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<インタビュー>idom、変化を求め新たな一面を提示したEP『Who?』



インタビューバナー

Interview:高橋梓
Photo:Shintaro Oki(fort)

  2022年、EP『GLOW』で鮮烈なデビューを果たしたidom。そんな彼が10月6日に3rd EP『Who?』をリリースした。同作は前作『EDEN』から約半年ぶりのリリースで、豪華アーティストたちとコラボした楽曲が3曲と、【イヴ・サンローラン展 時を超えるスタイル】テーマソング「Knock Knock」の計4曲が収録されている。idomの新しい一面が垣間見える同作について、本人にじっくり話を聞いた。

アーティストとして前進するために求めた新しい刺激

――9月7日でデビュー1周年を迎えられました。この1年を振り返っていかがですか?


idom:あっという間ですね。デビュー当初は新しい環境に慣れるためにいろんな苦労があったり、目まぐるしい日々が続いたりしていましたが、楽しいと思える瞬間もたくさんありました。そこから少し時間が経って、自分自身を見つめ直す意味で前回のEP『EDEN』を作って。そんな1年でした。

――いきなり環境が大きく変わりましたもんね。


idom:そうですね。それまでは自由に楽曲を作っていましたが、ドラマに合わせて制作をしたり、普段の自分では作らないような音楽を作ったり。それでデトックス的に『EDEN』を作ったり。でもそこで「皆さんに届く音楽と、自分のスタイルのバランスを取っていきたい」と思うようになったんです。やっぱり自分のやりたい音楽を広げていくためには、多くのリスナーを獲得しなければいけません。リスナーを獲得することを無視してしまうと、自分の音楽の幅も狭まってしまうと気付いたんですよね。だからこそバランスが大切だと気付きました。

――そんな中、10月6日に3rd EP『Who?』をリリースされます。「アーティストとしての変化を求め生まれたEP」とのことですが、変化を求めたくなったきっかけがあったのでしょうか。


idom:デビューしてから、どういう方向性に向かうのが自分の中で一番理想なんだろうとすごく考えるようになりました。そんな1年を過ごして、次の1年となった時にアーティストとしてステップアップしたり、掲げている目標に向かったりするためには、新しい刺激が必要だなと思ったことがきっかけです。

――デビュー1年でその考えに至るのはさすがです。


idom:この業界ってすごく流動的じゃないですか。それに、僕のスタート地点はつい3年前。そう考えるとスピード感は自分の持ち味だし、大事なことなんだな、と。常に時代を先読みしながら新しい僕を届けていきたいんです。それに飽き性なだけかもしれませんが(笑)、元々新しいことに挑戦することが好きなタイプで。もちろん1つのことを極めていくのも楽しいですが、同時に新しいエッセンスを取り入れるという人生を歩んできました。それは、僕の制作スタイルにも反映されていることですね。

――新しいエッセンスを取り入れたいということで、今回のコラボという手法に至った、と。


idom:そうですね。楽曲制作を始めて3年経ちましたが、ここ1年くらいでスタイルが固まってきていて。例えばディテール込みでトラックを制作できるようになったからこそ、表現したい音楽が作れるようになってきましたし、ボーカルに関しても自分の声質や歌い方がわかってきたので「じゃあこういう曲を作ろう」と逆算できるようにもなりました。一方で自分に足りないものにも気付き始めて。もう少し楽器ができるようになりたいと思いますし、普段やらないようなジャンルの音楽であれば音の出し方を研究しなきゃいけない。そんな中でなにか吸収できればと思ってコラボという形を取りました。すごく尊敬しているアーティストの方々ばかりなので、「この部分が良いな」、「このスタイルは自分でもやってみたい」と思うことがたくさんありましたね。

――コラボをしてみて一番印象深かったことは?


idom:どのアーティストさんとのコラボも面白かったんですけど、KviBabaくんとの作業ですかね。僕、メロディを作るのはすっごく早いんですけど、何十パターンも出せるんですね。いわゆるトップライナーというか。ただ、歌詞に関しては自分の表現したいことをどう表現しよう、っていつも悩むんですよ。でもKviBabaくんの作詞スタイルが新鮮で刺激をもらいました。僕がバーっと適当に書いた歌詞を見てもらったら、「この部分は面白いからここから広げていこう」って一緒に作ってくれて。僕と彼の思想や持っているカルチャーが似ていることもあって、お互いアイデアを出しながら「いいね」、「そっちもいいね」って作っていったのですが、そのアイデアの出し方がすごく柔軟。こういう考え方をしたら面白い歌詞が書けるんだと気付かされました。彼は「ラッパーには耳に引っかかるような突拍子もない歌詞を作る文化がある。」と言っていたのですが、すごく刺激的でしたし、今まで僕は難しく考えすぎていたんだなと気付かされました。だからKviBabaくんとコラボをしてから僕、ペンが止まらなくなっちゃて! 他の曲も一気に書き上げてしまいました。多分、今までだったらこんなに早く書けなかったと思います。

▲idom & Kvi Baba - ミニマリスト


尊敬するアーティスト達とのコラボレーションから得た刺激

――他のアーティストさんとのコラボでも学びがありそうです。


idom:「あなたを愛するように」を作ったpekoさんと(鈴木)真海子さんは、僕、普段から曲を聞いていて。この2人を呼ぶなら普段は歌わないけど歌ったら絶対かっこよくなるだろうという曲にしたいと思っていました。まずpekoさんが僕のイメージに沿ったトラックを最初に投げてくれたのですが、結構J-HIPHOP調なトラックだったんですね。それをどうにかお2人がやらないようなスタイルにできないかなと僕がメロディと歌詞を考えて、提出させていただきました。それにすごく共感をしてくれて、お2人もいろんなアイデアを出してくださって。トラックができてから3日くらいでほとんど楽曲ができあがるというスピード感も、すごく面白かったですね。

――ホームページにも制作時間がかなりタイトだったと書いてありましたね。


idom:そうなんですよ(笑)。みなさん忙しいのでかなりタイトな中でやっていただきました。僕も真海子さんにはこう、pekoさんにはこう歌ってほしいというのを自分で録音して送って。「どうですかね?」、「いいと思います」というやり取りもさせていただきました。2人とも大先輩ですが受け入れてくださって嬉しかったですし、勉強になりました。

――先輩にも臆することなく自分のクリエイティブをしっかり提示できるのは素晴らしいです。


idom:いや、ただのファンなので「こういうのやってほしい!」というのがあるんです。「こんなpekoさんが見たい!」、「こんな真海子さんが見てみたい!」みたいな(笑)。もう1曲、「堂々廻」でコラボしたSO-SOさん、Nakajinさん、NUU$HIさんのお3方とは、学びというよりも遊びながら作った感覚に近いですね。最初はSO-SOくん、Nakajinさん、NUU$HIさんが3人で適当にDTMの話をしている流れで、「ちょっと入れてみる?」とそこにあったギターでNakajinさんがギターを弾いて、NUU$HIさんが適当に打って、SO-SOくんがその場でビートボックスして。1コーラスくらいの楽曲が出来上がったらしいんですね。そこで「ボーカルがいたらめっちゃかっこよくなりそうだよね」という話が出た時に、SO-SOくんが僕を紹介してくれたみたいで。NakajinさんとNUU$HIさんが盛り上がってくれたらしく、すぐ電話がかかってきたんですよ。「idomくん、今こんなことやってるんですけどどうですか?」ってSO-SOくんから電話をもらった時、僕、たまたまSO-SOくんの家の近くにいたんです(笑)。なので、「今から行く!」って走って行って(笑)。それで適当にセッションっぽくメロディを歌ったら、「うおー! これだ、これ!」って盛り上がってくれたのが始まりでした。しかもこの曲、トラックのスタイルをNUU$HIさん、ギターとベースのフレーズをNakajinさん、ビートをSO-SOくん、メロディと歌詞を僕と、完全分業で進めたんです。一般的には誰か1人が指揮をとってそれに合わせていくのですが、本当にバラバラ。その分、4人それぞれの「らしさ」が表れていて面白い曲になっていると思います。

――完全分業なのに、よくハマりましたね……!


idom:ハマっちゃったんですよね~(笑)。多分みんな音楽が、特に僕以外の3人はベースミュージック大好き人間なので合ったのかもしれませんね。音作りを楽しみたいという話をしながら作ったので、「J-POPのメジャーアーティスト、中々ドロップとか入れなさそう」と言いながらドロップを入れてみたり(笑)。最初は3人が僕に合わせて歌モノにしようとしてくれていたのですが、「もったいないから、もっとみんなのパートが見える曲にしましょう」って、どんどんビートボックスが強くなったり、ギターフレーズがかっこよくなっていったり。お3方とも、もともとトラックメーカーとして半端じゃない方々なので、セッション感覚でかなりのクオリティが出せるんですよ。友だちとJAMっていたらめちゃくちゃクオリティの高い楽曲ができあがった、というイメージです。

――3曲のコラボ曲は、テーマなどは設けなかったのですか?


idom:「堂々廻」は特にテーマを決めず、僕ら4人だったらどういう曲、どういう歌詞、どういうテーマになるんだろうと探りながら作っていきました。「あなたを愛するように」と「ミニマリスト」は軽くですが設けていたかも。「あなたを愛するように」は、タイトルのまま自分を愛したいという「自己愛、自愛」がテーマ。「ミニマリスト」も自分にとって必要なものの「整理、見極め」がテーマでした。

――そのテーマを聞いてから曲を聴くとより理解が進みそうです。そして、M4の「Knock Knock」は【イヴ・サンローラン展 時を超えるスタイル】のテーマソングです。同曲のテーマは「自分自身のスタイルを貫く」とありますね。

▲idom - Knock Knock

idom:「時を超えるスタイル」というサブタイトルは、イヴ・サンローランという人物が掲げていた言葉なんですね。ファッションや流行は廃れるけど、スタイルは永遠に続くという言葉を残しているのを見て、僕自身もそういうアーティストでありたいと思いました。

――そのテーマに沿った楽曲制作とはどのように進めるのでしょうか。


idom:まず、彼の人物像を深掘りするためにドキュメンタリーを何回も見たり、文献を読み漁りました。彼がどういう人物なのか、自分の目の前にリアルに想像できるくらいの感覚にする作業ですね。その状態になったことで、彼が自分のスタイルを貫いて自分自身の世界に没頭するタイプの人物だとわかって。それは僕自身の中に少なからずある部分だったので、「自分自身のスタイルを貫く」というテーマを据えて制作していきました。ただ、イヴ・サンローランっぽい曲というよりも、「自分自身のスタイルを貫く」=idomのスタイルで書かなきゃな、と。


自分が何者なのか考えた先の答え

――イヴ・サンローランについての知識と、idomさんスタイルを組み合わせる作業も大変そうです。


idom:そうなんです。なので、例えば歌詞の書き方は僕らしいけど言葉選びの考え方にイヴ・サンローランという人物を取り入れてみたり。そのバランスを取るのが面白かったですね。楽曲も「Knock Knock」以外にも、ブランドの雰囲気合ったものや、ポップスなテイストのものなど、何パターンか作ってみたりもしたんですよ。ただ、僕らしい曲がいいなと思って「Knock Knock」に落ち着きました。

――具体的にイヴ・サンローランのテイストは楽曲のどんな部分に組み込まれているのでしょうか。


idom:【イヴ・サンローラン展 時を超えるスタイル】は、没後初の大回顧展でかなり大きな展示会なんですね。それを拝見して、ただイヴ・サンローランの歴史を見せるのではなく、イヴ・サンローランという人物の理念や常に新しい流れを作り続けているということを見せたいのかなと感じました。なので、クラシカルな音楽ではなくエッジのある先鋭的なサウンドにした、とか。歌詞も関しても冒頭で「周りに合わせろと言われるけど、俺はできない。普通になれよとも言われるけど、俺は普通じゃない。型にはまらない」ということを言っています。それもイヴ・サンローランのスタイルを反映したいと考えて言葉にしました。

――ちなみに、idomさんご自身はアーティスト活動において自分のスタイルを貫けていると思いますか?


idom:貫いてきたつもりですが、もちろん貫けない時もありますよ。でも常に「自分らしさ」を抱いているし、自分らしいスタイルができない環境だと「キツいな」と思ってしまうタイプです。僕は何故こういうお仕事をやらせてもらえているんだろうと考えた時に自分にしかできないことがあると思っていたいし、心の中にあるものを世の中に発信することが僕が与えらた使命なのかなとも思うんですよね。

――それを待っている人も多いですから。そして、この『Who?』というEPを制作する上で、自分は何者か多少なりとも考えたと思います。その答えはでましたか?


idom:何者でもないんですけどね(笑)。ただの1人の男。僕、人生を振り返った時、自分に失望することが多かったり、悩んだりする場面もたくさんあったんです。それこそ音楽を始める時も「この道に進むのが正しいのか?」と悩みましたし。でも、今こうやって活動できていることが、自分の失敗で傷つけた人たちへの贖罪になっているというか。辛い経験、苦しい経験を乗り越えて前に進んでいく姿で、リスナーに勇気を与えられるはず。そういう存在になることが神が僕に与えた運命なのかもしれません。なので、自分が何者かを考えると、「そういう運命を背負った人物」なのかなと思います。

――なるほど。同作ではidomさんの新たな一面が見られるとのことですが、アートワークもこれまでと印象が違います。


idom:そうですね。いろんな表情、ポージングの僕がいるジャケットになっています。タイトル通り、どの曲を聴いても「どれがidomなんだろう」と思わせるような側面があると思っていて、それを表しています。真ん中にいるのは後ろを向いている僕なのですが、ちょっと謎になっているのがいいのかな、と。

――左下の表情もいいですね。あまりidomさんの印象にない感じで。


idom:キャラクター的にどうしてもクールに見られがちなんですよ。本当はめっちゃ喋りますし、全然ゲラなんですけど(笑)。でもこういうギャップになるような姿も見せられたので、EPのコンセプトにも合っているのかなと思います。

――そちらも楽しみです。では最後にメッセージをお願いします。


idom:『Who?』にはみんなが楽しめる楽曲がたくさん詰まっていますし、自分の中に気付きが生まれるようなEPになればいいなと思いながら作りました。ぜひ自分と照らし合わせながら聴いてもらえると嬉しいです。

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