Interview & Text：Mariko Ikitake
Photo：Yuma Totsuka

　THE BEAT GARDENが“喋りたい”相手のルーツや活動を根掘り葉掘り聞いていく連載「THE BEAT GARDENとシャベル」。 THE BEAT GARDENの4thアルバム『Bell』のリリースを記念してスタートした本連載の第2回に登場するのは、wacciの楽曲を多く手がける橋口洋平（Vo. / Gt.）だ。

　橋口は、『Bell』の収録曲で、これまで自作曲でメッセージを届けてきたTHE BEAT GARDENにとって初めての楽曲提供曲「あかり」を制作。リスナーが共感する楽曲を数多く作り続けてきた橋口によって、3人が抱えていたある種の“限界”を乗り越えることができたという。言葉を伝えることの難しさを知る両者だからこそ抱える悩みや、その糸口が、楽曲ができるまでの経緯を聞いていくなかで見えてきた。

連載「THE BEAT GARDENとシャベル」初回 with Gahoはこちら

――――皆さんが初めて共演したのは、昨年末の『CDTV ライブ！ライブ！年越しスペシャル！2022→2023』でしょうか？

U：実は7～8年くらい前に、関西の学園祭で1回お会いしているんです。当時の僕らは本当に駆け出し中の駆け出しで、げた箱の前ですれ違ったくらいだったんですけど、すごく優しそうな方々だなという印象を受けました。

橋口：この間の『CDTV ライブ！ライブ！』の楽屋にTHE BEAT GARDENが来てくれたときに初めてしっかりと喋りました。（学園祭の楽屋で）うちのギターの村中（慧慈）が元ラーメン屋の店長で「ラーメン、イケメン」みたいなことをずっと言ってて、本当にすごく変な空気になった思い出があるんですよ（笑）。今思えば、あれはTHE BEAT GARDENのことを言ってたんだろうな（笑）。

U：僕たちはwacciさんの音楽を聞いていたので、そういう意味では村中さんに感謝ですね。

橋口：感謝だなんて（笑）。僕もTHE BEAT GARDENのことは知ってましたし、それこそ「Start Over」がたくさんの人に届いていくのを見てました。こうやって一緒に作品を作る縁をいただいてから、改めてTHE BEAT GARDENの作品を聴いたら、カッコよさの中に温かさもあって、そこが素敵なグループだなと思って。こうやって話をするようになってから僕もファンになっちゃいました。

THE BEAT GARDEN：ありがとうございます！

――橋口さんにお願いしたいと思った経緯を教えてください。

U：僕は橋口さんが書く歌詞のファンなんです。僕がいつも歌詞を書いているのですが、3人ボーカルなのにいつも主語が“僕”であることに、すごく違和感があって。あと、橋口さんが書く曲って、すごくキラキラしたテーマにも影があるというか。僕はストレートな歌詞を明るいテンポで歌うことに若干恥ずかしい部分があって、橋口さんの歌詞に共感する部分がたくさんあるんです。今回、「どちらかがはっきり悪者になる曲じゃない歌詞を書いてほしい」とお願いしました。

橋口：THE BEAT GARDENのことを知っていくうちに、僕と近い歌詞の書き方をしているグループだとわかったので、彼らの力になれることがあるんじゃないかと思って、頑張って取り組みました。

――楽曲提供はグループとして初めての試みですが、REIさんとMASATOさんは今回できあがった曲についてどう思われましたか？

REI：デモを聞いたとき、部屋でガッツポーズするくらい、本当にいい曲をいただいたと思いました。ずっとUさんがTHE BEAT GARDENのことを考えて歌詞を書いてくださっていて、他の方が僕たちのことを思って書いたらどんな作品になるんだろうってすごく楽しみにしていたので、本当に嬉しかったですね。

MASATO：誰かに書いてもらいたいっていう話は前からしていて、橋口さんの名前がずっと挙がっていたので、僕もすごく楽しみにしていました。届いた曲を僕らが歌ったらどうなるんだろうというワクワクがありましたし、曲が持つ世界を僕らがそのまま表現すれば、聞く方の誰もが同じ世界を想像できることはすごいことだとも思いました。

――『関ジャム 完全燃SHOW』に橋口さんが出演されたときに、wacciの曲を作るときは自分のキャラクターからズレないように心がけているとおっしゃっていましたが、今回はどうでしたか？

橋口：楽曲提供など、僕が歌わないパターンの曲作りでは、逆にそこのたがが外れて、かなり自由度が増して書けていますね。自分が歌わないからこそ使える言葉だったり。制限なく書けたので、制作していて楽しかったです。

――3月にはwacciとTHE BEAT GARDENで対バンライブが開催されました。

橋口：異種格闘技戦になるかと思いきや、歌ってることが結構似ていたりするから、お客さんが互いの好きなアーティストを見て楽しんでくれていたのはもちろん、一つになっていた感じはあったよね？

U：そうですね。対バンよりツーマンライブみたいな感じがしましたね。

橋口：うん。僕たちはワンマンライブばかりやっていたので、誰かとご一緒することが新鮮だったし、THE BEAT GARDENのお客さんがみんな温かくて楽しかったですね。THE BEAT GARDENのライブもすごくよくて、みんなを鼓舞するような歌から、温かい歌もあって、自分たちの生き様とかこれから夢を叶えていく気合いとか、そういうものをきちんと言葉にして伝える姿を見て、すごく素敵なライブをしているなと思いました。

U：伝え方、言葉の渡し方みたいなものはwacciさんと通ずるものがあると思います。「君は絶対できるから」ではなくて、「もしかしたら全部うまくいかないかもしれないけど」ということを、橋口さんは歌詞の中でもMCでも伝えていて、手を添えてあげている感じがします。僕らも応援歌を書くときは、本当に泥臭い部分を出していますし、そういった本音もMCで話しています。wacciさんには、今ではたくさんの方に聞かれている曲が多くありますけど、橋口さんも曲を書いても認められない時期があったのかな、なんて想像して……そこも橋口さんやwacciさんと僕らが通ずるものだと思っていて、なかなか認められない時期が続いたことは僕らの一つのコンプレックスでもあり、自信でも自負でもあるんですけど、wacciさんのライブを近くで見ていて、いろいろ思ってグッときました。

THE BEAT GARDENが橋口洋平に質問!!

U：僕らは何かを決めるとき、ジャンケンで負けた人が決めるルールがあるんです。勝った人が決めると腹が立つから、負けた人が決められるようにしているんですけど（笑）、バンドのルールはありますか？

橋口：僕以外の4人が本当にデキた人間というか、すごくいい人たちで、別の仕事と曲作りが重なって僕が忙しくしている時期があると、メンバーたちが支えてくれるんです。もちろんスタジオで意見が分かれることはあるんだけど、スタジオを出たら元通り、みたいな暗黙の了解がありますね。あと、メンバーの人数が3とか5ってバランスがいいと思う。1対1で揉めても、多数決で決められるから。

REI：結成当時から現在までに、メンバー間で変わったことはありますか？

橋口：昔はみんなでスタジオにこもってアレンジしてたんだけど、あるタイミングから誰か1人が最初から最後まで完結させる方法に変わりました。そのおかげで音のバリエーションやバンドの幅が広がったし、それは結成当時では考えられないやり方ですね。あと、僕は歌詞先行になった。ずっと曲先だったんだけど、今は伝えたいことを優先しようと、「別の人の彼女になったよ」あたりから詞先です。

U：先に歌詞を書いて、メロを橋口さんが作ったあとの作業はどう進めているんですか？

橋口：みんなに聞かせて、アレンジしたい人に挙手してもらってます。誰からも手があがらなかったときは僕が押し付ける（笑）。そういえば、THE BEAT GARDENの作曲のクレジットは“THE BEAT GARDEN”だよね。

U：それぞれが作ったものに責任を持つ意味でメンバーのクレジットにしていた時期がありましたが、THE BEAT GARDENの名前をもっと知ってもらいたいという気持ちがあるので、実は個人で作っていたりするんですが、「Start Over」から作曲はTHE BEAT GARDEN表記にしています。

MASATO：僕からも質問いいですか？　僕は温かい曲を作るときはアコギ、ピアノソングを作りたいときはピアノで和音を弾いたりと、作りたい作品に合わせて楽器の種類を変えるんですけど、橋口さんは何か工夫されていますか？

橋口：基本アコギが多くて、たまにピアノでも作るけど、和音が決まってくるし、アレンジをすればするほど装飾になってしまう曲もあるから、バラードとかはアコギで作るのが一番よかったりする。

MASATO：好きなコードはありますか？

橋口：ハーフディミニッシュが好きで、それが1個入ると切なさが増すんだよね。「あかり」だと、＜あの瞬間からずっと＞のところ。一気にノスタルジックになる場所には大体ハーフディミニッシュを入れているパターンが多いです。MASATO君の好きなコードは？

MASATO：add9が好きです。（入れるだけで）こんなにも変わるのか、って思います。

橋口：add9はいいよね。簡単だし、普通のメジャーよりも少し鳴りがそれっぽく聞こえるから、普通のメロディーもよく聞こえるみたいな。ちなみに、いいメロディーが浮かぶ時間は朝、昼、夜いつですか？

U：僕は夜にお風呂に入っているときが多いです。朝シャンだとダメなんですよね。

REI：朝、目覚めた瞬間が一番クリアで、フラットに物事を考えられるので、クリエイティブな時間を過ごす時間は朝です。

U：REIは夜11時くらいに寝て、朝7時くらいに起きるんですよ（笑）。

橋口：早い（笑）！

U：朝ご飯食べてからピアノを触るの？

REI：僕はピアノを弾いていないとメロディーが出てこないので、まず（ピアノを）触ることを日課にしています。お昼くらいまでに鼻歌でもいいからとりあえずメロディーを生むようにしているので、朝昼兼用でご飯食べてます。

橋口：へぇ～。MASATO君は？

MASATO：僕は朝とか夜とかあまり関係ないですね。作りたいテーマを思い浮かべながら一週間を過ごしてます。常にボイスレコーダーを携帯していて、録っては「これ、違うな」というのを繰り返してます。

U：橋口さんのスタイルは？

橋口：僕も最初の1音とかキャッチフレーズになるもの、1小節目や2小節のメロディーを常に考えていて、それをまとめるのは全部朝。僕、朝6時くらいに起きるから、この中で一番おじいちゃん（笑）。朝ごはんは食べますけどね。

THE BEAT GARDEN：ハハハ（笑）！

U：僕、wacciの「運命じゃない人」が大好きなんです。橋口さんが書く曲には毒っぽい部分があると思っていて、あの曲はどうやって作ったんですか？

橋口：あの歌の主人公って、すごくダサいんですよ。「神様、変なアドバイスをこの子に送るな。とにかく気付かせるな。世の中にはいい男がいるということを彼女に気付かせるな」と、エゴを丸出しにしてて。俺は実体験じゃなくて、全部フィクションで書いてて、そんなひどい男でも付き合ってくれる女の子の良さを、絵を描くように書いてます。

U：この曲には男性がうなずく部分が結構あると思うんです。モテる、モテないは置いといても、誰もがあの感情を理解できるというか。

橋口：うん。俺、この曲が一番男ウケする曲だと思ってて、もっと男性にも聞いてほしい。

MASATO：僕は「東京」がすごく好きなんですけど、あの曲もフィクションですか？　弱い気持ちも綴りながら「こうはなるなよ。でも大丈夫だよ」って寄り添ってくれる曲で、どんな状況の人も共感できる曲だと思ってます。

橋口：ありがとうございます。恋愛ソングにおいてはフィクションが多いんですけど、「東京」はフィクションではないですね。ああいう人生観を描いた曲には自分が感じたことを入れるようにしてる。「東京」に限らずだけど、大勢の中にいるからこその孤独ってありますよね。この歌はインディーズ時代に書いた歌で、この歌が自分の目標にもなっていて。「この歌を超える歌をいつか」という思いを持って、曲の半分以上は書いてきたところがあります。自分にとっても大事な曲であり、いつまでもあの歌が俺に先輩風を吹かせてくる。そういう位置に君臨している曲を見つけてくれて、すごく嬉しいです。

REI：ライブについてお聞きしたいんですが……僕たちは元々打ち込みサウンドの楽曲でお客さんと一緒に盛り上がるライブをしていたのですが、徐々にメッセージ性の強い楽曲にシフトしていって、伝えたいことが増えると、盛り上がってくれたかじゃなくて、伝わったかどうかで、その日のライブの出来を考えるようになりました。橋口さんが「今日のライブはよくできた」と思える要素はなんでしょうか？

橋口：REI君の言いたいこと、めっちゃわかるし、俺もその答えがわからない。wacciはお客さんに伝わってほしい曲だらけなんだけど、フェスは盛り上がったり、踊ってくれたりした分だけ達成感もある。ライブの善し悪しがどこで判断できるのか、もはやわからないよね。踊って楽しかったという爽快感もあるし、大変な思いや日々を過ごしている人がライブに共感したり、心が洗われたりする人もいるでしょうし。お客さんの声や表情から汲み取って、いつも応援してくれる人に少しでも多く、いいライブを届けられたらいいよね。

「曲を聞いて浮かんだ絵も楽しんでほしい」

――橋口さんは事前にアルバムを聞いてきてくださったそうですね。

橋口：めちゃくちゃよかったです。どの曲も好きですけど、それぞれ思い入れのある曲はありますか？

REI：僕は「夏の三角関係」ですね。夏のドライブソングを作りたいと思っていて、明るい中にも切なさや哀愁感を入れようと、温かさの出るエレピを使ってメロディーを考えていきました。歌詞はUさんが三角関係にちなんで書いてくれて、歌詞にもあるようなバックミラー越しの様子など、彼女のことが気になって、やきもきしてる主人公の思いを受け取ってほしいです。

橋口：軽快でカッティングもめっちゃ気持ち良かった。サウンドやメロディーのベーシックはREI君が作ったの？

U：REI君です。

橋口：歌詞の切なさとのバランスがすごく良くて、アップテンポで楽しくも聞けるから、最終的にいい意味でさらっとあの状況が受け止められたし、主人公がいつかこの経験を過去の笑い話にできたらいいなって思える明るさに救われた。「俺のほうが一途なのに、なんであいつを？」なんて、なかなか言えないよね。MASATO君はある？

MASATO：僕は「ラブレター」ですね。環境とか文化、愛をテーマに、2年ほど前から作家の友達と2人でいろいろ形を変えて作ってきた曲で、ずっとそばにいてくれた、当たり前のように思っていた本当に大切な存在にちゃんと愛を伝えようということをUさんが歌詞にしてくれたときに、愛というものをたくさん考えて作ったメロディーが、ここにたどり着いたことにすごく腑に落ちたんです。本当に苦しかった期間があってこそ気づけた愛、大事にしないといけないものを、この曲に教えられました。

橋口：めっちゃいい話。それこそ「心音」もコロナ禍で奪われたものがあったけど、それでも捨て切れなかった思いや未来みたいものが描かれていて、こうやって今3人が前を向けているのは、それが本当に大事なものだったから、というメッセージがあるよね。このタイミングで気づけた愛や身近な人に届ける愛を最後に「ラブレター」で伝えていて、アルバムの締めとして、とてもいいと思いました。サビの頭のメロがめっちゃ好きで、名曲だなって思ったよ。

MASATO：橋口さんにそう言ってもらえて本当に嬉しいです。

橋口：U君は？

U：僕はこのアルバムで「僕の立ち位置はここでいい」とはっきり思えるようになりました。自分が作った曲が思うように認知されなかったり、届かなかったりする経験がインディー時代からたくさんあって、ずっと迷いながら曲を作ってきたんです。でも「Start Over」で、「苦しい中でも立ち上がるんだ。うまくいっていないけど、それでもやっていくんだ」という自分自身を見せることができたと思っていまして。『Bell』は、うまくいかないけど、それでも頑張っていきたいという自分のポジションを見つけてくれたアルバムで、迷うことなく書けたことが嬉しかったです。橋口さんが僕ら3人のことを考えて「あかり」を書いてくださって、自分たちが歌うことに違和感が全くない曲に仕上がって、本当によかったです。このままで僕は大丈夫なんだと思えるアルバムになりました。

橋口：そんなアルバムの中に「あかり」を入れてもらえて嬉しいです。自分のマインドと筋が通るアルバム制作ができるって、すごくいいことだよ。僕はこのアルバムの「それなのにねぇなんで？」が、言葉選びも含めて、すごく好き。価値観のずれというか、単純に好き度のずれを描いていて、嘆きの中に核心を突く言葉がたくさんあって、こういう曲ってなかなか書けないから。

――「あかり」がリスナーにどう届いてもらいたいですか？

U：この曲はもう誕生日におめでとうと伝えることができない人を部屋でひとり思い浮かべている男の子の歌です。誕生日にはハッピーなイメージがありますけど、そうじゃない誕生日もたくさんあると思うし、そんな人に寄り添ってあげられる楽曲を、橋口さんが書いてくれました。僕らはそういう思いを込めて歌っているので、寂しかったり、苦しかったりする誕生日があったら、ぜひ「あかり」を聞いてください。

橋口：3人の歌声を想像しながら、3人が作ってきた世界観にもしっかり寄り添う形で、この曲を作れたと思っているので、ぜひともたくさんの人に聞いてほしいです。さっきMASATO君が言った東京の話で言えば、この曲には東京というワードも入っています。東京の光の中で離れ離れになってしまった女の子がどこかで幸せに暮らしてるのかな、と思う切なさも、この3人だからこそ作れる世界観だと思うので、曲を聞いて浮かんだ絵も楽しんでほしいです。

～橋口との対談を終えて～

U：橋口さんが詞先で書かれているとおっしゃっていましたが、僕は先に歌詞を書くのが難しくて。今日の会話のなかで、橋口さんの言葉のボキャブラリーの多さや人柄、言葉の節々から、まさに言葉を紡ぐ方なんだと感じました。素敵な答えをたくさんくださって、嬉しかったです。

REI：普段からwacciさんの曲を聴いていましたし、作り手として、「あの曲はどう作られたんだろう？」と気になっていたので、橋口さんから制作の裏側を聞くことができて、とても勉強になりました。

MASATO：リスペクトするミュージシャンの方に自分たちの音楽を知ってもらえていることが知られて、本当に嬉しいです。自信に変わった瞬間でもありましたし、「あかり」がこれからのTHE BEAT GARDENの音楽に間違いなく影響する曲になっているので、自分たちもワクワクできる時間でした。