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<わたしたちと音楽 Vol.11> eill 音楽から勇気をもらって、今度は私が勇気付ける番

インタビューバナー

 米ビルボードが、2007年から主催する【ビルボード・ウィメン・イン・ミュージック(WIM)】。音楽業界に多大に貢献し、その活動を通じて女性たちをエンパワーメントしたアーティストを毎年<ウーマン・オブ・ザ・イヤー>として表彰してきた。Billboard JAPANでは、2022年より、独自の観点から“音楽業界における女性”をフィーチャーした企画を発足し、その一環として女性たちにフォーカスしたインタビュー連載『わたしたちと音楽』を展開している。


 今回はゲストにeillを迎えた。幼い頃にKARAを見て歌手を志し、その夢を叶えた今は、映画やアニメの主題歌にも楽曲が採用されるなど幅広い世代から支持を集めている。R&BやK-POPなどの要素をサウンドに取り入れながら、「自分の色を大切にしよう」と歌い、独自の世界観を確立しようとしている彼女。「これからはもっと声をあげていきたい」と、これまであまり語ってこなかった心情について吐露してくれた。 (Interview & Text:Rio Hirai[SOW SWEET PUBLISHING] l Photo: Takahiro Otsuji)
ヘア&メイクアップ:Chika Ueno l スタイリスト:Ai Suganuma(TRON) l ジャケット¥165,000、ドレス¥58,300(共にディーゼル/ディーゼル ジャパン|0120-55-1978)その他 スタイリスト私物

シャイな少女が音楽と出会って、自分の意見を持つ強さを得た

――幼少期は、どんな様子だったのでしょうか。

eill:授業中に先生に指名されたら顔を真っ赤にして俯いてしまうような、とてもシャイな子供だったんです。それが小学校6年生で、KARAのパフォーマンスをテレビで見てガラッと変わりました。それまで私が抱いていたアイドル像を覆すような媚びない衣装やヘアメイクで、自分の意思を力強く歌っている様子が衝撃的で。「この人たちみたいに、自分で自分の人生を切り拓いていきたい!」と生き方まで影響を受けてしまった。


――歌やファッションに影響を受けただけでなく、その姿勢や在り方も衝撃だったんですね。それからeillさんには、どんな変化があったのでしょうか。

eill:まず、「歌手になりたい」と思うようになりました。それもK-POPの世界に憧れて韓国語や歌やピアノを勉強し初めて、学校の授業そっちのけで夢中になっていましたね。負けず嫌いでもあったから、ハマるととことん頑張りたくて……それが行き過ぎて、授業中にもこっそり韓国語の参考書を開いていたのが見つかって、先生に叱られたときに韓国語で反抗してしまったことも(笑)。でもあまりに私が必死に頑張っているので、最終的には先生たちも応援してくれました。


――そうして実際に、「歌手になる」という夢を叶えられたのはすごいことですね。その影にはどんな努力があったのでしょうか。

eill:歌も、下手だったんですよ。1つずつ音をとるところからスタートして、そういう積み重ねの先に今があります。とにかく自分と向き合い、足りないものをリストアップして努力して埋めていきました。自分のことを一番理解してあげられるのは自分だから、きちんと内面と向き合って心と会話をする。何か失敗したりダメな部分があったとしても、それをちゃんと受け入れて、好きなサウナに行ったり好きなごはんを食べに行ったりして自分の機嫌を取りながら、次に進む。ここ1年くらいで、やっとそう思えるようになってきました。


自分と向き合い歌詞を書くことで、自分を救ってきた

――そういう、自分なりの“立ち直り方”を見つけるまでは、どうしていたのですか。

eill:どん底まで落ち込んでいましたね。歌詞や曲が書けないときには昼夜問わず意識が朦朧として、追い詰められる悪夢を見ているような状態に陥っていました。でもそうやって自分を削って生まれた歌詞や楽曲はそのときにしか生まれないし、そっと抱きしめたくなるようなリアルな物に仕上がっていたりするんです。だから、苦しんでいた自分に、今の私から「そのままでいいんだよ」って言ってあげたいです。


――eillさんはご自身で歌詞を執筆していますが、“歌詞を書く”行為は、eillさんご自身にどんな作用がありますか。

eill: “eillがeillでいるための衣装”のようでもあると言えるかもしれないですね。私は人生について歌うことが多いのですが、「こういう私になりたい」という気持ちで歌詞を書いている側面がある気がしているんです。最初から強い人は、きっと「強くなりたい」とは歌わないでしょう。歌詞を書くのは私にとって自分と会話を重ねる作業だから、その中で、弱い部分も顔を出します。だからこそ「こういう私になりたい」という気持ちが言葉になって、歌うことで自分自身が勇気づけられています。自分を愛せなかった少女時代の私は、音楽と出会って自分が生きている意味を知ることができました。だから今は、そういう気持ちで過ごしている人に少しでも光を届けたくて歌っているのだとも思います。


社会に対して感じていることを、もっとポップに伝えていきたい

――人生を自分らしく彩ろうという人生讃歌の「palette」や、若い女性だからという理由でみくびられることに対しての心境を歌った「ただのギャル」など、eillさんの楽曲から勇気をもらっている若い女性はたくさんいると思います。eillさんご自身は、女性であることが自分の人生や音楽活動にどんな影響を及ぼしていると思いますか。

eill:昔はそれこそ「ただのギャル」で歌ったように、曲や歌詞を自分で作っていないと思われて軽んじられた経験がたくさんあったんですよ。女性でシンガーソングライターという生き方をしていると、ともすると着せ替え人形のように扱われてしまうこともあるかもしれません。でも幸い今の私のチームは、そのような扱いから、私を守ろうとしてくれる。私の意思を尊重して一緒に歩んでくれるので、とてもありがたく思っています。一方で、セットアップの衣装を着て拡声器を持ってパフォーマンスをしているだけで、オーディエンスから「そういう強そうな女は受け付けない」とコメントされるようなこともあるんです。日本では、自我が強そうな女性は敬遠されて、自信のない女性が“かわいい”とされたり、女性が何か発言すると“ダサい”“怖い”と受け取られる風潮がまだありますよね。最近、アメリカの#MeToo運動を描いた映画『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』を観たのですが、2017年の事件が「未だにまだこんなことが起きている」というトーンで描かれているのに、日本は2023年の時点でも、ここからさらに遅れているんじゃないかと思いました。私が観に行った回は観客も少なかったですし、みんなにもっと知ってほしいですね。

一方で、身の回りにはシングルマザーになって苦労しているような友人もいます。ただ中には現状の国や自治体の対策に納得していなくても、選挙に行っていないという人もいたりして……「まずは選挙に行って、自分の意見を伝えていかなくちゃ」と一人ひとりに話しています。女性が妊娠や出産によって何かを諦めるのではなく、ポジティブに捉えられるような仕組みが機能するように、社会が変わってほしいです。 そのためには、#MeToo運動のように自分が思ってることを発信したり、同じ悩みをもってる仲間と一緒にアクションを起こしてみたり、もっとポップに、楽しく、「ウチらで一緒にアゲていこうよ!」というヴァイブスで伝えていけたらと思うんですけどね。


――歌を通してメッセージを伝えるだけではなく、身の回りの友人には直接働きかけていらっしゃるんですね。そういう友人の方々と同じ地元で育っているにもかかわらず、今の考え方にそれだけギャップがあるのはどうしてだと思いますか。

eill:それは、私が音楽に出会ったからだと思います。KARAや同時代に憧れたビヨンセなど、自立した存在としてパワフルなメッセージを発信しているディーバが私のお手本でした。私自身も、音楽を通して勇気を与えられるような存在でありたいと思っています。


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