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<インタビュー>LMYK 別れと繋がり、負荷と楽しみ――表裏一体の事象へ思考を巡らせた1stアルバム

インタビューバナー

Interview & Text:矢島由佳子
Photo:矢倉明莉


 TVアニメ『ヴィンランド・サガ』『ヴァニタスの手記』のエンディング・テーマなどを担当し、世界中のリスナーとつながるLMYK。2020年11月のデビューから2年4か月が経ち、ついに1stアルバムを完成させた。本作『DESSERTS』は、ジャネット・ジャクソン、マライア・キャリー、宇多田ヒカルなどを手掛けた世界的プロデューサー・チームのジャム&ルイスが参加。LMYKが18歳以降に巡らせてきた、人間の生と死、喜びと苦しみなどに対する思考を、音に導かれるように形にした12曲が収録されている。それらはポップスとして仕上がっていながらも、商業音楽とは異なる手法で生み出された特異性があり、人間が普段認識しがたい心や思考の海原へと連れていってくれる貴重な音楽作品だ。このインタビューでは、そんなLMYKの音楽が湧き上がってくる源泉の在処について聞かせてもらった。

“生きている”ことへの問い

――1stアルバム『DESSERTS』を完成させて、この12曲に通底しているもの――つまり、音楽を作る上でLMYKさんが根本的に大切にしているものや、自分の作る音楽に自然と溢れ出るLMYKらしさとは、どういうものであると自覚されていますか。

LMYK:生きている、ということ。それを問う。時間の儚さというものを常に感じているかもしれないです。生きていることへの疑問と、儚さ。そういうものが自然と音楽に入ると思いますね。あと笑いは好きです。関西出身だからかわからないですけど(笑)。


Photo:矢倉明莉


――LMYKさんの遊び心が、アルバム全体の中にいいバランスで効いてますよね。そうですよね、「生きるを問う」。自分の内面に目を向けて、他者にも目を向けて、他者を見つめることでまた自分自身を理解する。そういう循環みたいなものが12曲それぞれで描かれているように思いました。他者がいてこそ自分を知る、という感覚はLMYKさんの中で強いのですか。

LMYK:自分と他者という極端な関係性において、まったく同じものだと思う一面と、まったく違うと思う一面があります。「別れてる」と「繋がってる」という、両方を感じるかもしれないです。物理的に離れていても、共通しているものが多い。それは目に見えなくて、私たちの想像がつかない、わからない……不思議だなと思います。



Photo:矢倉明莉

――LMYKさんの音楽は、人間がまだ言語化できていないし科学でも証明しきれないような、私たち人間が理解していない感情の動きや世の摂理みたいなものを音で繊細に表現されている印象があります。そういったものを表現しようという感覚は、LMYKさんの中で大事にしているものですか。

LMYK:音は多分、自然とそこへ連れていってくれるんだと思います。音を鳴らすと、別世界ですよね。言葉にできないものだったり、存在の根底にあったりするようなところへ、音が連れていってくれる。思考が追いつけないところ、かもしれないです。言語はやっぱり「固める」ので。思考のあいだにいる、という感じですかね。音を鳴らすと自然とそこへ行くと思います。


――思考や言語になる前の、フィーリングや現象、存在の根底のようなものに音で接続できる感覚というか。最初に言ってくれた「時間の儚さ」については、なぜそれが自分の中でひとつの大きなテーマになっているのだと思いますか。

LMYK:生と死、というものを考えさせられます。人間のあっけなさ。強いのか弱いのかわからない。両面持っている。脆いんですけど、力強さもある。時間の流れ方も、何をしているかによって感じ方が違いますよね。


――全然違いますね。そうして時間の流れや生と死について考えるようになったのは、何か理由がありますか。

LMYK:そうですね。私は18のときに母を亡くしているので。そのときにすごく衝撃だったと思います。死というのは、どれだけ自分にとって大事な人かによって受け止め方も違うと思うんですけど、絶対にかけがえのないものがなくなったときって、自分の一部もなくなるから。それだけインパクトが大きかったり感情を揺さぶられたりするんじゃないかなとは思います。


――それがLMYKさんにとって、音楽を作る上で心や手が動く大事な要素のひとつになっていたんですね。

LMYK:そうですね。その数年後から音楽を始めているので、もしかしたら関係しているのかなって。自分の中で溜め込んでいたものがそうなっているのかなと思います。



Photo:矢倉明莉

――LMYKの音楽って、なんというか、作為的なものや戦略的なものを感じなくて。一口食べたらパンチがあるような味付けがコントロールされているわけではなく、作り手自身の心の震えに従って手を動かしてできあがった音楽という印象があるんですね。

LMYK:今自分にとって必要なものを作っているんだと思います。自分の中で感じていて言語化できないものを表現したり、これを聴きたいと思うものを作っていたり、というのはあると思います。


――現実社会とは違う世界から何かを下ろしてくれているような感覚もあって。たとえば「ソラカラ」では〈ないものはなくてもいい/貰い物には文句は無い/そのままでやれると気付けたその時に/ソラカラ降る〉と歌っていますよね。

LMYK:これはいちばん古い曲ですね、2017年くらいの曲。「空」というものと、私たちにわからない「空の向こう側」という領域。それらと繋がるけれど、わからないという気持ち。〈ソラカラ降る〉とかは自分でも意味がわからないけど、しっくりくるのでそれでいいかなと。作品として作るときは、はっきり意味がわかるところと、なんとなく好きだし曲として成り立つし、というもののコンビネーションですかね。


――5、6年前、どういうことを考えていたのかは覚えていますか。

LMYK:今自分で客観的に見ると、強がりだなと思います。自分から自然と出た言葉なんですけど、あとから読むと強がりだなって。でもそれが自分らしいなと思います。〈わかってる〉っていうのが強がりであることもわかっているし、〈なくてもいい〉〈文句は無い〉とかも。本当はどう思ってるんだろうって、自分で思います。



Photo:矢倉明莉

――「Weak」も時系列でいうと古くからある曲だと思うんですけど、それとは真逆の表現だといえそうですか。

LMYK:「Weak」は、そうですね。すごく正直。もう「弱い」ということを堂々と言っている感じです。でも「弱くていいのかな」という疑問がある。


――音楽の中で表現されているLMYKさんの哲学は、たびたび真理を突いてくるようなところがあって。「ソラカラ」もそうだし、「Little bit lonely」のブリッジとかも。

LMYK:ブリッジのところは結構、普段から考えていることですね。人間の苦しみは、どこから来ているのか。なんで苦しいと感じるのか。「苦しい」と「つらい」、「しんどい」の違いとか。自分の命を奪うのは生物の中で人間だけで、それを選ぶということの苦しみ――人の行動の裏にある感情と、その感情がどこから来ているのかに、すごく興味があります。



Photo:矢倉明莉

――LMYKさんにとって、自分の中で出た結論を曲にするのか、もしくは思考の巡りをそのまま音にするのか、それとも誰かを肯定したいという気持ちなのか、あえて言うなら音楽を作るときの感覚はどれが近いですか。

LMYK:今3つ言われて……全部感じながらやっているのはすごくあります。多分、自分を肯定することは他者を肯定することでもあるので。自分にとって大事な人を考えながら書くことも多いですし、自分の中で一生結論が出ないだろうなと思うことや、言語化できないけれど感じていることを音楽にしているし、あとは自分の中で結論が出てると思っていることも――それが結論じゃないのかもしれないですけど。答えがなくてもいいことに、自分の中で答えを見つけたので、もしかしたら誰かが同じようにそれを答えと感じてくれるかもしれない、と思ってやっているんですかね。


――そういった思考や心の巡りが、もちろん言葉だけでなく音にも表れている。それは最初言ってくださったように、音が無意識のところと接続して、その状態で心が震える音を選んでいるから、ということだと思うんです。普段は音先行で曲を作られていますか?

LMYK:歌詞を書いているノートがあるんですけど、トラックメイキングから始めて、「このトラックに、前に言いたかったあの歌詞が合うな」というところで組み合わせます。なのでトラックから始まっているとは思いますね。トラックを作るときは、サウンドを探したり、好きな音から作ったりすることが多いです。自分に響くもの、好きなものを、プラグインを買ったりエフェクトを変えてみたりしてインスパイアされるというか。



Photo:矢倉明莉

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ジャム&ルイスとの制作作業、インスピレーションの根源

――今回の楽曲に関しては、デモから仕上げていく制作作業をLAでやられたんですよね。

LMYK:去年の4月と6月に2週間ずつLAへ行って。書いていたデモを持っていって、ジミーさんとテリーさん(ジャム&ルイス)と一緒に完成させていったことが思い出深いです。それまで散らばっていたひとりで作ったデモが、そこで一気に完成に近づきました。

――たとえば「Smiley」「Tendency」とか、日本語と英語、さらには韓国語まで組み合わせて韻を踏んでいくのが気持ちいいですよね。それはどういったところからインスピレーションを受けていますか。

LMYK:幼少に聴いて定着している音楽で、「この韻の踏み方、気持ちいい」というのがあるんだと思います。どの曲かはわからないですけど。宇多田ヒカルさんはよく聴いていたし、そういう洋楽の影響を受けた邦楽ですかね。


――ちなみに、デビュー時のインタビューではアンビエント・ミュージックが好きだと話してくれていましたけど、それは昔からでした? それとも18歳以降?

LMYK:多分、以降だと思いますね。幼少期はポップスが多くて。存在のことを考えたり、自分と向き合ったときに、枠から外れた自由な表現や、感情に素直な表現の仕方を追求したいと思うようになったんだと思います。



Photo:矢倉明莉

“負荷”と“楽しみ”は常に表裏にある

――では、このアルバムに『DESSERTS』というタイトルをつけた理由は?

LMYK:有限のものとして生きる上でかかる負荷を解消しようと。その負荷を解消するということは、「生き延びる」ということだと思うんです。その中で、喜びや悲しみという、みんなと共有できる感情が生まれる。その感情を正直に表したアルバムだなと思って(付けました)。それと、感情が生まれる根本を問う気持ち。表面にある「感情」と、その「根本」を問う気持ちが、アルバムの全曲に表現されていると思っていて。『DESSERTS』は、負荷を解消しようとする人それぞれの楽しみや喜び、自分にとって負荷が解消される甘いもの。逆から読むと「STRESSED」なんですけど、負荷や痛みとそれを和らげるものは常に表裏にある。それらがあって今ここで維持できているなと思います。


――LMYKの音楽は生きる気力に溢れていると私は感じ取っているんですね。それは、今日話してくれたような思考の巡りから「生きたい」という想いが自然と音に出ているから、ともいえるのでしょうか。

LMYK:苦しみがあるからこそ人生は美しいなと常に思っているので、多分、それが出ているのだと思います。その両方をすごく感じます。「苦しい」から「美しい」、という関係性はありますよね。有限なものの儚さに美しさを感じるのかなとも思います。たとえば五感が美しいなと思う。感触とか、音が鳴るとか、そういうのは常に人生の美しさだなと思います。


――五感で感じられるものって、とても儚いですよね。しっかり自分で認識しないとすり抜けていきますし。

LMYK:思考って、先に行けますし、後ろにも行ける。だから人間は生き延びることもできると思うんですけど。想像で曲を書いたりアートを作ったりすることもできるし、逆に先を考えると死の危険を予防することもできる。それは人間にとって……英語では、「gift and curse」って言います。強みでもあり、弱みでもある。



Photo:矢倉明莉

――人間に与えられた贈り物であり、呪いでもある、と。今日話してくれたことを作品にした『DESSERTS』というアルバムは、LMYKさんがこれからも生きていく上で重要な形あるものになったのではないかと思いました。それが聴き手にとっても貴重なものになっているし、話を聞けば聞くほど、LMYKさんが音楽を作ってくれていて本当によかったなと思います。

LMYK:私も、音楽を作るという行為に出会えてよかったなと思います。アルバムには、この5年、その時々に正直に表現したかったものが詰まっていますね。きっと今後も変わらない自分らしさも出てますし、そのときにしか感じられなかったものもあると思います。そのときの考えは全部自分にとって貴重です。5年の中で書いた、ここに入ってない曲もいっぱいあるので、それも完成させていきたいですね。もっと出していきたいです。



Photo:矢倉明莉

LMYK「DESSERTS」

DESSERTS

2023/03/29 RELEASE
ESCL-5755 ¥ 3,300(税込)

詳細・購入はこちら

Disc01
  1. 01.0 (zero)
  2. 02.Unity
  3. 03.It’s so fun
  4. 04.Without Love
  5. 05.ソラカラ
  6. 06.Little bit lonely
  7. 07.Smiley
  8. 08.Tendency
  9. 09.Nature-Nature
  10. 10.Weak
  11. 11.Square One
  12. 12.I’ll take it

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