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<インタビュー>中島美嘉、新曲「We are all stars」で今伝えたい“自分を大事にする”ということ
Interview & Text:森朋之
中島美嘉のニューシングル「We are all stars」は、彼女自身が敬愛し続けるドラァグクイーンのカリスマ=ル・ポールにインスパイアされた楽曲。最新鋭のEDMを取り入れたトラック、しなやかさと強さを併せ持ったメロディ、そして、“自分を愛して、やりたいことをやろう”という真摯なメッセージを込めたリリックを含め、中島美嘉の“今伝えたいこと”が反映されたナンバーだ。
クリエイターとしてのセンス、彼女自身の生き方や価値観が込められたこの曲について、自らの言葉で語ってもらった。
ル・ポールからの影響と学び
――新曲「We are all stars」は、中島さんがリスペクトするドラァグクイーン、ル・ポール氏にインスパイアされて生まれた楽曲だそうですね。
中島美嘉:はい。公言はしていなかったんですけど、ル・ポール様はかなり前から好きで。ずっと勇気を与えてもらっていますね。
――ル・ポール氏の存在を知ったのはいつ頃ですか?
中島:ニューヨークに滞在していた時期(2010~2011年)ですね。テレビで見たのか、誰かに教えてもらったかは覚えてないんですけど、純粋に「すごくキレイな人だな」というのが最初の印象でした。恵まれた体型と容姿はもちろんですが、そのギフトをまったく無駄にせず、磨き上げているのがすごいなと。その後、ル・ポール様のことを深く知って。本当に笑顔が素敵なんですが、大変な経験をしたからこそ、こんなふうに笑えるんだなと思うと、泣けてきちゃうんですよね。デトックスというか、たくさん助けてもらいました。私はその頃、いちばんキツい時期だったんですよ。
――耳の不調もあって、心身ともにストレスを抱えた時期でしたよね。
中島:変にプライドが高かったし、苦労しているように見られるのも嫌だったんです。「へっちゃらだよ」という感じで振舞っていたし、「この人、フワフワしてるな」と思われるくらいがラクだなと思っていて……。インタビューなどでも弱音を吐きたくなくて、黙ってしまうこともあったんですよ。イライラしていることも多かったし、周りの人たちに迷惑をかけてしまったなって。
――そういうときにル・ポール氏にパワーをもらっていた、と。
中島:はい。ル・ポール様はずっと「人は自由でいいんだよ」「やりたいことをやればいいんだよ」と言っていて。そのシンプルなことができてなかったんですよ、私は。自分がやることに対して、周りの人たちがジャッジをするし、意見もいろいろあるじゃないですか。良くない意見が聞こえてくると、「やってはいけないことだったのかな?」とか考えちゃうんですよ。そうやってずいぶん迷っていたんですけど、ル・ポール様の言葉や生き方を受け取って、すごくラクになったんです。それは私のような仕事の人だけではなくて、どんな仕事であっても、学生の方であっても同じだと思うんですよ。「やりたいことをやればいいし、悩んでもいい。そのことに罪悪感を覚えなくてもいいんだよ」って。たとえば学校が嫌いな子たちは、“ここでガマンしなくちゃいけない”と思い込みがちだけど、本当はそんなことないんですよね。
――ル・ポール氏からの影響をこのタイミングで曲にしようと思ったのは、どうしてですか?
中島:最初は「夏っぽい曲を出したいね」という話だったんです。「4つ打ちでノリノリの曲って、あまりやってなかったよね」みたいな感じで何となくはじまったんですけど、途中で「どうして当たり障りのないことをやろうとしてるんだろう?」とモヤモヤしはじめて。こんなに自由に活動させてもらってるし、遠慮することもないんだから、自分が伝えたいことを形にしようと。そこから「We are all stars」につながっていったんですよね。さっきも言ったように私はル・ポール様に憧れているし、ドラァグクイーンにリスペクトを込めて制作しましたけど、それだけがテーマではなくて。どんな人でもそうだと思うけど、壁っていっぱいあるじゃないですか。それって自分が作ってるんですよね。壁を壊すときは怖いけど、思い切ってやれば、限界を突破していける。「こんなに怖がりの私でもやれるんだから、大丈夫だよ」と伝えたい気持ちもあります。
――歌詞には、ル・ポール氏の名言〈If you don’t love yourself, how in the hell you gonna love somebody else?〉も引用されています。
中島:私にとってすごく大事な言葉ですね。“自分を愛する”っていちばん根本的なことというか、人が最初にやらなくちゃいけないことだと思うんです。でも、社会に出るとどうしても自分のことより仕事が先になってしまう。とにかく日本人は真面目だし、言われたこと先にやって、その合間に自分のことをやってる人が多いと思うんです。でも、本当は逆なんですよね。お腹がすいてたら、先にごはんを食べて、ちょっと休んでもいいじゃないですか。そういう小さいところから始めたらいいんじゃないかなって……。こんなこと言ってますけど、私も以前は、自分のケアがまったくできていなかったんです。変わってきたのはここ数年ですね。がんばらなくちゃいけない時はあるんだから、普段は自分を優先してもいいし、必要のないガマンはしなくていいって。
――セルフケアの重要性は、少しずつ日本の社会にも浸透してきてますよね。
中島:表立って「自分を大切に」って言ってくれる人も増えましたからね。私がデビューした頃は「つらくても表に出すな」「根性ねえな」という雰囲気だったので、そこはだいぶ変わってきてると思います。この曲の歌詞は、“自分を大事にして”って私に言い聞かせているところもあるんですけどね。
“楽しく書いて、楽しく歌う”
――「We are all stars」の作曲は中島さん、橋本幸太さん(中島美嘉、遊助、Little Glee Monsterなどの楽曲制作に関わるクリエイター)との共作。
中島:トラックを橋本くんに作ってもらって、私はメロディを担当してます。アルバム『I』では全部作曲したんですが、今は「やれるかも」と思ったら書くようにしているんですよ。「ちょっと無理だな」と思ったら作家の方にお願いするし、追い詰められないように、楽しくやることを意識しているというか。作詞もそう。私が今でも歌詞を書くのが好きなのは、全部書いてないからなんですよ。無理だなとか、難しいなと思ったら作詞家の方にお願いするし、だからこそ“楽しく書いて、楽しく歌う”という状況が続いていて。ある時期に“全部ひとりで抱え込まなくていい。逃げ道を作ろう”って自分に言い聞かせたんです。きつかったら逃げてもいいって……今回のインタビュー、真面目すぎておもしろくないかも(笑)。でも、本気で伝えたいことなんですよね。
――大事なことだと思います。アートワークも素晴らしいですね。中島さん、めちゃくちゃ似合ってます。
中島:キレイでしょ、この子(笑)。お衣装やメイク、久々にすごく悩んだんですよ。やれることはいっぱいあるし、撮影前にリハもやって。自分もすごく気に入ってるし、普段とは違う自分になって、「なんでもやれる」という気持ちになれるんですよね。いちばん大切なのはもちろん、私たちがル・ポール様、ドラァグクイーンのみなさんを尊敬していることがきちんと伝わることなんですけどね。
――ドラァグクイーンのカルチャーに対する敬意と愛情がたっぷり注がれていて。だからこそ、「We are all stars」にはこんなにも強い説得力が備わっているんだと思います。
中島:ありがとうございます。20代のときだったら、この曲は作れなかったと思います。ル・ポール様のことを深く知り、自分もいろんな経験を重ねてきたからこそできた曲だなって。いろんな意見があると思いますけど、まずは聴いて、観てほしいですね。
We are all stars / 中島美嘉
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“聴いてくれる方々のために歌う”ツアー
――今後の活動についても聞かせてください。8月10日からは全国ホールツアー【MIKA NAKASHIMA CONCERT TOUR 2023 YOU】が開催されます。ファンからのリクエストを募ったツアーですね。
中島:はい。前回のツアー(【MIKA NAKASHIMA CONCERT TOUR 2022『 I 』】)は私が聴いてほしい曲を中心に選んだので、今回は真逆のツアーにしたくて。なのでツアーのタイトルが“YOU”になってるんです。
――リクエストの結果はどうですか?
中島:ある程度、予測は当たってましたね。ヒット曲というか、みなさんに知ってもらっている曲がけっこうあるんですよ。
――知ってます(笑)。
中島:こういうことも以前は言えなかったんですけど、謙遜するのをやめようと思って(笑)。たくさん聴いてもらえた曲はやっぱりリクエストされることが多いですね。私が好きだったり、大事にしている曲は意外と入ってなかったり(笑)。いずれにしても全部のリクエストには応えられないので、「これは入れたほうがいいよね」「この曲はどうしようか?」と話しながらセットリストを決めたところです。いつもそうなんですけど、とにかく聴いてくれる方々のために歌うので、楽しんでもらえたらうれしいですね。
――中島さん自身も、ここ数年はライブを楽しめているのでは?
中島:そう、楽しいんですよ。あんなに「ライブが嫌い」って言ってたのに、人って変わりますよね(笑)。ただ、緊張感は増えてるんです。デビューから数年くらいの曲は、ちょっとずつ歌い方が変わってくるじゃないですか。「元に戻して、原曲通り歌いたい」という曲もあれば、「この曲は変えてもいいかな」という曲もあって。【Premium Live】(ピアノ、コントラバス、ボーカルの編成によるアコースティック・ライブ)では思い切り変えることもあるんですけど、初めて会場に来てくれた方がフェイクだらけの曲を聴くとビックリしちゃうかなって。そのあたりはこれから詰めていけたらいいなと思ってます。あと、ドロッとした暗い曲もやります。
――ディープな感情を歌った曲も中島さんの持ち味ですからね。
中島:私にとっても大事な部分ですね。パワーも使うんだけど、そういう曲がないとライブは続けられないので。
――楽しみです。今年後半も忙しい日々が続きそうですね。
中島:ツアー以外にもいろいろあって、すごいバタバタしてるんですよ(笑)。みなさんがびっくりするような活動もあると思うので、私も楽しみです。自分の時間もしっかり作るようにしてるので、それほど忙しいとは思ってないんですけどね。とは言いつつ、ちゃんとメンテナンスしないと辛くなるので、体のケアもちゃんとやってますよ。
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