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<インタビュー>Galileo Galilei再始動――尾崎雄貴が語る、バンドの物語とここから始まる“新章”
Interview & Text:小川智宏
2022年10月、尾崎雄貴のソロプロジェクト・warbearのワンマンライブで突如発表されたGalileo Galileiの再始動。2016年の日本武道館公演で活動を終了してから6年、その間尾崎はwarbear、そしてBBHFという形で音楽を生み出し続けてきたが、今後はそこに再び動き出したガリレオの物語も重なっていくことになる。
そんなGalileo Galileiの新たなスタートを刻むのが『TSUNAGARI DAISUKI BOX』と題された活動再開記念のBOXセットだ。内容は初CD化音源や新曲「4匹のくじら」などを収録したベスト盤に、貴重な映像集、そしてインディーズ時代の廃盤3作品の復刻盤。もちろんレアなコレクターズアイテムという側面もあるが、同時にここに収められた音楽たちを聴いていると、ガリレオの物語が不在の間も、そして今もずっと続いていたことが伝わってくる。活動終了、warbearのスタート、BBHFの結成。すべてがつながって今Galileo Galileiに結実している、そんな感じがするのだ。
すでに発表されているツアーの開催を前に、じつに7年ぶりとなるアルバム『Bee and The Whales』のリリースも決定。すでに進み始めている彼らの新章をしっかりと噛み締めるためにも、まずはこのBOXセットと以下のインタビューで、その「始まり」を味わってほしい。
ルーキーのファースト・アルバムとして見てほしい
――昨年10月にGalileo Galileiの再始動を発表してから数か月が経ちました。どういう成り行きでGalileo Galileiがまた動き出したのかっていう部分はいろいろなところで話されていると思うんですけど、実際に動き出す中で、イメージしていたものとの違いは感じますか?
尾崎雄貴:まず、僕が「ガリレオやるか」と思いついて岩井くん(岩井郁人[Gt.])に真っ先に話したタイミングでは、まず僕らにとってGalileo Galileiをやりたいかやりたくないかっていうところが大事だったので、世界がすごく小さかったんですよ。仮に終了までついてきてくれていたファンがいたとしても、その人たちからの反響とかは考えていなかったし、「大きい会場でやりたいよね」とか、そういう対外的な会話がないまま進めていった感じだったんですよね。だから、発表して反響があったときはびっくりして。僕はもっとひっそりやると思っていたんですよ。こんなにワーッてなると思ってなかったんで、そこは僕らの想像をはるかに超えましたね。こんなにたくさんの人たちの思い出の中にいたんだなと思ったし、やるからにはチケット買ってライブに行くよっていう人たちがいるということをツアーのタイミングでいちばん実感するんだろうなと思うと、それまでは「こんな大ごとになるんだ」ぐらいの感じで続いていくんじゃないかなと思ってます。
――前回活動終了して以降Galileo Galileiについてはほとんど振り返らなかったそうですが、これだけの時間を経て、去年の段階でそこに向き合うようになったというのはどういうことだったんだと思いますか?
尾崎:少なくとも僕はGalileo Galileiというバンドを封印したり、自分の中で覆い隠したりということは一度もなくて。ただそれ以降、本当に僕の頭の中からGalileo Galileiというものがポンと抜けている感じだったんです。だからタブーなのかなって思っていた人もいたと思うんですけど、僕は何も意識してなくて。タブーでもなんでもなかったし、「ガリレオの曲を聴きたい」っていう意見もちらほら見ていたからBBHFでやったりもしていたんです。じゃあなんで再びGalileo Galileiをやろうという考えに至ったのかっていうのは、理由をとってつけていくとなんか陳腐になっちゃうかなと思うんですけど、BBHFで愛について考えてきて……【愛のつづき】ってタイトルのライブをやったりもしましたけど、愛って、楽曲でも漫画でも映画でも、そこで描かれたものがあったとして、それは愛が生まれた瞬間を切り取って「愛っていいよね」って言っているんですよね。でもそれには本来は続きがあって、愛を維持していく方法とか、もしくはその愛の形を変えていくとか、そういうところに今僕はいる。その愛の続きに向かっていく上でGalileo Galileiをやりたいと思ったというのは、僕の中にGalileo Galileiっていうバンドに対してもGalileo Galileiを好きでいてくれてる人たちに対しても愛があって、その続きをちゃんと歩んでいきたいなと思えたからなのかなって。
――だから、今のお話を聞いていても、今回のBOXを聴いていても思うんですけど、やっぱり全部繋がっていますよね。Galileo Galileiの物語も、BBHFの物語も、warbearの物語も。
尾崎:そうですね。今回収録された中には一度もどこにも出していない、当時あったMySpaceとかに上げたような気がするな、みたいな『1 tas 2』とかも収録されたりしているんですけど、これは僕のお父さんが家のパソコンで録ってくれたやつで。それをCDに焼いて友達とかに500円ぐらいで売ってたんです。それで小遣いを稼いでみんなでお菓子を買って食べたとか、それぐらいの頃からのものが詰まっているので、僕は怖くてまだ聴き返していないんですけど(笑)。
――確かに、すごい音源でした(笑)。
尾崎:いや、やばいです。でもやっぱり変わってないなって思う部分は自分でもすごくあって、それは聴いていないけど言えるんです。自分の人生に起こることをどうやって切り取るかという、そこは変わっていないし、それが単純に年齢を上げて複雑性を増していっているだけで。僕らは『車輪の軸』っていうベストも出していて、あれはあの時点で(バンドが)終了することになっていたので「これまでのGalileo Galilei」っていう思い出を懐かしむみたいな感じだったんですけど、このBOXは逆にこれからに向けてのリリースになっていて。これをもって今後の我々の変化をより楽しんでもらいたいというものになっているなと思います。言い方はおかしいけど、ルーキーのファースト・アルバムとして見てほしいなって思っていますね。
ファンは友達で、相棒で、ライバルでもあった
――本当、そうなんですよね。メモリアルと銘打たれているし、性質としてはレトロスペクティブなものだと思うんですよ。でもおっしゃる通り、本当に「ここから始まっていくんだな」っていうのはすごくよくわかります。Galileo Galileiってアルバムごとに大きく変化していったバンドでしたけど、こうして聴き直すとむしろ変わっていない、今につながる部分が伝わってくるというか。
尾崎:そうですね。でも自分がそもそも音楽で変化してきたいちばんの原動力って……僕らは10代でデビューして、自信もないしどうしていいかもわからない状態でいきなり「東京にたくさんファンがいるんだよ」って言われて、行ったら実際にいて、ラジオでもたくさんかけてもらって、っていうところからスタートしているんで、ファンとの出会いがちょっと他とは違っていた感じがするんですよ。普通はデビューのときからついてきてくれた人たちのことを大事にするじゃないですか。僕らの場合、大事にはもちろん思ってたんですけど、なんかケンカ吹っかけてたっていうか、ずっと。それが僕らに変化を起こしていたんですよ。ファンをびっくりさせたい、あと見返してやりたいっていう気持ちがじつはずっとずっとあった。だからライバルだったんですよ。友達でもあり相棒でもあり、ライバルでもあったんです。
――うん。
尾崎:だから僕らがわりと裏切ることがあるっていうのを、みんな身をもって体験しているし、僕らとしても「絶対いいだろう」と思ってやったことが思いっきりスベったっていう経験も何回もあるし。そうやってやってきてるんですよ。だから僕らが今まで変化してきたと言われてきた部分っていうのは、今思い返してみるとファンとの反射で起こってきたことだなと思うんです。僕らがファンに対してものすごくダイレクトに「違うだろう」とか「こうしてくれよ」って言って、向こうも僕らに「こうしてほしい」と期待して。そういう関係性だったっていうのが僕らにとってものすごい財産だし、今の僕らを作ってるなっていうふうに思います。僕が描きたい物語のテーマとかは僕の人生の中で起こったことでしか書けないので、今までもこれからもそうだと思うんですけど、サウンドとかライブでの表現の仕方とか、メンバーの出で立ちとか、そういう部分はやっぱりファンと切磋琢磨しながら――なんでファンと切磋琢磨するんだっていう話ですけど、そうやって作ってきたなと思います。
――それだけ純粋なものとしてGalileo Galileiはあって、そのままでまた始まっていったということですね。
尾崎:そうですね。だから今回の再始動も、よくある、自分たちの活動にちょっと行き詰まってきたなとか、自分たちが本当にやりたいと思っていることをやろうとか、そういう考えは一切なかったんです。ちょっとでもあったらむしろもっと賢いやり方をしたかもしれない。だから発表もゲリラだったし、自分たちの中だけでやりたかったんですよ。ビジネスとかメンバーの生活とかをファンにも感じてほしくないし、それよりGalileo Galileiっていうバンドがあって、そのバンドとファンがいて、その人たちが音楽を通してめっちゃ幸せになれてるっていうことがすごく素敵なんだっていう。
リリース情報
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今は本当に、10代の頃のバンドの感覚に戻っている感じ
――1月にYouTubeでBUMP OF CHICKENのカバー音源をアップしていたじゃないですか。それこそ愛と純粋さに溢れた素晴らしいもので、ああいうことを今やるっていうことも、Galileo Galileiがどういうものなのかというのをすごく象徴している感じがしますよね。
尾崎:特に岩井くんと尾崎兄弟はずっとBUMPのファンだし、そんなに似ている部分はないと思うのに、なんか知らんけど初期はBUMPにたとえられ続けていたんですよ。そういうときに「BUMP好きです」っていうのって危険じゃないですか。だから言わないようにしていたんですけど、普通に音楽を始めたきっかけというか、小学生の頃にいちばん最初に知ったバンドがBUMPだし、そこで「バンドってかっこいいんだな」と思ってスタートしているので。その気持ちを、今だったら普通に言えるし。あとこのメンツで集まると、曲作りしているときに、まったく関係ないのにいきなりBUMPのアルペジオを弾き始めたりするわけですよ。それをそのままパッケージしたかったんですよね。「Galileo Galileiが僕らなりにカバーしました」じゃなくて、ただそこで起こってるBUMPファンたちの喜びを愛情表現として出したかった。このメンバーはそういうふうにできているというか、自分たちが目をキラキラして見られものを吸収して音楽にしていくってことにすごく集中できるバンドだと思うんです。お互いをリスペクトしているし、お互いの冒険、お互いの挑戦に対して「俺も一緒にやる」って言ってくれる。だからこれからもやっていけるし、BUMPのカバーもできたんですよね。今はもう本当に、10代の頃のバンドの感覚に戻っている感じです。
『僕らのBUMP OF CHICKEN』
――そういう感覚を肯定できる関係性や自分の意思を確固たるものにするには、この6年なり7年なりの時間が必要だったのかもしれないですね。
尾崎:そうですね。僕らは未完成どころか赤ちゃん状態のまま、たくさんの人たちを相手に結果を出していかなきゃいけないっていう人生を歩んできたわけで、だからめちゃめちゃなことを言ってたし、めちゃめちゃなことを言われてもきたし。でも今になってみたら全部、何より素敵になってもらいたい、素敵でいてほしいっていう思いでやってくれてたんで、それを思ってもらえるバンドだったのは光栄だし幸せなことだなって、今、本当にめちゃめちゃ思ってます。
バンドの“変化”を表現した曲順
――今回のBOXのコンピレーション、選曲はどういうふうにしていったんですか?
尾崎:お話をくれた方とも「どんなのがいいかね」みたいな話をして。バンドをスタートするってなって、僕は真っ先にその人に相談していたんですよ。勝手にTwitterアカウントを立ち上げてやるわけにもいかないかなと思って、「始動ってどうやってやるんですか?」みたいな(笑)。その中で「改めてGalileo Galileiを聴いたらものすごく変化していて、それがめちゃめちゃおもしろい」っていう話になって、それを表現しようということになりました。だからそれが見えるように、過去からわりと順番通りに聴けるようにしています。
――そこにソロ名義で発表した「New Flower」とか「Escape」を入れたのは?
尾崎:これはネット上でずっと言ってる人がいたんです。「なんで音源化しないんだ」って言っている、すごい熱意のある数人がいるのは知っていたから、いるんだったらいいかなと思って(笑)。あと、僕も覚えていなかったものがいっぱいあったので、自分の中でやってきたことを掘り返していくって意味でもすごくおもしろかったんですよね。「Escape」とかマジで覚えてなくて、「歌詞これでいい?」とか言われても「いや、わかんない」ってなって。そういう感じでしたね。
――この2曲って、Galileo Galileiが活動終了したあとにできた曲じゃないですか。それがGalileo Galileiの物語の一部として位置づけられるというのも象徴的な感じがします。
尾崎:ああ、そうですね。僕の場合、提供曲とかでも自分が歌える曲じゃないとそもそも作れないんですよ。これも同じで、お話が来てからそれに対して書いた書き下ろしとしての成り立ちでも、自分が結局出ちゃうっていう。あとはこのメンバーのすごくいいところが、たとえば岩井くんが当時ガリレオにいたときは、彼はむしろ「俺がフロントマンになりたい」みたいな感じだったんですよ。でも今は彼も「雄貴の歌が好きで、雄貴が書く曲が好きだから集まってるんだよ」って言ってくれる。だから僕の曲をめちゃめちゃ追いかけてくれてるんですよ。それは岡崎くん(岡崎真輝[Ba.])もそうなんですけど、全部聴いてくれてて、俺より詳しいんです。そういうのもあって、この曲たちが入ることを喜んでくれて。何回も言っちゃうけど、今は状況に恵まれてるなって思ってます。
――でもまあ、その恵まれてる状況を作ってきたのは雄貴さん自身なんだろうなって思いますけどね。
尾崎:みんなと喧嘩しながら。切磋琢磨しながら(笑)。
「くじら」というモチーフに表現したもの
――「切磋琢磨」、いい言葉ですね(笑)。で、「4匹のくじら」が新曲として入っているわけですけど、先ほど少し話に出ましたが、すばらしい曲で。この「くじら」というのはGalileo Galileiのことだと思うんですけど、以前にも「くじらの骨」とか、クジラというモチーフはたびたび尾崎さんの曲には出てきていましたよね。これはどうしてなんですか?
尾崎:なんでなんですかね。でも、北海道の稚内で育って、海……海っていってもめっちゃ汚い港なんですけど、家から見えて歩いたら行けるみたいなところにいたので、海はずっとあったんですよね。僕が見ている現実の海にはクジラもいないし、船の底に塗ってあるタールみたいなものが浮いていたりするんですけど、そこに僕の中でいちばん大きいファンタジーがあったんですよね。あと、なんかクジラの、あまりにも巨大な漂っているものっていうのが、僕にとっての音楽になんか似ていて。コントロールできないぐらいでかい流れとか世界にあるものを自分でキャッチして、自分からつながっていかなきゃ、音楽にはつながっていけないと思っているんです。僕にとっては、海がたぶんその音楽の世界のことなのかなとも思います。だからこの「4匹のくじら」も僕らっていうわけではないし、僕らと言ってもいいんだけど、やっぱり僕らはクジラじゃないじゃないですか。そういう感じ。
――そうですね。この曲には少年が出てきたり老人が出てきたりしますけど、そのどれにも少しずつ雄貴さんがいる感じがします。それに加えて「君がいる」と歌っているのが重要だなと思います。
尾崎:それこそ、さっきの切磋琢磨ですよね。「君」がいないと、だから物語の受け手がいないと、その物語自体はあるかもしれないけど……なんか哲学みたいな話ですけど、それは人に観測されないと、存在しないのと一緒じゃないですか。音楽も聴き手がいて成り立つものなので、「君がいるってことがいちばん重要だから、いなくならないでね」っていう思いも込めてます。じつはBBHFのほうの新曲でも「君がいるから」っていう言葉を使ってるんですけど、それも今まで邦楽で使われていた「君がいるから」ではない、もうちょっと切実なものとして使っていますね。
――それはもちろんファンもそうだし、メンバーもそうだし、周りにいる人たち全員がそうだと思うんですけども、そういう中でGalileo Galileiはやっていくんだよっていう宣言でもありますよね。でも重いわけではなく、音像としてはむしろ軽やかで朗らかなものになっているという。
尾崎:そうですね。僕らの今のレコーディングだと、もちろんトラックごとにちゃんと別々で録っていくんですけど、この曲は同じ部屋で、みんなで演奏しているっていうのが大事だったので、結構そういうのを意識してやったり、変な雑音とかも全部生かしたりとかして作りました。この曲を披露したwarbearのライブの前に「ガリレオの曲を1曲作ってやっちゃおうよ」ってなって、それが久々にガリレオとして楽器持ってやり始めたタイミングだったんですけど、そこでみんななぜかアコギを持ち始めたので、これはそういう方向に行くんだと思って。すごく純粋な何かがあったんでしょうね。
――旅する楽団っていう感じですよね。ただ、当然ながらこれがこれからのGalileo Galileiを示唆するわけではないんでしょうけど。
尾崎:今作っているものにこの要素はまったくないですからね(笑)。この要素はこれだけでした。でも。それだからこそすごく意味のあるものになったと思います。
――ツアーではそのあたりの新しい曲もたくさん聴けるんでしょうね。
尾崎:めっちゃやる予定です。アルバムもこのツアーに持っていきたいなと思っているし(※インタビュー後日、アルバム『Bee and The Whales』のリリースを発表)、ステージの仕掛けもいろいろ考えています。でも、この曲とはまったく違うけど、いきなりニュー・ウェイヴみたいになっているとか、ザ・ストロークスみたいなものをやってみましたとか、そういうものではないです。そういう冒険はしてみてもいいけど、僕は違うなと思っていて。それで言うとGalileo Galileiらしいものにはなっているんじゃないかなって思います。今、僕らが驚きをぶつけたいわけじゃないので。Galileo Galileiっていうのを自分たちで再確認するような、ピュアなアルバムになっているかなと思います。
リリース情報
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Tsunagari Daisuki Box
2023/03/29 RELEASE
SECL-2860/4 ¥ 12,000(税込)
Disc01
- 01.Hellogoodbye
- 02.稚内
- 03.Imaginary Friends
- 04.老人と海
- 05.星を落とす
- 06.くじらの骨
- 07.Sex and Summer
- 08.リジー
- 09.Jonathan
- 10.Birthday
- 11.バナナフィッシュの浜辺と黒い虹 with Aimer
- 12.鳥と鳥
- 13.燃える森と氷河
- 14.Sea and The Darkness Ⅱ (Totally Black)
- 15.New Flower
- 16.Escape
- 17.4匹のくじら
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