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<2023年上半期“ニコニコ VOCALOID SONGS TOP20”インタビュー>ツミキが大切にする“普遍性”と“寄り添う”姿勢「人の『嘘』を救済できるようなものを作りたい」

インタビューバナー

Interview:天野史彬
Photo:Yuma Totsuka


 2023年上半期のBillboard JAPAN各種チャート結果が発表された。2022年12月にローンチされ、今回が初の半期チャート発表となるボーカロイド楽曲チャート“ニコニコ VOCALOID SONGS TOP20”では、上位者インタビューとして、「フォニイ」がチャート初回発表からチャート上位を守り続けているツミキへインタビューを実施。発表から約2年が経っても引き続き愛されるこの曲への思い、またソングライターや自身のユニットなど、ボカロPにとどまらない活動を続ける理由について、話を訊いた。

「フォニイ」に込めた思い

――Billboard JAPANのボーカロイド楽曲チャート“ニコニコ VOCALOID SONGS TOP20”において、2021年6月に発表された「フォニイ」が現在でも上位をキープされており、上半期チャートでも2位を獲得されました。この異例のロングヒットを受けて、今回は「フォニイ」の話を軸に、ツミキさんとボーカロイドの関係性を伺えればと思います。まず、「フォニイ」という楽曲は2021年当時、どのような背景で生まれたのでしょうか?

ツミキ:「フォニイ」を制作した2021年当時の時世として、SNSの発展や、みんながコロナ禍でマスクを着用しているという状況があって。そういう中で、マインド的な面でも、フィジカル的な面でも、どんどん世の中の匿名性が強くなっているような感覚があったんですよね。それが、まるで人がお面を被っているようだなと思ったんです。論破ブームみたいなものも、そうですね。正義を振りかざす、みたいな。そういう部分に、僕は少なからず辟易していて。そういう気分を楽曲に落とし込むことを目的にして、制作を始めました。そもそものきっかけとしては、音楽的同位体「可不」のプロモーションとしてご依頼をいただいたところが出発点だったんですけど、バーチャルシンガー花譜さんの声をAIで読み取って作られた可不という存在に、今言ったような“人がお面を被っている”状況、「嘘」や「偽り」みたいなテーマとのリンク性を感じたところもあります。


――サウンド的には、2021年2月にリリースされたツミキさんの1stアルバム『SAKKAC CRAFT』の収録曲たちと比較しても、変化を感じます。「フォニイ」はよりダンサブルなサウンドが印象的です。

ツミキ:『SAKKAC CRAFT』までの作品は、どちらかというと足し算的な考え方で作っていたんですけど、「フォニイ」以降は素材そのままというか、何日もかけて足し算をしていくというより、その場で出たものだけで聴かせられるものにしたいと考えるようになりました。そういうことを試みていくうちに、どんどんとダンサブルな方向になっていったんだと思います。


――今振り返って、当時のツミキさんは何故そうした変化を求めたのだと思いますか?

ツミキ:そのほうが普遍性があるかなと思ったんです。あと、それまでの作品は主に初音ミクを扱って楽曲制作していたんですけど、初音ミクの素材自体にある情報って、メロディと声だけなんです。それゆえに、息遣いやフォールも音符的に聴かせることになるんですけど、可不の場合は自動的に息が入ったりして、初音ミクに比べると情報が多いんですよね。そういうボーカルを引き立たせるために、おのずと引いていくサウンド作りになったのかなと、今振り返ると思います。



Photo: Yuma Totsuka

――「フォニイ(Phony)」は「偽物」や「インチキ」という意味の単語ですが、「嘘」や「偽り」というテーマは、「フォニイ」以前からツミキさんの楽曲に入り込んでいるもののように思います。たとえば「フォニイ」の〈この世に造花より綺麗な花なんてないわ〉という印象的な歌い出しですが、〈造花〉という言葉は「トオトロジイダウトフル」にも出てきていましたよね。ツミキさん初の投稿曲「トウキョウダイバアフェイクショウ」の「フェイク」というのも、「フォニイ」に通じるものを感じます。

ツミキ:基本的に、僕が楽曲を作る際に考えることは“弱者に寄り添う”ということなんです。自分自身、内省的に物事を考える傾向があるんですけど、自分のそういう部分を補うものを作りたいなと思っているし、それがよりたくさんの人に届けばいいなと思って曲や歌詞を書くことが多くて。そういう意味で、嘘のような、後ろめたい気持ちが募るものに向き合おうとする部分はあるのかなと思います。たとえば、仕事で辛い時でも気丈に振舞わないといけない瞬間ってあったりしますよね。そういうのもある種の「嘘」だと思うんですけど、人のそういう部分を救済できるようなものを作ろうという気持ちは一貫してあるのかなと思います。


――先ほどおっしゃった「時代性」というのはどのくらい意識されるものですか?

ツミキ:僕は、あくまでも自分が思ったことではないと書けないんです。自分がこの時代に生きていて立ちはだかる災難とか、そういうことにインスピレーションを受けてメモをガーッと書き始める。そういうところから曲作りはスタートするので、必然的に時代性が生まれていく、という感じかもしれないです。単純に「トイレットペーパーが売ってないの、ムカつく!」みたいな(笑)。そういう些細な鬱屈を引き延ばして、ポップスに昇華する、みたいな感じですね。


――「フォニイ」が広く支持されたことは、その後のツミキさんの活動にどのような影響を与えたと思いますか?

ツミキ:自分の音楽人生においては大きな転機になったと思います。普遍性を重視して作ろうとしたことが、実ったということなので。そもそも、自分は本来的にはポップスから逸れたものが好きな人間だと思っているんですけど、だからこそ、自分の中で思い描いたポップスが実ったということは、大きなことでした。


――「フォニイ」は、キャッチーなミュージックビデオも楽曲の広がりの一因となったと思いますが、ビデオの制作に関しては、どのようなこだわりがありましたか?

ツミキ:動画制作も僕がやったんですけど、イラストを担当してくれたウエダ ツバサと話し合いながら、インパクトのあるサムネにすることや、ビジュアル面でのカタルシスも意識しました。彼は『SAKKAC CRAFT』の「ヒウマノイドズヒウマニズム」からの関係性なんですけど、たまたま年齢も出身も同じで、シンパシーがあって。なんでも話せる関係なので、制作がやりやすいです。



「フォニイ」


ランキングは“尊いもの”

――冒頭にもお伝えしたように、「フォニイ」はボーカロイド楽曲チャート“ニコニコ VOCALOID SONGS TOP20”で上位をキープし続けています。このチャートは昨年2022年12月からスタートしたのですが、こうしたボーカロイドに特化したチャートの存在に対して、感じることはありますか?

ツミキ:やっぱり、音楽を始める人にとってランキングって尊いものなのかなと思うんです。「この曲で何位に入った」みたいなことが、音楽をやるうえでのモチベーションに繋がったりするので。そういう意味では、ボーカロイドに限ったランキングがあることや、そこにロマンを抱くことができることは、いいことなのかなと思います。これから音楽を始める方が「これならできるかも」と思えるきっかけになるかもしれないので。


――ランキングは、下の世代にとっての指標や入口になるということですね。

ツミキ:僕自身、バンド時代から仲が良いキタニタツヤがボーカロイドを使っているのを見て、彼に使い方を教えてもらったところからボカロPとしての活動が始まったんです。僕が作った曲がランキングに入ったのをキタニくんが拡散してくれて、それを通して僕のことを見つけてくれた人も多いと思うんです。そういうことが起こるということは、ちゃんと下の世代にも伝えていきたいです。



Photo: Yuma Totsuka

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誰かひとりに伝われば、それだけで成仏できる

――音楽制作をされるうえで、チャートは意識されていますか?

ツミキ:正直、僕自身は「誰かひとりに伝われば、それだけで成仏できる」という気持ちです。でも、僕ひとりでやっている音楽ではないし、いろんな方々にとってチャートは必要な存在だと思うので、そこをないがしろにせずに、いいものをランクインさせることができるように、と思っています。僕は、僕が作ってきたものを信じたいし、信じ続けているし、同じように信じてくれている人に、肩身の狭い生活をしてほしくないので。


――「ひとりの人に伝われば成仏できる」と言い切れるところに、ツミキさんの表現者としての芯の強さを感じます。

ツミキ:僕は、音楽を「広告として」ではなくて、「音楽として」ちゃんと作りたいと思っていて。逆に、音楽としての本質を伝えることができるのであれば、何をしてもいいと思っているんです。だからこそ、動画のサムネイルのような外側の部分は多くの人に伝わるようにするし。そのうえで、すべてを剥がした時に、ちゃんと刺さっている人がひとりでもいるのであれば、僕はそれだけで嬉しいです。


――ランキングでは、同時代に生まれる他アーティストの楽曲の存在も可視化されますが、そうしたものからの影響はいかがですか。

ツミキ:それは、もちろんたくさんあります。僕は2017年に初めて曲を投稿したんですけど、すりぃであったり、Ayaseであったり、同世代がたくさんいるんですよね。僕らは小学生くらいの頃にニコニコ動画を見始めて、wowakaさんやハチさん、DECO*27さんのような人たちが「いい曲合戦」のようなことをしているのを見ていた世代なんです。そんな僕らで再びそのカルチャーをやっている感覚があって。「勝った!」とか「負けたー」とか、あくまでも娯楽的なものですけど、そういうことを競い合うことにはロマンがありますね。「ランキングがすべてではない」ということはわかっていてほしいですけど、そういう楽しみ方もあるということも、わかってもらってもいいかなと思います。



Photo: Yuma Totsuka

Photo: Yuma Totsuka

音楽に救われる瞬間を、僕も音楽で作りたい

――最近のツミキさんの活動は、ソングライターとして他のアーティストとコラボレーションしたり、みきまりあさんとのユニットNOMELON NOLEMONでの活動があったりと、ボーカロイドという範疇にはまったく縛られていないですよね。こうした活動の拡大には、表現者としての探求心やチャレンジ精神を感じますが、こうして様々な場所や形で音楽活動されていく背景には、どのような思いがありますか?

ツミキ:他の活動も、ボーカロイドを扱う音楽と自分の中でそこまで差異はないんです。僕は、ボーカロイドをやりたくて音楽を始めたわけではなくて、あくまでも自分の中から生まれた音楽をボーカロイドに歌わせてみた、というだけなので。ユニットを組んだのも、それによって届く人がいるのであれば、という気持ちだった。たくさんのモードを作ることで、自分の根本にある音楽を届けられたらいいなと思います。


――その「根底にある音楽」というのは、先ほど「フォニイ」の話の中にあった「弱者に寄り添う」という意志と結びつくものですか?

ツミキ:そうですね。まぁ、弱者というか、あらゆる人に届いてほしいと思っているんですけど、僕自身、今まで生きてきて音楽に救われる瞬間がたくさんあったんです。そういう瞬間を、僕も音楽で作りたい。その気持ちが大きいと思います。そこまで大きいことじゃなくても、日々生きていて「面倒くさいな」と思うことや「やる気出ないな」と思うことってありますよね。そういう些細な瞬間にも、僕は音楽を聴くことでロマンを与えてもらったり、それまで進まなかった道に進むきっかけを与えてもらったりしてきたので。



Photo: Yuma Totsuka

――今改めて、ボーカロイドという表現形態にはどのような魅力を感じますか?

ツミキ:やっぱり、「始めやすい」というところですね。パソコンとソフトがあれば、それだけでボカロPになれる。それまでの音楽活動って、事務所に所属して、レーベルと契約して、スタジオを借りて、演奏して……という工程を経るものだったと思うんですけど、ボカロならそれ相当のものが、パソコン1台で、ワンルームでできる。それは凄く尊いことだなと僕は思います。音楽の敷居が下がることは、僕はポジティブに捉えていいことだと思います。


――現時点で、ツミキさんには目標などはありますか?

ツミキ:漠然としているんですけど、僕は小さい頃から音楽を聴いていて、音楽の楽しさに救われることで、生活を頑張ることができてきたと思っていて。なので、音楽に恩返しをするというか、自分が先代から得たものを後世に繋いでいきたいという気持ちがあります。特に今、時代がどんどんと暗くなっているような気がするんですよね。そういう時代だからこそ、子供たちが音楽の楽しさでもっと救われるような世の中にしたいなと思っていて。なので、いつかは子供たちのために曲を書けたらいいなと思っています。


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