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<わたしたちと音楽 Vol.22>TOMOO 性別を超えて、自分の感情と向き合って曲を作る

インタビューバナー

 米ビルボードが、2007年から主催する【ビルボード・ウィメン・イン・ミュージック(WIM)】。音楽業界に多大に貢献し、その活動を通じて女性たちをエンパワーメントしたアーティストを毎年<ウーマン・オブ・ザ・イヤー>として表彰してきた。Billboard JAPANでは、2022年より、独自の観点から“音楽業界における女性”をフィーチャーした企画を発足し、その一環として女性たちにフォーカスしたインタビュー連載『わたしたちと音楽』を展開している。

 今回のゲストは、シンガーソングライターのTOMOO。幼少期からピアノを続けてきた彼女は、中学時代に自分自身で作詞作曲して歌う喜びに目覚め、インディーズで活動を続けてきた。2022年にメジャー・シーンに踏み出し、一歩ずつ着実に注目を集める存在へと進んでいる彼女が見る世界は変わったのか。インタビューでは、質問に対して時に悩みながらも丁寧に言葉を紡いでくれた姿が印象的だった。(Interview & Text:Rio Hirai[SOW SWEET PUBLISHING])

性別のカテゴリーにとらわれずに、 自分らしくいる人に憧れる

――楽曲制作や歌うことを始める前には、演劇部で男役を演じていらっしゃったそうですね。

TOMOO:そうなんです。中学、高校と女子校に通っていて、演劇部では男役を演じていました。女性しかいない環境なので、声が低い人が男役を担う流れがあったのと、小学校は3:1で男性が多い環境だったので、「対抗しないと負けちゃう」というところがあって「男の子になりたい」と思ったりしていたので、自ら望んで男役を演じていました。毎回違う人格を演じるわけですが、演じる上での“男性らしさ”は自分がこれまで見てきたものから抽出したり、アニメをたくさん観て研究しました。演劇部の活動をしているとき以外は、日々の生活で性別を意識することがほぼない女子校生活だったので、いわゆる“女の子らしく”というのが私にとっては難しかったですね。


――意識して男性を演じることが、ジェンダーについて意識をする機会だったというのは興味深いですね。女子校に入る前、幼い頃に憧れていた女性はいますか。

TOMOO:ジブリ作品を観て育ち、特に『もののけ姫』のサンが好きでした。山犬の母譲りの強い口調でアシタカを牽制し、野山を駆け回ってナイフも使えるサンが研ぎ澄まされた刃のようで、かっこいいなと思っていたんでしょうね。あとは激しい感情表現にも憧れていました。自分自身もおしとやかというタイプではなかったですし、小さい頃、「弱いものいじめをしてくるような相手には敢然と立ち向かいなさい」という教育だった気もします。おしとやかじゃなかったのはサンに憧れていたことから来たのかもしれない。“卵が先かニワトリが先か”みたいな話ですけれど。


――演劇部で男性を演じることを選んだ気持ちも地続きにありそうですね。大人になって、その理想は変化していったのでしょうか。今は素敵だなと思う女性像はありますか。

TOMOO:女性、男性どちらに対しても「こうなりたい」という明確なビジョンはないんです。女性・男性という枠にカテゴライズしづらい自分なりのあり方を知っている人になりたいとは漠然と思っています。

自分の生々しい感情の発露の方法として、 曲を作るようになった

――音楽の道に進んだのは、「友達に手紙を書こうとしてメッセージを考えていたら、歌ができた」というエピソードがきっかけだそうですね。とても素敵なお話だと思います。自然と思いが高まって曲ができたのでしょうか。

TOMOO:幼少期からピアノを弾くのが好きだったので、遊びでメロディに歌を乗せてワンフレーズくらいの曲を作るようなことはしていたんです。でも、人に聞かせるために作ったのはそのときが初めて。ちょうどシンガーソングライターであるシギさんの音楽に出会った頃だったというのも大きいと思います。シギさんの歌は、それまで私が聴いてきた耳馴染みの良いポップスとは違って、自分の生々しい感情を歌に乗せて吐露しているという印象でした。「こんな感情の放出の仕方があるんだ」と衝撃を受けたんです。その衝撃に後押しされて、手紙にしたためようと思った感情が曲になったという感じですね。


――そうして初めて人に自分の曲を披露して、そのご友人に背中を押されて音楽の道に進んだそうですが、感情の発露として曲を作っているとお仕事で新しい曲作りが必要なタイミングと合わない事もありそうですが……。

TOMOO:それはめちゃめちゃありますね。感情が動いたことがあってから、実際はメープルシロップを幹から採取するときに雫が落ちるように、少しずつ“ぽちょんぽちょん……”と漠然とした感情が溜まっていって、いっぱいになってやっと曲ができる、という作り方をしているんです。今はそうやってできたものや、曲にならなくて取っておいた種のようなものから曲を作っています。大学では心理学を専攻していたのもあって、人の心の機微に対して客観的に分析するような眼差しも持つようになった気がします。たとえば何か人間関係で摩擦が起きたときにも、「何か事情があるから、こういう反応が起きているんだな」と冷静に深読みする視点を得て、それも曲作りに生かされていると思います。


――自分の感情の発露を音楽として表現する手段を得て、さらに心理学的な観点から人の心を観察する力が備わったんですね。では、“女性であること”は曲作りや音楽活動に何か影響があると思いますか。

TOMOO:現在進行形ではあまり思い浮かばないのですが、活動を初めて間もなかった頃に、「曲のセンスは良いけれど、声が低すぎる。この声の高さではメジャー・シーンでやっていくのは難しいから、あと2、3音はキーを上げて歌えるようにしたほうが良い」と言われたことがありました。今から10年以上前のことですが、「男性に対しては、そんなことは言わないんじゃないかな」「“女性”シンガーソングライターだから可愛らしさが重視されているのかな」と当時感じたのを覚えています。


――TOMOOさんはその伸びやかなアルトボイスが特長だと思うのですが、その長所を打ち消すようなことを言われていたこともあったのですね。その際は、どう反応したのでしょうか。

TOMOO:実際のところ、年月やボイトレも経てボーカルのキーは上がっていたりもしているのですが、自分の声の強みやキャラクターに関わる部分までは、「できないものは、できないしな」と、諦めてしまいました(笑)。言われたように方向転換するために時間をかけるよりも、自分が今感じていることに時間をかけたいと思った。自分がやるべきことに手一杯で、気が回らなかったですね。そうやって私なりの表現を続けてきて、それを喜んでくれる人がいる今はすごく楽です。シーン自体も、本当に多様な女性ボーカルが登場して受け入れられているので、時代によってトレンドも変わることを実感しています。

自分が好きなものを見つめる目を 濁らせないようにして

――確かに、最近では顔や性別を出さないアーティストも増えていますよね。ここ10年で時代が大きく変わったのを感じます。

TOMOO:まさにそうですね。当時は私という存在をどこにカテゴライズすればいいかわからなくて、その人の発言も、カテゴリをわかりやすくするために考えたうえでのアドバイスだったのだと思います。TOMOOという名前も、それだけでは男女どちらかわからないですし、声だけ聴いて「男だと思った」というコメントは今でもよくもらうんですよ。でもそれが嬉しくて。「夜明けの君へ」という曲のMVでは、ジャケットスタイルの衣装で歌わせてもらいました。監督が私のライブ映像を観て、私の男らしい……うーん、“男らしい”という表現もちょっと違いますね……性別を超えた表現に注目してくれて実現したMVで、自分がやりたかったことが実現した気がしました。


――メジャー・デビューしてからは、曲が届く相手もガラッと変わったのかもしれないですね。改めて、メジャー・デビュー前の自分にアドバイスをするとしたら、なんと声をかけますか。

TOMOO:右も左もわからない状態のときって、「こうしたほうが良いよ」と言ってくれる人の言葉や評価が今後も半永久的に持続する全てに思えてしまうことがあると思うのですが、当然ながら時代が変われば流行りも変わります。だから自分が他人からどう位置付けられているかを気にするよりも、「自分が何が好きで何を見ているかを大切にすれば良いよ」ってことですかね。完成形を目指さなくていいから、目を濁らせちゃダメだよ。

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