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<インタビュー>BURNOUT SYNDROMES 海外公演での学び、そして“世界”へ飛び立つための3人のビジョンとは
Interview & Text:沖さやこ
昨年、自身初のワールドツアーを行ったBURNOUT SYNDROMES。そんな彼らが、『ハイキュー!!』や『Dr.STONE』などこれまで担当してきたアニメ主題歌を1枚にまとめたベストアルバム『The WORLD is Mine』をリリースした。同作には「FLY HIGH!!」の英語詞バージョン、インディーズ時代の楽曲を洋楽スタイルにリアレンジした「The WORLD is Mine」、FLOWとのコラボ楽曲「I Don't Wanna Die in the Paradise」、和楽器をフィーチャーした「若草山スターマイン」を「Mt.Wakakusa Starmine」と改め収録するなど、海外と日本、それぞれの文化を踏襲した楽曲も揃う。3人はアニメ主題歌やライブを通じて、世界へどんな音楽を発信したいと考えているのだろうか。海外で得た知見や、現在のモードを語ってもらった。
海外公演で見えた“世界”
――『The WORLD is Mine』はタイトルをはじめ、明確に“世界”を見据えた内容が特徴的だと感じました。皆さんが初の海外公演をフランスにて行ったのは2017年12月ですが、なぜこのタイミングで世界を標榜なさったのでしょう?
熊谷和海(Gt. / Vo.):はっきりと海外を視野に入れていきたいと自覚したのは、2022年の経験が大きいですね。9月以降、月1ペースで国外でのライブをしていたんです。
廣瀬拓哉(Dr. / Cho.):これだけ海外のフェスから注目していただくのも、コロナ禍をきっかけに日本のアニメを観る方も世界中で増えたからだと思っていて。アニメは、ドラマや映画と違って1本20分ちょっとで観られるのも、時代に合っていた気がしています。
石川大裕(Ba. / Cho.):実際、YouTubeのチャンネル登録者数がグッと伸びたり、Spotifyの月間リスナーが100万人を超えたりするようになったのは、2020年の夏あたりからなんです。日本にいるとそんなにたくさんの方が聴いてくださっている感覚はなかったんですけど、海外でそれを実感しました。そういう意味でも、海外から求められているというのは前々から数字には表れていたのかなと思います。
熊谷:海外から見た日本って、本当に「アニメ」なんです。去年出演したサウジアラビアの【Riyadh Season 2022】は世界各国の代表的な文化をフィーチャーした万博みたいな催しで、スペインは闘牛、アメリカはキングコング、日本は渋谷とアニメがフィーチャーされていたんです。サウジアラビアの王族が日本のゲームやアニメが好きなのもあるんですけど、割とどの国に行っても、「日本と言えばアニメ」という印象らしくて。アニメは我々から見たハリウッドや、アルゼンチンのサッカーみたいな存在なんですよね。
――なるほど。とてもわかりやすい例えです。
熊谷:だから、日本のアニメの主題歌を何曲もやっているアーティストはより興味を持ってもらえるみたいです。でも現地のエージェントの方から「いくらアニメの主題歌をたくさん担当しているからって、こんなに海外から呼ばれるアーティストはなかなかいないよ」と言ってもらって、その時に、このバンドの音楽は海外の人たちに何かしら引っかかるものがあるんだろうなと感じたんですよね。
――BURNOUT SYNDROMESは、海外の人々の感性にフィットする音楽を実現させていると。確かに、インディーズ時代から、ロックにとらわれない音楽性を追求しているバンドだと思います。
熊谷:アニメ主題歌ではロックサウンドが好まれることも多いですけど、もともと私は和楽器を取り入れた曲やEDM調の曲といった、ロックバンドの枠にとらわれない音楽をやりたいタイプですし、実際にそういう曲を持っているぶん、海外で受け入れられるんだと思います。歌詞の内容ではなく、しっかりサウンドで世界と戦うことができている。それを海外のライブで感じるんですよね。
――とはいえ、歌詞もBURNOUT SYNDROMESの持ち味ですよね。熊谷さんの物語性に富んだ歌詞はインディーズ時代から評価されていますし、FLOWとのコラボ曲「I Don't Wanna Die in the Paradise」には〈世界に名を馳せたい〉など、強い決意と闘志を感じました。
石川:僕らふたりも、熊谷の歌詞は昔から変わらず大好きなんですよね。
廣瀬:今回の歌詞もめっちゃいいな!と毎回思ってます(笑)。
熊谷:「I Don't Wanna Die in the Paradise」は、FLOWさんと我々の中にある海外のテイストと、日本的なディストーションギターを掛け合わせて、日本から海外へ提案するような曲にしたかったんです。実際に海外に行くようになって、日本の見え方が変わってきていて。だからここからしばらくは、これは日本のほうがいいな、こういう場合は海外の成分を取り入れたいなとジャッジしている期間のような気がしていて……。今実際に少しずつそれが見えてきているので楽しいですね。海外と日本のいいとこ取りができたらいいなと思っているんです。
「I Don't Wanna Die in the Paradise」 / BURNOUT SYNDROMES × FLOW
廣瀬:アメリカの【crunchyroll EXPO 2022】でも「若草山スターマイン」や「花一匁」みたいな和楽器を取り入れた楽曲をメインにしたセットリストを組んだら、現地のお客さんがすごく喜んでくれて。日本古来の楽器の音色や、アニメ以外の楽曲も受け入れてもらえるんだなという手応えはありました。
石川:BURNOUT SYNDROMESはロック以外の曲が多いので、海外のDJがやるような煽りの台詞をライブで入れてもちゃんとハマるんです。だからどんな国でも、すんなりと飛び込んでいける感覚がありますね。
ビリー・アイリッシュの衝撃
――このベストアルバムを聴いていても、やはり明確にバンドというフォーマットにとらわれなくなったのは、ここ4、5年以内にリリースした楽曲だと思うんです。ここまで振り切れたきっかけというと?
熊谷:ビリー・アイリッシュの出現ですね。「うわ、これは今までのやり方やとあかんわ」とつくづく思った。バンドサウンドは各楽器のパワーが強くて声を張らないと歌がしっかり聴こえないけど、彼女は声を張らずに歌っていた。それがカルチャーショックだったし、かっこいいと思ったんです。だからBURNOUT SYNDROMESでもああいうレンジの狭い音を積み重ねた音楽と、バンドのいいところをうまいこと融合させられたらなと。
石川:そういう楽曲をライブでやっていると実感するのが、ひとつ生音が入るだけでグルーヴが生まれるということなんですよね。それはバンドのいいところだと思っていて。
廣瀬:その場のテンションで曲間をつなげるのも、バンドの良さかなと思います。
熊谷:ふたりの言う通り、ライブの良さは生音ですね。でもこれを音源でやると、普通のバンドサウンドにしかならない。だからここ数年のBURNOUT SYNDROMESの音源は、生ドラムを使うならベースはシンセだし、ベースが生ならドラムは打ち込みのほうがいいと思いながら作っていますね。
――お話を伺いながら、BURNOUT SYNDROMESは“相反する性質の融合”がキーワードなのかもしれないと感じました。「世界と日本」や「打ち込みと生楽器」など。
熊谷:「これとこれを融合させるぞ」と思ってそうしたことはないんですよね。ここまでずっと、ただただ自分の手癖を取ることに注力してきたので。
石川:熊谷は毎回違うことをしてくるんです。だから本当僕は何屋さんなんだろう?と思う瞬間もあるし、毎回新しいことを勉強しないといけなくなるっていう(笑)。それはそれですごく面白いんです。
廣瀬:ドラマー仲間からは「いつも新しいことしなきゃいけなくて大変そうだね」と言われますね(笑)。でも、大変なビートをバシッと決められた瞬間は本当に気持ちいいし、「花一匁」みたいに熊谷からのオーダーで暴れ系のドラムができる瞬間も楽しいんです。
熊谷:今までにないものを作ろう、やったことないビートやサウンドを入れてみよう、アニソンを書き下ろす際も作品を研究して、こんなアニソンどうだろう……とトライして1個1個丁寧にベストを尽くしてきた。その結果が今いる場所に導いてくれたのかなという感覚があって。
――「手癖を取る」とは「らしさ」を手放していくことだとも思います。そのなかで譲れないものはありましたか?
熊谷:そうだなあ……。これだけいろんなことをしてきたなかで共通しているのは「熊谷和海が歌っている」ということなんですよね。私の声はちょっとクセがあって、バンドサウンドだと埋もれてしまう。それでずっと苦労してきたので、どうやったら声が届く曲になるだろうかといろいろと試すようになったんです。だからサウンドに凝り出していったきっかけは、この声なんですよね。
――だから声を張らないビリー・アイリッシュが、熊谷さんのアンテナに引っ掛かった。BURNOUT SYNDROMESの音楽は、熊谷さんの声が連れてきてくれたものとも言い換えられますね。
熊谷:それこそベストアルバムのタイトルにもなっている「ザ・ワールド・イズ・マイン」のリアレンジ曲「The WORLD is Mine」は、ずっと前から新しいアレンジを作りたいと思っていて、今回ちょうどベストアルバムのテーマとも合うので収録が決まったんです。だから今も昔もずっと、若干抜けないこの声を使ってどんなサウンドを作るのか、いかに美しく響かせるのかを考え続けるのが、BURNOUT SYNDROMESなんだと思います。
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デビュー曲「FLY HIGH!!」、そして『ハイキュー!!』との関係
――BURNOUT SYNDROMESとアニメのタッグのきっかけであり、今も海外で大きな支持を受けている『ハイキュー!! セカンドシーズン』オープニング・テーマ「FLY HIGH!!」のサビメロもその要素を持っているのではないでしょうか。一瞬で頭に入ってくる、強烈なメロディでした。
熊谷:あれは3音のリフレインでリズムを作れたから、そう思っていただけるんだと思います。昔から、この声で戦うためにメロディへいかにリズムやリフレインを忍ばせるか、すごく考えていたんですよね。だから自然とリズムを重要視するようになっていって、結果的にそれが海外向きだったのかな。日本人が洋楽を聴くイメージで、海外の人に我々の曲を聞いてもらいたい。歌詞の内容がわからなくても楽しめる音楽が絶対条件だと思っています。今回のベストアルバムには「FLY HIGH!!」の英語バージョンも収録したので、「こんなことを歌ってるんだ」と思ってもらえると、また違う楽しみ方をしてもらえるんじゃないかなと思っていますね。
「FLY HIGH!!」ライブ映像 / BURNOUT SYNDROMES
――「FLY HIGH!!」がここまで愛される楽曲になったことは、作った当初から想像できていましたか?
熊谷:まったくしていませんでした(笑)。初めてアニメの主題歌を書き下ろすことになって、ただただ一生懸命やるしかなかった。ただ、プロデューサーのいしわたり淳治さんから「デビュー曲はとても大事なものなんだ」という教えがあったので、作っている最中から「一生歌っていく曲になるんだろうな」とは確信していましたね。そういう決意のもとに作った曲ではあります。
廣瀬:「FLY HIGH!!」以降も、「ヒカリアレ」「PHOENIX」と計3曲も主題歌をやらせていただいているので、BURNOUT SYNDROMESと言えば『ハイキュー!!』と思ってくださっている方が多いと思うんです。『ハイキュー!!』は本当にいろんな人と出会わせてくれたきっかけの、大事な作品ですね。
石川:もともと大好きで読んでいた作品なので、僕にとって『ハイキュー!!』は人生の教科書なんです。何かにチャレンジするときに読み返して、自分を奮い立たせています。大事な作品を背負ってプレイできるのは、本当に誇らしいことなんですよね。
――“世界”を歌い続けていたバンドが、今こうして“世界”を見据えて羽ばたくというのも、ドラマチックだと思います。
熊谷:私が歌詞に「世界」や「ワールド」という言葉を使うのは、多分ASIAN KUNG-FU GENERATIONの影響なんです。小学生の頃にアジカンと出会って、「世界」が「これを言っておけばかっこいいワード」になったんですよね(笑)。それから20年近く経って世界に呼ばれていくという現状は、自分でも面白いなと思います。今の我々には日本に聴いてもらうルート、アニメで世界中に行くルート、コラボレーションをしてそのファンの人たちに聴いてもらうルートという3つが幸運なことに存在しているので、それに準じて曲を書いていきたいと思っています。
――日本のバンドシーンで異端な道を歩み続けてきたBURNOUT SYNDROMESは、この先も前例のない道を進んでいくんですね。
廣瀬:僕は熊谷くんの曲が好きで、それがずっとこのバンドやっている理由なんです。これからもこれが続くなら、僕は海外でも日本でも、どういう方法でもいいんですよね。
石川:前例がないというと、僕は海外のライブに日本の「サビで手を挙げる文化」を浸透させたいんです。なかなかうまくいかないんですけど(笑)。海外の人に日本の楽しみ方を伝えたいし、日本語の美しさや熊谷の歌詞の良さを伝えていける方法も追求していきたいですね。
熊谷:ここ最近、また新しいスタート地点に立ったような感覚があるんです。日本と海外の両方に評価される楽曲を作るのはとても難しいので、それをアニメの力を借りて切り開いていくのが我々の仕事だと思っています。前例はないかもしれないけど、みんながやってることを辿ってもしゃあないし――そういう歌ばっかり歌ってきたバンドですしね(笑)。これからも価値のある活動をしていきたいです。
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The WORLD is Mine
2023/03/29 RELEASE
ESCL-5786/7 ¥ 6,600(税込)
Disc01
- 01.Good Morning [New] World!
- 02.FLY HIGH!!
- 03.ヒカリアレ
- 04.PHOENIX
- 05.I Don’t Wanna Die in the Paradise (feat.FLOW)
- 06.花一匁
- 07.The WORLD is Mine
- 08.Wake Up H×ERO! -TOKYO Edition- (feat.炎城烈人(CV:松岡禎丞))
- 09.BLIZZARD
- 10.Mt.Wakakusa Starmine
- 11.Ocean -WORLD Edition- (feat.炎城烈人(CV:松岡禎丞))
- 12.銀世界
- 13.Good Morning World!
- 14.FLY HIGH!! -English Ver.- (Bonus Track)
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