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<特集>BTS SUGAが世界を旅しながらミュージシャンと交流し、アルバムを完成させるまでを描いた『SUGA: Road to D-DAY』



コラム

Text:尹秀姫

 2016年に初めてAgust D名義で発表したミックステープ『Agust D』、そして2020年に第2作となる『D-2』を世に出したBTSのSUGAが、2023年4月21日にニュー・アルバム『D-DAY』をリリースした。そのアルバム制作と重なるように音楽の旅に出た彼の軌跡を追ったドキュメンタリー『SUGA: Road to D-DAY』が、ディズニープラス「スター」で配信されている。

 「やりたいことがないのが悩みです」――ドキュメンタリーはSUGAのため息交じりの言葉から始まる。BTSとして、世界的なトップアーティストの仲間入りを果たし、目まぐるしく世界中を飛び回り、アメリカでのスタジアムツアーも成功させた。そんな彼が、「たくさんの夢を叶えてしまったから、そのせいで忘れてしまったのか」とつぶやき、曲が書けなくなったと悲しそうに語りだす。そうして彼は旅に出た。このドキュメンタリー『SUGA: Road to D-DAY』は、Agust Dのミックステープ3部作の最後の作品『D-DAY』の制作過程を記録したものでもあり、彼が再び情熱を取り戻すための音楽の旅でもある。


©2023 BIGHIT MUSIC & HYBE. All Rights Reserved.

「結局は人」
音楽作りの道で出会った良き友人たち

 ラスベガスを訪れたSUGAは、スティーヴ・アオキの自宅に招かれ、彼のスタジオを見学する。スティーヴといえばアメリカでいち早くBTSの才能を見出した人物。そんな彼の家は、至るところにBTSのイラストやポスターが飾られていて、本当にBTSを愛していることが伝わってくる。彼の白くて明るいスタジオはSUGAにとっては新鮮だったらしく、次にラスベガスに来るときはこのスタジオでやりたいと言うほど気に入った様子。お互いの曲を聞かせあって、意見を交わすのもミュージシャンならではの交流だ。アオキが語るSUGAへの「音楽の天才」「常に先のことを考えている」という評価は、彼を知る人にとっては大きくうなずけるものだろう。そしてその才能は、彼がもがき苦しみながら研ぎ澄ませてきたものだということが、このドキュメンタリーでもよくわかる。

 ラスベガスの旅の最後にはレッドロックキャニオンを訪れ、その岸壁に立つ。小学5年生の時に家族で海外旅行をして以来、旅行は初めてだというSUGA。「長期休暇でもどこにも行かずアルバム作業をしていました。なぜ自分で自分の行動を制限しているのか」と、旅に出てあらためて自分がどれほど自分を窮屈に押し込めていたのか感じ始める。


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 マリブではホールジーの家に遊びに行き、スマホの画面を見せながら他愛もない話に興じる。ホールジーとは「Boy With Luv」でコラボしているが、その後、彼女の指名によりSUGAが単独でコラボした楽曲「SUGA’s Interlude」も発表された。いつも斬新なファッションやヘアスタイルでおなじみの彼女がこの日にしていたのは、小さく束ねたちょんまげを頭にいくつも作った独特なヘアスタイル。そんなホールジーが手ずからSUGAを自分と同じ髪型にしてみせ、思わず爆笑する場面も。SUGAは、アメリカでトップクラスのシンガーソングライターである彼女が、いい意味で“同じ人間”だと感じられたと明かす。「(自分たちを)理解して認めてくれる、そんな人たちのうちの一人」であり、「言語は違うけど心は通じ合う」と笑顔を見せた。

 続いて会いに行ったのは、アンダーソン・パーク。BTSの大ファンであることを公言し、コラボしたいと熱烈アピールしていた彼は、2022年6月、念願かなってBTSのオンライン配信に出演したことで話題に。「初対面で額にキスされた」と告白したSUGAに「酔ってたんだね、ミアネ(ごめんね)」と韓国語まじりの言葉で茶目っ気たっぷりに謝罪し、終始笑顔でフレンドリーな彼は、見ているだけで人の好さが伺える。スタジオにあった韓国焼酎を一緒に飲みながら意気投合し、「フィーチャリングしたら楽しそう」というSUGAの提案で、急遽フィーチャリングすることになった。


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 今回IUをフィーチャリングした「People Pt.2」がアルバム『D-DAY』に先だって公開され、話題になった。2020年にIUの「eight」にSUGAがプロデュースとフィーチャリングで参加して以来の2度目のコラボで、ファンが早速も喜びの声を上げている。SUGAにとってIUは同い年の友人で、音楽面においても「頼んだことをすぐ形にしてくれる」頼もしいシンガー。先日、IUの公式YouTubeチャンネルのトーク番組「IUのPalette」にゲストとして招かれたSUGAは、二人の出会いや『D-DAY』の楽曲など、さまざまなトークを繰り広げた。『D-2』収録の「People」に続く「People Pt.2」は、実は「eight」よりも前に書かれていたが「3部作の最後を飾る曲として大事に残していた」ことがSUGAの口から明かされている。互いに痛いところをついたり、冗談を言ったりして場を和ませているシーンが多くあり、楽曲制作の裏側が引き出されているのは、5年以上の交流を持つ両者だからこそ。胸中を明かせて、理解もしてくれる相手との信頼関係が、人々の心にしみる良作を生み出す制作作業をスムーズにさせることもわかる。

創作の葛藤と苦しみ
アーティストSUGAの音楽の作り方


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 曲を作りながら、SUGAの音楽に向き合うスタイルも明かされていく。ミュージシャンの寿命は短く、音楽の流行のサイクルは早い。そのことを知っているからこそ「作り続けなければすぐに忘れられてしまう」と笑ってみせるが、そんなところにSUGAのリアリスティックな一面を見ることができる。フィーチャリングをする時には相手の求めるスタイルを確認すること、自分がプロデュースした曲に関して実力を見せたいという気持ちがあること、そんな様々な気持ちを抱えながら、曲は生み出されていく。

 時は少し戻って2020年の春川(チュンチョン)、電車のコンパートメントのような狭い空間で作曲をするSUGAの姿が映し出される。そこにJIMINがやってきて、当時作曲していた「AMYGDALA」を聞かせる。“扁桃体”を意味するこの曲は、SUGAの体験談が込められたメッセージ性の強い楽曲。「作業中はかなり感情が揺さぶられたよ」と明かしつつも、「嫌な記憶を思い出す必要がある。だけど実はそれこそが治療の大事な過程なんだ」「嫌な過去を思い出して扱い方を身につける」ことが必要だというメッセージが込められている。


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 そして作曲に行き詰まったSUGAは、平昌で作曲合宿を敢行。これは、SUGAの音楽人生で初めての試みで、それだけ切羽詰まっていたとも言える。音楽仲間とともに曲作りがしたくて、結果的に「遊ぶだけになってもいい」というくらいの気持ちで臨んだ合宿だったが、たくさんの人に囲まれながら一緒に作業するうちに、次第に制作に熱が入っていくのが見ていてわかる。ギターを鳴らし、キーボードを叩き、マイクの前で歌い、歌詞を書き、疲れたらソファで眠る。気負わず、遊ぶだけになってもいいという思いで始めたにもかかわらず、結局は曲作りに邁進するSUGA。インタビューでは「会社員の気持ちで曲を作ってます」と、曲作りへのスタンスを明かす。


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 また、SUGAにとっての曲作りはある過程に似ていると驚きの比喩を語る場面もあった――アイデアが生まれたら、まずは「排泄」のように全部出し尽くし、そのあと良い音楽として要素を冷静に整理していくのだ。「それを世界に浸透させるのが僕の役目」だとSUGAは理解している。合宿をしている間中、楽しそうに仲間と音楽の話をしていたように、SUGAにとって音楽とは今でも1日に多くの時間をつぎ込み、夢中になれるもの。その一方で、音楽が仕事になってしまっている現状にしんどさも感じているという。それでも音楽を続けているのは、「僕やBTSのファンが待ってると思うから」と、自分の心のうちを隠さず正直に明かす。

アルバム『D-DAY』の原点
SUGAの音楽作りの原動力


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 「最近インターネットは見てません」というSUGA。現代人は多くの情報が簡単に手に入って、常に誰かと比べられながら生きるのは自由であり、窮屈でもある。アルバムのタイトルはそういったことから開放される日であるようにという意味で『D-DAY』と名付けた。曲を作り始めた頃は誰かと比べることが原動力になっていたけれど、今ではそれがしんどくなってきた、“ネガティブな思考から開放される日”がアルバムの原点であると語った。

 そして「不安は友達です」とさらけ出すSUGAの姿も。アルバムに収録されている曲の中でも「Haegeum」の制作は大変だったと振り返る。タイトルの「Haegeum」は楽器のヘグムでもあり、韓国語で解禁を意味するヘグムでもある、いわゆるダブルミーニング。これまで活動してきながら、ささいなことでも怒られる現状に納得ができなくてどう受け止めるべきか悩んだことから、「禁止を解除したかった」という意味が込められているという。一方で、クリック1つでどんな情報も得られる時代になり、想像すること、考えることがなくなった。そんな情報社会からの解放も意味しているのだと。「人は不確かな未来を恐れる。変えられない過去に苦しめられますが、現在だけは自分でコントロールできる。だから今に集中しようと伝えたかった。過去は過去、現在は現在だし、未来は未来です。過度な意味付けは苦しくなるだけ」というメッセージには、自身の体験と、それをもとにたどり着いた思想にも似た思いが感じられた。


 昨年秋、東京を訪れたSUGAは、「以前、忙しくて会えなかった方と会えることになった」と緊張した面持ちでとある一室へ……。そこには先日、亡くなられた坂本龍一さんの姿が。握手する手に片手を添える韓国スタイルでSUGAと握手を交わす坂本さんは、自身のレコードと楽譜を「お土産に」と手渡し、対談が始まる。以前から坂本龍一さんの音楽に多大な影響を受けたと語ってきたSUGAだが、その原点は故郷である大邱で観た映画『ラストエンペラー』だったそう。音楽を始めてからは、サンプリングでもよく坂本さんの曲をよく使っていたとも。

 長年、音楽活動を続けている原動力について尋ねたり、坂本さんの音楽にインスパイアされて作ったという曲を披露したり、逆に坂本さんからはグランドピアノを弾きながら7つの音階の不協和音と調和の取れたハーモニーについての講義があったり、年齢差はあれど同じく音楽を愛する者として、音楽にまつわる話は尽きない。対談が終わって、「年を取っても音楽を続けたいです。50代、60代になっても。どんな姿になっているか楽しみですね。ミュージシャンと話すのは毎回楽しいです。坂本さんは父よりも年上ですが、こういう対話ができたことが光栄でしたし、最高でした。このために来日したんですよ」と笑顔を見せた。そんな坂本さんとコラボした曲「Snooze」も、アルバム『D-DAY』には収録されている。


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 最後に「僕の数万の思考を整理して歌詞にしています」と語るSUGAは、「自分としては満足しています」「評価は聞く人がするもので、時が経てばわかります」とも。こうして世界を旅してできあがった『D-DAY』は、本人が語ったように、今のSUGAの考え、思い、伝えたいこと、自分の体験、すべてを注ぎ込んで完成した、いわば彼の20代の集大成であり、始まったばかりの30代への不安と期待の表出でもある。4月26日から開催される、このアルバム『D-DAY』を引っさげたワールドツアーではどんな世界を見せてくれるのか楽しみにしたい。


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