Billboard JAPAN


Special

<コラム>セルフプロデュースで活動する新東京が挑む新たなシーン



コラム

Text:蜂須賀ちなみ

 2021年4月に結成されたギターレスバンド、新東京。メンバーは杉田春音(Vo.)、田中利幸(Key.)、大倉倫太郎(Ba.)、保田優真(Dr.)の4名で、2021年8月に発表した初の楽曲「Cynical City」が大きな反響を呼んだこと、23歳以下を対象とした音楽コンテスト【Tokyo Music Rise 2021 Eggs大会】でグランプリを獲得したことなどから手応えを感じた彼らは、現在大学を休学してバンド活動に専念しているとのこと。ミュージックビデオやアートワークの制作のみならず、レコーディング、ミックス、マスタリングなどもセルフプロデュースで行うDIY精神の強いバンドで、2022年2月にはリーダーの田中を代表として「新東京合同会社」を設立、バンドを法人化している。


「新しい物や価値を生み出していきたい」

 新東京の音楽は、各楽器のメロディラインは複雑で、コード進行もリズムワークも独創的だ。フュージョン、プログレ、ジャズ等からの影響が感じられるが、同時にキャッチーなメロディーラインを意識的に取り入れていることで現代音楽的ポップスが産み出されている。なお、新東京というバンド名から「昨今のシティポップ・リバイバルブームに対して、新しいアプローチを提示したいと思っているバンドなのだろうか?」と想像したくなるところだが、過去のインタビューによると、メンバーにはそういった意図はなく、「新しい物や価値を生み出していきたい」という想いが込められているという。

 11月12日に渋谷WWWで行われたワンマンライブでは、歌あるいは一つの楽器を中心にアンサンブルを構成するのではなく、“このバンドは全員がソリスト”的な矜持を持って、それぞれに尖ったプレイをする4人の姿を確認することができた。過剰に手数の多いプレイをしたり、音同士をあえてぶつけて不穏な響きを生み出したりと、一筋縄ではいかない場面が多いが、その複雑さも“曲が求めているからそうしている”、“今こういう音が鳴っているべきだから鳴らしている”といった感覚の上に成り立っている印象。次の瞬間には全く違う表情に変わっているようなアンサンブルは流動的だが、同時に“ここにはこの音が在るべきだから”といったバランス感覚が常に維持されていて、4人の音はバトルしながら、調和とともに共存しているのが不思議だ。白色だけを身に纏ったメンバーのビジュアルは、何色にでも染まれるという可能性を感じさせるとともに、強烈な“我”を表現しているようにも見える。





 彼らの鳴らす前衛的な音楽は、日本の音楽シーンの流行ど真ん中のものではなく、明らかに分かりやすいものでもない。しかしこの特異な音楽が地上に表出し、やがてメインストリームをひっくり返してしまう可能性は大いにありそうと思えるほどの熱気、そういった意味での“前夜”を今目撃しているのではないかという観客の高揚感が、あの日のWWWには充満していた。結成2年目のバンドとしては驚くべきスピードで着実に支持を集めているのが現状であり、バンド初のツアー【NEOPHILIA】の一環だったWWW公演も、今年7月に行われた初ワンマンもチケットは完売だったそう。また、2022年1月には『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)の毎年恒例の企画“プロが選ぶ年間マイベスト10曲”で「Cynical City」が選ばれたり、8月には【SUMMER SONIC 2022】に出演したりと、業界人からの評価も高い。




「Cynical City」ミュージックビデオ


 現在に至るまでにEPを3作、配信シングルを12曲リリース済みで(多作家であることが窺える)、エレクトロに接近した3rd EP『新東京 #3』(2022年9月)が最新作。2023年春には4th EP『新東京 #4』をリリース予定で、12月7日には同作に収録予定の2曲「ショートショート」、「曖させて」が同時に配信される。

 クールで耽美的な『新東京 #3』に対し、『新東京 #4』は原点回帰のポップ路線とのこと。「ショートショート」はそういったテーマの下で制作された新曲で、4つ打ちのサビは確かにポップな印象だ。「ショートショート」という言葉の響きを活かしたメロディラインも、頭の中で何度もリフレインしたくなるほど心地よい。しかし、このバンドがただポップなだけで終わるわけはない。曲のオープニングを担うキーボードのメロディがなだらかなのに対し、一人だけ倍速で動いているようなイントロからAメロにかけての異様なドラム。さらに2番ではキーボードもそこに加わって速弾きをし始め、ベースも細やかに動きまくる。別々のことをしているが、同じ方向を目指す“個”の熱量とともに疾走するアッパーチューンはとにかく痛快で、聴き終えたあとに残るのは爽やかな余韻。新東京ならではの現代音楽的ポップスの最新形にして真骨頂といえる1曲だ。

 「曖させて」は新東京初のバラードとして2021年11月にEggs限定で公開された曲で、約1年を経て正式にリリースされる。タイトルは「愛させて」ではなく「曖させて」。人は叶わなかった願いに合わせて進路を曲げるとともに自分を納得させて歩みを進める生き物だが、この曲で歌われているのは、次に向かって歩き始める前の、後悔とともに何らかの想いを噛み締めている時間であり、その状態に曖昧の“曖”の字を借りた造語を当てているのが秀逸だ。杉田のハスキーボイスが心に残るし、音程を意図的にやや下げるような歌い方も浮遊感を強調させている(鍵盤やベースに上昇の動きが多いため、下降がなおさら強調させるというのもある)。全ての“機を逸してしまった人”に寄り添う懐の深い曲で、失恋ソングとしても、大切な人とすれ違ってしまった人の歌としても、あるいは志半ばで夢を諦めようと決めた人の歌としても解釈可能。ダイナミクスをどうつけるかという視点での工夫が垣間見えるアレンジや、空間の奥行きを感じさせる音響も聴きどころだろう。

 好対照な2曲で以って、来たる新作の片鱗を覗かせる新東京。来年春の『新東京 #4』リリースが待たれる。

関連キーワード

TAG