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<インタビュー>Cö shu Nie 3度目のビルボードライブ、そして新曲「no future」に宿したリスナーとの“心の共犯関係”

インタビューバナー

Interview & Text: 高橋智樹


 世のロックやポップスのほとんどが「やる気回復ツール」としての機能性を内包している中、〈何もしたくない 何も意味ない/全部面倒くさい〉という気怠さをあるがまま抱擁する、Cö shu Nieの最新配信シングル「no future」は実に画期的だ。重力と浮力を併せ持ったようなグランジサウンドの質感。ダルげでアンニュイなR&B系のビート。そして、世界からのアウェイ感を独特の妖艶さをもって歌い上げる、Cö shu Nieの“監督”こと中村未来のボーカル。その音楽を通して、リスナーとの間に密接で切実な“心の共犯関係”を築き続けるCö shu Nieの核心が、「no future」という楽曲にも確かに宿っている。

 今回の新曲リリースを発表したのは今年4月、自身3回目となるビルボードライブ公演【A cöshutic Nie Vol.3 in Billboard Live TOKYO and OSAKA】のステージでのこと。そこで同時にアナウンスされたのが、2024年秋の発売に向けて制作中という次作アルバムの存在だった。「no future」について、また同楽曲とニューアルバムの関係性について、中村未来&松本駿介に訊いた。

3度目のビルボードライブ

――4月に行われた【A cöshutic Nie Vol.3 in Billboard Live TOKYO and OSAKA】、監督(中村未来)の第一声が「近っ!」だったのが印象的でした。

中村未来:だって、めっちゃ近かったから(笑)。

松本駿介:ほんと近かった(笑)。

中村:ギリギリまでお客さんに入ってもらったから、ほんとステージの目の前にお客さんがいて……もう、みんなドギマギしてて(笑)。


――ビルボードライブという会場ならではの、物理的な近さもそうなんですけど――ステージとお客さんとの、音楽を通した近さ、飾らないコミュニケーションの形が、【A cöshutic Nie】3回目にして確立できたように見えたんですけど。いかがですか?

中村:ほんとその通りで。ビルボードライブで3回ライブをさせていただいて、「もっとこうした方がいいんじゃないか」っていうことを、次に向けて次に向けて、って考えながらやってきたので。今回は結構、「ビルボードライブでやる意味」がある構成にできたと思うし。お客さんとの距離感も、ライブハウスとは違う感じでコミュニケーションが取れたような感じがあって。今までは、歌も世界観の一部っていう感じだったんですけど、今回は自分が世界観の伝道師というか、世界観を伝える架け橋になれたんじゃないかなって。そんな気がしています。

松本:やっぱりビルボードライブって、お客さんとしてライブを観ていても、本当に距離が近いっていうか――物理的な部分以外のところでアーティストと繋がれるのを感じていて。それをもっと自分たちのライブでもできないかな?っていうところに、今回は、今までより少しは近づけてるなと感じましたね。もうちょっと作り込み過ぎず、ラフな感じでっていうのも――いつもはがっちりしたライブハウスでやっていた分、「どのぐらい柔らかくしていいかな?」と思ってたんですけど。回数を重ねていくごとに、ナチュラルにできたんじゃないかなと思ってますね。



Photo: 鳥居洋介

共感することに、癒しがある

――その【A cöshutic Nie】でも「6月に新曲リリース」と告知されていたのが、今回の新曲「no future」だったわけですが。気怠い空気感、アンニュイな部分って、今までCö shu Nieの楽曲の中に要素として存在することはあったんですけど。その気怠い感覚そのものを軸にして一曲作り上げる、っていう着想はどこから?

中村:これは、次のアルバムに向けての第1弾の曲なんですけど。おっしゃっていただいたように、一曲の中にいろんな風味がスパイスとして入っている、っていう曲が今までは多かったと思うんです。でも、「もっともっとひとつのことを煮詰めて書くと、どうなるのかな?」って。アルバムに向けて、いろんなCö shu Nieの濃い部分を見てもらえたらいいなと思って、まずはグランジとかR&Bのサウンドで気怠い楽曲を作ってみた、という感じですね。歌詞で〈何もしたくない 何も意味ない〉って言ってるんですけど……朝起きた瞬間から気怠くて「何もする気が起きないわ」みたいな日もあるけれど、「何をやってもあの人に追いつけない」とか「あの人より上手くやれない」とか、そういう劣等感によってやる気を削がれて〈何もしたくない〉みたいな気持ちになったり。動機はいろいろあると思うんですよね。それって、誰しもきっと多かれ少なかれあると思うんですよ。私にもあるし。でも、そういうのを自分で許すというか、「no future」みたいな日をどう越えていくか、罪悪感を感じる必要はないと、そういうテーマからスタートしました。そのテーマを書くにあたって、グランジの感じとか、でもR&Bの匂いがするビートにしたいなとか、そういうことを考えて作っていきました。


――今のロックって、あまりその「何もしたくない」っていう気怠さを許容してくれないというか。最初は気怠かったりやる気が出なかったりしても、一曲の中でやる気のある結末に至る、そういう機能性を求められている気がするんですけど。Cö shu Nieはそこをちゃんと許容して抱きとめてくれる音楽だ、と思っていて――。

中村:ありがとうございます。

松本:機能性を求める……確かになぁ。



Photo: 鳥居洋介

――僕は個人的に〈認めてやれよ 歪な心〉(「bullet」)っていうフレーズが好きで。どんな感情であっても、自分で自分を認めてあげなきゃしょうがないじゃないか、っていう。そういう視線は、Cö shu Nieの音楽には常にありますよね。

中村:そうですね。自分で自分を抱きしめるというか、自分を愛するってどういうことなんだろう?っていうことを考えてて――これ、あんまり言いすぎると、アルバムの大きなテーマに繋がっていっちゃうんですけど(笑)。でも、「自分をどう愛するか」というのは、自分でもすごく迷うところだし。そういうのを見つけていきたいなと思ってこの楽曲を書いているわけなんですけど。その第一段階として、まず自分にどういうところがあるのかを言語化するというか、「まあ、いいよね」と言える前段階みたいなところなんだろうな、って自分でも思ってます、こういう「no future」みたいな曲は。共感することに、癒しがあるんだなって。


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誰の中にでもある“アウェイ感”の表現

――グランジとひと口に言っても、世間一般にイメージされるグランジ感とは違って。「no future」の場合はそれこそ音の質感とか、魂に切迫してくるグランジ感というか、そういうものですよね。で、気怠い中にいろんな音の要素が漂っていて、ラストはハイハットが8拍子の3連符、24拍子みたいなリズムを刻んでいるという。

松本:細かくなりますよね(笑)。焦りとかも感じるし。追い込まれていくっていうか。

中村:偶然性みたいなものとか、私たち本人が持ってる空気感がそのまま出てる、みたいな感じはありますね。生音でやりきるっていうところにこだわって作ったので、余計にそういうところが出てると思います。

松本:グランジって言っても、最初に曲のテーマを聞いて“グランジ”と思ってたものと、ちょっと違うじゃないですか。その感じを出すのは難しいなあ、と思いながら……「わかるけど、ムズい!」っていうのは、かなりありましたね(笑)。でも、やりたいことはすごく伝わってきたので、正解はあるんですよ。それが難しいっていう。

中村:いろいろ混じってるよね。さっき言ってたような動機からの〈何もしたくない〉もあるけど、毎日が忙し過ぎて心を無くす、みたいな状態からの〈何もしたくない〉とかもあるし。毎日がつらいとか、しんどいとか、そういう場合もあって……いろんな動機があると思うんですけど。そういういろんな動機の、どこの人も、ちゃんとすんなり聴けるようなものにしたくて。だから、すごく入り混じってるようなサウンドになってるんじゃないかなと思いますね。それを狙ったところもあるんですけど、自然な部分もかなりある気がします。



Photo: 鳥居洋介

――そういう感情を抱いてる時って、世の中からのそこはかとないアウェイ感を感じますよね。

松本:そうそう、ありますよね、アウェイ感。

中村:そうなんです。だからミュージックビデオでも、自分以外の周りの世界が速く動く――時計がすごい勢いで回ってたり、メトロノームが高速でカチカチカチって動いてたり、絵画が朝晩朝晩って動いていったりして、自分だけが世の中に置いていかれるっていう。部屋の中で撮ってるんですけど、部屋の中が世界のすべてで、そこで自分はポテチを食べながら、ボーッと寝てる。世界に置いていかれるけど、世界自体もその先どうなっていくのかっていう感じで。まさにその疎外感というか、自分ひとりだけが置いていかれて閉じ込められているような孤独感を表現したくて。MVでもそういう脚本にしました。



――そういうアウェイ感って、多かれ少なかれ誰の中にでもあるものだと思うし。誰もが持っているっていう意味では、いちばんメジャーな感情なのかもしれないですけど。そこに形を与える術がないから、なかなか表に出てこないっていうだけですよね。

中村:生まれてくるのも、死ぬのもひとりですからね。

松本:なかなか見せたくないしな、できるだけ。知られたくないというか。

中村:でも、そういうところをちゃんと“私にもある”っていうことをわかってもらうことで……この時代に生きる同志として、分かり合えることも増えるんじゃないかなって。だから、こうやって言葉にしてます。

松本:明確な救いというか、「だけど頑張っていこう!」って言わないのが、らしさだと思うし。

中村:だって、頑張れない時は頑張れないもん(笑)。

松本:そういうところは監督の、リスナーとの距離感も反映されてるのかなって思いますね。「共犯者」っていう言葉も使うし。そういう優しさは、確かに感じますね。



Photo: 鳥居洋介

――そういう、リスナーとの“共犯者感”は、この間のビルボードライブにも濃密にありましたね。

中村:全部繋がってるなあって思いますね。昔から作ってきたものもそうだし、お気に入りって言ってくださった〈認めてやれよ 歪な心〉っていうフレーズもそうですけど……ずっとそういうことを歌ってるんだなあと思いますね。芯の部分に、そういうメッセージがあるんだなって。聴いてくださる方が自分を愛せるような、自分を認めてられるような楽曲を作っていきたい、っていうのが芯にあるので。そういう意味では、ロングスパンで見て、いいメッセージが書けたんじゃないかなって思ってますね。

松本:ビルボードライブでまたやりたいなあ、この曲も。ビルボードライブで〈何もしたくない〉って、すごい贅沢な話ですけど(笑)。


1年半後のアルバムに向けて

――その、4月の【A cöshutic Nie】では、今回の新曲だけでなく、2024年秋にアルバムをリリースすることも発表していました。1年半前のアルバム発表って、かなり珍しいケースだと思うんですけど?

中村:ねえ? いろんなことを考えているので(笑)。長い期間を使って、1曲1曲を大切に届けていくっていう……そういう計画を練ってます。


――第1弾が「no future」で。ここからどんなカードが切られていくか、なかなか想像つかないですね。

松本:1曲目がこれだから(笑)。

中村:あ、でも推理してほしいですね。私、まずアルバムについてプレゼン資料を作り込んだんですよ。そこでひとつのテーマを作って、そのテーマに向かって今、1曲1曲書いているところなんです。たぶん、2~3曲出てきたら、リスナーの方にも見えてくると思うんで。


――プレゼン資料を作ったんですか?

中村:そうです。「私はこういうアルバムを、こういうメッセージをこめて作ります」みたいな――。

松本:すごいやつをな(笑)。

中村:それをチームみんなにわかってもらって、同じ方向を向いていけるように作りました。

松本:だからこそ、考えてるイメージをMVの脚本の中にも入れられたし。なので、それこそMVの中にもヒントがちょっと隠されてたりするんですよ。そこも楽しんでもらいたいなって思いますね。



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