージですよね。ディナーショーみたいな。飯と酒があって……というか座り席のライブもほぼやったことないのでかなり挑戦ですね。

深町:最後に意気込みや見どころを。

柳瀬:今回は2回目の7人編成で、クラシックのピアニストとフリージャズとかのサックス奏者が加わります。前回の評価も良かったので、2人をよりフィーチャーして、グランドピアノもあるので、ピアニストの真骨頂が出せたらいいなって。僕はギターを弾く予定はなくて舞台上でのエンターテインメント……表現での挑戦になりますね。

深町:ボーカリストに徹するっていうことですね。

柳瀬:重厚感ある音像になると思うし、ゴリッとバンドでもいいってことなので、そうするか、テンションを変えてしっとりやるか……。

深町:どっちも見たい(笑)。「馬」はピアノが印象的だから、生ピアノが入るのは楽しみです。

柳瀬:譜割もきっちりしてないし、ピアノとキーボードがぶつかるのもおもしろいかなって思います。




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