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<インタビュー>踊ってばかりの国、初のビルボードライブ公演開催 ライブへの思いやこだわり、そしてバンドの現在地を語る
踊ってばかりの国が初のビルボードライブ・ツアーを今年9月に開催する。今や大型フェスにも引っ張りだこ、当代随一のジャパニーズ・サイケデリック・ロックバンドとなった彼らが初のステージでどのようなパフォーマンスを展開するのか、期待は高まるというものだ。ツアーに先駆け、メンバー5人にビルボードライブ東京に集まってもらい、今回のツアーに対しての意気込み、さらに、近年のバンドの変化や印象的なライブ原体験などについてざっくばらんに話を聞いた。「六本木は緊張する」なんて言いながらも、ゆるぎない空気を纏う5人のトークを是非楽しんでほしい。(Interview: 天野史彬 / Photo: 辰巳隆二)
ライブの手応え、そしてこだわり
――9月より開催される【踊ってばかりの国 ビルボードライブ・ツアー2023】は、踊ってばかりの国にとって初のビルボードライブでの公演となりますが、どのような経緯で今回のツアーは決定したのでしょうか?
下津光史:「ビルボードライブ、合うんじゃないの?」ということは、昔からいろんな方におっしゃっていただいていたんです。でも、自分たちからするとあまりにもバンドと毛色が違う会場だと思っていたので(笑)、そういうところで、あまりチャンスは巡ってこなかったんですよね。でも、今回ビルボードライブさんから声がかかって。飛びつくような形でお受けしました。
――「毛色が違うと思っていた」というのは、ビルボードライブという会場には、そもそもどういったイメージがありましたか?
下津:……民度が僕らと逆(笑)。
谷山竜志:普段、自分らが住んでいる世界と別世界過ぎて、全然イメージ湧かない場所ですね(笑)。今日、実際に来れてホッとしてますもん。
下津:僕、前に一度、キーファーのビルボードライブ東京公演のチケットを先輩にとってもらったので、約束して一緒に観に行くはずやったんですよ。でも、六本木に来たことがなさ過ぎて、公演が終わるまでずっと会場の周りで迷ってて(笑)。結構、トラウマな街なんですよ、六本木。ナビ、バグるし(笑)。
――(苦笑)。
下津:当日のライブも、ご飯の匂いに負けてしまわないか心配です(笑)。
――踊ってばかりの国のライブがご飯の匂いに負けることは考えにくいと思いますが(苦笑)。会場規模も着実に上がっている状況ですが、最近のライブでの手応えはいかがですか?
下津:自分らで自分らの演奏を聴くことは一生できないので、演奏している体感でしかないんですけど、見える景色が目まぐるしく変わっているのは、ここ最近、すごく感じていて。中心にあるこの5人の距離感は変わらないですけど、のほほんとやっていたところが、「これ、ちゃんと靴紐くくらんとあかんのかな?」みたいなタイミングが増えてきました。それは、全員それぞれ感じていることだと思います。
谷山:単純に、会場がデカくなっているし、景色が変わっているのは俺も感じますね。ビルボードライブもあるし、冬には野音も控えているし、「ちゃんとしないとな」と思います(笑)。
下津:ちゃんとしような?(笑)。
坂本大季:ライブに来てくれる人の年齢層もどんどん変わっていて。若い子も増えているし、ビルボードライブにもいろんな年齢層の人が来てくれるだろうし。そういうのは、楽しみですね。あと、前はもっとバンド内で完結していたというか、「ぶちかますぞ」みたいな気合いの入れ方だったんですけど、最近はお客さんのノリが段々と変わってきて、すごく盛り上がるようになったと思います。僕自身、俯瞰で見て、「会場全体がグルーヴしているな」っていう感じで楽しめることも増えて。
――お客さんのノリも変わってきている。
下津:前は、お客さんが「理解しよう」として聴いている感じだったんですよ。でも、最近は飛びついてきてくれている。それは、すごくありがたいですね。
――丸山さんは最近のライブ、どうですか?
丸山康太:楽しいです、すごく。
――どんな楽しさがありますか。
丸山:もう、言葉にできないくらいエキサイティングです。
一同:(笑)。
――大久保さんは?
大久保仁:初めての場所でのライブが増えるのは、やっぱり新しい感覚になるので楽しいですね。新木場STUDIO COASTもそうだったし、中野サンプラザもそうだったし。ビルボードライブも、せっかくできるんだから、美味しいお酒やごはんに合うセットにしたいです。
下津:鬼サイケの中、飲食してもらって(笑)。……やっぱり、進んでいくために組んだバンドだし、こうやってビルボードライブでやらせていただくのも、成長のひとつだと思っているので。思えば2部制でやるのも僕らは初めてのことなんです。「体力を分けるってどうやるの?」という感じなんですけどね(笑)。最初のライブで出し切って、次までに体力戻るのか?とか、いろいろ不安もあるんですけど、そういう部分も、一つ一つ楽しんでいこうと思っています。
――踊ってばかりの国は、ライブでの音作りの面でこだわりはありますか?
谷山:距離ですかね。メンバーの立ち位置は、どんなサイズのステージでも同じようにするようにしていますね。
下津:どんなステージでも、いつものリハーサルスタジオの距離感で演奏できるようにはしていて。あと、会場によっては空間のエフェクターとか、ドラムのミュートの仕方も変わってくるので、そういう部分は、PAとマンツーでちゃんとやりとりするようにしていますね。僕は特に最近は、オペレーターの話をよく聞くようにしていて。
――そこは、昔よりも意識が変わっていっている部分ですか?
下津:結成当初からついてくれているオペレーターの方なんですけど、その人の言っていることの意味がやっとわかるようになってきたんです(笑)。これは僕個人の問題なんですけど。
谷山:さっき言ったメンバーの距離を変えないのも、そのオペレーターの方からの助言なんですよね。「モニターはもちろんだけど、生音の距離感も大事だ」という話を昔に教えてもらって、そこから距離は一定でやるようにしていて。そうしたら本当に、会場が広かろうが小さかろうが、関係なく演奏できるようになりましたね。
――他に何か、ライブでこだわるポイントはありますか?
下津:100パーセントでやる。1本のライブで、何も残さずに出し切る。それくらいかなぁ。
丸山:僕は、どこの会場でもお客さんの顔を見るようにはしています。
――それはやはり大事なことですか?
丸山:そうですね。顔というか……全体なんですけど。
下津:持ち上げられる瞬間ってあるもんな。それは、5人だけではそうならない。会場に来た人たちがいないと、そうはならないから。そういう現象を、ロックンロールと呼びたいですよね。
この5人で生き抜くことを考えるようになった
――踊ってばかりの国は、下津さんが結成時からのオリジナルメンバーで、他の4人の皆さんは途中加入ですが、4人は加入前と加入後で、踊ってばかりの国というバンドに対しての印象が変化したり、あるいは、加入したからこそ改めて発見したことなどはありますか?
坂本:僕は踊ってばかりの国の最初のEPを高校生の頃に買っていたんですけど、今はその頃と全然別のバンドという感じがしますね。人も変わって、音も変わって。もちろん、軸は下っちゃん(下津)のソングライティングなんですけど、そのソングライティング自体もめちゃくちゃ変化していると思うんですよね。メンバーが変わっているんだから当然なんだけど、今のメンバーなりのアレンジも、時間をかけながら固まり続けているし。バンドとして、今もよくなり続けている感じはします。
大久保:僕は加入する前に、踊ってばかりの国が【FUJI ROCK FESTIVAL】のフィールド・オブ・ヘブンに初めて出た時(2016年)にライブを観ているんですけど、その時と比べても、環境が全然違う感じはしますね。下っちゃんの歌も変わっていっているし。地続きではあるけど、別物という感じがします。
――丸山さんはどうですか?
丸山:元々、センスをすごくリスペクトできる友達だったから。そこに自分が加われるのは、自分の人生にとってよかったと思います。
――谷山さんはどうですか?
谷山:俺は初めてのバンドが踊ってばかりの国なので、あまり比較対象がないんですけど(笑)、でも、俺が入った当初のメンバーも、もう誰もいないし。全然別物という感じですね。この5人になってからの方が長いし。
下津:踊ってばかりの国って、僕中心に変化していると思われるかもしれないですけど、実は谷山さんが入ってから変わっていった感じがするんですよね。谷山さんのルールがバンドに入ってきたことがすごく大きくて、何度かあったメンバーチェンジのキーマンは、実は谷山さんなんですよ。ドタバタに対応してくれているのは、いつも谷山さんなので。
谷山:あざっす!(笑)。……でも、(メンバーチェンジは)もうないことでしょう。今はホッとしています(笑)。
――端から見ていても、今の踊ってばかりの国は完璧な布陣という感じがします。
谷山:今はいい時期ですね。誰かが疲れることもなく、今年に入ってからは特にゆっくりといい感じでやれているので。今は平和でホッとしています。
――下津さんは、踊ってばかりの国の変化をどのように捉えていますか?
下津:まず、結成当初と今で考えたら、曲作りで選ぶドレミが全く違うんです。それはメンバーに引き寄せられて変わっている部分で、俺も意識していないくらいナチュラルに起こっていった変化なんですよね。それをもたらしてくれたメンバーには、心から感謝です。それがなければ、今観ている景色はないと思うので。だからこそ、今のバンドの状態をキープできるように、毎日を過ごせたらいいなと思う。そういうことを考えることができるようになったのも、このチームになってからだなと思います。この5人で生き抜くことを考えるようになったのは、本当に大きいです。「怒り」より、「生き抜くこと」を考えるようになったというか。
――それはすごく大きな変化ですよね。
下津:大前提として、この5人をパッと見てもらえばわかると思いますけど、音楽以外で生きていくのは無理なんですよ(笑)。だからこそ、音楽家が音楽家の生きる場所を守るのは当たり前のことやと思うし、独立してインディーズでやっているのも、そういう理由があるからで。奏でるにしても、生きていかなければ仕方がないので。生きる、奏でる、生きる、奏でる……それが比例していくようにありたいなと思います。
――下津さんはソロでもライブやツアーをたくさん重ねられているし、本当に、音楽と生活が今は重なっているのだろうなと感じます。
下津:じっとできない。言ってしまえば、それだけなんですけどね(笑)。
――(笑)。
下津:じっとできひん。音出したくなる。それなら、ツアーしている方がいいなと。周りに迷惑をかけないように、ツアーをし続けている感じです(笑)。
――わかりました(笑)。今日はライブの話を取っ掛かりにお話を伺っていますが、せっかくなので、皆さんにとっての忘れられない、衝撃を受けたライブ体験を教えていただけますか。
大久保:そうだな……フジロックで、フィル・レッシュを見た時はヤバかったですね。グレイトフル・デッドのベーシストの人なんですけど、マジで初めて聴くベースの音でした。衝撃で、膝がガクガク震えちゃいましたね。
下津:衝撃といってもいろんな衝撃があると思うんですけど、物理的な衝撃という意味で、DRY&HEAVYというダブバンドのライブを観た時は、低音がすごすぎて、僕、ベース音の上に座ってましたね(笑)。
一同:(笑)。
坂本:僕は地元のバンドのライブですかね。札幌出身なんですけど、偏屈なバンドが多かったんですよ。「こんな変な人たちがいるなら、俺、意外と居場所あるかも」と思って、高校生の頃に地元のライブハウスに遊びに行くようになって、「俺もステージに立ちたい」と思うようになったんです。
下津:エモいね。
坂本:曲は変だけど、涙が出るくらい感動してしまうバンドがいて。Discharming manとか、衝撃を受けましたね。実際に観ることはできてはいないけど、キウイロールとか、偉大な先輩がいるんだなってそこから知っていって。
――谷山さんはどうですか?
谷山:全然思いつかないです(笑)。ヌルッとバンドに入ったんで。
下津:谷山さん、THA BLUE HERBは?
谷山:確かにね、高校生の頃に観たブルーハーブは衝撃だったかもしれない。地元がクラブばっかりだったから、他に思いつくのは般若のライブとか、そういう感じで(笑)。特に大きな体験だったわけではないですけど、覚えているのはそのくらいですね。
丸山:僕は中学2年生の時に、赤坂BLITZにゆらゆら帝国を観に行って。すごい音がデカくて。それが始まりです。
下津:僕も、中学生の頃に【RUSH BALL】という地元のフェスに、当時好きだったRIZEを観に行ったんですよ。ただ、その時に観たゆらゆら帝国に「こんな曲ありなん!?」という衝撃を受けましたね。それは結構、今でも覚えています。あの時のステージ上の3人の佇まいとか、完全に妖怪やった(笑)。「こんな人ら、同じ日本に生きてんねや」と思って。ほんま、河童とツチノコを同時に観た感じ(笑)。ゆら帝のことは、サイケデリックをやるにあたって、考えちゃいますね。
――ありがとうございます。では最後に、ビルボードライブ・ツアーに向けて、読者のみなさんにメッセージをお願いします。
丸山:一生懸命楽しんで弾きます。ぜひ来てください。
谷山:かしこまらずに、楽な感じで来てくれたらなと思います。
大久保:いつものライブハウスとは違う、スペシャルな1日にしたいと思うので、よろしくお願いします。
坂本:全身全霊でやらせてもらうのはいつも通りですけど、特別な場所なので、間違いなく特別な夜になると思います。ぜひ、来てください。
――最後に下津さん、お願いします。
下津:フラットな気持ちで楽しんでもらえたらなと。あまり緊張せずに来ていただければと思います。緊張してこられると、僕らも緊張しちゃうんで(笑)。
Paradise review
2022/09/21 RELEASE
FL-1007 ¥ 2,750(税込)
Disc01
- 01.Your Song
- 02.Ceremony
- 03.待ち人
- 04.Amor
- 05.知る由もない
- 06.海が鳴ってる
- 07.Paradise review
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