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<インタビュー>マハラージャン、コミカルとシリアスが共存する“蝉の歌”の真意



マハラージャン インタビュー

 中毒性のあるファンキーなダンスミュージックで注目を集めるマハラージャンがニューEP「蝉ダンスフロア」をリリースした。先行配信されたタイトル曲「蝉ダンスフロア」は、マハラージャンの原点でもあるアナログシンセサイザーを使ったダンスチューン。蝉を思わせるワードが歌詞の至る所に盛り込まれたコミカルさがありながら、3年間にわたったコロナ禍の制限のある日々を描写したシリアスさも共存しているのがマハラージャンならでは。本EPを携え、7月21日からは初のビルボードライブツアーを敢行する。EPについての話から聞いた。(Interview & Text: Kaori Komatsu / Photo: Yuma Totsuka)

一番大事なのはやりたいサウンドになっているかどうか

――EP「蝉ダンスフロア」は方向性がバラバラの多彩な楽曲が5曲収録されていますが、何かイメージはあったんですか?

マハラージャン:毎作そうなんですが、基本はダンスミュージックで、飽きないようにバラバラの曲を入れたいと思っています。それで、いろいろな曲が集まったところでリリースするという流れでしたね。

――タイトル曲の「蝉ダンスフロア」はアナログシンセサイザーを使ったダンスミュージックでご自身の原点だということですが、そういう曲を作ろうという狙いがあったんですか?

マハラージャン:めっちゃありましたね。アナログシンセサイザーを使ったファンクを作るというイメージに向かって突き進んでいった曲です。ライブをサポートしてくれている皆川真人さん(Key)がいろいろなアナログシンセをお持ちなんです。それで、皆川さんに協力してもらえれば僕がイメージしているサウンドができるんじゃないかなと思って相談をしたら、ご一緒させてもらえました。そのおかげで狙い通りの曲が作れたと思っています。


▲ マハラージャン - 蝉ダンスフロア[Official Music Video]

――ちなみに、どの辺のアーティストのアナログシンセを使った楽曲が好きなんですか?

マハラージャン:いっぱいあるんですが、YMOやジャミロクワイ、トロ・イ・モア、ネオン・インディアンとかが特に好きですね。「この人たちの音楽が好きなのはなぜなんだろう」って掘ってみると、大体アナログシンセサイザーを使ってる曲が好きだっていうことに気付きました。

――歌詞ではコロナ禍の制限のあった3年間を蝉に例えているのが面白いですが、この発想はどこから生まれたんですか?

マハラージャン:それは後付けでした、まず、“蝉ダンスフロア”という言葉を思いついて、結構変なので別の言葉にしようとも考えましたが、「はまってるしこれでいいかな」と思って。コロナ禍を想起するような歌詞にすることで意味を持つものになると思ったんですよね。でも曲を聴いた人の感想としては「ただの蝉の歌だね」という方向性のものが多いので、インタビューでは自分から「コロナ禍からの解放という意味を込めました」とアピールするようにしています。歌詞は大事にはしていますが正直二の次で、一番大事なのはやりたいサウンドになっているかどうかですね。

――コロナ禍の切実な状況を蝉に例えることでコミカルさが生まれているのがマハラージャンさんならではだと思ったんですが、そこにはどんなこだわりがありますか?

マハラージャン:あまり蝉の歌って聴いたことないですし、まあ作りたいと思わないんだと思うんですけど(笑)、そういうアプローチをこれまでもやってきたのがマハラージャンだという自負はあるので、思い切ってやってみました。あと、5月に開催した日比谷野外大音楽堂でのワンマンライブに向けて作った曲でもありますね。コロナ禍にデビューして思うようにライブができなかった時期を経て、野外の開けたシチュエーションで披露する新曲なので、コロナ禍を回収するような曲を作りたいなとも思いました。

――ライブではどんな手応えでしたか?

マハラージャン:ライブ当日の深夜0時に配信したんですが、みんなちゃんと曲を聴いてライブで「mean? mean? mean?」というコール&レスポンスしてくれたので申し訳ない気持ちになりましたが(笑)、良かったと思います。

語感にフォーカスを当てた

――(笑)。2曲目の「波際のハチ公」は口笛から入る夏の曲ですが、どんなイメージだったんですか?

マハラージャン:冬に作った曲なんですが、頭の中では夏の海岸で男の子が走ったり、ドライブしている絵を浮かべていました。これまで季節感のある曲をあまり作ってきていなので、そういう曲も作りたいなっていう気持ちが潜在的にあったんだと思います。それで、僕は季節の中だと夏っぽい曲が好きなので夏の曲が生まれたという感じですね。

――この曲の歌詞モチーフは犬で、犬ならでは描写詰まった曲になっていますね。

マハラージャン:この曲はサビの「波際のスター 揺れるShadow」っていうところから考えて、水際で誰かが待っている夏の曲をイメージして書いていったらなんとなくできていきました。それもふにゃふにゃメロディを口ずさんでいたら、「波際のハチ公」という言葉がハマりそうだったので、あてはめてだんだん曲になっていったんです。

――「波際のハチ公」というワードもなかなか出てこないと思うんですよね。

マハラージャン:「蝉ダンスフロア」もそうですが、最近は割と適当に歌って出てきた言葉をデモに入れてしまって、もうそう聞こえるからっていうことで歌詞にしてしまうケースが増えてきてます。今回のEPの曲はそういうトライをしている期間にできた曲ですね。自分で歌ってみて空耳っぽく聞こえたワードをちゃんと聴けるように落とし込んだ感じです。だから、意味を重視するというより、語感にフォーカスを当てました。

――歌詞はあまり重要視されていないということですが、「波際のハチ公」は主人公が犬ではなく人間でも成り立つ曲だと思うんです。引っかかるポイントを入れたいという気持ちがあるんでしょうか?

マハラージャン:そこについてあまり深く考えないまま今に至ります(笑)。ただ、モチーフに寄り添った曲を作りたいという気持ちは割とあって、この曲はそれが犬でした。「果たして犬で本当にいいんだろうか」と思ったんですが、「マハラージャンだしまあいいか」と思って作りました。人間が主人公のこういう曲は既にあるし、普通過ぎると面白くないっていうか。

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仕掛けがある方が楽しめる

――「蝉」だったり「犬」だったり、今回のEPの歌詞はモチーフが決まったらスピーディーにイメージが膨らんでいった感覚が増しているんでしょうか?

マハラージャン:増してますね。そうやって書くことに慣れてきたんだと思います。ただ、そのモチーフを広げたからといってちゃんと人に響くものになるかどうかはしっかり考えないといけない。モチーフとして面白くても、日常とかけ離れていると一回聴いて終わっちゃうと思うので。今回のEP は日常感があまりない曲が多い気がするんですが、本当はそう思ってます。

――ファンクをベースにしたダンスミュージックにコミカルな歌詞が乗ることで独自の中毒性が生まれていると思うんですが、それについては意識していますか?

マハラージャン:そういうこだわりはすごくあります。ドラムとベースをめちゃくちゃ大事にしますし、今回のEPはギターのフレーズや入れ方にもすごくこだわりました。中毒性とはまた別の話かもしれないですが、「波際のハチ公」に入っているギターソロは実はMr.BIGの「コロラド・ブルドッグ」のギターソロを意識したんです。犬繋がりですね。こうやって説明しなければ誰も気づかないと思うんですが。

――言われなければ気付かないような小ネタを入れる快感があるのでしょうか?

マハラージャン:「そうだったんだ!」っていう仕掛けがある方が楽しめると思っていますね。何にもないものを作ると本当に何でもない曲になってしまう気がするというか。冗談みたいなことをやっておかないと不安を感じるタイプなのかもしれません(笑)。「蝉ダンスフロア」にはマイケル・ジャクソンの楽曲でも使われているJUPITER-8っていうローランドの最高級のシンセが入っているのですが、皆川さんが同じJUPITER-8をお持ちなので、同じ音で楽曲に寄り添うフレーズを弾いていただきました。

――今のエピソードもそうですが、マハラージャンさんはソロアーティストはあるけれど、レコーディングやライブはバンドで行っていますよね。バンドの楽しさは感じていますか?

マハラージャン:めちゃめちゃ感じてます。ライブはなるべく固定のバンドメンバーにするようにしていますが、曲作りの時は「この曲に合うのはこの方だな」という風に、いろいろな人にお願いすることが多いです。アレンジをすることと近くて、誰に弾いていただくかによって曲は大きく変わるので、人選を考えるのがすごく楽しいんですよね。それはソロアーティストの特権だと思います。バンドの羨ましいと思う部分はたくさんありますが、自分のようなソロだからこそできることだと思っています。「このアレンジは誰だろう」とか「このベースは誰が弾いてるんだろう」とかめっちゃチェックしていますね。でもそういうクレジットってないがしろにされてわからないこともあるんですよね。

――特に配信だと調べづらかったりしますよね。

マハラージャン:そうなんです。だから「全部クレジット出せばいいのに」って思います。でも、全部公表している人もいるので、そのクレジットをよくチェックしています。

――そういう点でリスペクトしているソロアーティストはいますか?

マハラージャン:いっぱいいますが、特に星野源さんですね。作品すべてがすごいんですよね。クレジットの話で言うと、源さんは使った機材とかも全部公表していて、それを見ているととても面白いし、やっぱりすごいんだなって毎回思います。僕が知らないシンセが入っていて、「これ知らない」と思って調べてみる中で「僕はまだまだシンセ好きのにわかだな」って思ったりします。本当にすごい方なので、おいそれと名前を出していいのか迷うくらいですね。

――このEPをリリースした後、初のビルボードライブツアーが開催されます。ビルボードライブはどんなイメージがあるハコですか?

マハラージャン:リッチな方やすごい人が来るイメージがあります。

――マハラージャンさんのファンクやジャズをベースにしたサウンドは相性が良い気がしますが、どんなツアーにしたいですか?

マハラージャン:これまでのライブハウスやフェスでのライブとは違うものを見せたいと思っています。いつものバンドメンバーと違う布陣ですし、それによってアレンジも変わっていくと思います。あと、セットリストについてもお楽しみ要素を検討しています。特別な場所で特別な体験をしたという記憶は一生残ると思うので、とにかく良いものをお見せしたいです。

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