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<コラム>SHISHAMO、クリスマスシーズンに聴きたい「恋」にまつわる物語たち
Text:小松香里
SHISHAMOがCDデビュー10周年を記念して初のコンセプトアルバム『恋を知っているすべてのあなたへ』をリリースする。これまでずっと、様々な恋の形を描くことでたくさんの共感やスリルを呼んできたSHISHAMO。膨大な楽曲群から、「【表】恋愛の喜び」「【裏】恋愛の痛み」というコンセプトでメンバーがセレクトした2枚組全30曲を収録。その中から、街がイルミネーションで華やぐこの季節だからこそ聴きたい楽曲というと──。
スウィートな時間に浸りたいのであれば、まずは「あなたと私の間柄」や「笑顔のとなり」や「天使みたい」だろう。
同棲中の「あなた」の帰りをベランダで待つゆったりとした時間を想起させるミドルテンポの「あなたと私の間柄」は、<冬はココアを飲みながら まだかな、まだかなって 待ち遠しい気持ちが 白い息になって溢れる><明日はお互い早くないよね いくらでも起きていられるよね 二人で朝まで何をしてよっか キスでもしてよっか>と夢想する。「笑顔のとなり」は、甘酸っぱいサウンドに乗せて、レンタルビデオ屋でいつもみたいにDVDを選ぶがやっぱり気が合わない、でも<いつまでも二人一緒にいたいね>と「君」への気持ちを再確認する。「天使みたい」はまったりとしたレゲエでもって、真っ白いシーツに埋もれ、まだ夢の中にいる可愛い「君」にちょっかいをかけながら、幸せを噛み締める。どの曲も、「私」と「あなた」若しくは「君」は、恋人同士になってからある程度の日々を重ねているということが伝わり、だからこそ何気ないルーティーンに宿る幸せをキャッチし、「これがこのままずっと続けばいいのに」「相手も同じ気持ちでいますように」と願う。
「あなたと私の間柄」
「笑顔のとなり」
「天使みたい」
恋人同士でありながら、スウィートが過ぎるとスパイシーになっていくという状況を歌った楽曲もある。
<その笑顔もその鼻筋も 全部私のお気に入りなの>と「君」を全肯定しつつ、<そんな可愛い笑顔を 私の居ないところで 所構わず振りまいているんじゃないでしょうね?>と、独占欲から生まれる不安故に脅すようなフレーズを放つ「フェイバリットボーイ」。
そして、その独占欲がさらにエスカレートしているのが、「君」への愛を爆発させる「君の目も鼻も口も顎も眉も寝ても覚めても超素敵!!!」だ。ピアノがフィーチャーされたイントロからしてどこかミュージカル調。<盲目になんてなってない>と否定しながらも、<君の手も首筋も四角い爪も食べちゃいたいくらい素敵>と、暴走気味な「私」の気持ちを一層盛り立てる。ロボットボイスに加工されたセリフ調のラインも挟み込まれ、ホラー感すら漂わせる。しかしこの曲は、<穴が開くほど見つめて覚えていい? 私のものじゃなくなるその日のために>というフレーズで締め括られる。「私」は「君」がいつか自分から離れていくことを予感しており、その最後の最後に吐露される冷静さが、聴き手を一気にある種のハイパーなエンターテインメントの世界から現実に引き戻すのだ。
「フェイバリットボーイ」
「君の目も鼻も口も顎も眉も寝ても覚めても超素敵!!!」ミュージックビデオ
そうなると、ぐいぐいとドライブしていくバンドアンサンブルが「あの子」の存在への不安と恐怖を駆り立てる「あの娘の城」や、物憂げな旋律が不穏さを掻き立て、<いつまでもどこまでも そばに居たいのに 私を知られるのが怖かったし あなたを知るのが怖かった 表面だけを愛し合うこんな関係に 何の意味があるの>と、二人の関係が次なるフェイズに向かったことを示唆する「二酸化炭素」といった、別れへと突き進むスリリングな楽曲に気持ちが向かってしまう。
さらに、終わりへと一歩ずつ近づいていくようなリズムから始まる「警報」は、<終わりという名のさよならが 扉叩いてる>と歌いながら、<警報はもう聞こえない 鳴ってるうちが華だったって今きづいたよ>という残酷な気付きで幕を閉じる。
「あの娘の城」
「二酸化炭素」
「警報」
このようにジェットコースターのような感情や状況の振れ幅を見せる『恋を知っているすべてのあなたへ』だが、そこに収められているのはすべて「恋」にまつわる物語だ。凍てつく寒さにも、スウィートな温もりにもどちらにも振り切ることができるし、もちろんその間に存在する多種多様なファジーな感情にも適合しているのが、SHISHAMOのすごさだ。
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