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<インタビュー>バンド史上最高難易度、危ういスリルと中毒性――緑黄色社会のアニメ『薬屋のひとりごと』OPテーマは新たな攻めの一曲に【MONTHLY FEATURE】

インタビューバナー

Interview & Text: Takuto Ueda
Photo: 矢倉明莉


 Billboard JAPANが注目するアーティスト・作品をマンスリーでピックアップするシリーズ“MONTHLY FEATURE”。今月は、2012年に結成された4人組バンド、緑黄色社会のインタビューをお届けする。

 「国民的存在になる」という野心と確かなポップセンス、メンバー全員が作曲に携わることで生まれる楽曲のバリエーションで、幅広いリスナー層から支持を集めるリョクシャカ。結成10周年を迎えた2022年、日本武道館でのワンマンライブを成功させ、年末には『NHK紅白歌合戦』に初出場。さらに今年は、意欲作とも言うべきチャレンジングな仕上がりの4thアルバム『pink blue』を発表し、夏にリリースしたシングル「サマータイムシンデレラ」は、月9ドラマのために書き下ろされた主題歌で、こちらも大きく話題に。

 そして今回、TVアニメ『薬屋のひとりごと』のオープニング・テーマで、メンバーも“バンド史上最高難易度”の演奏だと語るニューシングル「花になって」が完成。優美で華やか、しかし同時に危うい毒気とスリルも内包する本作の世界観を彩る新曲について、そして昨年末から今年にかけてリョクシャカが辿ってきた歩み、今後の展望まで、メンバー4人に語ってもらった。

作品名を聞いて、「やりたいです」と即答しちゃいました

――最新シングル表題曲「花になって」は、10月21日放送開始のTVアニメ『薬屋のひとりごと』のオープニング・テーマ。オファーをもらったとき、バンド内のリアクションはどんなものでしたか?

長屋晴子:私は個人的にコミカライズされた作品を読んでいて、ずっと好きな作品だったんですよ。なので、作品名を聞いたときは「えっ」って感じで。すぐに「やりたいです」と即答しちゃいました。



Photo: 矢倉明莉

――どんな部分に魅力を感じていたのでしょう?

長屋:漫画アプリのトップページに出てきたのがこの作品を知ったきっかけでした。まず絵柄がかわいいなと思ったんですよね。あと、表紙だけでも物語の時代背景が分かるじゃないですか。それで気になって試し読みしてみたら、猫猫(マオマオ)ちゃんの一筋縄ではいかないようなキャラクターもすごく素敵で。最初は絵柄的にラブコメ的な雰囲気なのかなと思っていたんですけど、まったく違くて。スリリングな展開にどんどん引き込まれて、気づいたら虜になってました。

小林壱誓:僕は今まであまり触れてこなかったタイプの作品だったんですけど、読み始めたら一気に読み進んでしまって。まさに作品自体に中毒性があるし、絵柄のエネルギーもすごくありますよね。だからこそ、曲を書くうえでのハードルがぐんと上がりました。

穴見真吾:宮廷のヒリヒリした雰囲気のなかで、猫猫ちゃんだけが圧倒的に冷静で、ある意味楽観的というか。黒いところに白い点がある感じ。物語にも緩急があるし、そのコントラストの感じがいいなと思いました。テンポ感もちょうどいいし。

peppe:絵が本当にかわいいので、表紙が本棚にずらっと並んでるだけでも素敵だなって。好きな作風だったからすぐに読み終えたし、曲のインスピレーションもけっこう早く生まれた気がします。


――取材日時点ではオンエア前ですが、PVを見ただけでも作画の美しさが伝わってきました。

長屋:試写会に行かせていただいて、初回で放送されるアニメを先に観ているんですけど、本当に息を呑むような美しさでした。私たちは宮廷というものを見たことがないけど、それでもリアルに感じるような世界観が描かれていて。内容はもちろん、そういう部分も見応えのある作品です。


――実際に自分たちの楽曲が使われたオープニング映像を見ていかがでしたか?

長屋:もともと好きだったこともあって、自分たちの曲に合わせてキャラクターたちが動いているのを観た瞬間はすごくうれしかったですね。観てもらえたら分かると思うんですけど、歌詞の内容も取り入れてくださったりして。

小林:これは偶然なんですけど、作中のサウンドトラックは花をモチーフに作られたらしくて、自分たちが「花になって」という曲を提出したとき、監督がすごく感動してくれたみたいなんです。



『薬屋のひとりごと』ノンクレジットOP

――楽曲に関して、アニメサイドからのリクエストはあったのでしょうか?

小林:キャッチーで中毒性がある、みたいな。

長屋:作品で毒が扱われていたり、主人公の猫猫ちゃんが今までなかったような主人公像だったりもしたので、中毒性みたいなものはテーマとしてあったよね。


――作曲は穴見さん。どんなところから着想を得ましたか?

穴見:哀愁のあるメロディーが合いそうだな、みたいな感覚はなんとなくあって。ギターを弾きながら考えていたら、最後のピアノのフレーズが思い浮かんだんです。


――サスペンス感のある不穏な音階ですよね。

穴見:そこから広げていきました。過去の曲だと「逆転」とか、こういうエッジーな曲はいくつかあるんですけど、今回もかっこいい緑黄色社会を見せたいと思いながら作っていきましたね。


――具体的に、アニメのどんな要素から作曲のインスピレーションをもらいましたか?

穴見:漫画を読んだとき、けっこう引き絵が多いというか、景色が広い“大陸感”みたいなものは感じたので、そういう部分からインスパイアされて、最初のクラップとかは入れました。あとは、猫猫ちゃんの薬に対する姿勢、 好きなものに対して我を忘れて突き進んでいく感じは、この曲の勢いにつながっているのかなと思います。


――作詞は長屋さん。どんなふうに進めていきましたか?

長屋:曲を聴いたとき、ちゃんと中毒性があって、なおかつ研ぎ澄まされた雰囲気もあるなと感じたんです。今までの緑黄色社会にはあまりなかった曲調だし、遊び心もちゃんとあって。私の中ではその感じが猫猫ちゃんとリンクしたんですよね。あと、もともと歌詞のテーマとして“自己愛”というキーワードはいただいていたので、それを猫猫ちゃんや他のキャラクターとどう結びつけようか考えました。主人公って明るかったり勇敢だったり、そういうイメージが強いと思うんですけど、猫猫ちゃんはわりと真逆だし、個人的には表情も面白いなと感じていて。笑うにしても不気味な感じで、でも、それがかわいいんですよね。そういう部分は私も魅力に感じていたので、ありのままの自分を愛してほしい、みたいな自己愛から歌詞を書いていきました。


――作業はスムーズでしたか?

長屋:もともと、同じようなテーマで別の曲を作ろうとしていたんですよ。なので詞のイメージはあったんですけど、メロディーがなかなか浮かばなくて。それで諦めかけていたところに今回のお話をいただいて、歌詞と曲がはまって組み上がっていった感じです。



Photo: 矢倉明莉

――今回も楽曲はコンペ形式で選んだのですか?

小林:そうですね。作っているときは他の人の曲を聴かないようにしてるんですけど、真吾のやつを聴いたら「これがいいじゃん」って。

穴見:壱誓はめっちゃ言ってくれたね。

小林:リョクシャカ的にやりたいことが詰まってるなと思って、「俺、真吾の曲がいいと思うな」みたいな感じでした。


――リョクシャカ的にやりたいことというのは?

小林:真吾も言ってましたけど、こういうかっこいい曲は過去にもあったんですけど、リードにはしてこなかったので。今回はそういう部分を出してみたかったんですよね。

peppe:Aメロの掛け合いのアイデアとか最高って思いました。自分からは出てこないなと思ったのを覚えてます。

穴見:曲自体はすごく力強くてドッシリしてるので、コーラスの掛け合いはちょっとコミカルでかわいらしい遊び心みたいな要素として入れました。ここまでオケが重厚なのに、歌がしっかり前面に出せるバンドってそこまでいないと思っていて。なおかつ、中毒性というアニメのテーマとも共通項になれる、そういうサウンドを出したいと思ってました。


――編曲は川口圭太さんと穴見さんの共作。

穴見:もともと僕もドッシリとしたロックサウンドを想像しながら作ったんですけど、川口さんはその上で打ち返してきたというか。ギターの早弾きを入れてきたりして。いちばん特徴的なのは、主にBメロとかで出てくる、二胡とか銅鑼とか中国系の楽器で。あれは僕、まったく想像できていなかったので、印象がだいぶ変わった部分でした。


――ベースもすごく饒舌で。

穴見:レコーディングの次の日は腕が動かなかったです(笑)。

peppe:ピアノに関しては、けっこうデモのままの構成です。もともとのオリジナルが最高だったので、私は今回、自分の色は入れなくていいと思ったんですよね。

穴見:そのまま弾くのが大変だよね。

peppe:いつもピアノを弾いている人ではなかなか思いつかないようなフレーズだったりして。でも、たしかに練習は大変だった。これ、どうやって弾くんだろうって。実験的で楽しかったですけどね。


――ギターに関しては?

小林:最初にデモを聴いたとき、燃えたというよりは「ライブで弾けなくても知らないよ?」みたいな(笑)。でも、川口さん自身がギタープレーヤーとしても活躍されている方なので、たぶん川口さんなら弾けちゃうんですよね。とにかくレコーディングまでには弾けるようにならないといけないので、人生で初めてスウィープを練習しました。

穴見:メタルとかは(小林は)通ってないからね。

長屋:ジャンルが違うもんね。



Photo: 矢倉明莉

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緑黄色社会「花になって」

花になって

2023/12/06 RELEASE
ESCL-5890/1 ¥ 3,900(税込)

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Disc01
  1. 01.花になって
  2. 02.夢と悪魔とファンタジー
  3. 03.花になって (INSTRUMENTAL)
  4. 04.夢と悪魔とファンタジー (INSTRUMENTAL)

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