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<コラム>dvsn、Mndsgn & The Rare Pleasures、Terrace Martin――ソウル・ミュージックに焦がれるサマーアフターアワーズ



コラム

Text:林 剛

 バリー・ホワイトの曲に「September When I First Met You」というミディアム・ナンバーがある。同じ78年に発表されたアース・ウィンド&ファイアの「September」にも通じる、9月に分かち合った愛を思い出す歌だ。人恋しくなる季節。暮れゆく夏を惜しみながら秋の気配を感じ始める9月は“夏のアフターアワーズ”とでも言いたくなる。そんな時期だからこそ心に響く音楽がある。この9月にビルボードライブで公演を行う3組のアーティストも然り。ソウル・ミュージックへの愛を打ち出しながらシーンの最前線を行く自作自演の奇才たちだ。

 初来日となるdvsn(ディヴィジョン)は、R&Bを好むリスナーにとって今最もライヴを体験したいアーティストだろう。カナダのトロント出身で、ドレイクが主宰するOVOサウンドと契約して2015年から活動するR&Bデュオ。魂のこもった甘く情熱的なヴォーカルを聴かせるダニエル・デイリー、ドレイク「Hotline Bling」などを手掛けたプロデューサー/トラックメイカーのナインティーン85からなるコンビだ。

 2016年のデビュー・アルバム『Sept.5th』からトラップ系のサウンドを纏った濃厚なスロウ・ジャムを披露してきた彼らの音楽に対しては“アンビエント”や“チル”といった言葉も躍る。が、その軸にあるのは、かつてジョデシィのディヴァンテ・スウィングやティンバランドが作ったような90’s R&Bへの憧憬。それはタイ・ダラー・サインとの連名作『Cheers to the Best Memories』からも感じられた。

 とりわけ目立つのがアトランタR&Bへのオマージュ。『A Muse In Her Feelings』では、「Between Us」でアッシャーの「Nice & Slow」を引用し、「‘Flawless’Do It Well Pt.3」でアトランタ・ベースのビートを組み込んでいた。そんな彼らは一昨年の春、サマー・ウォーカーが所属するアトランタのLVRN(ラヴ・ルネッサンス)とマネージメント契約を結んでいる。そして、最新作『Working On My Karma』ではアトランタR&Bの立役者であるジャーメイン・デュプリとブライアン・マイケル・コックスと組み、「What’s Up」で同地のスターであるジャギド・エッジと共演。狙いすましたようなオマージュを繰り広げる彼らのR&B愛は本物だ。デビュー作のタイトルで謳った“9月5日”の前後に行われる来日公演では、R&Bの良き時代に戻りながら前進するdvsnの真髄に触れることができそうだ。





 最もメジャーなインディ・レーベルとも言えるLAのストーンズ・スロウで、現在は看板役となっているマインドデザイン。人肌の温もりを感じさせるメロウでドリーミィな音を紡ぐこのビートメイカーは、ビルボードライブでの公演も記憶に新しいリヴやジョイス・ライスなどのプロデュースやリミックスでも知られている。ジョイス・ライスの「Good Morning」を、マインドデザインが手掛けたリミックスと、その原曲を聴き比べてみれば、サウンド・デザイナーとでも言うべき彼の作風がよくわかる。

 昨年はバンド編成で録音した70’sジャス・ファンク路線のアルバム『Rare Pleasure』を発表。その表題に因んだバンド=レア・プレジャーズを引き連れてのライヴが日本で実現するのは嬉しい。バンドは、ベースがビートメイカーとしても活動するスワーヴィー、鍵盤がLA出身の日系人“ライオンミルク”ことモキ・カワグチ、ドラムがウィル・ローガン、ギターがブランドン・ベイといった陣容。そして今回の公演には、日本在住歴があり、ジョイス・ライスとの共演でも知られるR&Bシンガー、デヴィン・モリソンもやってくる。マセーゴとの「Yamz」も話題を集めたデヴィンだが、昨年からは『Dream Lobby』という80年代ブラック・コンテンポラリー路線のインストを中心としたシリーズも出している。マインドデザインとデヴィンがメロウなドリーム・ソウルを奏でるステージは、残暑の火照りを鎮めてくれるのではないか。





 同じくLAからやってくるのが、5月のディナー・パーティとしての来日公演も大盛況だったテラス・マーティン。サックスを吹けば鍵盤も弾き、歌もラップもこなす八面六臂ぶりは、ディナー・パーティやR+R=NOWといったロバート・グラスパー絡みのプロジェクトへの参加や、スヌープ・ドッグ、ケンドリック・ラマー、リオン・ブリッジズ、リゾなどを手掛けるプロデューサーとしての活動からも伝わってくる通り。ジャズとヒップホップ/R&Bの橋渡し役とは、よく言われるところだ。

 新作『Enigmatic Society』を発表したばかりのディナー・パーティでも、グラスパー、カマシ・ワシントン、9thワンダーがそれぞれのプレイに集中するなか、ミックスを含めて全体をオーガナイズしているのはテラスだろう。この統率力は、グラスパーやカマシのほか、キーヨン・ハロルドやジャスティン・タイソン、コリー・ヘンリーなどジャズを越えて活躍する気鋭や、ジェイムス・フォントルロイやアレックス・アイズレーといったR&Bシンガーを招聘した最新リーダー作『Fine Tune』でも発揮されている。ここには、アフロビートの曲があれば、ブランディ・ヤンガーのハープを交えたH.E.R.「Damage」の既発カヴァーもある。そんな多彩な内容の新作が軸となるはずの、自己名義による6年ぶりのビルボードライブ公演も夏の終わりと秋の始まりを美しく飾ってくれるはず。“夏のアフターアワーズ”は9月半ばまで続く。





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