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<インタビュー>井上司、いくつもの縁で紡いだソロ2ndアルバム&ビルボードライブ公演へ向けて

インタビューバナー

 fox capture planのメンバーであり、THE JUNEJULYAUGUSTやSYSのドラマー、jizueのサポートドラマーとしても活躍している井上司の2ndソロアルバム『Helix』がリリースされた。前作『EVOLVƎ』からわずか1年で制作された本作は、ほとんど全てのトラックを自身が打ち込んだ前作から一転、ピアノトリオ編成を基軸とした生楽器によるアンサンブルが全編にわたって展開される。ジャズやロック、ソウル、ヒップホップなど多岐にわたるジャンルを行き来しつつ、さまざまなゲストボーカルとともに構築した万華鏡のようなサウンドスケープと、前作よりもパーソナルかつ内省的な歌詞世界のコントラストも印象的だ。縁やタイミングを大切にしながら作り上げたアルバムについて、本人にたっぷりと語ってもらった。 (Interview & Text: 黒田隆憲 Photo: 関口佳代)

「次のアルバムは、人と一緒に作りたい」

――前作『EVOLVƎ』は、映像クリエイターMei TamazawaさんのCGにインスパイアされたところから制作がスタートしたと以前のインタビューでおっしゃっていました。今作『Helix』は、どのようなモチベーションからスタートしたのでしょうか。

井上:前作『EVOLVƎ』をリリースして、そのレコ発ライブをBLUE NOTE TOKYOでやらせてもらったのですが、そのときに何かしら新しい曲を披露したいと思って作ったのが、今作に収録されている「Genuine」という楽曲でした。それが、ゲストで参加してくださったラッパーのOHGA(manzoo)さんと、シンガーのZINくんのおかげで、自分でデモを作っていたときの想像を遥かに超えるクオリティになったんです。なので、その空気感を残しつつ前作よりもパーソナルなアルバムを作ろうと思ったのが、本作のモチベーションのひとつでした。


――生楽器によるアンサンブルを主軸とした、前作よりオーガニックなサウンドになっていたのも印象的でした。

井上:前作『EVOLVƎ』のトラックはほぼ1人で制作しており、レコ発ではそれをバンド編成で再現してみたのですが、非常に刺激的だったんですよ。人と一緒に何かを作り上げることが、こんなに楽しいものだったのかと再確認したというか。もちろんfox capture planを筆頭に、これまでさまざまなバンドで演奏してきましたが、自分のソロをバンドでやったことで、その素晴らしさを心から実感したんですよね。「次のアルバムは、人と一緒に作りたい」という気持ちがそこでさらに強くなったのだと思います。


――今回、レコーディングに参加したプレイヤーを教えてもらえますか?

井上:ベーシックはピアノトリオだったのですが、僕がサポートで参加しているバンドjizueの(片木)希依ちゃんがピアノを、Gecko&Tokage Paradeの中山拓哉くんがベースを弾いてくれました。この2人は、今お話ししたレコ発ライブからずっとサポートしてくれているメンバーです。あとは、冒頭でお話しした「Genuine」ではストリングスを、fox capture plan(以下、fox)でもお世話になっている角谷奈緒子ちゃんに集めてもらって、showmoreのサポートをやっている伊藤修平くんがアレンジをしてくれました。もともとストリングスを入れる予定ではなかったのですが、レコ発のゲネプロで演奏したときに、他の曲で参加してくれていた修平くんがそれを聴いて「この曲にストリングスを入れたい!」と言ってその場でアレンジしてくれくれて(笑)。ライブ本番で急遽参加してもらったらめちゃくちゃ良かったので、そのままレコーディングにも参加してもらっています。


――楽曲にはジャズやロック、ヒップホップにソウル、R&Bと、さまざまなジャンルが混在していますが、何かインスパイアされた作品などはありましたか?

井上:今回のために何かリファレンスにした作品は特にないのですが、ソロ活動をしていく上でずっと僕に影響を与えているのはプレフューズ73ことスコット・ヘレンです。プレフューズだけでなく、サヴァス&サヴァラスやピアノ・オーヴァーロードなど彼の他のプロジェクトもめちゃくちゃ好きで、自分がソロをやることになるずっと以前から、「もしソロをやるならきっとこの人の影響をすごく受けるだろうな」と思っていました。特に1st『EVOLVƎ』に与えた影響は大きいです。それと、最近になって再確認したのはウータン・クランのRZAからの影響。彼の曲作りからもかなり刺激を受けていますね。


有名だけど全くつながりがない人より、ゆかりのある人にお願いしたかった

――曲ごとの参加メンバーもとても豪華です。中でも前作に引き続き参加しているOHGAさんは、井上さんの作品にとって重要な存在ですが、そもそもどのような経緯で知り合ったのでしょうか。

井上:OHGAさんのことを知ったのは、知り合いのヒップホップユニットSMOKIN' theJAZZにフィーチャリングで参加している「Self Love」という曲のMVです。ちょうどその頃一緒に曲作りをしてくれるラッパーを探していたのですが、求めていたイメージ通りの方だったので、すぐに繋いでもらいました。普段、何気ない日常のやりとりをしているだけでも、繊細な方だというのが伝わってくるというか。おっしゃるように、僕のソロ作品にとってものすごく重要な存在です。


――OHGAさんが参加している「Life (Dear Grandma)」は、曲名どおり祖母へ捧げた曲?

井上:はい。祖母は僕が音楽をやるために上京した際、家族の中で一番心配していたんです。実家のある山形には、文明開花の時代に建てられ、現在は多目的ホールに使用されている山形県旧県庁があるのですが、祖母はいつかそこで僕のライブを見たいと常日頃言っていて。そうしたら昨年末、偶然にもfoxのライブをそこでやることになったんです。


――それはおばあさまも喜んだでしょうね。

井上:相当嬉しかったみたいです。もちろん観に来てくれたのですが、その翌日に急病が発覚して。なのでこの曲は、そんな祖母への「応援ソング」のつもりで作ったものです。あとで祖母に観てもらうために、ミュージックビデオには旧県庁でのライブ映像や山形の景色、懐かしい写真などをちりばめ、参加してくれたミュージシャン全員、そういう事情をあらかじめ共有してもらってからスタジオに入りました。OHGAさんには電話で事情を話したのですが、涙ながらに僕のエピソードを書き留めて、リリックに落とし込んでくださいました。本当に優しい方なんですよ。


――この曲や「Cherish」に参加しているNEMNEのUKOさんとは、どのように知り合ったのでしょうか。

井上:UKOちゃんは希依ちゃんと親友で、よくjizueのライブの打ち上げにも来ていたんです。で、あるとき彼女の方から「今度ソロを出したんですよ」と言って、音源を聴かせてくれたのが、ちょうどこちらも女性ボーカルを探しているタイミングだったんです(笑)。聴かせてもらった彼女の作品もすごく良かったし、有名だけど全くつながりがない人にオファーするより、ちゃんと縁やゆかりのある人にお願いしたかったので、快諾してくれて嬉しかったですね。


――ミッドテンポのR&Bチューン「You」は、韓国のシンセポップバンド ultramodernistaのボーカル Hugh Keiceの歌声が印象的です。

井上:ultramodernistaとは数年前にfoxで対バンしたことがあるし、もともとのレーベルが同じ会社内だったので何度か飲んだこともあって。これもまた、ちょうど「You」のトラックが完成して、誰かいいボーカルはいないか探していたタイミングでHughの新しい楽曲のMVを目にしたんです。求めていた人は案外近くにいたなと思ってすぐに連絡をしたら、彼も乗り気になってくれました。


――やはりタイミングや縁がとても大事ですね。

井上:本当にそう思います。「せっかく国境を超えてのコラボだし、MVは韓国で撮ろう」という話になり、撮影チームも監督も韓国のクリエイターにお願いしました。ソウルは初めて訪れたのですが、昼間に撮影して夜はみんなで飯を食って最高に楽しかったですね。かなりローカルな、観光客もほとんどいないようなディープコリアを案内してもらいました。





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ビルボードライブ公演は、歌ありラップありゴスペルクワイアあり

――「Just Living」に参加しているMoment.は、SENDIANのメンバーとして活動していたラッパーですね。

井上:はい。もともと僕は仙台を拠点に音楽活動をしていたのですが、その頃から仲の良い仙台の友人に、あるとき「最近かっこいいラッパーがいるんだよね」と教えてもらったのがモメちゃん(Moment.)でした。友人に繋いでもらうこともできたのですが、「ここはあえて正面突破だ」と思ってインスタのDMからモメちゃん本人にコンタクトを取り、仙台まで会いに行きました。そしたら酒の趣味も合うし、初対面でめちゃくちゃ意気投合して。終電ギリギリまで飲んでいたら、酔っ払い過ぎて逆方向の新幹線に乗ってしまい、盛岡まで行ったこともありましたね。


――(笑)。Vin Beatsという謎のラッパーが参加した「Symbiosis」は、それこそプレフューズやボーズ・オブ・カナダあたりを彷彿とさせる、ドープでサイケデリックな楽曲ですね。アルバムの中で、個人的にも特に好きな楽曲です。

井上:ありがとうございます。おっしゃるように、Vin Beatsはまだ世に出ていない謎のラッパーです(笑)。なにせ、これが彼にとってのデビュー曲なので。実は彼、三軒茶屋でお店を何店舗も経営する、全国の講演会で引っ張りだこの実業家。過去にはバンドのボーカリストとしてデビュー直前までいったのですが、夢をあきらめ事業で大成功を収めるという経歴の持ち主なんです。


――へえ!

井上:あるとき彼が、自分のお店の周年パーティーの宣伝をフリースタイルのラップにして、その動画をネットに上げるということをやっていて。それが異様にうまかったから、僕が遊びでトラックつけて、そこに彼がラップを乗せるみたいな遊びを何年か前からやっていたんです(笑)。そしたらどんどんスキルを上げていったんですよね、ラッパーとしての。


――井上さんが発掘し、育成までしていたわけですね(笑)。

井上:ははは。ちゃんとしたスタジオで歌うのなんて久しぶりだったと思うんですけど、レコーディングでも全くギャップを感じさせないどころかエンジニアさんも絶賛していました。


――「Light Is」は、コクトー・ツインズやブルガリアン・ヴォイスあたりをも彷彿とさせるJun Futamataの無国籍な歌声と、Madoki Yamasaki のエモーショナルな詩がブレイクビーツの上で溶け合う美しい楽曲です。

井上:Madokiさんは、僕のソロ第1弾シングル「20X2」に参加してくださり、今後も何か機会があればぜひ一緒にやりたいと思っていたのでお声がけしました。ちょうどMadokiさんのことを思い描きながら作っていた曲の中に、女性の神秘的なウィスパーボイスがほしくなり、foxで劇伴を作っていたときにご一緒したこともあるJunちゃんにも参加してもらいました。この2人の組み合わせなら、絶対に面白いものができるだろうと確信していましたね。


――今回は2枚組で、Disc2はセルフリミックス集になっています。作ったばかりの自作曲を再構築していく作業はいかがでした?

井上:楽しかったです。例えば「Wish」のリミックスは、オリジナルがほとんど僕の打ち込みで完結しているので、そのリズムをまるっと替えたものにしたいと思いました。ちょうどこの曲のミュージックビデオを撮影する前日にリミックスが仕上がったので、撮影の合間にそれを流してオリジナルとの違いをスタッフみんなで楽しみました。あとは個人的にリミックスをするときは、何か必ず不快なノイズというか、聴いていて「ん?」と耳に引っかかるような音を入れるのがテーマにしてますね。


――最後に、ビルボードライブ横浜にて10月28日に開催されるライブへの意気込みを聞かせてください。

井上:前回のレコ発とは違い、今回のバンドはよりミニマルに、トリオ編成のみですが、今回はゲストボーカルをたくさんお呼びしています。今ちょうど仕込みの段階ですが、歌ありラップあり、ゴスペルクワイアありのかなり内容の濃いステージになりそうです。僕自身もすごく楽しみにしていますので、みなさんぜひ遊びにいらしてください。後は当日ステージで大きな発表もある予定です!




Tsukasa Inoue「Helix」

Helix

2023/09/20 RELEASE
PWT-120 ¥ 3,500(税込)

詳細・購入はこちら

Disc01
  1. 01.1004
  2. 02.Cherish feat.NEMNE [Album Ver.]
  3. 03.You feat.Hugh Keice
  4. 04.Wish
  5. 05.Just Living feat.Moment.
  6. 06.Genuine feat.manzoo,ZIN
  7. 07.Iris
  8. 08.Symbiosis feat.Vin Beats
  9. 09.Light Is feat.Madoki Yamasaki,Jun Futamata
  10. 10.Afterglow
  11. 11.Life(Dear Grandma) feat.manzoo,NEMNE

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